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第106話「学園祭準備 その1」

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 貴族院学習最終日。無事に授業を終え貴族としての知識を得た俺は、もうひとつの役目も何事もなく完遂することができた。思えば只の欲求不満解消のために行われたことだが、よくここまで耐えることが出来たものだ。

「アルティミシア、お前は今日で卒業だ。今日までよく頑張ったな」

「クロード様…私は、私はまだ貴方様に責められ続けたいですわ! 今日で卒業だなんて、そんなのあんまりですわぁ!」

「いや、お前は十分に成長した。痛みに耐え、罵倒に耐え、恐怖に打ち勝った。もうお前は人の痛みを理解できる立派な公爵令嬢に成長することができたんだ。これ以上俺がお前に教えることはないよ」

「クロード…さまぁ…ぐすっ」

 アルティミシアを責め続けることで俺の中に新しい目標が生まれた。彼女を世に出しても誇ることのできる一人前の公爵令嬢に更正させるのだと。その目標はもう果たされたのだ。今では友人も多く、男性からの人気もあり、教師の信頼も厚い優等生になることができたのだからな。

「アルティミシア、俺の教えをもう一度思い出したい時は寝る前にこれを装着してから寝るといい。そうすれば夢の中で俺がお前にこれまでの指導を思い出させてあげることができる。これは俺が作ったそういう魔道具だ」

 彼女に渡したのはゴーグル型の魔道具で、自分の体験した印象深いことを脳波に干渉して追体験させるというものだ。もちろんただの夢ではなく、五感をフルに使った夢なので痛みもあれば恐怖などを感じることもできる。これで俺がいなくてもアルティミシアの困った性癖を満たすことが出来るだろう。

「…うぅっ、ありがとうございますわクロード様。頂いた物は一生大切に致します。そして超一流の公爵令嬢になるべくこれからも努力を惜しまないことを誓いますわ!」

「あぁ、期待してる。お前なら必ずなれると信じているよ。それじゃ俺は行くよ。達者でなアルティミシア」

「はい…ご指導、ありがとうございました!」

 俺は頭を深く下げたアルティミシアに背を向け、転翔の羽を使って自宅へと飛ぶ。思えばアルティミシアがアリアを虐めて、それを救ったことから始まったことだが俺にとってもいろんな意味で勉強になった。ドMの責め方や悪役令嬢を更生させる方法など。まぁこんな知識は今後使うことはないだろうけどね。




 気がついたらもう季節は秋。冒険者学園では学園祭の時期が迫ってきていた。

「今日から2週間、学園祭までの間は準備期間に入ります。みんなでクラスの出し物を決めてそれを準備する期間ですね。このホームルームでは学園祭で何をやるかみんなで話し合ってください。それじゃシャルルくん、あとはお願いしますね」

 学級委員長のシャルルが教壇に立つ。こいつはいつの間に委員長になったんだろう?

「はい。それじゃ学園祭の出し物について話し合いたいと思う。これから紙を配るので、それに各自やりたいことを書いて投票してほしい。その中から得票数の多いものを3つ選び出し、みんなで話し合って決めたいと思う」

 副委員長のマチルダから配られた投票用紙に、俺は当然カレー屋と書いて投票する。俺の進化したカレーなら売上トップを狙うことも可能だろう。シャルルが開票していくと、得票数が多い順に『喫茶店』、『演劇』、『女装コンテスト』などが挙げられた。誰だ最後の挙げたやつ。

「それではどれにするか話し合いを始めよう。意見があるものは挙手をしてくれ」

 そこからは熱い話し合いが展開されていく。学園祭では売り上げ1位のクラスに学園長から素晴らしい景品が出るとのことなので、みんなそれ目当てで気合が入っているようだ。その景品の中身は明らかにされてはいないが、一部の噂ではかなり凄い装備品や魔道具が景品になってんじゃないかと囁かれているらしい。

「演劇なんて流行らねぇよ。売上挙げるなら飲食店じゃないとダメだろ!」

「喫茶店なら女装しながらでもできるよね、アステルくん♪」

「ぼ、僕もするのかい?」

「それなら女子も男装すればいいんじゃね?」

「アホか! 女子が男装しても可愛くないだろ。誰得なんだ?」

 30分程女子は男装させた方が萌えるのかを談義した結果、最終的には男装執事&女装メイド喫茶をすることに決定してしまった。…どうしてそうなった。本当にそれでいいのかお前ら?
 そんな俺の思いとは違いクラスの連中は誰に女装させるかで盛り上がっていた。その後も話し合いによって衣装は各自で用意することになり、議題はメニューはどうするかの話に移行していく。

「喫茶店だから飲み物がメインだろうな。酒も用意しようぜ!」

「学園で酒はやばいだろ。食べ物はどうする?」

「売上トップを狙うならそれなりの料理を用意しないとダメなんじゃないか? 確かクロードがなにかの飲食店をやっていたんじゃなかったか? なぁクロード」

 そこで俺に話を振るのか。一部のクラスメイトには俺がカレー屋をやっていることは知られているからな。

「俺がやってるのはカレー屋だ。俺のカレーなら売上個数だけならトップを狙う自信はあるぞ。ただ準備費用はかなりかかるから、学園祭で出す安い料金だと下手したらマイナスになる可能性があるぞ」

 うちのカレーはスパイス等の材料費だけでもそんなに安いものは使っていない。料金は普通のカレーで一杯あたり銀貨1枚。こういう学園祭の売り物の平均価格は銅貨3~5枚。はっきり言ってそんな価格でやってたら赤字である。もっと値上げしてもいいのかもしれないが、そうすると高いという理由で客が付いてくれるか分からなくなるから、値上げするにしても協議が必要だ。

「クロードくんが作ったお菓子出したら売れるんじゃない? すっごく美味しいしね♪」

「そうね。先週貰ったあのポンデリングとかいうお菓子なら確実に売れると思うわ」

 アーニャ達からそんな意見が上がる。お菓子か…それならいいかもな。

「そうだな。あれならトッピング次第で種類増やせるし、費用もそこまで掛からないから学園祭にはちょうどいいかも知れないな。作り方も簡単だからみんなで作れば数は確保できるだろう」

 俺だけで作るには量が多すぎるので一緒に作る人を募集すると、お菓子を作った経験のあるアイリスとセレスティーヌ、アーニャとキュリアスが立候補してくれて、このメンバーでお菓子を担当することになった。お菓子なら必要量を先に作っておけばすぐに客に出せるから楽できるしな。

「よろしくねクロードくん。味見なら任せて!」

「いや、お前も作るんだぞキュリアス」

 そんな感じで着々と準備が進んでいく。これからやらなければならないのは大まかに分けて材料の仕入れと新作お菓子の試作、看板等の作成と教室の飾りつけ、現役執事とメイドによる作法の教育。あとは宣伝か。やることは結構あるが、まぁなんとかなるだろう。

「それじゃみんな、売り上げ一位を目指して頑張っていこう!」

「「「おー!」」」

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