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第123話「魔導王とのその後」
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魔導王に抱えられて連れてこられたのは大人の雰囲気が漂うBARだった。長めのバーカウンターがあり、何席かの丸テーブル席が備えられているそこには、赤い軍服を着た兵士達も何人か飲んでいた。俺達の存在に気がつくとすぐさま立ち上がり敬礼をしてくる。
「あー俺らのことは気にしなくていい。しっかり飲んで英気を養えよ!」
「「「「はっ!」」」」
魔導王の言葉を受け、再び席に座り談笑を始める兵士達。兵士達の態度を見ると、どうやらこの国はそこまでお堅い国ではないらしいな。
魔導王に地面に下ろされるとカウンター席に座るように促される。それに従い椅子に座ると、黒服を着たここのマスターのような人が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ陛下。いつもはお一人ですのに、ここに誰かを連れてくるのは珍しいですね」
「俺が友達がいない寂しい奴みたいに言うなっつの。こいつはクリスティア王国から来た使者のクロードってんだ。クロード、こいつはここのマスターのグリザイアだ。彼はこのバーを趣味でやっていてな。本職はうちの宰相だったりする」
「さ、宰相!? は、初めまして。クロード=グレイナードと申します!」
「ほっほっほ、グリザイア=クロムレスと申します。今の私はしがないマスターでしかありませんので敬語などは必要ありません。私のことは気にせずにどうぞ寛いでいって下さい」
宰相が趣味でやるバーか。雰囲気も落ち着いているし内装もシブい。いい趣味してるな。
「俺はブランデーをくれ。お前は何飲む?」
「あ、じゃあオレンジジュースください」
「子供か! あ、子供か?」
「一応子供ですよ。お酒は飲めませんからね」
「畏まりました。少々お待ちください」
マスターがブランデーとオレンジジュースを入れて持ってきてくれる。それを一口飲むと、そこら辺で作っているオレンジジュースとは明らかに味が違うのに気が付いた。色々と混ぜてあるみたいでめっちゃ美味い。
「それで、いきなりバーに連れてきてどうしたんですか?」
「あぁ。クロード、お前に聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「別にいいですけど…何ですか?」
「1つ気になってることがあってな。戦ってる時、俺の魔法で出した炎の蛇はきっちりお前を仕留めたはずだった。しかしお前は無事、というか無傷でどこかから俺の前に現れた。ありゃあどうなってんだ?」
「あぁ、あれはですね…」
第二形態になった魔導王の最初の一撃。あれでまともにやっても勝てないと悟った俺は、『水龍瀑布陣』で出した大量の水で視界を防ぎ、死角から『業雷重縛鎖』を放つ事で、あたかも俺がそこに居ることを魔導王に認識させた。
その時には既に、もしもの時の為に魔法創造で作っておいた【分身体作成】で自律行動する俺の分身体を作って入れ替わっていたのだ。戦闘は分身体にまかせ、俺自身は『隠密』や『気配遮断』スキル、それと魔法創造で作った【光学迷彩】で完全に身を隠し、魔導王が隙を見せる機会を待っていたというわけだ。
魔導王には魔法創造の事を言うわけにはいかないので、そういう魔法を元々使える体で話を進める。
「……って感じですね」
「はぁ~、まさかあれが分身体だったとはな。この俺の目を欺くとは大した魔法技術持ってやがるぜ。それに完全に姿を消せる魔法なんてのも聞いたことがない。いや、古代魔法にそんな魔法があるって報告は聞いたことがあったが、まだ解析と研究段階だったはずだ。クロード、お前はどうやってその魔法を使えるようになった? なにか秘訣があるなら教えてくれや」
「……申し訳ありませんがそれは秘密です。俺自身の生命線みたいなものですからね」
オリジナル魔法が自由に作れるなんて知られた日には、魔法の研究機関に追われてモルモット人生が確定してしまうかもしれないからな。それにこの魔導王と敵対する可能性がないわけじゃない限り、俺の手の内を明かすのは避けた方がいいだろう。
「…生命線ね。ま、別にいいけどよ。それにしてもお前みたいな魔導師がクリスティアにいるのは勿体無いな。俺の国に来るつもりはないか? お前が来てくれるならうちの魔法研究が大幅に加速するだろう。超高待遇で迎えてやるし爵位も伯爵ぐらいならくれてやるが、どうよ?」
ここでスカウトとか、欲望に忠実というかなんというか。
「お誘いはありがたいですがお断りします。私はクリスティア王国の貴族ですし、それに第2王女であるリムル姫と恋人関係でもありますからね。彼女を裏切るような真似はできませんよ」
「おいおい、その歳でもう王女をゲットしてるのかよ。…そんな可愛いツラしてやることはやってんだなお前。ちなみにリムル王女とはどこまで行ったんだ? おっさんに話してみ? ん?」
「…まだエロオヤジって歳でもないんですから。セクハラで訴えますよ?」
魔導王とは言え男にセクハラされても全く嬉しくないが、ヘッドハンティングしてくるってことは多少は俺のことを気に入ってくれたってことなんだろうか? 出来ればそのまま協力関係を築いてくれたらありがたいが、そんなに上手くもいかないか。
そんなことを考えながらちびちび飲んでいると、誰かがバーの中に入ってきた。その女性は恐ろしく整った顔立ちで、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込む抜群のスタイル。エメラルドグリーンのドレスに引き立てられたその炎のように赤く腰まである長い髪は、思わず目を奪われるような輝きを放っていた。こんな女性が現代にいたらミス・ユニバースとかになっていたのかもしれないな。
「あらお父様。ここで誰かと飲んでるなんて珍しいですわね」
「ん? おぉミスティリアか。お前こそ珍しいじゃねぇか。今日はドルトン公爵のとこで晩餐会とか言ってなかったか?」
「あそこの息子が気持ちわるすぎて付き合いきれないので帰ってきましたわ。そんなことよりもこちらのとっても可愛い男の子はどちら様なんですの? 紹介してくださいな」
とっても可愛い男の子って俺のことか? なんかこの人の俺を見る目が若干怖い。まるで獲物を狙う時の空腹の肉食獣のような目をしている。俺狙われてる?
「こいつはクリスティア王国からの使者としてやってきたクロードだ。クロード、こいつは俺の娘で第一王女のミスティリアだ。お前さえ良ければ仲良くしてやってくれや」
「お初にお目にかかりますクロード様。グランシャリオ魔導国第一王女のミスティリア=オルトリウスと申します。よろしくお願い致しますわ。あぁ、攫ってからロウ人形にしてお部屋に飾りたいほど可愛いですわぁ」
…なんか聞き捨てならないことを言っていた気がするが、美人に挨拶された以上それに答えるのが貴族の勤め。俺は椅子から立ち上がり挨拶をする。
「初めましてミスティリア王女様。私はクリスティア王国から使者として参りましたクロード=グレイナードと申します。こちらこそよろしくお願いしま―――っ!?」
普通に挨拶しようとした俺を、突然目の前に柔らかい何かが迫ってきてギューッと包まれる。一瞬何が起こったかわからなかったが、どうやらミスティリア王女様の胸に抱きしめられたらしい。豊満な胸はふわふわしていて、挟まれた顔面が幸せに包まれている。
「あぁ~ん、可愛いですわぁ! 我慢出来ませんでしたわぁ!! ぎゅ~~~っ! ふふっ、抱き心地も100点満点ですわね。お父様、この子お持ち帰りしちゃっていいかしら?」
いやいやいや、いきなり何言ってんのこの人!?
「良い訳あるか! お前…その悪い癖、いい加減なんとかならんのか?」
「無理ですわね。可愛い男の子はわたくしの唯一の癒やしなのです。その生きがいを奪おうだなんて…戦争も辞さないですわよ? ふふふっ、あぁ、癒されますわぁ。あの気持ち悪い公爵の息子でささくれ立った私の心を緩やかに溶かして行ってくれているのが分かりますわぁ」
お、俺はどうすればいいんだろう? 王女相手に抵抗するわけにも行かないので、魔導王にアイコンタクトで救いを求めるが『無理』と手を振られ拒否されてしまった。仕方ない。これも役得だと思ってこの素晴らしいお山を堪能しておこう。
「可愛い可愛い♪ ねぇねぇ、クロード様はおいくつなんですの?」
「じゅ、12歳ですけど…」
「12歳…素晴らしいですわぁ。まさに今が一番食べ頃なんですのね! クロード様、あの、よろしかったらこれからわたくしのお部屋へいらっしゃいませんか? ここにいるよりも楽しいこと、いっぱい教えて差し上げますわよ?」
「えっ!? いや、あの…」
こんな美人に迫られたら悪い気は全くしないが、ここで付いて行ったら色々な意味でマズイだろう。それでも行ってみたいという誘惑に抗いきれずにどうしようか悩んでいると、突然後ろから襟を引っ張られて素晴らしいお山から無理やり引き剥がされてしまった。何しやがる魔導王!
「だーかーらー、ダメだっつってんだろ! クロードとはまだ仕事の話が済んでねぇんだからお前はどっか行け! しっしっ!」
「まぁ、お父様ったらイケズですわね。それではクロード様、申し訳ありませんがわたくしはこれから用事がありますのでこれで失礼致しますわ。次に会った時は、2人でもっと色々お話しましょうね? チュッ♡」
「!? は、はい…」
俺の頬にキスをしてから頭を笑顔で撫でて、ミスティリア様は店の奥にある個室に行ってしまった。あそこまで高レベルの美女に可愛がられるなら子供扱いもありかも知れない。
「まったく…うちの娘がすまねぇな。あいつの趣味だけは俺でもどうしようもねぇんだわ」
「あはは…、いえ、まったく問題ないですよ。それよりも綺麗な娘さんですね。あそこまでの美人さんは初めて見たかもしれません。でも魔導王陛下には似てませんね」
「似てなくて悪かったな。あいつは俺の妻によく似たんだよ。見た目は良いし頭も良い。その上魔力も多いし戦闘能力もピカイチと来てやがる。天は二物を与えずと言うが、あいつは何物与えられてるか分かったもんじゃねぇ。ああ見えて料理も上手くてな。この間作ってくれたサーモンのなんたら焼きってのがこれがまた美味くてなぁ。他にも・・・」
娘自慢かな? ただの親バカじゃねぇかこの人。
「そ、そうなんですね。それでさっき言ってた仕事の話ってなんですか?」
「ん? あぁ、クリスティアに協力してレンブラントに攻め込む件だが……協力してやってもいいぞ」
「! ホ、ホントですか!? でもなんで…」
あんなにはっきり拒否してた上に俺は勝負に負けたのに。一体どういう心変わりだ?
「なんとなくだ。レンブラントは俺にとっても目障りだからな。片付けられるならさっさと片付けた方がいいだろう。それに、レンブラントを潰すことはうちにとっても理のあることだからな。べっ、別にお前が気に入ったとかそういうことじゃないんだからな!」
男のツンデレは見苦しいだけだって知っておいた方がいいぞ魔導王。でもこれで第1ミッションは完了できたわけだ。ありがたやありがたや。
「分かりました。協力よろしくお願いします! 魔導王陛下が協力してくれれば100人力ですね!」
「おうよ。レンブラントなんてちゃちゃっと片付けてやんよ! それじゃ今日は決起集会だな。てめぇら! 今日はクロードの奢りだから好きなだけ飲みやがれぇ!!」
「ちょ!?」
「「「「! ありがとうございます! ゴチになりますクロード殿!!」」」」
その後、レイヴァルト侯爵やミーティア様も合流して最終的に朝の5時まで飲み続けた。マスターから渡された領収書を見ると、全部合わせて金貨80枚(現在の貨幣価値に換算すると80万円相当)も飲まれてしまったようだ。奢りだからって遠慮なさすぎだろこいつら。まぁ協力関係を築けた代償と思えば安いもんか。
ここでの目的は果たしたから次はリンダールヘイス神聖国か。良い国だといいな。
「あー俺らのことは気にしなくていい。しっかり飲んで英気を養えよ!」
「「「「はっ!」」」」
魔導王の言葉を受け、再び席に座り談笑を始める兵士達。兵士達の態度を見ると、どうやらこの国はそこまでお堅い国ではないらしいな。
魔導王に地面に下ろされるとカウンター席に座るように促される。それに従い椅子に座ると、黒服を着たここのマスターのような人が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ陛下。いつもはお一人ですのに、ここに誰かを連れてくるのは珍しいですね」
「俺が友達がいない寂しい奴みたいに言うなっつの。こいつはクリスティア王国から来た使者のクロードってんだ。クロード、こいつはここのマスターのグリザイアだ。彼はこのバーを趣味でやっていてな。本職はうちの宰相だったりする」
「さ、宰相!? は、初めまして。クロード=グレイナードと申します!」
「ほっほっほ、グリザイア=クロムレスと申します。今の私はしがないマスターでしかありませんので敬語などは必要ありません。私のことは気にせずにどうぞ寛いでいって下さい」
宰相が趣味でやるバーか。雰囲気も落ち着いているし内装もシブい。いい趣味してるな。
「俺はブランデーをくれ。お前は何飲む?」
「あ、じゃあオレンジジュースください」
「子供か! あ、子供か?」
「一応子供ですよ。お酒は飲めませんからね」
「畏まりました。少々お待ちください」
マスターがブランデーとオレンジジュースを入れて持ってきてくれる。それを一口飲むと、そこら辺で作っているオレンジジュースとは明らかに味が違うのに気が付いた。色々と混ぜてあるみたいでめっちゃ美味い。
「それで、いきなりバーに連れてきてどうしたんですか?」
「あぁ。クロード、お前に聞きたいことがあるんだが…いいか?」
「別にいいですけど…何ですか?」
「1つ気になってることがあってな。戦ってる時、俺の魔法で出した炎の蛇はきっちりお前を仕留めたはずだった。しかしお前は無事、というか無傷でどこかから俺の前に現れた。ありゃあどうなってんだ?」
「あぁ、あれはですね…」
第二形態になった魔導王の最初の一撃。あれでまともにやっても勝てないと悟った俺は、『水龍瀑布陣』で出した大量の水で視界を防ぎ、死角から『業雷重縛鎖』を放つ事で、あたかも俺がそこに居ることを魔導王に認識させた。
その時には既に、もしもの時の為に魔法創造で作っておいた【分身体作成】で自律行動する俺の分身体を作って入れ替わっていたのだ。戦闘は分身体にまかせ、俺自身は『隠密』や『気配遮断』スキル、それと魔法創造で作った【光学迷彩】で完全に身を隠し、魔導王が隙を見せる機会を待っていたというわけだ。
魔導王には魔法創造の事を言うわけにはいかないので、そういう魔法を元々使える体で話を進める。
「……って感じですね」
「はぁ~、まさかあれが分身体だったとはな。この俺の目を欺くとは大した魔法技術持ってやがるぜ。それに完全に姿を消せる魔法なんてのも聞いたことがない。いや、古代魔法にそんな魔法があるって報告は聞いたことがあったが、まだ解析と研究段階だったはずだ。クロード、お前はどうやってその魔法を使えるようになった? なにか秘訣があるなら教えてくれや」
「……申し訳ありませんがそれは秘密です。俺自身の生命線みたいなものですからね」
オリジナル魔法が自由に作れるなんて知られた日には、魔法の研究機関に追われてモルモット人生が確定してしまうかもしれないからな。それにこの魔導王と敵対する可能性がないわけじゃない限り、俺の手の内を明かすのは避けた方がいいだろう。
「…生命線ね。ま、別にいいけどよ。それにしてもお前みたいな魔導師がクリスティアにいるのは勿体無いな。俺の国に来るつもりはないか? お前が来てくれるならうちの魔法研究が大幅に加速するだろう。超高待遇で迎えてやるし爵位も伯爵ぐらいならくれてやるが、どうよ?」
ここでスカウトとか、欲望に忠実というかなんというか。
「お誘いはありがたいですがお断りします。私はクリスティア王国の貴族ですし、それに第2王女であるリムル姫と恋人関係でもありますからね。彼女を裏切るような真似はできませんよ」
「おいおい、その歳でもう王女をゲットしてるのかよ。…そんな可愛いツラしてやることはやってんだなお前。ちなみにリムル王女とはどこまで行ったんだ? おっさんに話してみ? ん?」
「…まだエロオヤジって歳でもないんですから。セクハラで訴えますよ?」
魔導王とは言え男にセクハラされても全く嬉しくないが、ヘッドハンティングしてくるってことは多少は俺のことを気に入ってくれたってことなんだろうか? 出来ればそのまま協力関係を築いてくれたらありがたいが、そんなに上手くもいかないか。
そんなことを考えながらちびちび飲んでいると、誰かがバーの中に入ってきた。その女性は恐ろしく整った顔立ちで、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込む抜群のスタイル。エメラルドグリーンのドレスに引き立てられたその炎のように赤く腰まである長い髪は、思わず目を奪われるような輝きを放っていた。こんな女性が現代にいたらミス・ユニバースとかになっていたのかもしれないな。
「あらお父様。ここで誰かと飲んでるなんて珍しいですわね」
「ん? おぉミスティリアか。お前こそ珍しいじゃねぇか。今日はドルトン公爵のとこで晩餐会とか言ってなかったか?」
「あそこの息子が気持ちわるすぎて付き合いきれないので帰ってきましたわ。そんなことよりもこちらのとっても可愛い男の子はどちら様なんですの? 紹介してくださいな」
とっても可愛い男の子って俺のことか? なんかこの人の俺を見る目が若干怖い。まるで獲物を狙う時の空腹の肉食獣のような目をしている。俺狙われてる?
「こいつはクリスティア王国からの使者としてやってきたクロードだ。クロード、こいつは俺の娘で第一王女のミスティリアだ。お前さえ良ければ仲良くしてやってくれや」
「お初にお目にかかりますクロード様。グランシャリオ魔導国第一王女のミスティリア=オルトリウスと申します。よろしくお願い致しますわ。あぁ、攫ってからロウ人形にしてお部屋に飾りたいほど可愛いですわぁ」
…なんか聞き捨てならないことを言っていた気がするが、美人に挨拶された以上それに答えるのが貴族の勤め。俺は椅子から立ち上がり挨拶をする。
「初めましてミスティリア王女様。私はクリスティア王国から使者として参りましたクロード=グレイナードと申します。こちらこそよろしくお願いしま―――っ!?」
普通に挨拶しようとした俺を、突然目の前に柔らかい何かが迫ってきてギューッと包まれる。一瞬何が起こったかわからなかったが、どうやらミスティリア王女様の胸に抱きしめられたらしい。豊満な胸はふわふわしていて、挟まれた顔面が幸せに包まれている。
「あぁ~ん、可愛いですわぁ! 我慢出来ませんでしたわぁ!! ぎゅ~~~っ! ふふっ、抱き心地も100点満点ですわね。お父様、この子お持ち帰りしちゃっていいかしら?」
いやいやいや、いきなり何言ってんのこの人!?
「良い訳あるか! お前…その悪い癖、いい加減なんとかならんのか?」
「無理ですわね。可愛い男の子はわたくしの唯一の癒やしなのです。その生きがいを奪おうだなんて…戦争も辞さないですわよ? ふふふっ、あぁ、癒されますわぁ。あの気持ち悪い公爵の息子でささくれ立った私の心を緩やかに溶かして行ってくれているのが分かりますわぁ」
お、俺はどうすればいいんだろう? 王女相手に抵抗するわけにも行かないので、魔導王にアイコンタクトで救いを求めるが『無理』と手を振られ拒否されてしまった。仕方ない。これも役得だと思ってこの素晴らしいお山を堪能しておこう。
「可愛い可愛い♪ ねぇねぇ、クロード様はおいくつなんですの?」
「じゅ、12歳ですけど…」
「12歳…素晴らしいですわぁ。まさに今が一番食べ頃なんですのね! クロード様、あの、よろしかったらこれからわたくしのお部屋へいらっしゃいませんか? ここにいるよりも楽しいこと、いっぱい教えて差し上げますわよ?」
「えっ!? いや、あの…」
こんな美人に迫られたら悪い気は全くしないが、ここで付いて行ったら色々な意味でマズイだろう。それでも行ってみたいという誘惑に抗いきれずにどうしようか悩んでいると、突然後ろから襟を引っ張られて素晴らしいお山から無理やり引き剥がされてしまった。何しやがる魔導王!
「だーかーらー、ダメだっつってんだろ! クロードとはまだ仕事の話が済んでねぇんだからお前はどっか行け! しっしっ!」
「まぁ、お父様ったらイケズですわね。それではクロード様、申し訳ありませんがわたくしはこれから用事がありますのでこれで失礼致しますわ。次に会った時は、2人でもっと色々お話しましょうね? チュッ♡」
「!? は、はい…」
俺の頬にキスをしてから頭を笑顔で撫でて、ミスティリア様は店の奥にある個室に行ってしまった。あそこまで高レベルの美女に可愛がられるなら子供扱いもありかも知れない。
「まったく…うちの娘がすまねぇな。あいつの趣味だけは俺でもどうしようもねぇんだわ」
「あはは…、いえ、まったく問題ないですよ。それよりも綺麗な娘さんですね。あそこまでの美人さんは初めて見たかもしれません。でも魔導王陛下には似てませんね」
「似てなくて悪かったな。あいつは俺の妻によく似たんだよ。見た目は良いし頭も良い。その上魔力も多いし戦闘能力もピカイチと来てやがる。天は二物を与えずと言うが、あいつは何物与えられてるか分かったもんじゃねぇ。ああ見えて料理も上手くてな。この間作ってくれたサーモンのなんたら焼きってのがこれがまた美味くてなぁ。他にも・・・」
娘自慢かな? ただの親バカじゃねぇかこの人。
「そ、そうなんですね。それでさっき言ってた仕事の話ってなんですか?」
「ん? あぁ、クリスティアに協力してレンブラントに攻め込む件だが……協力してやってもいいぞ」
「! ホ、ホントですか!? でもなんで…」
あんなにはっきり拒否してた上に俺は勝負に負けたのに。一体どういう心変わりだ?
「なんとなくだ。レンブラントは俺にとっても目障りだからな。片付けられるならさっさと片付けた方がいいだろう。それに、レンブラントを潰すことはうちにとっても理のあることだからな。べっ、別にお前が気に入ったとかそういうことじゃないんだからな!」
男のツンデレは見苦しいだけだって知っておいた方がいいぞ魔導王。でもこれで第1ミッションは完了できたわけだ。ありがたやありがたや。
「分かりました。協力よろしくお願いします! 魔導王陛下が協力してくれれば100人力ですね!」
「おうよ。レンブラントなんてちゃちゃっと片付けてやんよ! それじゃ今日は決起集会だな。てめぇら! 今日はクロードの奢りだから好きなだけ飲みやがれぇ!!」
「ちょ!?」
「「「「! ありがとうございます! ゴチになりますクロード殿!!」」」」
その後、レイヴァルト侯爵やミーティア様も合流して最終的に朝の5時まで飲み続けた。マスターから渡された領収書を見ると、全部合わせて金貨80枚(現在の貨幣価値に換算すると80万円相当)も飲まれてしまったようだ。奢りだからって遠慮なさすぎだろこいつら。まぁ協力関係を築けた代償と思えば安いもんか。
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