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第97話「夕暮れの告白」
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あれからヴィルミアは病死したことにされ国民に公表されると、ひっそりと城の中で葬儀が執り行われた。皇帝陛下の子供達も何人かは参加していたが、皇帝陛下とリュシリス以外は特に悲しんでいる様子がなかったのが傍から見ていて地味に切ない。俺が死んだら悲しんでくれる人っているよな?
この国に来てから5日が過ぎ、予定通りクリスティア王国からの援軍が到着した。援軍を率いているのは第1王女のソレイユ様のようだ。ソレイユ様は連れてきた兵士達に休憩の指示を出したあと謁見の間へ訪れて、皇帝陛下に優雅に一礼する。
「皇帝陛下。クリスティア王国からの援軍2000名、ただ今到着いたしました」
「うむ、遠い所ご苦労だったなソレイユ王女。救援誠に感謝する」
「はい。明日から帝都の復興作業に協力致しますので指示を頂きたく思います」
「了解した。今日はゆっくりと休んで明日に備えてくれ」
皇帝陛下への挨拶が終わったソレイユ様は俺達のいる所へとやってきて何故か俺に抱きついてきた。柔らかい感触が俺の頭を包み込む。これ凄いやつぅ。
「クロードくん♪ リュシリスちゃんとランディス皇子も久しぶりだね。斥候から様子は聞いていたけどみんな無事みたいで安心したよ」
「お久しぶりですわソレイユ様。行軍お疲れ様でした」
「久しぶりだね。こうしてソレイユ王女と再び会えたのも神の思し召しに違いない。神は言っている。まだ死ぬべき定めではないと!」
「ランディス皇子は相変わらずみたいだね。クロードくんもちゃんとお役目果たせたみたいでお義姉さんも嬉しいよ。よしよし♪」
「ソ、ソレイユ様…苦しいです…」
ソレイユ様が来た翌日からクリスティアの援軍と帝国軍合同で帝都の復興作業を開始する。援軍が豊富な食料や物資を持ってきたのと人海戦術おかげで、帝都はすぐに人が普通に生活できるレベルにまで復興を進めることができた。
俺も魔法で復興の手伝いをしていたが、そろそろ夏休みが終わってしまうので王都に帰らなければならない。それをリュシリスに伝えると、寂しそうな顔で俺の手を握ってくる。
「クロ様…王都に帰ってしまうのですね」
「うん。帝都の復興も目処がついたし俺はまだ学園生だからね。学園をサボるわけには行かないよ」
「…それなら、最後に私とお出かけしてくれませんか? クロ様と2人っきりでデート、したいです」
「リュシリス…わかった。明日は一日付き合うよ」
翌日、リュシリスの案内で帝都内の色々な場所へと向かう。サンビルガスト王国に攻め込まれてからそんなに時間は経っていないが、住民達は亡くなった人達の分まで懸命に生きているのが伝わってくる。それを見たリュシリスは目を潤ませて悲しいような嬉しいような微妙な表情をしていた。
「帝都の人達がこうして暮らせているのも、クロ様がサンビルガスト王国を撃退してくれたおかげだとお父様から伺いました。本当にありがとうございます」
「俺は大したことはしていないよ。同盟国が困っていたようだから力を貸しただけさ」
ホントはリムルとの温泉旅行を潰された八つ当たりだったわけだが、今はそれは言うまい。
「また何かあったら助けてくださいますか?」
「勿論。リュシリスが困ったならすぐに駆けつけるよ。俺がいる限りリュシリスに手は出させない」
「クロ様…ありがとうございます。私、嬉しいですわ」
その後、リュシリスが案内したいところがあると言うので付いて行くと、帝都を見下ろせる位置にある丘に辿り着いた。そこは戦争の被害を受けていないようで色々な種類の花が咲き乱れている。
「へぇ、綺麗なところだね」
「ここは私のお気に入りの場所なのです。戦争が始まるまでは私が定期的ここに来てに花達のお世話していたのですわ」
これだけの広さだと一人で整えるのはかなり大変だろう。花がよっぽど好きじゃないとここまで綺麗にはできないに違いない。夕暮れに染まる花畑を見ていると心が和むねぇ。
「リュシリスは花が好きなんだね」
「はい。お別れをする前にこの場所をクロ様に見ていただけて良かったですわ」
そう言って俺の後ろから抱きついてくる。リュシリスの柔らかい感触が後頭部に伝わってきた。
「リュシリス?」
「クロ様、お話があるのです。聞いてくださいますか?」
「…うん。勿論」
「クロ様…クロ様に一目惚れしてから私はずっとクロ様を見てきました。そして…私のこの気持ちは間違いじゃないって改めて思いました。いえ、最初に会った時よりももっともっと大きくなっています」
リュシリスの俺を抱く力が強くなるのと同時に、微かに震えているのが分かる。
「私は…クロ様をお慕いしております。もっとずっと、クロ様と一緒に居たいです。だから私と…私と婚約していただけませんか? 私をクロ様のお嫁さんにして下さいませ!」
リュシリスの真摯な気持ちが伝わって来る。俺はどうなんだろう。出会ってから今日までリュシリスと過ごして。…彼女の優しさが心地よかった。そしてあの時、商人にリュシリスと結婚したいと言われた時、俺は確かにあの男に嫉妬していた。リュシリスを他の男に渡したくないと思った。…嫉妬した時点で結論は出ていたんだな。
「俺も…リュシリスのことが好きだよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。でもあの時も言ったけど、俺には恋人が6人もいるけどいいのか?」
「構いませんわ。私が一番クロ様を好きだって証明してみせます!」
「出来れば争わないで仲良くしてくれると嬉しいんだけど…」
「そ、そうなんですね。わかりました、私も仲良くなれるよう努力いたします!」
俺はリュシリスの手を解き、後ろを向いて正面から抱きしめる。リュシリスの体からは優しい花の匂いがした。ずっと嗅いでいたくなる甘い香り。
「俺もリュシリスと一緒に居たいんだ。だから、これからよろしくね」
「クロ様…はい。不束者ですが、こちらこそよろしくお願いいたします」
夕日に照らされた2人の影が1つに重なる。俺とリュシリスはこの瞬間恋人同士になった。
暗くなるまであの丘で2人で語り合ってから転翔の羽で城へと戻ってくると、リュシリスに手を引かれてそのまま浴場へと連れて行かれる。
「あの、リュシリス?」
「今日は色々歩いて汗かいてしまいましたし、一緒に入りませんか?」
「おおぅ。いや、俺は嬉しいけど…リュシリスはいいの?」
「タ、タオルを巻けば大丈夫ですわ。私にクロ様のお背中を流させてください」
「それじゃ折角だし、お願いしようかな」
どうやら服を脱ぐところは見られたくなかったようなので先に風呂に入る。まさか一緒に風呂に入るお誘いを受けるとは思わなかったが正直嬉しい。湯船に浸かっていると、タオルを巻いたリュシリスが入ってきた。
「お待たせしましたクロ様。お背中を流しますのでこちらへいらして下さい」
「う、うん」
湯船から上がって備え付けられた椅子に腰掛けると、リュシリスが傍にやってきて石鹸を泡立て始めた。なんかそういう店みたいでちょっと緊張してしまう。
「それじゃ、失礼いたしますね」
泡立てたタオルでこしこしと俺の体を擦る。力はちょっと弱いがこれはこれで気持ちがいい。
「クロ様の背中は鍛えられているのですね。ゴツゴツしてます」
「まぁ一応冒険者だし、俺も色々やってきたからね」
「逞しい殿方は素敵だと思いますわ」
「ありがとう。それじゃそろそろ交代しようか。リュシリスの背中も流してあげるね」
「えっ!? あ、あの…はい。お願いいたします…」
選手交代してリュシリスを椅子に座らせてから石鹸を泡立て背中を洗っていく。リュシリスの背中は小さくてすべすべして柔らかかった。腕を上げさせて腋周りを洗ったあと、そのまま手をスライドさせてお腹の方へと攻め込んでみる。
「あっ、クロ様。その、前は自分で…」
「リュシリスの体を隅々まで洗ってあげたいんだ。ダメ?」
「そ、そんなこと言われても……あうぅ…や、優しく…お願いいたしますわ…」
「任せて♪」
それから上半身をくまなく洗ってあげた。流石に下半身には手を出していないけどね。そっちを攻めるのは結婚した後と決めている。洗い終わってお湯で流してあげると、リュシリスは少し息を荒げていた。
「終わったよリュシリス。お疲れ様」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう…ございました…」
2人で温泉に浸かって十分温まったあと、浴室を出てから再び手を引かれてリュシリスの部屋まで連れてこられてしまった。まさかこのまま…いやいや、流石にそれはダメだろ。
「クロ様、その、今日で最後ですし、い、一緒に寝ませんか?」
「リュシリス…」
リュシリスは緊張しているのか少し震えている。無理しているのがバレバレだ。俺はリュシリスのおでこに軽くデコピンすると、突然の攻撃にリュシリスはキョトンとしていた。
「クロ様?」
「あのさ、別に今日が最後ってわけじゃないだろ? 俺達はこれから婚約するんだし、いくらでも時間はあるんだから無理しなくてもいいんだ。それとも、どうしても今日じゃないとダメなのか?」
「そういうわけではないのですが…でも私、他に恩返しする方法が思いつかなくて…」
「恩返しって、なんの?」
「全部ですわ。国や民を救ってくれたこと、私なんかを恋人にしてくれたこと、他にも色々…」
「馬鹿ちん」
「あうっ!」
もう一発デコピンをかます。今度はちょっと強めに。
「クロ様、痛いですわ…」
「アホなこと言うからだ。俺が帝国を救ったのは俺の都合だし、リュシリスを恋人にしたのは俺の意思だ。リュシリスに恩返しされるようなことじゃないっての。そんなこと言うなら俺もリュシリスに恩返しするぞ?」
「私、何もしてませんよ?」
「俺の世話焼いてくれたし、俺のことを恋人にしてくれただろ。それにさっきも俺の背中洗ってくれたし、俺にリュシリスの体を洗わせてくれたし」
「あうぅ、は、恥ずかしいですわ!」
「だから、恩返しなんて必要ないよ。そうじゃないとずっとお互いに恩返しし続ける事になるぞ?」
そんな関係を望んでるわけじゃない。好きな相手のために何かするのは当たり前のことなんだから。
「わ、わかりました。それじゃ今日は添い寝だけにしておきますわ。それならいいですわよね?」
「添い寝だけって…いいのか? 俺がリュシリスに何かしちゃうかもよ?」
「クロ様は私が嫌がる事はしませんわ。信じてますから大丈夫です!」
そんなこと言われたら何も出来ないじゃないか。まぁ最初からする気ないけど。
「…はぁ。わかったよ。それじゃ一緒に寝ようか」
「はい!」
ベッドの中で話をしているうちに気付いたらリュシリスが寝てしまったようだ。可愛い寝顔を見ているうちに俺も眠くなったのでホッペにキスをしてから眠りに就いた。
朝食を食べてなんだかんだしているうちに、とうとう王都へ帰る時間になってしまった。夏休みも今日で終わり明日から学園が始まる。正直帰りたくないがこればっかりはしょうがない。リュシリスや皇帝陛下達がお城の正門の前まで見送りに来てくれた。
「クロード殿、またいつでも来てくれ。放置しすぎてリュシリスを悲しませないでくれよ」
「分かってますよ。皇帝陛下もお元気で。また次の長期休みにでも訪れさせて頂きます」
「次に来た時は私とも遊びに行こう。さらばだ義弟よ。神のご加護があらんことを」
「わかりました。また逢いましょうランディス義兄さん」
2人と挨拶を交わしたあと、リュシリスが俺に抱きついてくる。
「クロ様…また会いましょうね。約束ですよ?」
「ああ。また会いに来るよ。だからそんな泣きそうな顔しないの。笑顔で見送ってよ。ね?」
リュシリスの頭を優しく撫でてあげると、柔らかく笑ってくれた。
「今度会うときは、今よりいい女になってお迎え致しますから覚悟しておいてくださいね!」
「期待してる。それじゃリュシリス、みなさんもまた逢いましょう!」
みんなが見守る中、転翔の羽で王都へと帰還する。なかなかハードな夏休みだったな。
この国に来てから5日が過ぎ、予定通りクリスティア王国からの援軍が到着した。援軍を率いているのは第1王女のソレイユ様のようだ。ソレイユ様は連れてきた兵士達に休憩の指示を出したあと謁見の間へ訪れて、皇帝陛下に優雅に一礼する。
「皇帝陛下。クリスティア王国からの援軍2000名、ただ今到着いたしました」
「うむ、遠い所ご苦労だったなソレイユ王女。救援誠に感謝する」
「はい。明日から帝都の復興作業に協力致しますので指示を頂きたく思います」
「了解した。今日はゆっくりと休んで明日に備えてくれ」
皇帝陛下への挨拶が終わったソレイユ様は俺達のいる所へとやってきて何故か俺に抱きついてきた。柔らかい感触が俺の頭を包み込む。これ凄いやつぅ。
「クロードくん♪ リュシリスちゃんとランディス皇子も久しぶりだね。斥候から様子は聞いていたけどみんな無事みたいで安心したよ」
「お久しぶりですわソレイユ様。行軍お疲れ様でした」
「久しぶりだね。こうしてソレイユ王女と再び会えたのも神の思し召しに違いない。神は言っている。まだ死ぬべき定めではないと!」
「ランディス皇子は相変わらずみたいだね。クロードくんもちゃんとお役目果たせたみたいでお義姉さんも嬉しいよ。よしよし♪」
「ソ、ソレイユ様…苦しいです…」
ソレイユ様が来た翌日からクリスティアの援軍と帝国軍合同で帝都の復興作業を開始する。援軍が豊富な食料や物資を持ってきたのと人海戦術おかげで、帝都はすぐに人が普通に生活できるレベルにまで復興を進めることができた。
俺も魔法で復興の手伝いをしていたが、そろそろ夏休みが終わってしまうので王都に帰らなければならない。それをリュシリスに伝えると、寂しそうな顔で俺の手を握ってくる。
「クロ様…王都に帰ってしまうのですね」
「うん。帝都の復興も目処がついたし俺はまだ学園生だからね。学園をサボるわけには行かないよ」
「…それなら、最後に私とお出かけしてくれませんか? クロ様と2人っきりでデート、したいです」
「リュシリス…わかった。明日は一日付き合うよ」
翌日、リュシリスの案内で帝都内の色々な場所へと向かう。サンビルガスト王国に攻め込まれてからそんなに時間は経っていないが、住民達は亡くなった人達の分まで懸命に生きているのが伝わってくる。それを見たリュシリスは目を潤ませて悲しいような嬉しいような微妙な表情をしていた。
「帝都の人達がこうして暮らせているのも、クロ様がサンビルガスト王国を撃退してくれたおかげだとお父様から伺いました。本当にありがとうございます」
「俺は大したことはしていないよ。同盟国が困っていたようだから力を貸しただけさ」
ホントはリムルとの温泉旅行を潰された八つ当たりだったわけだが、今はそれは言うまい。
「また何かあったら助けてくださいますか?」
「勿論。リュシリスが困ったならすぐに駆けつけるよ。俺がいる限りリュシリスに手は出させない」
「クロ様…ありがとうございます。私、嬉しいですわ」
その後、リュシリスが案内したいところがあると言うので付いて行くと、帝都を見下ろせる位置にある丘に辿り着いた。そこは戦争の被害を受けていないようで色々な種類の花が咲き乱れている。
「へぇ、綺麗なところだね」
「ここは私のお気に入りの場所なのです。戦争が始まるまでは私が定期的ここに来てに花達のお世話していたのですわ」
これだけの広さだと一人で整えるのはかなり大変だろう。花がよっぽど好きじゃないとここまで綺麗にはできないに違いない。夕暮れに染まる花畑を見ていると心が和むねぇ。
「リュシリスは花が好きなんだね」
「はい。お別れをする前にこの場所をクロ様に見ていただけて良かったですわ」
そう言って俺の後ろから抱きついてくる。リュシリスの柔らかい感触が後頭部に伝わってきた。
「リュシリス?」
「クロ様、お話があるのです。聞いてくださいますか?」
「…うん。勿論」
「クロ様…クロ様に一目惚れしてから私はずっとクロ様を見てきました。そして…私のこの気持ちは間違いじゃないって改めて思いました。いえ、最初に会った時よりももっともっと大きくなっています」
リュシリスの俺を抱く力が強くなるのと同時に、微かに震えているのが分かる。
「私は…クロ様をお慕いしております。もっとずっと、クロ様と一緒に居たいです。だから私と…私と婚約していただけませんか? 私をクロ様のお嫁さんにして下さいませ!」
リュシリスの真摯な気持ちが伝わって来る。俺はどうなんだろう。出会ってから今日までリュシリスと過ごして。…彼女の優しさが心地よかった。そしてあの時、商人にリュシリスと結婚したいと言われた時、俺は確かにあの男に嫉妬していた。リュシリスを他の男に渡したくないと思った。…嫉妬した時点で結論は出ていたんだな。
「俺も…リュシリスのことが好きだよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。でもあの時も言ったけど、俺には恋人が6人もいるけどいいのか?」
「構いませんわ。私が一番クロ様を好きだって証明してみせます!」
「出来れば争わないで仲良くしてくれると嬉しいんだけど…」
「そ、そうなんですね。わかりました、私も仲良くなれるよう努力いたします!」
俺はリュシリスの手を解き、後ろを向いて正面から抱きしめる。リュシリスの体からは優しい花の匂いがした。ずっと嗅いでいたくなる甘い香り。
「俺もリュシリスと一緒に居たいんだ。だから、これからよろしくね」
「クロ様…はい。不束者ですが、こちらこそよろしくお願いいたします」
夕日に照らされた2人の影が1つに重なる。俺とリュシリスはこの瞬間恋人同士になった。
暗くなるまであの丘で2人で語り合ってから転翔の羽で城へと戻ってくると、リュシリスに手を引かれてそのまま浴場へと連れて行かれる。
「あの、リュシリス?」
「今日は色々歩いて汗かいてしまいましたし、一緒に入りませんか?」
「おおぅ。いや、俺は嬉しいけど…リュシリスはいいの?」
「タ、タオルを巻けば大丈夫ですわ。私にクロ様のお背中を流させてください」
「それじゃ折角だし、お願いしようかな」
どうやら服を脱ぐところは見られたくなかったようなので先に風呂に入る。まさか一緒に風呂に入るお誘いを受けるとは思わなかったが正直嬉しい。湯船に浸かっていると、タオルを巻いたリュシリスが入ってきた。
「お待たせしましたクロ様。お背中を流しますのでこちらへいらして下さい」
「う、うん」
湯船から上がって備え付けられた椅子に腰掛けると、リュシリスが傍にやってきて石鹸を泡立て始めた。なんかそういう店みたいでちょっと緊張してしまう。
「それじゃ、失礼いたしますね」
泡立てたタオルでこしこしと俺の体を擦る。力はちょっと弱いがこれはこれで気持ちがいい。
「クロ様の背中は鍛えられているのですね。ゴツゴツしてます」
「まぁ一応冒険者だし、俺も色々やってきたからね」
「逞しい殿方は素敵だと思いますわ」
「ありがとう。それじゃそろそろ交代しようか。リュシリスの背中も流してあげるね」
「えっ!? あ、あの…はい。お願いいたします…」
選手交代してリュシリスを椅子に座らせてから石鹸を泡立て背中を洗っていく。リュシリスの背中は小さくてすべすべして柔らかかった。腕を上げさせて腋周りを洗ったあと、そのまま手をスライドさせてお腹の方へと攻め込んでみる。
「あっ、クロ様。その、前は自分で…」
「リュシリスの体を隅々まで洗ってあげたいんだ。ダメ?」
「そ、そんなこと言われても……あうぅ…や、優しく…お願いいたしますわ…」
「任せて♪」
それから上半身をくまなく洗ってあげた。流石に下半身には手を出していないけどね。そっちを攻めるのは結婚した後と決めている。洗い終わってお湯で流してあげると、リュシリスは少し息を荒げていた。
「終わったよリュシリス。お疲れ様」
「はぁ、はぁ、あ、ありがとう…ございました…」
2人で温泉に浸かって十分温まったあと、浴室を出てから再び手を引かれてリュシリスの部屋まで連れてこられてしまった。まさかこのまま…いやいや、流石にそれはダメだろ。
「クロ様、その、今日で最後ですし、い、一緒に寝ませんか?」
「リュシリス…」
リュシリスは緊張しているのか少し震えている。無理しているのがバレバレだ。俺はリュシリスのおでこに軽くデコピンすると、突然の攻撃にリュシリスはキョトンとしていた。
「クロ様?」
「あのさ、別に今日が最後ってわけじゃないだろ? 俺達はこれから婚約するんだし、いくらでも時間はあるんだから無理しなくてもいいんだ。それとも、どうしても今日じゃないとダメなのか?」
「そういうわけではないのですが…でも私、他に恩返しする方法が思いつかなくて…」
「恩返しって、なんの?」
「全部ですわ。国や民を救ってくれたこと、私なんかを恋人にしてくれたこと、他にも色々…」
「馬鹿ちん」
「あうっ!」
もう一発デコピンをかます。今度はちょっと強めに。
「クロ様、痛いですわ…」
「アホなこと言うからだ。俺が帝国を救ったのは俺の都合だし、リュシリスを恋人にしたのは俺の意思だ。リュシリスに恩返しされるようなことじゃないっての。そんなこと言うなら俺もリュシリスに恩返しするぞ?」
「私、何もしてませんよ?」
「俺の世話焼いてくれたし、俺のことを恋人にしてくれただろ。それにさっきも俺の背中洗ってくれたし、俺にリュシリスの体を洗わせてくれたし」
「あうぅ、は、恥ずかしいですわ!」
「だから、恩返しなんて必要ないよ。そうじゃないとずっとお互いに恩返しし続ける事になるぞ?」
そんな関係を望んでるわけじゃない。好きな相手のために何かするのは当たり前のことなんだから。
「わ、わかりました。それじゃ今日は添い寝だけにしておきますわ。それならいいですわよね?」
「添い寝だけって…いいのか? 俺がリュシリスに何かしちゃうかもよ?」
「クロ様は私が嫌がる事はしませんわ。信じてますから大丈夫です!」
そんなこと言われたら何も出来ないじゃないか。まぁ最初からする気ないけど。
「…はぁ。わかったよ。それじゃ一緒に寝ようか」
「はい!」
ベッドの中で話をしているうちに気付いたらリュシリスが寝てしまったようだ。可愛い寝顔を見ているうちに俺も眠くなったのでホッペにキスをしてから眠りに就いた。
朝食を食べてなんだかんだしているうちに、とうとう王都へ帰る時間になってしまった。夏休みも今日で終わり明日から学園が始まる。正直帰りたくないがこればっかりはしょうがない。リュシリスや皇帝陛下達がお城の正門の前まで見送りに来てくれた。
「クロード殿、またいつでも来てくれ。放置しすぎてリュシリスを悲しませないでくれよ」
「分かってますよ。皇帝陛下もお元気で。また次の長期休みにでも訪れさせて頂きます」
「次に来た時は私とも遊びに行こう。さらばだ義弟よ。神のご加護があらんことを」
「わかりました。また逢いましょうランディス義兄さん」
2人と挨拶を交わしたあと、リュシリスが俺に抱きついてくる。
「クロ様…また会いましょうね。約束ですよ?」
「ああ。また会いに来るよ。だからそんな泣きそうな顔しないの。笑顔で見送ってよ。ね?」
リュシリスの頭を優しく撫でてあげると、柔らかく笑ってくれた。
「今度会うときは、今よりいい女になってお迎え致しますから覚悟しておいてくださいね!」
「期待してる。それじゃリュシリス、みなさんもまた逢いましょう!」
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