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第56話「部活対抗戦 決勝ラウンド 1」

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『それでは決勝ラウンドの各部の対戦オーダーを発表していきましょう。戦う順番も勝敗を決める重要な要素ですから采配には注意が必要です』

『それでは発表していたします。

  冒険部     一騎当千探求部
ガレイラ   先鋒  リョフィール
イザーク   次鋒  ヴァチョーガ
トリニティ  中堅  ホンダムート
ラーハルト  副将  リュービス
リョーガ   大将  カンウェル

 以上のようになっております』

『一騎当千探求部、リョフィール選手を先鋒に持ってきたようですね。部内最強の呼び声も高い彼女を最初に持ってきたということは、一気に決着をつけるという意思の表れでしょうか!』

『それもあるでしょうがこのあと戦う学園探偵部戦のことも考えた配置でしょうか。彼等に手の内を明かしたくないと思っているのかもしれませんね』

『なんにしても冒険部が一騎当千探求部を相手にどこまでやれるのかが気になります。それでは決勝ラウンド第1試合、開始です!』


~3人称視点~

 先鋒のガレイラとリョフィールがゆっくりとリングの中央に立つ。ガレイラはキツイ眼差しでリョフィールを見ていたが、リョフィールは眠そうに目をこすっていて全く気にしていない。

(このアマぁ、その眠そうな目こじ開けてやるよ!)

「それでは第一試合、ガレイラ 対 リョフィール。試合開始!」

「行くぜァ! 『瞬動』!!」

 ガレイラが試合開始と同時に大剣を振りかぶり、一瞬にしてリョフィールの眼前に迫る。

業炎剣フレアブレイド!!』

 炎に包まれたその大剣を全力で振り下ろしリョフィールの肩からバッサリと切り裂いた…ように見えたがリョフィールの体をすり抜け、リングに当たって爆発を起こす。そこにリョフィールの姿はなく、リングの表面が爆発の影響で砕かれているだけだった。

「なっ! がはっ!!」

「…残像」

 ガレイラの背中に激痛が走る。あの一瞬でガレイラの背後に回り、背中に一撃食らわしたのだ。痛みを堪えて背後のリョフィールに対して大剣を振るうも、彼女の武器”龍角天戟”で簡単に受け止められてしまう。

「このっ!!」

「…あなたじゃ無理。じゃあね」

 ガレイラの大剣を力で強引にはじき飛ばし、隙だらけになった胴体を×字に切り裂いた。リングの上が鮮血に染まり、臓腑が少量はみ出たガレイラは何も言うことが出来ずにゆっくりと倒れていった。

「そ、それまで! 勝者、リョフィール!!」

 ガレイラはすぐに医務室に転送され、リョフィールはあくびをしながら興味なさそうに眠たい瞼をこすっていた。


~クロード視点~

「…あの子強すぎじゃね?」

「そうだねぇ。あの超速度の回避に重そうな武器を紙のように操る腕力。全力の僕よりちょっと強いかな」

「ちょっとかよ。どんだけ自信あるのさお前」

「でも彼女が魔法を使ったところを誰も見たことがないらしいんだ。そこを付けばいけるんじゃない?」

「実はとんでもない魔法が使えるに一票」

「あはは、僕もそっちに一票だね」

 その後もリョフィールの快進撃は続く。次のイザーク戦は彼の攻撃が一発も当たらずに、鎧を覆っていない関節部を攻撃して足を切断してそのまま決着。続くトリニティ戦も、速さが取り柄のシーフを速さで圧倒的に翻弄し、トリニティが投げた投げナイフを軽く受け止め逆に投げ返すなどしてそこで出来た隙を突いて峰打ちで気絶させた。どうやら女の子には多少は優しいらしい。
 次のラーハルトは魔導師だ。少しは力を見せてくれるかな?


~3人称視点~

 ラーハルトは焦っていた。こんな化け物に自分の魔法が通じるのか。いや絶対無理と。そこで彼は禁じ手を使う決意をする。それは自分の寿命を削る代わりに魔力を3倍に高めるエルフの里に伝わる秘薬だった。
 試合が始まる直前にグイっと一気に飲み干す。するとすぐにその効果が出始め、彼の体の中の魔力が急激に膨張していくのを感じる。

「クハッ…ハハハハ…これは凄い。圧倒的な力と万能感を感じます。これなら…」

 リングに立つラーハルト。だが彼の意識は今、”目の前の化け物を殺す”という一点に集中していた。これは秘薬の副作用であり、もともとはエルフが決闘の際に使うための薬で魔力だけでなく敵への殺意をも膨張させる効果もあるのだった。

「第4試合、ラーハルト 対 リョフィール。試合開始!」

「踊り狂って死ね! 『死誘う狂嵐舞デス・テンペスト』!!」

 試合開始と同時に放たれた魔法はリングの大半を覆うほどの巨大な竜巻を発生させる。これに巻き込まれた者は竜巻の中で切り刻まれ踊り狂うように死ぬと言わるほど強烈な上級風魔法だ。
 
 竜巻の中心部でリョフィールは襲いかかってくる真空の刃を龍角天戟で叩き落としながら困っていた。…突然襲ってきた尿意に。

「…おトイレ行きたい…」

 だから彼女は決意する。さっさと終わらせてトイレに行こうと。その瞬間リョフィールの気が爆発的に高められ、龍角天戟に集められていく。それに呼応するように龍角天戟の刃が赤く光り輝いた。

『…臥龍点睛』

 ギョアアアアアァァァア!

 ラーハルトのいるであろう方向に、龍の咆哮のような音を立てて放たれた突きは巨大な龍の形の閃光となり死誘う狂嵐舞デス・テンペストで魔法を維持するために発生した結界をいとも容易く貫いた。
 龍の閃光は全く威力を落とさないまま術者であるラーハルトにも襲い掛かり、その巨大な龍の口で喰らいついて彼の右腕を喰いちぎった。

「ぐあああああぁあぁ!! 僕の…僕の腕があああ!!!」
 
 リングの上を血飛沫を上げながらのたうち回るラーハルト。自身の最強の魔法をあっさりと破られた挙句に右腕まで奪われた彼の心の中には、夥しい殺意に満ち溢れていた。

(許さない…ゆるさない…ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ!!!)

 だが竜巻の中から出てきたリョフィールの容赦ない追撃が彼を襲う。蹲ったラーハルトの腹部がつま先で全力で蹴り上げられ、その衝撃で胃液が逆流したまま場外まで吹っ飛ばされた。

「ごふっ!!」

「じょ、場外! 勝者リョフィール!!」

 いとも容易く敗れたラーハルト。だが彼の中の殺意の炎はそんなことで消えることはない。逆に火に油を注ぐ感じで激しく燃え上がってしまった。

「リョフィィィィルゥゥゥゥ!! 貴様を殺す! 殺してやるぞぁ!!!」

「?」

「お、落ち着きなさい! もう勝負は付いているんだぞ!」

 審判の説得にも全く聞き耳を持たないラーハルトは自身に残された左腕を天高く掲げ、残された全ての魔力を一点に集中する。周囲に吹き荒れる風がその力強さを物語っていた。

「はぁぁぁああ!! 風を圧縮!! 圧縮圧縮ぅぅぅ!!!!」

 周囲の風を一箇所に集め、それをひたすら圧縮することで中心部にはとんでもない圧力を生み出している。その光景に周囲に緊張が走る中、その嵐と化した風の中に一本の剣が投げ込まれた。

「吸い尽くせ。マナイーター!」

 投げ込まれた剣が吹き荒れていた風を凄まじい勢いで吸収していく。ラーハルトの魔力も同様で、彼の集めていた膨大な魔力も全てその剣に吸収されていった。ラーハルトはなんとかそれに抵抗するがそれも虚しく魔力をすべて吸われ、魔力欠乏に陥り気絶してしまった。

「…リュービス?」

「場外乱闘なんてダメですよ。生徒会長として見過ごせません! メッ!」

「…ごめんなさい。あとおトイレ行きたい」

「あらあら、審判さんには言っておきますから行ってらっしゃいな」

「…うん。ありがとう」

 そう言ってリョフィールはダッシュでトイレに向かった。ついでにラーハルトもいつの間にか医務室に転送されていた。先程までの騒ぎが嘘のように周囲には静寂が戻り、地面に落ちている魔力を吸い取った剣”マナイーター”を拾いながらリュービスが周囲に笑いかける。

「リョフィールはちょっとお手洗いに行っていますので、少々お待ちくださいね」

 観客と審判にそう告げて一礼したあと、リュービス自分の陣地に戻っていった。


~クロード視点~

「リョフィールさんの技もそうだけど、あの剣もとんでもないね」

「だな。あの膨大な魔力をあっさり吸収するとか…魔術師殺しもいいところだ」

 あの人が生徒会長か。剣を収集するのが趣味みたいなこと放送部が言ってたけど、あんな魔剣まで集めてるとかどんだけなんだよ。

「彼女に勝てるかい?」

「あの剣を破壊できないと俺には無理」

「破壊できればか…」

「?」


~3人称視点~

 トイレから戻ってきたリョフィールはさっぱりした顔をしてリングの上に立っている。そこに冒険部最後の一人、部長のリョーガがゆっくりとした足取りでリングに立った。

「よぉ、うちの部員が世話になったな」

「? お世話してないよ?」

「よくも痛めつけてくれたなって意味だ!」

「…あの人達が弱いだけ。手加減、したよ?」

「あれでかよ!? …まぁいい。俺はあいつらとは一味違うからな。覚悟しろや!」

「…ホントかな?」

 2人が武器を構え、戦闘態勢に入ったのを確認して審判が合図を出した。

「第5試合、リョーガ 対 リョフィール。試合開始!」

 審判が合図を出した瞬間、リューガが全力で踏み出した。既にリョフィールの間合いに入っている。

「せりゃ、せりゃ、せりゃああ!!」

「!! ふっ!」

 ガガガガガッ! ギィン! ギリギリギリ…

 最初から激しく打ち合い鍔迫り合いをする2人。本人も言っていたように、今まで戦った相手とは一味違うとリョフィールは感じていた。その二本の剣からは本物の気迫を感じると。

「どうした最強! この程度じゃねぇだろうなぁ!!」

「…調子に乗らない。ふっ!」

「くおっ! さすがに力強ええな…!」

 それからも2人はお互いの隙を伺うかのように撃ち合い続ける。常人には分からないフェイントを数多く含みながら、虎視眈々と己を決め技を撃つ機会を伺っていた。

「喰らえや! 『双剣流舞』!」

「!」

 ズガガガガガガガガガガガッ!

 二刀流による圧倒的な手数でリョフィールを徐々に追い詰めていく。その時、地面の小石に足を取られたリョフィールが一瞬だけバランスを崩した。だが達人同士の戦いはその一瞬が命取りになる。

「勝機! 『奥義、十六夜天舞』!!」

「…『阿修羅之型三番』」

 ズガアアァァァン!!!

「バ、バカな…がはっ!!!」

 阿修羅之型三番、相手の技をその驚愕の動体視力で見切った上で受け流し、強烈な連撃のカウンターをぶち込むリョフィールにしか使えない神技だ。それをまともに喰らったリョーガの体には、意識を保っているのが不思議なほどに斬り刻まれている。

「…さっきのもフェイント」

「…へっ、すっかり…騙されたぜ…おめぇ強いな…グフッ!」

 ドサッ。

「…そ、それまで! 勝者リョフィール!! よってこの試合一騎当千探求部の勝利とする!!」

 わあああぁぁぁぁ~~~!!!

『決まりました!! リョフィール選手、決勝ラウンドでまさかの5人抜き!!! これは部活対抗戦始まって以来の偉業と言えるでしょう!!』

『リョフィール選手お見事! としか言えませんね。リョーガ選手も素晴らしい戦いを見せてもらいました。次の戦いも期待しましょう!』

 その時クロードは感じていた。何らかの策を講じないと、このまま戦えば100%負けると。自分にないものを持っている相手に苛立ちを覚えながら次の戦いどうしようかと頭を悩ませるのだった。



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