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第95話「ヴィルミアの逆襲」

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 歓迎会も一応無事に終わり、ランディス様に誘われて一緒に風呂に入りに行くことになった。ランディス様曰く、ギルランディオ帝国は温泉資源が豊富らしく城の風呂にも温泉を引いているらしい。しかもその温泉は癒しの魔力を含んでいるらしく、普通の温泉より格段に気持ちいいというからちょっと楽しみだったりする。

「ここが風呂場だよクロード殿。我が家の温泉を存分に楽しんでくれ」

「ありがとうございます。温泉は好きなので楽しみです!」

 脱衣所で服を脱ぎ中に入ると、ローマの風呂のような様式の無駄に広い浴室が現れた。これだけ広ければ泳いでも問題なさそうだな。やらないけど。

「おっと、どうやら忘れ物をしてしまったようだ。取ってくるからクロード殿は先に入っていてくれるかな」

「わかりました」

 ランディス様はなぜかニヤニヤしながら風呂から出ていく。俺はかけ湯をしたあとに早速温泉に入ることにした。魔力を含んでいるためか少し赤いお湯に入ると、確かに普通の温泉にはない体が癒されるような効果を感じることができる。それに微かにバラっぽい匂いもするのでリラックス効果もあるようだ。…これ入浴剤とかじゃないよな?
 
 しばらくぼへ~っと温泉に浸かって寛いでいると、誰かが温泉に入ってくる音がした。ランディス様が戻ってきたのかな?

「お待たせしました、クロード様」

 俺の横にはバスタオル一枚を体に巻いたリュシリス様がいた。ツインテを解き、その銀色の髪をアップにしているから妙に色っぽく感じてしまう。うなじスキーには堪らないな…って今の問題はそこじゃない。

「な、なんでリュシリス様がここにいるんですか!?」

「えっと、ランディスお兄様にクロード様がお風呂で私を待っていると聞いてやって来ました。まさかクロード様がそんなに大胆だとは思わず驚いてしまいましたが、本気で婚約者を目指すなら裸の付き合いも大切だとお兄様に諭されまして…あ、タオルを外すのはまだ恥ずかしいので待っていただけると…」

 あの皇子なんてことを…GJと言わざるを得ない! しかしランディス様は俺とリュシリス様をくっつけようと策を講じたらしいが直接的すぎやしませんか?

「リュシリス様…男と一緒にお風呂に入って恥ずかしくないんですか?」
 
「も、もちろん恥ずかしいですわ! でも他ならぬクロード様の為に私も頑張ろうって思ったのです!」

 なんか色々間違ってる気もするが、彼女のいじらしさは伝わって来る。見た感じ男性経験があるわけでもなさそうだしそこまで積極的なタイプにも見えない。だからなのか余計に気になってしまう。

「あの、リュシリス様はどうして私にそこまでするんですか? 以前にどこかでお会いしていたとか?」

「いえ、歓迎会でお会いしたのが初めてですよ。でも私…クロード様を一目見た時から貴方に惹かれてしまったのです! 私は一目惚れを信じます。クロード様はいかがですか?」

 一目惚れか…。前世での俺の初恋も一目ぼれだったから否定することはできない。でも俺に惚れられる要素あるのか? 王族でもないし身長低いし女好きだし。でも恥ずかしがりながらも体を張ってここまでしてくれる彼女を無下にすることは俺には出来そうにない。

「俺も一目惚れは信じていますよ。何年も前にしたことがありますからね」

「まぁ…そうだったのですね」

「えぇ、だからその気持ちは分かるつもりです。でも今の俺達に必要なのはお互いのことを知ることだと思うんですよね。俺はまだリュシリス様のことを何も知りませんから婚約とかは考えられませんし、リュシリス様も俺のことを知ってから決めたほうがいいと思うんです」

「…クロード様の仰ることもごもっともですわね。でも私、こんな気持ちは初めてなのでどうしたらいいのかわからないのです」

 今の状況はお見合いと同じなんだろう。知らない男女が出会ってすぐに恋仲になれるわけがない。

「リュシリス様、それなら俺と友達になるところから始めませんか? いきなり恋愛とかハードルが高いですし、最初は友達から少しずつ進めていった方がいいって思うんですよね」

「友達…。私がクロード様のお友達になってもいいのですか!?」

「勿論ですよ。そうだ、友達になるんだから名前の呼び方も変えましょう。俺のことはクロードって呼んでください。俺もリュシリスって呼びますから」

「えぇっ!? そんな、いきなり呼び捨ては…クロード様じゃダメなのですか?」

「ダメです。呼び捨てが無理ならあだ名とかでもいいですよ?」

 リュシリスはめっちゃ悩んでいる。そんなに悩むようなところなんだろうか?

「そ、それではクロ様とかいかがですか? 私が好きなロマンス書物に出てくる英雄の名前でもあるんです。なんとなくその英雄もクロード様に似ているし呼びやすいと思うのです」

「クロ様…まぁリュシリスが気に入ったならそれでいいですよ。これからはそう呼んでくださいね」

「わかりました、クロ様!」

 その後、明日は歓迎会で言ったとおり魔法を見せる約束をしてリュシリスは浴場から出て行った。出ていく時にお湯でタオルが張り付いたお尻のラインが扇情的で、なんかめっちゃエロかった。



 翌日、朝食後に約束通りリュシリス魔法を見せることになった。今日のリュシリスは銀の髪をポニーテールにして、フリルの付いた淡いピンクのワンピースを着ていてかなり可愛い。そのままリュシリスの案内で魔法を扱っても怒られない場所、兵士の鍛錬場で実演することにした。
 現場に到着すると、周囲の兵士達が驚いていたが気にせずに進めることにする。

「クロ様、今日はよろしくお願い致しますわ」

「こちらこそよろしくね。魔法を見せるのはいいけど、どんな魔法が見たいの?」

「その、出来ることなら雷の魔法が見てみたいです。書物の英雄のクロ様の得意魔法でもあるのですわ!」

 よっぽど好きみたいだなクロ様。それなら派手なのを一発カマしてみようか。

「わかったよ。それじゃ俺の後ろに離れててね。あと耳を押さえておいた方がいいかも」

 リュシリスの前に出て魔力を集中する。右手を上げ、目の前の的に狙いを定め振り下ろす。

天雷爆滅テスラバースト!』

 ズゴオオオォォォンッ!!

 空からの巨大な落雷で的が跡形もなく吹き飛びクレーターを形作る。その轟音に周囲の兵士達もざわついていた。リュシリスの方を見ると何故か頬を赤くしてその光景に見入っているようだった。

「す、凄いですわ…これが雷魔法なんですのね! 本物のクロ様のようですわ!!」

 どうやら気に入ってくれたようだな。それからも多少のアクションを入れながら魔法を披露していくと、リュシリスのテンションが興奮しすぎて顔が蕩けてヤバい事になっていた。

「はぁ~。最っっっっ高ですわクロ様! 私こんなに興奮したのは初めてです!」

「あー、そりゃよかったな。とりあえずヨダレ拭いた方がいいぞ?」

「え? あぅ…申し訳ありません…///」

 魔法の披露が終わったあと修練場を後にしてから城の入口の方に行くと、なにやら複数の人間の叫び声が聞こえてくる。リュシリスと顔を見合わせて声が聞こえた方に行くと、何人かの衛兵達が血みどろになって倒れている。そしてその倒れた衛兵を死体蹴りしている男がいた。

「ふへ、へへへ、ヒャハハハハハ!!」

「ヴィルミア…お兄様?」

 ヴィルミアってあの時の第2皇子か? 確かに姿は似てはいるが、雰囲気が謁見の間で会った時と全然違って見える。

「ヒャハハァ…おやぁ、リュシリスゥ。それにぃぃ、俺を追放したガキじゃねぇかァァァ!」

 ヴィルミアからなにやら黒い魔力が吹き出している。今のこいつの魔力は人間のものとは完全に別物になっているようだ。どちらかというと魔族に近い感じがする。

「ヴィルミアお兄様、城を追放されたあなたがこんなところで何をしているのですか!?」

「あぁ? 決まってんだろぉ。俺の王位継承権を剥奪しぃ、追放しやがった父上を殺しに来たんだよォ。それと…てめぇだガキィィ。てめぇだ。てめぇを殺しにキタんだよぉぉぉおおお!!」

 突然襲いかかってきたヴィルミアを『豪雷縛鎖ギガライトニングチェイン』で手足を拘束する。だが雷の鎖がその身に帯びた黒い魔力に触れると、あっという間に引きちぎられてしまった。

「死ねやガキがァァァァ!!」

「舐めんな! はぁあ!」

 ヴィルミアから振り下ろされた拳を化勁で弾いてからカウンターで腹に寸勁を叩き込み、吹き飛んだところに追撃で魔力弾を数発叩き込む。しかしヴィルミアは何もなかったかのようにゆっくりと立ち上がった。俺の攻撃が効いてないのか?

「ウヘヘヘヘ…殺す。殺す。ころすころすコロスコロスコロスゥゥゥ! ヒャッハァァァァァ!!!」 

 叫び声を上げるヴィルミア。その声と共に突然その体がメリメリと音を立てながら縦に裂け、その裂け目から黒く蠢く物が這い出してくる。血を噴き出しながら出てきたそれはヴィルミアの体を取り込んで巨大化していく。その姿はまるで巨大なバタ○アンのような醜いものだった。変化が収まると、体長が3m程のアンデッドがその場に現れた。

『ヒャハハハハハハ!! スゲェチカラダ。ウマレカワッタヨウダゼェェ!』

 どうやらヴィルミアはもう人間じゃないようだな。さっさと処分しないと大変なことになる。

「何なんだよお前は! 『雷撃貫通弾サンダーペネトレイト』!」

 複数の雷の弾丸がその体を貫いていく。だがすぐにその穴を修復してしまい、あまり効いている気がしない。

『ウッヘエェヘヘヘヘ。キカネエヨソンナマホウ。ツギハコッチノバンダナァァァァ!!!』

「リュシリス!」

 ヴィルミアの口から放たれた緑色の液体が俺とリュシリスの居た場所をドロドロに溶解していく。俺は瞬時にリュシリスを抱えて転翔の羽で奴から見えない場所に避難した。あんなの一発でも食らったら死んじまうんじゃないか?

「く、クロ様…ヴィルミアお兄様が化物に…」

「リュシリス、あいつは俺が引き受ける。リュシリスはこのことを皇帝陛下に知らせて、陛下と一緒に安全な場所に避難していて欲しい。くれぐれも俺に加勢しようとか思うなよ」

「でも、それじゃクロ様が!」

「俺は大丈夫だから早く行け。君がここにいたら俺が全力で戦えないんだ!」

 キツい言い方だが時間がないからしょうがない。あとで謝ろう。

「…わかりました。クロ様、ご武運を!」

 リュシリスはヴィルミアのいる反対の方向に走っていく。しかしヴィルミアがそれに気付いたのか、再びその口からリュシリスに向かって黒い何かを吐き出した。俺はリュシリスの前に出て魔力障壁を張り、その塊を防御する。…なんか臭いなこれ。毒か?

「クロ様!?」

「俺のことはいい。早く行け!」

「は、はい!」

『リュシリスゥゥゥ、ドコニイクキダァァァ?』

「お前の相手は俺だ化物! 『炸裂業炎フィアフルフレア』!」

 ズガガガガァンッ!

 直撃はするが炎の魔法もあまり効いてないっぽい。どうなってんだコイツの体? その後も色々な魔法で攻撃してみたが、ダメージを与えても瞬時に回復しているように見える。【真贋】で確認してみると、確かにアンデッドなのに超速再生とかいうチートっぽいスキルを持っているようだった。

『ヒャハハハハ! シネエエェェ! ミンナシネエエェェェェ!!』

 ヴィルミアは理性すらなくなったかのように見境なく暴れ回りながら城をガンガン破壊していく。これ以上被害を増やすわけには行かない。こうなったら再生も追いつかない程の強烈な一撃でコイツの体をまるごと吹き飛ばすしかないかな。それでも再生されたら困るけど。

 俺がその場で魔力を集中し始めると、まるでそれに反応したかのようにヴィルミアがこちら振り返り、ゆっくりと俺に迫って来る。

『ノウコウナマリョクゥゥゥ、キサマノォマリョクヲォ、ヨコセェェェェエエ!!』

 なんなんだこいつ…魔力に反応してる? 魔力を溜めつつ転翔の羽で転移しながら場所を移動すると、それを辿るかのように俺を目指して歩いてくる。なんかよくわからないけどそれならこのまま魔法を使っても被害が出ない場所に移動させてもらおうか。魔力を溜めつつ転移を繰り返し城の外に誘導する。

 誘導しながらやっと城の外に出てきたところに、城内から誰かが駆け出してきた。

「クロード殿、ご無事ですかぁ!!」

「アルフレッドさん!?」
 
「リュシリス様から聞きましたが、まさかこの化物がヴィルミア皇子なのですか!?」

 ヴィルミアの変貌ぶりに驚くアルフレッドさん。ホラーが苦手なのか足が竦んでいるように見える。

「アルフレッドさん! こいつには剣も魔法も効かないです。俺に任せて逃げてください!」

「そ、そういう訳にはいきません! これは我が国の問題。筆頭騎士長の私が片を付けなければならないのです。はぁああああ!!」

 アルフレッドさんは剣を抜きヴィルミアに斬りかかる。その見事な太刀筋でヴィルミアの首を切り落とすが、何事もなかったように切り落としたところから新しい首が再生してしまう。そして切り落とした方の首からも体が再生し、もう1人のアンデッドヴィルミアが完成してしまった。

「な、なんとぉ!!?」

 切り離したら分裂して増えるとかアメーバかコイツは。もしかしたらたとえ強力な魔法で吹き飛ばしても、その破片が少しでも残っていたら再生してアンデッドヴィルミアが増殖してしまう可能性がある。こんなやつ…どうやって倒せって言うんだ?

 
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