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第50話「帰る前の寄り道」
しおりを挟む翌朝、朝食をご馳走になってからアリアの家族達に帰りの挨拶をする。一応一週間の休みは貰ってるけどあんまり学園を休むのは好きじゃないからね。
「みなさん色々とありがとうございました。それでは俺はこれで失礼しますね」
「クロード…もう帰っちゃうのですか?」
「うん、俺も学園があるからね。アリアも貴族院行かなきゃでしょ?」
「うぅ、でも会えないのは寂しいのですよぉ」
泣きそうなアリアが俺の胸元に抱きついてくる。それを受け止め優しく頭を撫でてあげた。
「大丈夫、またすぐ遊びに来るから。俺が転移魔法使えるの知ってるでしょ?」
「はい…。絶対また来てくださいね? 約束ですよ?」
「うん、必ず来るよ。だからそれまで元気でね。風邪とかひいちゃダメだよ?」
「分かったのです。クロードも元気でいるのですよ」
ゆっくりとアリアが俺から離れていく。胸の中から温もりがなくなると俺も急に寂しくなってしまう。でもそんなことは言っていられないのでぐっと我慢だ。またいつでも会えるもんね。
「クロード君、是非いつでも遊びに来てくれたまえ。私達はもう家族のようなものだから気兼ねなどすることはないからね。あと次来るときはあのプリンよりもさらに美味しいものを頼む」
「私もまたカレーが食べたいわぁ。待ってるからね♪」
「あはは、わかりました。次に来る時は色々作って持ってきますね」
グレイズさん達と握手を交わしていると、横からシャルティアさんが抱きついてくる。
「義弟くん、絶対絶対また来てくださいまし。次は私と一緒に寝ましょうね!」
「お姉様離れてください! クロードはわたしの婚約者なのですぅ!!」
「か、考えておきますね。シャルティアさん、アリア、みなさんお元気で。また来ますね!」
みんなに手を振りバルクホルン邸を後にする。無事にアリアと婚約できたし、ご家族もみんな良い人で良かった。あの広い温泉にもまた入りたいしちょくちょく顔を出そうかな?
王都に帰る前にバルクホルン領のお土産を買わないとな。買っていかないとアーニャあたりがブーブー言いそうだし。そうと決まったら店がある通りを目指そうか。
暫くバルクホルンの中心部に向かって歩くと、店が結構ある商店街のようなところにやってきた。そこはどうやらお土産屋さんが中心に建っているようで、賑やかなのぼりが立てかけられた店が軒を連ねている。その中から良さげな店を見つけ、中に入ってみると俺と同い年ぐらいの女の子が店番をしていた。
「いらっしゃいませ! 安くて美味しい温泉まんじゅうはいかがですかぁ! 試食もやってまぁす!」
赤いツインテールにほっかむりをした可愛い女の子が声を上げて接客をしている。せっかくなので試食をしてみると、甘さもちょうどよくかなり美味しいまんじゅうだった。
「ここで買っていこうかな。やっぱり温泉といえばこれだよね」
その店で大量の温泉まんじゅうと、ついでに温泉卵と、櫛やキーホルダーっぽいものなどの工芸品をカゴに入れ、購入しようと会計に行く。すると全身黒ずくめの装備でマスクをした男がナイフを取り出し、店員さんに突きつけていた。
「きゃああ!!」
「騒ぐんじゃねぇ! いいから金出せって言ってんだオラァ!!」
「邪魔」
ゴシャッ!
「まったく…強盗なら他でやれ。すいません、お会計お願いします」
「え!? あ、はい、ありがとう…ございます…?」
会計が終わって外に出ると、そこにエメラルドグリーンの髪の角が生えた女の子が体当たりをしてきて倒れてしまう。随分汚れた格好をした獣人の子だけど…何かあったのかな?
「きみ、大丈夫か?」
「え、あ、ご、ごめんなさい。あ!」
「見つけたぞ! このガキがぁ!!」
謎の男2人が口汚い言葉で罵倒しながらこっちに走ってくる。どうやらこの女の子に用があるらしい。
「いや、いやぁ!」
女の子はプルプルと震えながら俺の足にしがみついている。どうやらこいつらに追われてるっぽいな。それにしてもなんか今日トラブル多くない?
「おいお前、そのガキをこっちによこせ!」
「さっさとしろやクソガキが! ぶっ殺すぞ!!」
…ちょっと頭きた。いきなり罵声浴びせてくるとかこの辺って治安悪いのか?
「…お前達、俺がグレイナード男爵と知ってそんな口聞いてるんだよな?」
貴族証を取り出し見せつけると、男達は後ずさる。こういう奴らは何故か権力に弱いからこの手に限るね。
「こ、こんなガキが男爵だと!?」
「おい、どうするよ…」
剣を抜き、一瞬で相手に近づき首筋に突きつける。貴族には無礼な平民を処罰することのできる無礼打ちが認められているのでこのぐらいは問題ない。
「なっ! うっ…」
「この女の子はお前らの何だ? 正直に話せば無礼な口聞いてくれた件はなかったことにしてやるけど」
「す、すいません! そ、そのガキは奴隷…です。うちの奴隷館から、逃げ出しやがったから捕まえに…」
「ふーん、それにしては随分怯えているみたいだけど、捕まえた後どうする気だ?」
「ど、どうもしませんよ。俺達は捕まえに来ただけ…」
「嘘! その人達、ボクを売ろうとした。お母さんもこの人達に殺された…」
「こ、このガキ! ひっ…」
「・・・へー」
俺は剣を一閃して男Aの両腕を叩き切る。鮮血が顔についたけど気にしない。
「ぐぁあああぁぁぁ!! 腕が、腕がぁあぁぁ!!!」
「正直に話せって言ったの聞こえなかったのかな? 次嘘ついたら2人とも…死ぬよ?」
「ひ、ひいいい!!」
少し威圧して脅してあげたら男の口は一気に軽くなった。この女の子は今となっては数が少ない絶滅危惧種の龍族の少女で、偶然発見したこの子の村を襲ってやっとの思いで手に入れて、バルクホルン領の奴隷商に売ろうとしたところを逃げられて追いかけていたらしい。なおその襲ったこの子の村はすでに全滅させたそうだ。要は人攫いの挙句、罪もない人達を皆殺しにした殺人狂だって話だな。
「み、見逃してくれねぇか…そいつが売れりゃその儲けを半分やる! だから…」
「黙れ外道。『永久凍結』」
「!! な、なんだこりゃ!! あっがが、ががががががが」
ピキピキピキ、ピキン
永久凍結。対象を永遠に溶けない氷で氷漬けにする上級水魔法だ。一生ここで見世物にでもなっていればいい。獣人の女の子を虐める奴は死ね。
「あ、あの…」
「君のお母さんを殺したこいつらは、もう二度とこの氷の中から出てくることはないだろう。一応仇を取った形になるんだけど、これから君はどうしたい?」
「…ボクは…わからない。もう村もない。お母さんもいない…誰もいない…うぅっ…ぐすっ」
「それじゃ、うちに来るかい?」
「ぐすっ…え?」
「俺が君の保護者になってあげる。もうご飯にも困らないし、綺麗なベッドで寝ることができる。それにもう誰も君をいじめることはない。仕事は覚えてもらうけどね。どうしたいかは君が決めて欲しい」
「…ど、どうして? ボクが龍族だから?」
「違うよ。君が可愛い女の子だから。俺はそういう子には優しくしたくなるんだ」
そう、よく見るとこの子は可愛くなる素質がある。今は汚れまくっているが磨けば光るというやつだ。そんな女の子が路頭に迷うなんて天が許しても俺が許さん。
「うちに来るなら後悔はさせないと約束しよう。どうする?」
「…わかった。一緒についていく。連れてって…」
「よし。俺はクロードだ。君の名前は?」
「ボクは…セルフィ」
こうして奴隷にされかけた少女セルフィと出会い、うちに連れて行くことになった。そこからセルフィと手をつなぎ、転翔の羽ですぐに自宅に飛ぶことにした。
「ただいまー」
「おかえりなさいませクロード様! ん? その子はどなたですか?」
「あ、フィリス。この子はバルクホルン領で拾ったんだ。悪いんだけどこの子をお風呂に入れてあげてくれるかな。そのあとは食事も用意してあげてね。あんまり食べてないっぽいから柔らかいものがいいかな」
「え!? 拾ったって…クロード様!?」
「早く動く! 命令!!」
「は、はいぃ! クーリアちゃんお風呂に入れるのを手伝ってください! サクラちゃんは食事の用意を! カノンちゃんはこの子の寝床の用意をお願いします!」
「「「は、はい!」」」
うんうん。うちのメイド達は優秀だね。それからセルフィはお風呂でしこたま洗われ、サクラの食事を美味しそうに食べていた。そのあとはカノンに髪を整えられ、可愛い寝巻きを着せられて俺の前に連れてこられていた。
「どうですかご主人様。セルフィちゃん、とっても可愛くなりましたよぉ」
セルフィのエメラルドグリーンの髪は長めのポニーテールに纏められ、前髪を切り揃えて顔が出るようにしている。目を見ると両方の色が違う。赤と金色のオッドアイだったんだな。
「おお、やるなカノン。ここまで可愛いとは正直予想以上だ。セルフィ、その服の着心地はどうだ?」
「…なんか、落ち着かない、です。でも、綺麗な服は嬉しい」
「そっか。まぁこれからここに住むんだから少しずつ慣れていけばいいさ」
「あのー、クロード様? 結局セルフィちゃんって…」
「ああ、まだ話してなかったね。実は…」
セルフィと出会った経緯をメイド達に話す。するとうちのメイド達はそろってセルフィに抱きついた。
「うっ…ぐすっ…苦労したんですねセルフィちゃぁん!」
「セルフィ、もう辛くないぞ! ボク達がいるからな!」
「こんなに可愛いのに苦労したのねぇ。よしよし」
「あ、あぅぅ…」
メイド達に抱きつかれ、セルフィは顔を真っ赤にしている。でも悪い気はしていないらしい。尻尾がふりふりしているから大丈夫だろう。
「まぁそんなわけで、セルフィの面倒はうちで見てあげようと思うんだ。とりあえずはメイドとしてフィリスに指導してもらいたいんだけど、いけるかな?」
「ぐすっ、はい、お任せ下さい! 必ずセルフィちゃんを一流のメイドにしてみせます!」
「お、おぅ。よろしく。セルフィもそれでいいか?」
「メイドさん? どういう仕事かわからないけど…ボク、頑張りたい」
「わかった。それじゃそういうことで頼むね。何かあったら誰にでもいいからちゃんと相談するんだよ?」
「うん。ありがとう。ご、ご主人様…///」
「「「か、可愛い!」」」
再び3人に抱きつかれてセルフィは潰されていた。まぁこの様子ならすぐにうちにも慣れるだろう。べ、別に抱きつくのが羨ましくなんかないんだからね!
~セルフィ視点~
ボクの村が襲われてお母さんも、村長も、村のみんなも殺された。ボクだけが生き残り、今はあの人たちから逃げている。でも、もう限界。お腹すいた。
そんな感じでフラフラ走っていると、誰かにぶつかって転んでしまった。
「きみ、大丈夫?」
「え、あ、ご、ごめんなさい。あ!」
向こうからあの人達が迫って来る。ついに見つかってしまった。もう逃げられない。でも…お母さん達の仇も討てないで奴隷として売られるのなんて絶対嫌だ、嫌だよぉ!
「見つけたぞ! このガキがぁ!!」
「いや、いやぁ!」
ボクはぶつかった人の足に必死にしがみつく。すると、ボクがぶつかった人はボクの頭をちょっとだけ撫でてあの人達の前に出た。そして何かを話すと突然剣を抜き、あの人達の1人の腕を切り裂いた。
そのあとはまたボクのことを話しているみたいで、それが終わったらあの人達を魔法で凍りつかせちゃった。凄い。こんなすごい魔法初めて見た。
「あ、あの…」
「君のお母さんを殺したこいつらは、もう二度とこの氷の中から出てくることはないだろう。一応仇を取った形になるんだけど、これから君はどうしたい?」
どうやらあの人達は死んでしまったらしい。この人がお母さんの、村のみんなの仇を討ってくれた。でもこれからボクはどうしたいんだろう。もうボクのそばには誰もいない。
「…ボクは…わからない。もう村もない。お母さんもいない…誰もいない…ぐすっ…」
「それじゃ、うちに来るかい?」
「ぐすっ…え?」
今、なんて言ったの?
「俺が君の保護者になってあげる。もうご飯にも困らないし、綺麗なベッドで寝ることができる。それにもう誰も君をいじめることはない。仕事は覚えてもらうけどね。どうしたいかは君が決めて欲しい」
この人は優しい目でボクを見て本気でこんな事を言っているのが分かる。でもどうして? どうしてボクなんかにそんな優しい事を言ってくれるの?
「…ど、どうして? ボクが龍族だから?」
「違うよ。君が可愛い女の子だから。俺はそういう子には優しくしたくなるんだ」
か、可愛いって言われた。今まで龍族だからって苛められてたボクに可愛いって…。
「うちに来るなら後悔はさせないと約束しよう。どうする?」
この人なら信じていいかも知れない。優しい、お父さんと同じ雰囲気のするこの人を。
「…わかった。一緒についていく。連れてって…」
ボクがそう言うとまた頭を撫でてくれた。なんかすごく嬉しい。
「よし。俺はクロードだ。君の名前は?」
「ボクは…セルフィ」
これがボクとクロード様、ご主人様との出会いだった。これからは命を救ってくれたこの人に精一杯の恩返しをしようと心に決めた。ここからボクの第二の人生が始まるんだ。
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