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第101話「先生んちの晩御飯」
しおりを挟む広めの玄関を通りそのままリビングへと通される。高級感あふれるソファに座らされ、突然の訪問者に驚いている妹さんにお茶まで入れてもらってしまった。これは一体…俺はどうすればいいのだろう。
「粗茶ですが、どうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
「それじゃゆっくりして行ってよ。俺は夕食作ってくるから」
先生は夕食を作りにキッチンの方に行ってしまい、現在は妹さんとリビングで2人っきりという状況だ。密かに尾行していたこともあって地味に気まずいが、とりあえず自己紹介くらいするべきだろうか?
「あの、改めてランスロット先生の生徒で、クリスティア冒険者学園1年のクロード=グレイナードと言います。よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、妹さんもその紫の髪を揺らして頭を下げてくれた。
「私はクリスティア魔導騎士学園の1年生でメルシウス=グロリアーナと申します。こちらこそよろしくお願いします」
彼女が着ている制服は魔導騎士学園の物だったんだな。そういえば前にフェリシア姉さんも着ていた気がする。あんまり見たことないけど。
「実は、俺の姉も魔導騎士学園の生徒だったんですよ。もう卒業してしまったんですけど、フェリシア=グレイナードってご存知ないですか?」
「えっ…フェ、フェリシア先輩の弟さんなんですか!?」
そんなに驚かれるようなこと言ったのか? フェリシア姉さん、一体学園で何したんだ!?
「まさか私の家にあのフェリシア先輩の弟さんが来てくれるなんて…これもきっと神のお導きなんですね! 神に感謝を捧げます!」
そんな突然神に祈られてもどうしたらいいかわからないのだが…とりあえず姉さんを崇めているのはわかった。ここから話を広げてみるか。
「あの、フェリシア姉さんって魔導騎士学園ではそんなに有名なんですか?」
「有名なんてものじゃないですよ! フェリシア先輩は強くて美しく成績優秀で誰にでも優しく、在学中には生徒会長も務めていて学園のミス・マジックナイトに選ばれたこともある凄い人なんですよ! もはや魔導騎士学園の伝説の人物になっています!」
それはもはや俺の知ってるフェリシア姉さんではなかった。
「随分と盛り上がってるね。面白いことでもあったのかな?」
「兄さん! 兄さん兄さん!! クロードさんはあのフェリシア先輩の弟さんなんですよ! 凄いんですよ!! もうなんていうか、感動しちゃいました!!」
「フェリシア先輩って…メルが憧れてる先輩だったっけ。クロード君のお姉さんなのかい?」
「えぇ、多分そのフェリシアだと思います。俺のイメージとは掛け離れてますけど」
「そうなんですか? クロードさんのフェリシア先輩に対するイメージが気になります。ご家族に対してはどのような方だったのか…きっと素敵なお姉様なんでしょうねぇ」
フェリシア姉さんのイメージ…超絶ブラコンなイメージしか湧いてこないんだが。だが流石にそのまま言う訳にもいかないので取り繕っておこう。
「確かに家では優しい姉ですけど、そこまで優秀なのは正直知りませんでしたね。あはは」
「ふふっ、やはりフェリシア先輩はご兄弟にも優しいお姉様なのですね!」
まぁ嘘は言っていないからいいだろう。俺が寝ている間に頑張ったということなんだろうな。
「さて、その先輩の話はその辺にして夕食を食べようか。今日はメルの好きなオムライスだよ」
「うん。ありがとう、兄さん♪」
「ランスロット先生が料理されてるんですね。そういえばご両親はいらっしゃらないのですか?」
「…あぁ、両親は今、別の国に住んでいてここには居ないんだ。ほら、食事が冷めてしまうよ」
「は、はい」
なんか一瞬先生の顔が曇ったが、聞いちゃいけないことだったかな?
妹さんと一緒にテーブルに座ると、運ばれてきたのはメガ盛りと言っていい量の巨大なオムライスだった。見た感じ5kgはあるこれ一つをみんなで分け合うとかではなく、3つ運ばれてきたところを見るとこれ1つで1人分のようだ。妹さんの方を見ると目を輝かせて喜んでいる。これがこの家の普通ということか。
「さすが兄さんです。美味しそう! それでは頂きます♪」
早速美味しそうに食べ始める妹さん。しかしその食べる速度が尋常じゃないほど早い。もはやオムライスが飲み物とかしているようだ。これは彼女だけではなく、一緒に食べ始めたランスロット先生も同様の食事速度だ。フードファイターかこいつら。
「おや、どうしたクロード君。もしかしてオムライスは好きじゃなかったかな?」
「あ、いえ、オムライスは大好きですよ! 頂きます」
スプーンでオムライスを口に含むと、その濃厚な風味が口いっぱいに広がってきた。…美味い。一口食べただけで少し濃い目に味付けされた鶏肉と玉ねぎの入ったチキンライスに、とろとろの卵が合わさって絶妙のハーモニーを奏でている。
そして味の決め手になっているのは卵に入っているコンソメだな。このコンソメを入れることで味に纏まりが生まれている…気がする。美味しいは美味しいのだが如何せん量が多い。しかし出されたものは全て食うのが俺のポリシー。ここは裏技を使わせてもらおう。
ガツガツガツガツ!
「おぉ、いい食べっぷりだねクロード君。お味はいかがかな?」
「すごく美味しいですよランスロット先生。これもうお店で出せるレベルですよ!」
「そうだよ兄さん! 学園の食堂で作ってみたら売れるんじゃない?」
「いやぁ、教師の仕事があるんだからそんな暇ないよ。お世辞はいいから食べちゃいな」
それから少し時間がかかったがなんとか完食する。まぁ自分の口内に【無限収納】を仕掛けて食べた分は全部仕舞い込んだだけだったりするのだが。残すぐらいなら持って帰って後で食べる。それがグレイナード家の教えだ。
「クロードさんも全部食べられたんですね。私の友達とかは私のお弁当を見ても量が多すぎて食べきれる訳がないなんて言うんですよ? そんなに多くないのに…」
いや多いから。普通の人間だったら確実に残すから。ていうか弁当もこの量なの?
「俺の家でもこのくらいの量は食べる子もいますよ。まぁ中には小食な人もいますから量については何も言えませんけど、俺にはこのくらいでちょうどいいですね」
そうでも言っておかないと、なんか先生達に負けた気がするから仕方ない。ただの見栄ですがね。
「ふふっ、いっぱい食べれる人は素敵だと思いますよ。兄さん、おかわり下さい!」
まだ食うのかよ! それでそんなに細いとかホントにフードファイターだな! ちなみに妹さんの体型は標準的な体型よりちょっと細いぐらいだ。だが胸はかなり大きい。あ、栄養が全部胸に行ってるのか。
「あぁ、いっぱい食べるといいよ。クロード君の分も持ってこよう」
「あ、ありがとうございます…」
それからおかわりまでさせられて食事は無事に終了した。一応限界までは普通に食べていたのでもう色々といっぱいいっぱいだ。食後のお茶を飲みつつまったりしていると、先生は片付けに行って再び妹さんと2人っきりになる。折角だし妹さんに先生のことを聞いてみようかな。
「メルシウスさん、実は今日ランスロット先生と手合わせしてもらったんですけど、ランスロット先生って昔から今みたいに強かったんですか?」
「え? そうですね……兄さんは昔は弱かったけど、色々あって強くなるしかなかったんです。そうしなければ私と一緒に殺されていましたから」
「…それは、どう言う…」
「メル、余計なことは言わなくていい。クロード君もそんなことは聞く必要ないだろう?」
「あ、ごめんなさい兄さん。つい…」
「…すいません。出過ぎたことを聞いてしまったようです」
なんか深い事情があるっぽいけど、家庭の事情に首を突っ込むわけには行かない。自重自重。
それから3人で学園での他愛もない話をしたりして、やっと腹が熟れてきたのでお暇することにした。
「今日はありがとうございました。急に来たのにご馳走までしていただいて」
「いや、たまには家族以外の人とも食事できて楽しかったよ」
「私もフェリシア先輩の弟さんと食事できてよかったです。明日学園に行ったら自慢しますね!」
「あはは、それじゃ失礼しますね」
なんか色々と家庭の問題がありそうな雰囲気だったけど、先生の妹さんとも知り合うことができたし来てよかったかな。残念ながらスキャンダラスなことはなかったがこれからに期待しよう。
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