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第113話「闇人形の軍勢」

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 学園祭で襲撃してきた闇人形はその後現れることなく、暫くは何事もなく過ごしていたのだが突然クリスティア王国に急報が届いた。レンブラント王国から周辺国家に向けて宣戦布告が出されたのだ。それと同時にレンブラント王国から出兵したおよそ30万の兵が、その隣国のトリニダート公国を攻撃し、苛烈極まる猛攻で3日も経たずに城を落とし大公が殺されてしまう。その訃報はすぐに各国に知られることとなった。

 そんな中、俺は陛下に呼び出され王城に来ていた。わざわざ学園にまで配下に呼びに来させたってことは、クリスティア王国にも何かあったのかもしれない。

 謁見の間に入ると、陛下が厳しい顔をして俺を出迎えてくれた。

「よく来たなクロードよ」

「いえ、それで何かあったんですか?」

「うむ。レンブラント王国が各国に宣戦布告し、トリニダート王国が堕ちたことは知っているな?」

「ええ勿論。まさか…もうクリスティアに攻め込んできたんですか!?」

 学園祭での一件があってから闇人形の警戒はしていたけど、俺の知らないところで敵国の侵入を許していたのかもしれない。慌てる俺に陛下は首を振り、そうではないと否定される。

「いや、そうではない。今一番危険なのはギルランディオ帝国じゃ。先程ギルランディオ帝国からの斥候が命辛々やってきてな。もうすでにレンブラント王国の兵が帝国領に侵入し始めているらしい。そしてその軍勢は怪しい闇魔法を使い、進路上にある村や街の住民を洗脳してその勢力に加え、戦力を増強しているらしい」

「闇の魔法ってことは…宵闇の住人ダークストーカーが表立って動いているんですか?」

「恐らくな。もしこのまま帝国の民が洗脳され、その勢力に加わることになれば面倒なことになる。そして連中の狙いが国ではなく王族であるなら…帝国には今ソレイユが行っている。事は一刻を争うのだ。クロード…お主の力を貸して欲しい」

 ソレイユ様はクリスティアの第一王女。連中には格好の餌だ。それにリュシリスもいる。

「勿論です陛下。俺にとっても他人事じゃないですから、俺の力で良ければいくらでもお使いください」

 とりあえずリュシリスやソレイユ様と合流して、敵の軍勢を蹴散らしてからレンブラント王国に攻め込むかな。宣戦布告されている以上手加減する必要もないから全開でやらせてもらおう。

「うむ。ではクロードに勅命を与える。我が国の使者としてギルランディオ帝国と王族を守り、侵入したレンブラント王国軍を殲滅せよ。以前ギルランディオ帝国に派遣している我が国の兵士は好きに使ってくれて構わんからな。あと、もしソレイユが出撃しようとしてたら絶対に止めてくれ」

「はっ! 必ずお役目を果たしてご覧に入れます!」

 陛下に一礼したあと、謁見の間を出てからすぐに転翔の羽を使ってギルランディオ帝国の王城の前へと飛ぶことにした。帝国には1回行ってるからわざわざブラックハートで飛んでいく必要もないのはありがたいね。
 


 王城の前に到着すると、帝国軍とクリスティアの援軍の混成部隊が出撃準備を進めていた。陣頭指揮を取っているのはなぜかプリンセスアーマーを着たソレイユ様だったりする。婚約者とは言え他国の王女が指揮を執るのはどうなんだろう。他に指揮を執る人間がいないのだろうか??

「おーい、ソレイユ様ー!」

「ん? あら、クロードくんじゃない。来てくれたの?」

「来てくれたの? じゃないですよ! なんでソレイユ様が出撃しようとしてるんですか!?」

「だって攻め込まれてやられっぱなしじゃ悔しいじゃない。それにこの国に嫁ぐことになってる以上は国民にいいところ見せないとね♪」

 俺が得た宵闇の住人ダークストーカーの情報は同盟国には伝わっているはずだ。自分王族が狙われてる自覚ないのかこの人? しかし陛下に頼まれてる以上放置するわけにも行かない。

「ソレイユ様、陛下から『絶対に出撃するな』との御命令です。この件は俺に任せてくれませんか?」

「えー、クロードくんだけズルいよ! 私だって暴れたいのにぃ!」

 そんなほっぺ膨らませてプンプンされても困るんだが。

「奴らの狙いは王族なんです。その王族であるソレイユ様が出撃したら連中の思うツボじゃないですか。それに向こうの軍勢には帝国の市民も洗脳されて加わっています。その人達まで斬るつもりですか?」

「うぐぅ……わかったよぉ。そのかわり帝都の中にまで攻めてきたら私も出るからね。王女として国民が危険に晒されるのを放置なんて出来ないんだから!」

 多分ダメって言っても出るんだろうなこの人は。そうなる前に仕留めちまえば問題ないか。

「…わかりました。帝都に侵入される前にどうにかします。帝都の守りはお任せしますけど極力前には出ないで下さいね?」

「極力ね。それじゃあとはよろしくね、クロードくん」

 そう言って踵を返し帝都の守りを固めるように兵士達に指示を出し始める。俺も自分にやれることをやりに行こう。帝都から出たところで【無限収納】からブラックハートを取り出し、起動シークエンスを開始する。

「ブラックハート、発進!」

 魔導エンジンを唸らせて黒い翼が空を駆け抜けていく。備え付けのレーダーで索敵すると、北の方に恐ろしい数の反応を発見した。トリニダート王国の人間と、ここまで来る途中にあった村や街の人を無差別に取り込んだようだな。その総数はおよそ50万人ほど。現場の上空には10分ほどで辿り着いた。

「…酷いな。子供までいるし」

 子供どころか幼児までもが虚ろな目をしたまま大人に混じって進軍してきている。これは普通の精神を持つ騎士達が相手にしてたら手が出せるわけないだろう。まぁ俺には関係ないけど。

「闇人形の魔力解析開始。………ターゲット固定。弾薬術式変更。聖光弾ホーリーバレット精密誘導射撃準備……3…2…1…発射!」

 バシュゥゥンッ!! バシュゥゥンッ!!

 これだけ闇人形と普通の人が入り混じっていたらマルチロックは使えないし空間歪曲砲で吹っ飛ばすわけにも行かない。ブラックハートの翼の底部に取り付けられた魔導レールガンが火を吹く。放たれた弾丸は洗脳された人達を避け、的確に闇人形の頭部に命中していった。
 それと同時に俺の魔力も弾丸1発あたりコントロールする魔力含めて10程削られるので、今の魔力ならおよそ5000発くらい打ったら魔力が尽きてしまう。なので外気のマナを取り込みんで回復しつつマナポーションをがぶ飲みしながら打ち続けていた。



 ピー、ピー、ピー。

 だがどんなに回復しても限界はやってくる。俺の腹がマナポーションでパンパンになり、ちまちまと一人ずつ数万匹の闇人形を葬った頃に魔力下限ガス欠警報が鳴り響いた。射撃が止まったと同時に地上に残った闇人形達が動きを見せる。

「…何をする気だ?」

 闇人形達は洗脳した民衆を自身の闇に取り込み一体化していく。そして全ての闇人形と民衆が合体し、ムクムクと体を膨張させて起き上がってきた。体長およそ25mまで巨大化し、その体や顔の表面には取り込まれた民衆の顔が現れた。取り込むと同時に洗脳が解けたのか、その顔達がまるで呪詛のように呻き声をあげている。

「…痛いぃぃ。助けてくれぇ…」
「パパぁ…ママぁ…どこぉ?」
「体が動かないよぉ! 助けてぇぇ!」

「…マジか…」

 まるで聖闘士○矢の巨蟹宮に埋め尽くされたデスマスクのような光景だった。民衆が人質肉壁に取られた以上、いくら俺でも迂闊に手が出せない。

『どうデスか? これでも攻撃できマスか? 攻撃したら人間は死にマスよ?』

「この…人形のくせに卑怯だぞ!!」

『フッ…人間は哀れデスね。同族を攻撃スルことを拒み、自らピンチを迎エル。ワタシ達には理解デキナイ感情デスが…利用出来るモノは利用シロという主の言は的を得ているようデスね』

 そう言ってその腕を伸ばし、掌から黒い弾丸を無数に射出してくる。ホーミング性能まである弾丸を緊急回避でなんとか躱していく。何発か当たってしまったが魔力障壁が多少削られるだけで事なきを得た。だが残り魔力は少ない。このままじゃ…。

『攻撃してきてもいいんデスよ? 出来るモノならネ』 

「・・・覚えてろよ。その言葉、必ず後悔させてやる!」

 今の状態じゃどうすることも出来ないので転翔の羽を使って王城まで戻ることにした。あのデカさなら帝都に来るまでそんなに時間は掛からないだろう。それまでにリュシリスやソレイユ様達と相談してどうするか決めなければならない。民衆を見捨てて国を守るか、民衆を庇い共倒れを選ぶか。  

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