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第72話「夏休みの始まり」
しおりを挟むアリスの一件から少し経ち、学園ではやっと明日から夏休みに突入する。期間は大体一ヶ月半ほど。この長期休みはやることが結構あるので計画的に過ごさなきゃいけない。新作魔道具作りに、実家へ帰省して先生達との再会。あとせっかくの夏休みなんだからリムルやアリア、アーニャともデートしたい。
学園に登校するとみんな夏休みの話題で持ちきりのようだ。あれしたいだのこれ買いたいだのクラス全体で盛り上がっている。しかしお前ら忘れてないか? ここは冒険者学園。一体どんな夏休みの課題が言い渡されるかわかったもんじゃない。そんなネガティブなことを思っていると、シェリル先生がプリントを持って教室に入ってきた。
「みなさんおはようございます。これから夏休み中にやってもらう課題表を配りますので確認してくださいね。課題は討伐が主になっていますので怪我をしないように頑張りましょう!」
プリントが前の席のアステルから回ってくる。中を確認するとスライムからドラゴン系まで、E~Aランク順に討伐対象の魔物の名前が羅列されていた。
「冒険者学園の夏休みの課題はちょっと変わってまして、討伐した魔物のランクによって採点されます。課題表にあるEランクの魔物を倒すと5点。Dランクで20点。Cランクで50点、Bランクで70点、Aランクの魔物を討伐したら100点になります。課題達成の合計得点は300点なのでEランクの課題の魔物を60体倒せれば合格ですね。そして合計点数が1000点以上を達成すると特典が用意されています。討伐した魔物は冒険者証で確認できますから不正は出来ませんよ」
課題達成に特典をつけるとかあまり聞いたことないが、これがこの学園の普通なんだろう。
「1000点以上を達成すると…いえ、やっぱり秘密にしておきましょう。もし特典が気になる人は頑張って1000点以上を目指してみてくださいね。とっても良い物なのは保証しておきますよ」
ここで引っ張るとか…思わず気になって達成したくなってしまったじゃないか。やるなシェリル先生。
「あと自由研究の課題もありますが、こちらは何を作ってきても構いません。提出してもらって、もし金賞の評価をもらうと金一封が贈呈されますのでみなさん頑張って作ってきてくださいね。夏休みの課題の話は以上です。それではこれからみなさんには班のみんなで話し合って夏休み中に達成するべき目標を決めてもらいます。冒険者らしい目標を設定してくださいね。例えばどこかのダンジョンを踏破する! とかでもいいですよ。それでは始めてください!」
夏休みの目標とか小学校みたいだな。まぁ設定する目標は物々しいのだが。とりあえず話し合いを始めるためにみんなと机をくっつけて向かい合わせになる。しかし目標なんて何にすればいいんだ?
「えっと、目標を決めるって話だが、とりあえずみんな夏休み中に何かやりたいことってあるか?」
「そうねぇ、私は旅行に行きたいって思ってたわ。エルダミュール領に新しい遺跡が発見されたらしくて、そこを見に行きたかったのよね」
遺跡巡りか。これは冒険者らしいのか?
「僕は剣の修行をするつもりでいたよ。冒険者対抗戦ではリョフィール先輩に勝てなかったからね」
修行は冒険者らしいな。ていうかこいつ、まだそのこと引き摺ってたのか。
「やりたいことかぁ。私はクロードくんと一緒にお出かけしたいって思ってたよ。お買い物したりご飯食べに行ったり。あ、旅行とかもいいよね!」
俺もそれには賛成だが班でやることじゃないな。今度2人で行こうね。
「夏休み中もクロード君と共に過ごせるんですね。神に感謝を…」
シャルロッテは当てにならんな。自分のことを優先してください。
「みんなバラバラだな。どうしたもんか」
「クロードは何かやりたいことはないのかい?」
「俺は新作の魔道具を作りたいって思ってたよ。まぁそのための素材収集に魔物を狩りに行こうとは思ってたけどな。課題もこなさなきゃならないからちょうどいいんだけど」
つまりみんなの意見をまとめると、エルダミュール領に旅行に行って遺跡巡りして観光しつつ魔物を倒して修行。それと同時に課題と素材収集もこなすって感じか。あれ、なんかもうこれでよくね? みんなにそれを伝えると思いの外好評で賛成してくれた。
「エルダミュール領ならそんなに離れていないし、その周辺には結構強い魔物も出るらしいからちょうどいいかもしれないね」
「私も遺跡に行けるのなら文句はないわね。それで行きましょう」
「私も! みんなと旅行楽しみだね♪」
「さすが班長ですクロード君。エルダミュール領には美味しい魚が多いと聞きますから楽しみです!」
そんな感じで、俺達の夏休みの目標は決定した。ただ夏休みの前半はみんな予定が詰まっているようなので、後半に行くことにする。他には交通手段とか当日持っていくものとか細かいことを決めてシェリル先生に提出すると、遺跡探索と修行は冒険者らしいということでOKをもらえたので一安心だ。
「それではみんなの目標も決まったので、本日の授業はここまでです。最後にみなさんに注意事項を伝えます。夏休みだからといってハメを外しすぎないようにしてくださいね。過去に調子に乗りすぎて犯罪を犯して学園を退学になった生徒もいます。みなさんはそんなことはないとは思いますが、ちゃんと規則正しい生活を送って楽しい夏休みにしてくださいね。それじゃ日直!」
「起立、礼!」
「それじゃ夏休み明けに会いましょう。体に気をつけてくださいね」
そう言ってシェリル先生は教室を出ていった。今この瞬間から夏休み突入だ。教室の中が一気に騒がしくなる。やっぱりこの瞬間はいくつになっても嬉しいものだね。
「クロード君、今日で最後だから部活に行きませんか?」
「そうだな。お腹減ったし、学食でなんか買ってから行こうか」
「飲み物欲しいし僕も付き合うよ」
アーニャとリリアもそれぞれの部活があるので教室で別れ、俺達部活メンバー3人は学食で食糧を買ってから部室へと赴いた。そこではユリア先輩がなにかの魔道具を持ち込んで実験をしているところのようだ。
「あ、クロード君。ちょうどいいところに来たわね。ちょっと手伝ってくれない?」
「別にいいですけど、なんですかこの魔道具?」
ユリア先輩は何やら2つある大きい箱の片方の中に果物を入れて操作盤を弄っている。すると突然ブィーンという機械音がしたあとに、ガタガタと揺れ出してすぐに止まった。なんぞこれ?
「これは試作した物質転送装置よ。クロードくんから貰った発想を改良して形にしてみたの。でもさっきから実験してるんだけど転送されてるはずなのに物が送られてこないのよね。何が原因なのかしら?」
物質転送装置ってそんな簡単に作れるものなの? とりあえず失敗の原因究明するために設計図とプログラム仕様書を見せてもらう。しばらくじっくり見せてもらうと、転送する際の時空座標設定に不備があることに気付く。ここの設定をミスると転送した物がどこに飛んでいくかわかったものではない。
「ユリア先輩、ここの時空座標設定を変えてみてください。この設定じゃ今頃送ったものは多分海の中です」
「えっ!? あ、ほんとだ。ごめんごめん、徹夜明けだから気付かなかったわ」
そう言って設定を弄って再起動してから実行すると、今度は無事に転送できたようだ。
「よっし完成。助かったわ。ありがとうクロード君」
「いえ、お役に立てたなら良かったです。ところで急にこんなの作ってどうしたんですか?」
「明日から夏休みだからね。やり残したものをそのままにしておくのって気持ち悪いでしょ?」
まぁ気持ちはわかるが…それでこんなもん作ってしまうとか、さすが天才は格が違った。
「それで、あなたたちはどうしたの? 今日はアリシアも用事で帰ったから部活ないわよ?」
「あ、そうなんですね。夏休み中の部活の予定とか聞きに来たんですけど、何かありますか?」
「んー、私は特にないけど、アリシアが合宿したいとか言ってたわね」
部活で合宿。なんか青春っぽくていいかもしれない。ただ学園探偵部の合宿で何をするのかは謎なんだが。どこかの調査でもするのか?
「それじゃ予定決まったらアレで教えてもらえますか?」
「了解よ。それじゃ私はまだ仕事あるから、気をつけて帰りなさいね」
ちなみにアレとは、ユリア先輩と共同開発中のトランシーバーっぽい魔道具のことだ。まだ試作品で部品も貴重な物が多いから量産出来ずに、今は俺とユリア先輩しか持っていない。こんな物を世に出したら産業革命もいいところなので、完成したらどうするかは相談中だったりする。
その後アステルとシャルロッテは帰り、俺はアーニャが部活が終わるのを待っている。終業式の放課後の学園で恋人の部活が終わるのを待つのって青春っぽくてなんかいいよね。前世じゃやりたくても物理的に不可能だったので、なんかちょっと嬉しかったりする。
飲み物を飲みながら校門前で待っていると、部活が終わったアーニャと女生徒2人が現れた。
「あれ? クロードくん待っててくれたの!?」
「ああ。せっかくだから一緒に帰りたくてな。そっちのは友達か?」
「うん! C組のレーナちゃんとサリィちゃんだよ」
「こうして話すのは初めてねクロードくん。私はレーナよ。宿泊研修ではお世話になったわね」
「えっと、サリィです! お噂は色々伺ってます!」
レーナさんは灰色の髪の狼っぽい獣人で、サリィさんは黒髪を2つに束ねたメガネっ子だ。共にアーニャと同じ弓術部で仲良くしているらしい。ところで噂ってなんぞ?
「それじゃ、邪魔しても悪いし私達は帰るわね」
「そうだね。それじゃアーニャちゃん、また今度遊ぼうね!」
「うん! 2人ともまたね~」
レーナさんとサリィさんは俺達を残して帰っていった。気を使わせちゃったかな?
「ごめんな。あの2人と帰るところだったんだろ?」
「ううん、大丈夫だよ。待っててくれてありがとうクロードくん!」
アーニャが俺に近寄って腕を組んでくる。ふにょふにょして気持ちいいです。
腕を組んだまま学園から歩いて街の方まで出て、アーニャ推薦の最近出来た喫茶店で休憩する。ここでは美味い紅茶を使ったデザートが売りのようだ。それを注文して一息つく。
「そういえばさっきサリィさんが言ってた噂ってなんなんだ?」
「あー、えっとね、私がクロードくんと付き合ってるってあの子達に言ったらクロードくんはどんな人なんだって聞かれて、私が良いって思うところを全部言ったらあっという間に弓術部内に広がっちゃったんだ」
そういうことか。とりあえず悪い噂じゃなさそうで安心したけど…
「アーニャが俺の良いって思うところか。ちなみになんて言ったの?」
「んー、それは恥ずかしいから秘密♪ それよりクロードくんは夏休み中ってなにか予定あるの?」
「やることは色々あるけど、アーニャと遊ぶ時間はもちろん取るつもりだよ。せっかくの夏休みなんだし2人でどこかに遊びに行かないか?」
「うん、行きたい! どこ行くどこ行く?」
運ばれてきたデザートを食べながら、アーニャとどこに行くかを相談していく。恋人と2人きりの旅行とか夢が広がるね。とりあえずその場では海に行くことが決定して店を出た。しかしまず夏休みの最初にしなきゃいけないのはファルネス領に帰省することだ。先生達も待ってるだろうしね。あとは王都で夏祭りとか花火大会とかもあるから早めにスケジュール調整しよう。
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