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第117話「グランシャリオ魔導国入国審査」

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 クリスティア王国の自宅から飛び立って5時間が経過した。現在地はリンダールヘイス神聖国上空を通り過ぎ、そろそろグランシャリオ魔導国の国境に到達しそうだ。現在の高度は7000m。徐々に高度を落としていくと魔導国の外観が見えてくる。

「あんまり目立ってもアレだし、ここら辺で降りて陸路で行った方がいいかな」

 グランシャリオ魔導国がどの程度の技術力があるのかは知らないが、さすがに現代の航空力学や科学、その他諸々と魔法を融合したブラックハートはオーパーツ過ぎるだろう。接収とかされたら溜まったもんじゃないし隠しておいた方が良いかもしれないからな。

 ピー、ピー、ピー

 そんなことを考えながら徐々に高度を落としていくと、リンダールヘイス神聖国との国境を通過したところで操縦席に警報が鳴り響く。モニターを確認すると、そこには多数の魔力反応が地上からこっちに向かって打ち込まれているところが表示されていた。恐ろしい数の魔力弾を緊急ブーストをかけて回避していく。

「っ! なんなんだ一体!?」

 地表を確認すると、どうやら国境沿いにある建物の屋上に設置してある対空兵器から打ち出された攻撃のようだ。そこにある巨大なスピーカーから、誰かが大音量でこちらに語りかけてくる。

『そこの黒い飛行物体! こちらはグランシャリオ魔導国国境警備隊だ! お前はグランシャリオ魔導国の領空を侵犯している! 速やかに引き返すなら良し。さもなくば法と正義の名のもとに撃墜する! 繰り返す。お前はグランシャリオ魔導国の領空を侵犯している! 速やかに引き返せ!』

 …この世界に領空権なんて存在してたんだな。このまま突っ切ることも出来るが、そんなことをしたら国際問題になりかねない上に俺の印象は最悪になってしまうだろう。仕方ないので尚も打ち込ま続ける魔力弾を回避しつつ、こちらからも取り付けておいたスピーカーをONにして呼びかけてみる。

「迎撃を止めよ! こちらはクリスティア王国からの使者、クロード=グレイナード子爵だ。クリスティア王国国王からの勅命により親書をお持ちした。魔導王陛下に謁見願いたい!」

『クリスティアからの使者だと…? たとえ他国からの使者であろうとも許可のない者を入国させるわけには行かん! 国境にある入国管理局に出向き、然るべき手続きを取れ!!』

 ごもっともな意見だった。これ以上警備隊と争っても仕方ないので、警告に従いブラックハートを旋回させて魔導国の領空から脱出したあとに、国境にある建物を目指すことにする。

 少し探すとそれらしい建物があったので、高度を落としてリンダールヘイス側に着陸し、【無限収納】にブラックハートを仕舞ってからその建物の中に入ることにした。中には何かの大きな装置と接客用の応接セット。その奥のデスクに2人の黒いスーツを着た職員らしき人物が座っていた。俺の姿を確認した青い髪をアップにした女性職員が笑顔でこちらに近寄ってくる。

「こちらはグランシャリオ魔導国入国管理局です。入国をご希望ですか?」

「えぇ。私はクリスティア王国からの使者を仰せつかっているクロード=グレイナード子爵です。魔導王陛下に謁見したいのですが…」

「申し訳ありませんがこちらは入国管理局ですので、陛下への謁見申請は本国にある役所にてお願い致します。それでは入国審査を開始させていただきますのでこちらへどうぞ」

 淡々とした態度で謎の機械の前に連れて行かれる。冷静で抑揚のない事務的な対応がお役所仕事って感じだね。こういうタイプには感情のままに激しく罵られてみたい。

「こちらでお客様の魔力を調べさせていただきます。装置の中心に立ち、全身の力を抜きリラックスしてください。10秒ほどで終わりますので動かないでくださいね」

 女性職員に促され縦型のMRIのような装置の中心に立つと、謎の駆動音と共に青い光が俺の頭上から降り注ぎ全身を包み込みんでいく。こんなスキャナーみたいな装置が作れるなんて、魔導国の技術力は相当高いらしいな。

 暫くしてピーという音が聞こえると青い光が止まり、装置の脇からカタカタと紙が出てきた。どうやらもう測定結果が出たらしい。

「・・・こ、これは!?」

 測定結果を見た男性職員が驚きの声を上げている。女性職員もそれを見ると、男性職員と同じく驚いたようにこちらを見ていた。魔力にはそこそこ自信があるが何級だったのかな?

「そ、測定の結果、お客様の魔導ランクはA級と判定されました。問題なくご入国していただけますので、こちらで手続きをお願いいたします」

「わかりました」

 A級かぁ。一応今の俺の魔力は5万超えてるんだけどな。S級になったらどれだけ魔力あるんだろう?

 その後、応接セットに座らされてから女性職員に入国に関する書類を渡される。それに氏名や年齢、出身国や入国の目的等を書き込んでいく。入国の理由は…まぁ別にぼかす必要もないしそのまま書いてもいいか。書き込み終わった書類を女性職員に渡す。

 チェックしてもらってる間は特にやることもないので窓から外を眺めていると、魔導国側の入口から誰かが2人ほど入ってきた。赤い軍服っぽい服装の女性と男性が一人ずつだ。綺麗な紫の髪をボブカットにした女性はキリっとした凛々しい顔立ちの美人さんだ。男は普通だな。

 その女性がキョロキョロと辺りを見回し、俺を見つけるとこっちに近寄ってくる。 

「…先程黒い機体で領空侵犯してきたのは君かな?」

「? どちら様ですか?」

「私はグランシャリオ魔導国国境警備隊部隊長のクランディール=スミルノフという者だ。君に確認したいことがあってここに来た。協力してくれるかな?」

 クランディールと名乗った女性が右手を胸に当てて挨拶してくる。国境警備隊…地上から俺を攻撃してきた奴か。

「改めて、私はクロード=グレイナードと申します。その節は大変失礼致しました。グランシャリオ魔導国に無断で侵入しようとしてしまったことは深くお詫びいたします。今はあなた方の言っていた通り入国審査を受けているところですが、確認したいこととはなんでしょうか?」

 知らなかったとは言え領空侵犯してしまったのは俺なので、一応紳士的な対応を取ってみる。しかし部隊長を名乗る女性の横に居た金髪の若い男が前に出てきて、腰に手を当てながら俺を見下してから鼻で笑われた。

「ハッ、クリスティア王国からの使者だって言うからどんな奴かと思ったが…まさかこんなちっこいガキだったとはな。どうやらクリスティア王国ってのは相当人手が不足しているらしい」

 ちっこいガキ…。いきなり出てきて随分な言い草だなこいつ。

「ロドリゲス、下がれ!」

「…あの時も言いましたが、俺はクリスティア王国からの使者であり男爵なわけなんですけど…その俺に対して喧嘩売っているんですか?」ピクピク

 男に胸ポケットから使者の証を提示してみたが、また鼻で笑われてしまう。

「フン、他国の使者だろうが爵位持ちだろうが俺には関係ないな。この魔導国では魔力の量が全てだ。文句があるならその貧弱そうな魔力でかかってきたらどうだ?」

「へぇ…」

 面白いこと言うなこいつ。そういうことなら手加減は必要無さそうだ。俺は椅子から静かに立ち上がり、抑えていた魔力を解放して軽く威圧しつつ金髪男の前へと歩み寄る。

「!? なっ…なんだこの魔力は…っ!」

 突然自分に突きつけられた濃密な魔力に、イチャモンを付けてきた金髪男は完全にビビっているようだ。魔力こそが正義。いい時代になったものだぁ。

「おや、さっきまでの威勢はどうしたんですか? あなたの口ぶりからすると、こんなちっこいガキの俺なんかよりもあなたの方が魔力量は上なんでしょう? 遠慮しないでその力を見せて下さいよ」

「くっ…このガキがぁ!」

 ドゴォンッ!!

「ひゃぶっ!?」

 金髪男が俺に飛びかかってこようとした瞬間、隣にいた部隊長さんの拳が金髪男の顔面を捉え、激しく吹っ飛んだあと頭から壁にめり込んで動かなくなっていた。魔力が乗った良い右ブローだ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

「まったく…。クロード殿、部下が失礼な事を言って申し訳ない。奴に代わってこの通りお詫びするので、どうか怒りを鎮めてくれないか?」

 別にそんなに怒っていたわけじゃないが、美人にそう言われちゃ許さざるを得ないな。

「…分かりました。謝罪を受け入れます。俺は別に魔導国まで争いに来たわけじゃありませんからね」

「寛大な対応感謝する。それではその使者の証をもう一度見せて貰ってもいいか?」

 部隊長さんが使者の証を確認すると、一回頷いてから返してくれた。

「確認した。先程は職務とは言え迎撃してしまい申し訳なかった。お詫びという訳ではないが、私にクロード殿を本国まで送らせてはくれないか? ここから本国まではかなり距離があるし、あの黒い飛行物体を使ってもらっては困るからな」

「飛んで行っちゃダメってことですか?」

「ああ。魔導国内の空を飛ぶためには本国にある航空管理局の許可を取らなければいけないんだ。許可もなく飛行して本国に近づけば、今度は問答無用で敵と見做され撃墜される可能性があるからね」

 …それは確かにヤバイな。あのまま突っ切って魔導国の首都に行ってたら本気で国際問題になるところだったようだ。簡単に撃墜されるつもりはないけど今回は喧嘩しに来たわけじゃないからね。ここは素直に部隊長さんの提案に乗った方が良さそうだ。

「分かりました。それじゃお言葉に甘えて送ってもらってもいいですか?」

「了解した。カルーセル君、彼の認定カードは発行できたか?」

「は、はい! こちらになります!」

 奥の方でこちらの様子を伺っていた女性職員からカードのような物が渡される。それには名前と出身国に魔導ランクが記入されていた。なんか冒険者証みたいだな。

「それは魔導力認定カードと言って入国許可証の役割を果たす物だ。それを持っていれば問題なく本国にも入ることが出来るだろう。ただし、そのカードは貴重な物なので無くしても再発行は出来ないんだ。紛失しない様に首からかけておくといいだろう」

「分かりました。それじゃ申し訳ないですがお世話になります、部隊長さん」

「…クロード殿、私のことはクランと呼んでくれるとありがたい。部隊長は私だけでなく複数人いるからな」

「あ、そうなんですね。了解です、クランさん」

 壁にめり込んだ金髪男を回収してから、クランさんの後ろに付いて入国管理局の扉をくぐると、色々あったがやっとグランシャリオ魔導国に足を踏み入れることができた。なんかこれから先も厄介事が起こりそうな気がしなくもないが、とりあえず任務を無事に果たす事を考えよう。
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