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第91話「姫騎士との勝負」
しおりを挟むリムルや陛下達と一緒にソレイユ様に連れられて兵士達がいつも特訓を行う際に使っている修練場に向かう。その足取りを見ただけでもソレイユ様は相当訓練を積んでいることが分かる。重心がまったくブレていないし隙もない。こんな人に勝てるんだろうか?
「着いたよ。それじゃクロードくんも準備してね」
ソレイユ様はもうすでに準備が出来ているらしく俺から離れて大剣を素振りしている。重たそうな大剣を片手でブンブン振り回してるのを見ると、この人ホントに姫様なのかと疑問が沸いてくるほどだ。
「クロード、お姉様は本当に強いですけど大丈夫ですか?」
「んー、まぁなんとかなるんじゃない? リムルとの温泉旅行は絶対に手に入れるから待っててね」
「温泉旅行…勝ったら本当に行くんですか?」
「俺は行きたいけど、リムルは嫌か?」
リムルは赤くなりながらもしばらく考えてから首を振る。
「…恥ずかしいですけど嫌じゃないですよ。私もクロードと一緒に旅行行きたいです」
「そっか。ありがとうなリムル」
リムルと話しながら俺も装備を整え準備し終わると、ソレイユ様もゆっくりと俺に近づいてくる。対面に来るソレイユ様は気迫も準備も十分という顔をしていた。
「それじゃそろそろ始めようか」
「えっと、ルールは…」
「ルールなんてないよ? 強いて言うなら決着は気絶か降参ぐらいかな。制限とかかけても楽しくないからね。クロードくんも手加減なんかしないで魔法もバンバン使ってくれていいからね?」
何でもアリとかマジかこの姫様。
「それでは審判は私、アスラが務めさせていただきます。両者構えて!」
お互いに剣を抜き正眼に構える。緊張感が静かな訓練所を包み込んだ。
「始め!」
「先手必勝! 『空裂斬』!!」
ソレイユ様は空中に飛んで体を縦に回転させながら大剣を振り下ろしてくる。それを横に躱すと、着地と同時に大剣を地面に叩きつけた反動を利用してスライドさせて横薙ぎしてくる。
「くっ!」
瞬時に後ろに飛びながら攻撃を剣で受けると、その強烈な威力にあっさりと吹き飛ばされてしまう。ソレイユ様の純粋な力に剣の重量が加えられて凄まじい一撃になっていた。10mほど吹き飛ばされながらも着地はきっちりしたからダメージはそんなにない。
「…流石だね。私の剣を受ける時に後ろに飛んで威力を緩和するとか普通できないよ?」
「こっちも割とギリギリですけどね。ソレイユ様も凄い剣撃です」
「ふふん。どんどん行くよ!」
大剣を構えながら離れた位置から真っ直ぐにダッシュしてくる。あまり近寄らせない方がいいな。
「これで足を止める! 『炎熱地雷』!」
目に見えない地雷をソレイユ様と俺の間に設置する。しかしそれにも全く恐れずに突っ込んでくる。何発かの地雷が起爆しているが、起爆した瞬間に避けられているのでダメージは通っていないようだ。
「こんなもの私には効かない! いくよ、『風滅連斬』! うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
風の魔力で発生させた真空の刃が何重にも飛んでくる。わざわざ避けづらいように角度を変えて撃っているのも芸が細かい。飛んでくる風の刃を重雷障壁を張って弾きつつ、横移動しながら次の魔法の準備に入る。だがそれも読まれていたのか、気付かないうちにソレイユ様が高速で俺の間合いの中に入ってきていた。
「もらったよ! はぁああ!」
不意を打たれた俺にソレイユ様が振り下ろしてきた剣が迫る。しかし俺は無意識にその豪剣を白羽取りして、そのまま相手の力を利用して受け止めた剣を捻ってソレイユ様ごと投げ飛ばしていた。
「「えっ!?」」
一瞬俺自身にも何が起こったかわからなかったが、すぐにこれが武神術のスキルの力だと理解する。無意識でも使えるとかとんでもないなこのスキル。
「あたた…クロードくん、体術まで使えるんだね」
「…最近使えるようになったんですよ」
折角の機会だし、武神術の練習相手になってもらうか。使い方はスキルを意識すればなんとなくわかる。あとは俺の体が付いてこれるかどうかだ。自分の剣を鞘に収めて気合を入れる。
「ふぅぅ、『身体強化』、『雷閃駆動』!」
自分を強化してソレイユ様に正面から突っ込む。武神術の技の一つ『瞬動』を使って瞬く間にソレイユ様の懐に入り込んだ。予想以上に体が軽くなっているのを感じる。
「早い!? 『木枯らし斬り』!」
横から迫って来る剣の腹を左の螺旋掌底で上へと弾き、ガラ空きになった体に右手に雷の魔力を込めた発勁を叩き込む。その踏み込みの威力は大きな音を立てながら地面が陥没してしまうほどだ。自分でやっててなんだがこりゃすごい。
ズドォンッ!
「ぐうっ!」
追撃に空高くジャンプしたあと、ガン○スターのスーパー稲妻キックっぽい蹴りを叩き込む。ソレイユ様はその蹴りを瞬時に大剣でガードしているが、派手に吹き飛ばされた分そのダメージは大きいだろう。
「ふふっ…いいよ。強い、強いねクロードくん。これなら私も…本気出してもいいかなぁぁ!!」
ソレイユ様が立ち上がると、その体を紫色のオーラが包み込んでいるのが見える。あんな色のオーラは初めて見るけどオリジナル技か?
「あれは…」
「知っているんですか、アスラ!?」
「お嬢様が本気になった時にしか出さない『覇者の鎧』と呼ばれる闘気です。あれを出して負けた相手はお嬢様の師匠以外には誰もいません。ここからが本番ですね」
解説どうも。それじゃ俺もさらに気合入れて迎え撃たなきゃね。
「行くよ、クロードくん! ヒャアッ!!」
さっきまでよりも数段速い速度で大剣を振り回してくる。この速度だとその辺の冒険者が短剣を振り回すのより早いかも知れない。大剣の重量と振り回す速さで真空波が巻き起こり、全て躱しているはずなのに少しづつ俺の体に傷を付けていく。
「ほらほらほらぁ、避けてるだけじゃ勝てないよぉ?」
「わかってますよ! 『超閃光』!」
「なっ!?」
一瞬の隙を突いて目くらましを食らわせてから、ソレイユ様と大きく距離を取る。折角だからもう1個のスキルも試し打ちさせてもらおう。魔力を収束させイメージを加速させる。
「神雷魔法『XOLOTOL』発動!」
目くらましを受けて一時的に動けなくなっていたソレイユ様の足元から大量の植物の蔓が生えてきて手足に絡みつき、その体を持ち上げ磔にしていく。その蔓のいたる所から目に見えるほどの超高圧電流が発生して、絡みついているソレイユ様の体を容赦なく感電させていく。
「きゃあああああああああ!!!」
「やばっ!」
予想以上の威力に慌てて魔法を解除したが、高圧電流の直撃を受け気絶していたソレイユ様は色々と焦げてドリフの爆発後のアレみたいな髪型になってしまった。
「そ、それまで! 勝者クロード様! 大丈夫ですかお嬢様!」
「う~ん…」
まぁ息はあるみたいだから大丈夫だろう。よかった殺さないで。
それから数分後、目を覚ましたソレイユ様が自分の髪を見て絶望していたが、俺の作った髪を操る魔道具のおかげで何とか元通りにする事に成功した。
「やられたよクロードくん。あんな魔法使ってくるなんて…君って結構エッチなんだね」
「そ、そういう意図した魔法じゃないですから!」
俺も初めて使ったからどんな魔法か知らなかっただけですから。
「お嬢様、負けは負けですので素直に認めましょう。クロード様を苛めないように」
「もぅ、分かってるわよアスラ! それじゃ約束通りリムルとの二人っきりの温泉旅行に招待しましょう。宿には私の方から言っておくから、明後日またここに来てくれる?」
「わかりました。ありがとうございますソレイユ様!」
ソレイユ様は手を振りながらアスラさんと一緒に城の中に入っていく。疲れたのかな?
「クロード、お疲れ様でした」
「うん。強かったけど何とか勝てたよ。これで一緒に温泉旅行だな!」
「あぅ、そ、そうですね」
そこに国王陛下が割り込んでくる。
「それなんだがなクロードよ、リムルと温泉に行くのは構わんが誰にも見つからずに行く事はできんか? もし王女が男と2人っきりで温泉に行ったなんて情報が世間に流れたら色々めんどくさいからのぅ」
まぁごもっともな話だな。最悪リムルの清純なイメージがぶち壊しになってしまう可能性がある。これは早急に対処法を考えないといけないな。
「わかりました。明日中に何か考えておきます」
「頼む。それと婚前交渉は厳禁だからな。ヤルならその手前までにしておけ」
「お、お父様!?」
「ふははは、それではな」
高らかに笑いながら陛下も城の中に入っていく。釘を刺されてしまったがその手前ってどこまでだ?
「まったく、お父様ってば…」
「あははは…まぁせっかくの温泉旅行なんだから、ゆっくりしに行こうよ」
「そ、そうですね。たまには温泉もいいかもしれませんし」
リムルと温泉の話に花を咲かせながら、どうやって行くかに頭を悩ませる。こうなったらアレを作るしかないか。ファンタジー世界には似つかわしくないかもだけど仕方ないだろう。
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