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第40話「学園探偵部」
しおりを挟む俺達が『学園探偵部』と書かれた誰もいないそのスペースを見ていると、通りがかった先輩らしき人が声をかけてくる。
「君達、学園探偵部は止めておいた方がいいよ」
「? どういうことですか?」
「この部の部長は古の魔女の血を引いているっていう噂でね。本人もとてつもない力を持っていて、その人に逆らったら地獄の炎に焼かれるらしいんだ。だから止めておいた方がいい」
「…へー。実際焼かれた人っているんですか?」
「ああ。去年被害にあった生徒がいる。幸い一命は取り留めたようだがな。だから君達もこんな部に入るのは止めてうちの魔法探究部に入らないか? 今なら先輩達が懇切丁寧に魔法を教えてあげられるよ。それに新入生歓迎のイベントもやってるんだ。きっと楽しいよ!」
「あー、えっと、考えておきます。まだ色々見て回りたいので」
「そうか…わかった。何時でも待ってるからね!」
そう言って先輩らしき人は去っていった。そんな訳の分からない話をしていると、学園探偵部のスペースに誰か戻ってきたようだ。ふわふわのウェーブのかかった蒼い髪。小柄ながら推定93のビッグなバスト。可愛く大きな瞳。所謂ロリ巨乳というやつだ。ぶっちゃけどストライクである。
俺は吸い込まれるように学園探偵部のスペースに足を向けた。
「こんにちわ。お話伺ってもいいですか?」
「えっ!? あ、いいいらっしゃいませぇ! がが学園探偵部に、よ、ようこそ!?」
突然声をかけたからテンパってしまったんだろうか。小動物みたいで可愛い。
「落ち着いてください先輩。話を聞きに来ただけですから」
「あぅ、ごめんなさい。すーはー、すーはー。コホン。あ、改めまして、学園探偵部にようこそ! 私は2年で部長のアリシア=スカーレットです。よろしくお願いしましゅ!」
噛んだ。やばいなこの先輩。俺のツボをいい感じに突いてくる。いちいち可愛い。
「俺は新入生のクロード=グレイナードです。後ろのはシャルロッテとアステル。こちらこそよろしくお願いします。それで今どこの部に入るか悩んでいるんですが、この部のことを聞いてもいいですか?」
「うん、もちろんだよ! うちの部の活動内容は生徒が困ってることや悩みを聞いてその調査をしたり、学園に設置された投書箱に寄せられた依頼を解決したりする部なんだよ」
それから学園探偵部で今までどんな案件を解決してきたかを聞いていく。学園生なだけに恋愛事の調査や冒険者特有の悩みなどの相談等が多いようだ。
「なるほど、本当に探偵みたいなことするんですね。部員は何人ぐらいいるんですか?」
「あぅ、その…今は2人…です。去年の年末までは5人いたんだけど…」
「…2人でも部活って成り立つんですか?」
「ううん。だからこの部活勧誘で新入部員が3人以上いないと同好会に格下げになっちゃうんだよ。でも私勧誘とかやったことないからどうしたらいいか分からなくて…。クロードくん、アステルくん、シャルロッテちゃん! 良かったらうちの部に入ってくれないかな! 入ってくれるなら私…なんでもするよ!」
ん? 今何でもするって言った? それじゃそのおっぱいで俺の…
「クロード君、目がエッチになってますよ。あのアリシア先輩、男の子に何でもするとかは言わない方が良いかと。勘違いする人がいないこともないですから」
「え? …!! あ、あの、エ、エッチなのはいけないと思うんだよ!!」
おのれシャルロッテめ。余計なことを!
「…コホン、俺はこの部に興味出てきたけど2人はどうだ? アステルは困ってる人ほっとけない病患者だから興味あるんじゃないか?」
「そんな病気患ったことないよ…。まぁでも、僕としても活動内容には興味惹かれるね。困っている生徒がいるなら助けてあげたいし。シャルロッテさんは?」
「私はクロード君と一緒なら何部でも問題ありません。でも最初は体験入部という形の方がいいんじゃないですか? 依頼を解決すると言ってもどんなことをするかもよく分かりませんし」
「…という事みたいですが、体験入部でも大丈夫ですか?」
そう言うと、アリシア先輩は驚いていたが快く受け入れてくれた。
「うん! 体験入部でも大歓迎だよ! それじゃ明日の放課後に部室棟に来てくれるかな。そこに学園探偵部の部室があるからね」
「わかりました。それじゃまた明日です」
「うん。みんな待ってるよぉ!」
笑顔で手を振るアリシア先輩に答えてその場を後にする。アリシア先輩は可愛いし、明日の体験入部が楽しみになってきた。
そして翌日の放課後、早速3人で部室棟に訪れる。部室棟の場所は校舎の裏にある大きな建物の中にある。元々は旧校舎らしいがリフォームして使っているそうだ。
中に入ると、一階の一番奥の扉に学園探偵部の文字を見つけることができた。ノックをすると昨日聞いたアリシア先輩の声が帰ってくる。
「はーい、どうぞー」
「失礼します。昨日お話したクロードですけど」
「やぁ待ってたよぉ。ほら、ホントだったでしょユリアちゃん。私でも部員ゲットできたんだよ! …まだ体験入部だけど」
「・・・そうみたいね。はじめまして。私は2年で副部長のユリア=シャーロット。よろしくね」
「「「よろしくお願いします」」」
ユリア先輩はオレンジ色の髪を後ろで2本に縛ってるメガネ美人。なんか機嫌が悪そうだが何かあったのかな?
「それで、君達はなぜこの部に? こう言っちゃ何だけど他にも面白そうな部なんていくらでもあったでしょ。それにうちの部は去年問題起こしてから部員は私とこの子だけだし」
「問題、ですか?」
「…アリシア、あなたあの事伝えてないの?」
「…うん。もう過去の事だし、別に良いかなって思って…ダメ?」
「ダメに決まってるでしょ! あれのせいで今この部は周りの評価悪いんだから、そんな部に入ろうとしてるこの子達のことも考えてあげなさい!」
「あぅ、ごめん…」
「あの、問題って何かあったんですか?」
「えぇ、実はね…」
ユリア先輩が言うには、去年アリシア先輩が当時の3年の先輩に言い寄られて、誰もいないところで2人きりなったところで襲われかけたそうだ。その時、あまりの恐怖にアリシア先輩の魔力が暴走し、その3年の先輩を魔法で燃やして全身火傷を負わせてしまったとか。それだけなら正当防衛なような気がするが、その燃やされた先輩は当時生徒に結構人気のある生徒副会長だったらしく、その立場を利用して自分が襲い掛かったことを棚に上げ、アリシア先輩の事を魔女とか、言う事聞かないと燃やされるとか、他にもあることないこと言いふらしたらしい。
その噂のせいで元いた3人の部員は退部し、今は2人だけでこの部をやりくりしているそうだ。そしてその燃やされた先輩が卒業した今でもその噂は残っているらしい。あの時謎の先輩が言っていたのはこのことだったんだな。
「だからこの部に入ったらあなた達まで悪く言われるかもしれないわよ?」
「…でもそれってアリシア先輩は何も悪くないですよね。その3年の先輩がクソ野郎なだけで」
「私もそう思うけど、この子は襲われた事をいうのは恥ずかしいって言ってその噂を否定しなかったのよ。そのせいでさらに噂に尾ひれがついて広まっちゃったんだ。私も出来る限り噂を否定してきたんだけどあんまり効果がなくってね」
なるほどね。人気がある人間が流した噂話って広まりやすいからなぁ。ユリア先輩だけが頑張っても火消しは間に合わないだろう。
「それなら、学園探偵部の悪いイメージを払拭するような事をすれば良いのでは?」
「でももう2、3年生には広まってるのよ? 払拭しようにもそう簡単にはいかないわ」
「…クロード君、何か考えがあるんですか?」
「たしか2ヶ月後に全学年合同の部活対抗戦ってありましたよね。それに優勝して、噂は真っ赤な嘘だって全学園生徒に伝えれば一気に払拭できるんじゃないですか?」
入学時にもらったパンフレットに書いてあった。各部から5人選抜して勝ち抜き戦を行う部活対抗戦。ルールは5対5のガチバトルで、優勝したら部費大幅アップな上に、学園報道部によるインタビューが学園新聞にでかでかと載るらしい。
「いや、さすがにそれは無理よ。あれは戦闘系の部活がしのぎを削りあってるんだから。ただでさえ人数の少ないこの部じゃ勝てるわけがないわよ」
「でも5人いるし、出るだけ出ても問題ないですよね。負けてもリスクとか無いですし」
「それはそうだけど…」
「俺達はまだ体験入部なのでとやかく言える立場じゃないですが、ユリア先輩はこのままじゃいけないって思ってるんですよね? それならやれる事があるならやった方がいいと思いますよ」
俺達だけで勝てるか分からないけど、そういうイベントは参加する事に意義がある。負けても善戦できれば評価は上がるだろうしね。
「・・・少し考えさせてくれるかな」
「はい。もし出るなら俺達も正式部員として参加させてもらいますので。お前達も良いよな?」
「私は構いません。クロード君に付いていきます」
「僕もだよ。せっかくこうやって知り合ったのも何かの縁だし、その先輩が不幸な目にあってるのを見過ごす事はできないからね。僕で良ければ力を貸すよ」
「…わかったわ。ありがとう」
「みんな…私のせいでごめんね?」
「アリシア先輩は悪くないですよ。悪いのはその先輩なんですから。そしてその人がもういないんだったら俺達はこれからのことを考えましょう。この部を潰さないために」
「クロードくん…うん。わかった! 私ももっといっぱい頑張るよ!」
アリシア先輩、少しは元気になってくたかな。美少女の沈んでる顔は見たくないからね。
「それじゃ、気を取り直して部活の話に戻そうか。現在うちの部には一件依頼が来ているわ。内容は浮気調査ね」
「浮気調査…ですか」
「2年のジャクリーンという女生徒からの依頼よ。その彼氏である3年のゼファーという男が浮気している節があるからそれを調べてほしいみたい。手段は問わないとも書いてあるわよ」
手段は問わないとか、この部のことを殺し屋か何かと勘違いしてないか?
「いつもはどうやって調べてるんですか?」
「いつもやってるのは聞き込みと尾行だね。相手に気付かれたらダメだからこんな魔法も使うけど。『気配消去』!」
そう言ってアリシア先輩が魔法を使うと、近くにいるのに先輩の存在が希薄に感じられた。意識しなければその存在に気付かれる事はないかもしれない。
「おお、その魔法は諜報活動に使えますね」
「でしょ? 私のオリジナル魔法なんだよ♪」
オリジナル魔法とか、何気にアリシア先輩って凄い魔導師なんだな。
「今日は初めてなんだし、君達は見学しているといいよ。私達が調査に出向くからね」
「「「わかりました」」」
俺達は部室を出てゼファーという男のところに向かう。彼女のジャクリーンさんからの情報では今日は槍術部の部活に参加しているらしいのだが、槍術部の部室を覗いても聞いていた特徴の男はいない。
「・・・どうやらターゲットはいないようだね」
「彼女には部活に出るといってサボったという事かな。これで浮気の線が強くなったようね。だけど男が今どこにいるかがわからないと話にならないわね…」
そういうことなら俺の出番だな。
「それなら俺が調べましょうか?」
「出来るの? クロードくん」
「ええ。ちょっと待ってくださいね」
俺は【探索魔法】でゼファーという男の条件検索を行った。すると、現在屋上にいるのが判明する。なにやら誰かと一緒のようだが…。
「ターゲットは今屋上にいるみたいですね。誰かと一緒です」
「この場所からそんな事が分かる魔法があるなんて…凄いのね」
「さすがクロードだね」
「当然です。クロード君ですから!」
何でシャルロッテが威張ってるのかは分からないが、とりあえず全員で屋上へと向かう。屋上の入り口前で足を止めるとユリア先輩が指示を出した。
「ここで私達は待機しましょうか。あとはお願いねアリシア」
「了解だよ! 『気配消去』!」
アリシア先輩が気配を消し、ゆっくりドアを開けて屋上に侵入していく。
「この待ち時間って何かすること無いんですかね?」
「特には無いかな。私はアリシアみたいに気配消す事なんてできないし」
ユリア先輩と適当に話していると、アリシア先輩が真っ赤な顔をして帰ってきた。この顔を見ると屋上で何があったかはなんとなく想像できる。
「えっと…どうでしたアリシア先輩?」
「あぅー…エ、エッチなのはいけないと思うんだよぉ!!」
どうやら予想通りだったようだ。なんかターゲットともう1人の距離が異様に近かったからな。そしてその現場をアリシア先輩はカメラっぽい魔道具で撮ってきたらしく、あとはその写真を現像して依頼主に渡せば終了らしい。小型カメラの魔道具なんてあったんだな。ていうか普通に盗撮だろこれ。異世界だから良いのか?
「この魔道具ってどうしたんですか?」
「私が部活用に作ったのよ。言ってなかったっけ?」
「ユリアちゃんは魔道具開発が趣味なんだよ。他にもいろんな魔道具を作ってくれてるんだ! 凄いよねぇ」
それは普通に凄いな。是非その技術を学んでみたい。
「それじゃ私はこれの現像しなくちゃいけないから今日は部活終了ね」
「うん。あとはよろしくねユリアちゃん」
「あの、その現像作業見に行っちゃダメですか?」
この世界の写真現像がどういう風に行われているか、元写真部の身としては非常に気になる。やっぱり現像液にチマチマ浸してやるのかな?
「悪いけど断るわ。技術の流出は出来るだけ避けたいからね」
「そ、そうですか。残念です」
ショボーンとしていると、ユリア先輩がため息を着いた。
「はぁ…これからうちの部で役に立つようだったら、特別に見せてあげても良いわよ。だから頑張ってね」
「!! わかりました、頑張ります!」
「うん。それじゃね。気をつけて帰りなさい」
そう言ってユリア先輩は去っていった。クールな先輩だと思っていたが結構優しいところもあるようだ。
「ユリアちゃんって照れ屋さんなところがあるからね。頑張ってねクロードくん!」
「了解です。それじゃ俺達は帰りましょうか」
その後、その写真を見せられた彼女は激怒し、彼氏を半殺しにして停学処分を食らうのだがそこまではうちの部は責任持たないらしい。もともとそういう契約だったから問題ないそうだ。いやー契約って大事だね!
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