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第86話「白狼族の行方」
しおりを挟む『あー、あー、こちらクロード。ユリア先輩聞こえますか?』
『こちらユリア。問題なく聞こえるわ。これで完成でいいのかしら?』
『そうですね。とりあえず完成でいいと思います。あとはこれをさらに小型化して、通信時間を伸ばしてどこからでも繋がるようにできればいい感じですね』
『…先は長そうね。とりあえず通信終了』
夏休みも終盤に突入し、夏休み中に終わらせたいことを終わらせるために今は学園で魔道具制作に打ち込んでいる。ユリア先輩と共同開発してきた魔力通信機の開発がやっとひと段落着いたところで、今はファルネス領~王都間の通信ができるかチェックしていたが、問題なく通信できていた。
転翔の羽で学園の部室まで戻ってくると、ユリア先輩が別の作業をしていた。
「お疲れ様でしたユリア先輩。これでなんとか実用的になりましたね」
「ええ、お疲れ様。それが終わったなら私の方も手伝ってもらえる?」
「了解です」
俺が開発して取り付けた室内冷房魔導機をガンガンに稼働させながら部室で作業していると、シャルロッテとアステルが部室にやってきた。
「うわっ、なにここ。すっごく涼しいね」
「あぁ…生き返るようです。こんにちわクロード君、ユリア先輩」
シャルロッテは白いワンピース。アステルはこの世界のイケメンがよく着ているカジュアルな普段着に身を包んでいる。学園に来るんだから制服着てこいよ。ちなみに俺は制服だ。
「お前らどうしたんだ?」
「クロード君がここにいるとフィリスさんにお聞きしたので来てみました」
「僕は図書館に本の返却のついでに寄ってみたんだ。この涼しいのはクロードの発明かい?」
「そうだよ。あ、ちょうどいいから2人とも手伝ってもらえないか?」
「いいけど、何するの?」
俺は開発中の魔道具を取り出す。それは腕輪型の魔力変換式装備瞬間装着装置。簡単に言うと魔法少女の変身バンクのアレをリアルでやってみようという発想から出来た代物だ。残念ながらアレのように謎空間に包まれながら一個一個装備していくようにはできなかったが、装備時間は0.3秒まで縮めることができた。逆に言うと0.3秒間は裸になってしまうが、まぁ問題ないだろう。
とりあえず部室に置いてあったアステルとシャルロッテの冒険者用の装備をペンダントに登録して2人に渡す。ペンダントのデザインもそれっぽく小さい五芒星の中心に男は青、女は赤の宝石がついたデザインだ。
「これを首にかけて『変身!』と叫んでくれれば装備を変更できるぞ」
「へー、なんか凄そうだね。せっかくだしやってみようかな」
「まさかクロード君からプレゼントを貰えるなんて…感無量です!」
「そんな大層なもんじゃないけどな。それじゃアステルからやってみてくれ」
「了解だよ。『変身!』」
アステルが一瞬全裸になり登録しておいた装備一式を纏う。その間0.3秒。期待通りの出来だな。ただ…これは男にはあげない方がいいな。一瞬とは言え男の裸なんか見ても嬉しくない。
「おぉ、ちゃんと変わってるね。いちいち装備変える必要が無くなるからこれは便利だよ」
「…あの、クロード君。なんか一瞬ですけどアステル君が裸になったような…」
「き、気のせいだよ。ほら、次はシャルロッテだぞ?」
「は、はい…それでは『変身!』」
シャルロッテも一瞬全裸になり、同じく登録しておいた装備一式を纏った。ちなみに元々装備していた物は魔力データ化してペンダントに収容されている。もう一回『変身!』と叫べば元に戻ることが可能だ。複数の装備を扱えるようになるのが今後の課題だな。
「あ、あの、私も裸になってませんでしたか!?」
「安心しろ。女の子が使った場合、裸にはなるけど外部の人間には見えないように謎の光が邪魔して大事な部分は見えないようになってる。男はそのままだけどな」
「ちょ!?」
アステルは放っておいて、2人の装備を元に戻してもらってから次の魔道具を取り出す。次のはチョーカータイプの魔道具だ。
「シャルロッテ、次はこれを首に着けてみてくれ」
「首輪…私、ついにクロード君に飼われてしまうのですね。喜んであなたの狼になりましょう! わんわん!」
「違うわ!! チョーカーって言うアクセサリーなんだよ。首輪じゃないからな」
「そうなんですか。残念です…」
どこまで本気なのかはわからんが残念そうにチョーカーを着けるシャルロッテ。白いワンピース銀髪。そこに黒のチョーカーは結構映えていい感じだな。
「ど、どうですか?」
「うん、可愛いよ。シャルロッテに良く似合ってる」
「あ、ありがとうございます///」
「その魔道具は髪の毛を自由に操れる魔道具なんだ。短くしたり伸ばしたり髪の毛を硬化させて武器にしたりすることも出来る。チョーカーに魔力を送って自由にイメージしてみて」
「わかりました。んっ」
シャルロッテの髪がうにょうにょと蠢き出して、ショートだった髪の長さが腰まで伸びる。ロングなシャルロッテも可愛いな。自称ケモナーの俺的にもこれはアリだ。
「ほ、本当に髪が伸びましたね。どうですかクロード君?」
「あぁ、普段も可愛いけど髪を伸ばすともっと可愛くなるな。それにちょっと大人っぽく見えるぞ」
「あ、あぅ///」
これも発売したら売れそうだな。武器化機能は省いて伸ばしたり短くしたりするだけなら貴族の女性にもイケそうだ。今度リムルにも聞いてみよう。
「クロード、その魔道具は男でも使えるのかい?」
「使えるぞ。でもお前もう髪長いのにどうするんだ?」
「ちょっと短くしてみたくてね。こうかな? ふっ!」
アステルの長い髪が徐々に短くなって耳に掛かるくらいなった。イケメンが髪を切ってもさらにイケメンになるだけなんだな。そしてアステルの勇者度がさらに増した気がした。
「これはいいね。僕もそろそろ髪切ろうかな?」
「いや、アステルは髪長い方がアステルって感じがするな。お前は元の方がいい気がする」
「そ、そうかい? それじゃこれからも揃えるぐらいにしようかな」
これ以上イケメンになられたら横にいる俺が惨めになる恐れがあるからな。イケメン、ダメ、ゼッタイ。
その後も試作中の魔道具を試していると、シャルロッテが何かを考えて意を決したように俺に問いかけてくる。その顔は真剣そのものだった。
「あの、クロード君は魔道具ならなんでも作れるんですか?」
「なんでもかどうかは分からないけど、ある程度なら可能だな」
「それなら…私以外の白狼族が今どこにいるのか調べられませんか?」
「白狼族を?」
「はい。私の生まれた村はもうありませんが、もし誰かが生きているのなら会いたいんです! こんなお願い無理なのは分かっているのですが、クロード君ならって思って…」
「それならもう作ってあるぞ」
「…え?」
【無限収納】から一本の杖を取り出す。これは先端部に調べたい種族の毛を入れて、それと同じ波長の魔力を持った種族を検知してからその種族がいる最短距離の方向を距離数と共に指し示す魔道具だ。魔力はそれぞれの生物の指紋のような役割もあり、種族ごとにその波長が違う。そして魔力は電波のように世界中を漂っているものなので、その種族の波長を捉えて捜索できるようにしたのがこの魔道具だ。
「つまり、この魔道具にシャルロッテの髪の毛を入れて、方向を指し示せば白狼族の生き残りがそっちにいるっていう仕組みだな。逆にお前以外の白狼族がもういなかったら…この杖は何も示さない。覚悟がいる決断を迫るようだが、シャルロッテが望むなら試してみるか?」
「っ……やってみます!」
シャルロッテは俺から杖を受け取り、自分の髪の毛をちょっとだけナイフで切って杖の先端部分に入れる。あとは杖の捜索する対象設定を『種族』にして魔力を込めればそれを指し示す。
「お願い、導いて!」
懸命に魔力を杖に込めるシャルロッテ。そして杖はある一点の方向と距離を指し示す。
「…これ…。方向を指してますよクロード君!」
「よかったな。まだ白狼族の生き残りがいるようだ」
「っはい!!」
方向は南南西。距離は755kmと示している。地図を広げて確認してみると…。
「ここからそっちにその距離だと…ドルトニス王国の王都だな」
「ドルトニス王国…そこに仲間が…」
「行ってみるか?」
「でも、そんなに離れてたら馬車で何日かかるか…」
「いや、俺の秘密基地なら2~3時間で着くけど?」
「そうなんですか!?」
そんなわけで、シャルロッテ、アステルと共に急遽ドルトニス王国に行くことになった。ユリア先輩も誘ってみたが、『私は魔道具作ってるからいいわ』と断られてしまった。
転翔の羽でダーインスレイヴ城に飛び、そこから高速飛行で約3時間後。無事にドルトニス王国上空に到着することができた。クリスティア王国とは海を隔てた南側の場所にあるためかかなり暑い国だな。エジプトとかそっち方面の乾燥した気候に近いと思う。
念の為シャルロッテ達に体温調整ができるローブを渡して着てもらってからドルトニスの王都の少し離れた場所に降りてみると、一面砂漠の中にドーンと大きな街が建っている。ほんとにエジプトっぽいな。
「この街に白狼族が居るんですね。行きましょう!」
「あいよ」
シャルロッテと同族か。以前のシャルロッテみたいにやっぱり不幸に苦しめられているのかな? それなら助けてあげないとね。
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