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第34話「入学式とオリエンテーション」

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「今日は…あ、入学式か…ふぁ~」

 今日は4月1日。クリスティア冒険者学園の入学式だ。先日は冒険者ギルドの依頼でひと悶着あったが、俺は今日から本格的に学園生である。久々の学園生活にちょっと心躍っていた。
 
 とっもだっちひゃっくにんでっきるっかな♪

 …そんなにいらないよね友達。女の子の友達ならいくらでも欲しいところだが普通の男友達は精々5人。理想で言えば親友が一人いればいい。ついでに可愛い彼女ができればもっといい。前世の学校でもそのぐらいだったからな。今回もそんな感じのスタンスで行こう。

 採寸の時しか着ていない制服に袖を通す。ちなみに冒険者学園の制服は青いブレザーに赤いネクタイだ。この異世界にブレザーなんてあるのは驚いたが、勇者のパーティだった初代学園長が伝えたデザインらしい。
 やはり制服だけっていうは慣れないな。大抵は服の上に革鎧とか手甲とかの防具を着けていたから地味に落ち着かない。これも冒険者の時間が長かったからだろうな。制服の上にリューネ母さん達からもらった白いローブを纏って部屋を出る。

 サクラの作った朝食を食べて準備してから家を出ると、俺と同じような格好の生徒達が談笑しながら歩いているのが見える。みんな青のブレザーに何かしらの武器を所持しているようだ。俺も言うに及ばずシルビア先生から貰った魔鉱石の剣とミスリルの短剣2本を腰に挿してるけどね。
 クリスティア冒険者学園は生徒の自主性を重んじて武器を持つことを許可している。もし生徒が武器を使って騒ぎを起こしたとしても学園に責任はなく、全ての問題は起こした生徒が責任を負うという現代じゃありえない念書まで押させられた。そこまでされて騒動起こすバカはあまりいないのが現状のようだ。

 登校していると、校門のところにアステルが待ち構えているのが見えた。なんでいるの?

「おはようクロード! いい朝だね!」

「おはよう。校門の前でなにやってんのお前」

「何って、クロードを待っていたのさ。一緒に登校しよう」

「…まぁ別にいいけどね。クラス分け見に行こうか」

 入試の結果が張り出されていた掲示板にクラス分けが張り出されている。周囲の噂話を聞くと、クラス同士の力が均等に分散するように配置したそうな。俺は何組かな?

「クロード、僕達同じクラスだよ! B組みたいだね」

「んーと、ああ、そうみたいだな」

「あ、クロードくん達見つけたよリリアちゃん!」

「ちょっと待ってアーニャ! 走らないで!」

 どこかで聞いた声の女の子が手を振りながら声をかけて来る。この特徴的な青のポニテとふわふわピンクのツインテはこの前森で会った女の子達か。どうやら無事にあの場から帰れたらしい。

「また会えたね! クロードくんにアステルくん!」

「君達はあの時の。元気そうでよかった」

「ああ、また会ったな2人共。無事に生きて帰れたみたいだな」

「あはは、うん! クロードくん達のおかげでね!」

「ええ、あれからフォレストオーガも出ないで無事依頼を達成できたわ」

「あの時は本当にありがとねー」

 そんなに何回もお礼を言う必要はないんだけどね。

「いや、気にすることはないよ。当然のことをしただけだしね」

「だな。もう気にすんなよ。それより2人は何組なんだ?」

「私達はB組だよ?」

「んじゃ同じクラスだな。改めてよろしくな」

「そうなの!? こっちこそよろしくね!」

「こんな偶然ってあるのね」

 ほんとに偶然なのかわからんけどね。俺達の繋がりを知っている冒険者学園の上層部が何らかの形で絡んでて情報を操作してとか、やっぱり恋愛神様が運命操作してるとか疑いたいところなんだけど…まぁそこでやる意味もないか。

「そろそろ入学式を開始する! 生徒は全員修練場に集合しなさい!」

「それじゃ行こうか」

「そうね。アーニャも行くよ」

「はーい」


 入学式は全校生徒が集まって行われる。この学園は1~3年生までいて、クラスはA~Dの4クラス。それぞれのクラスに平均30名が在籍しているらしい。集まっている他の生徒を見てみると結構色んな人種が揃っているようだ。強そうな奴もチラホラと。
 
「それではこれより、クリスティア冒険者学園の入学式を執り行う!」

 入学式が始まるとあたりは静まり、緊張感に包まれた。

「学園長挨拶!」

 教師のその言葉で、長く黒々とした髭を蓄えた筋肉ムキムキで肩幅のサイズがおかしい教師が壇上に立った。この人がここの学園長らしい。

「ぅワシがクリスティア冒険者学園学園長、バルバトス=ガーランドである!!!」

 学園長が大声でそう言った瞬間、周囲に国王陛下の『王の覇気』スキルを食らった時に似たような圧迫感に包まれた。それを受けた途端、多数の生徒が膝をついてひれ伏してしまう。

「な、なにこれ…!」

「あう、お、重いよぉ…」

 リリアとアーニャも、その圧力に耐えられずに膝をついていた。

「クロード、大丈夫かい?」

「きついが問題ない。お前は?」

「僕もなんとか」

 他の新入生達も一部を除いて膝をついていた。上級生は距離が離れているためか、なんともないように平然としている。中には俺達を見て笑っている者もいた。いきなり何すんだこのジジイ!

「ほほぅ、ワシの覇気を食らって立ってる一年坊が10人以上もいるとはのぅ。これは愉快じゃ! ふははは!」

 ふはははじゃねぇよ。説明しろ。

「今のはお前達を試すために放った『覇気』というスキルじゃ。大抵はお前達のように膝を付くような結果になるが、一部の生徒のように膝を付かず抵抗してくる生徒もいる。これが今のお主らと立っている者の差というわけじゃ! 冒険者は強さを尊ぶ。これからの3年間でこの差を埋め、追い越していくことを期待する。以上じゃ!」

 そう言うと、学長は壇上を去っていく。
 …なるほどね。これで生徒同士の競争意識を芽生えさせて切磋琢磨させようってことかな。でもこれ逆にやる気無くす奴もいるんじゃないか?

「リリア、アーニャ、2人共大丈夫か?」

「う、うん…ありがとうアステルくん」

「びっくりしたねぇ。私あのおじいちゃん嫌い!」

 学園長挨拶が終わった後はそれぞれのクラスの担任教師の紹介とこれからの予定の説明が入る。B組の担任教師はシェリル=バートン先生。推定25歳。ウェーブがかったピンクっぽい髪で黒のタイトなスカートを履いた眼鏡美人さんだ。これだけでも勉強の意欲が上がる。
 そしてこれからの予定の方は、今日はこれから教室へ行きオリエンテーション。授業は明日からになるらしい。

「それでは各自教室へ移動してください!」

 教師の言葉に従いそれぞれの教室へ移動する。1年の教室は3階にあり、一番教室へ行くのが面倒な位置にある。まぁ1年生だから仕方ないね。

 教室へ行くと、席は自由に座っていいと黒板に書いてある。なので俺は窓際の一番後ろの角をチョイスした。席替えの時ってこの位置っていうか最後列が一番人気だったよね。よく眠れるし。

「それじゃ僕はここで」

 俺の前の席にアステルが来た。なんで俺の前が男なんだよ。しかもお前の長い髪からなんかいい匂いがして嫌なんだが。

「じゃ、私達もここにしようか。お隣いい? アステルくん」

「もちろん、どうぞリリア」

「んじゃ私クロードくんの隣ね!」

「好きにしたらいいさね」

 アステルの隣にリリア。俺の隣にアーニャが来た。これで周りは知り合いで固められたことになる。クラスメイト達が席を選び終わったとほぼ同時に、美人メガネ教師シェリル先生が入ってきた。

「みんな席に着いてるわね。それじゃオリエンテーションを始めましょうか。まずはみんなには自己紹介をしてもらいましょう。右端の君からね」

「は、はい!」

 右端の生徒は立ち上がり、こちらに向かって自己紹介をする。

「僕はルーク=アドレアスです。冒険者ランクはEで錬金術が好きです。よろしくお願いします!」

 1人目が短い自己紹介をして席に座る。冒険者ランクとか明かさなきゃダメなのかな。個人情報だぞ?

「俺の名はギルバート=クロムハーツ。栄誉あるクロムハーツ伯爵家の嫡男である。平民共はこの私に平伏するがいい! ふはははは!」

 このクラスにもこう言う馬鹿貴族がいるようだな。そんな事を思っているとシェリル先生が動いた。馬鹿だが伯爵子息のギルバートにゲンコツをかましたのである。

「ぐぁ!! き、貴様! ただの教師の分際でこの俺に手を挙げるなど…」

「ギルバート君。この学校では身分を振りかざすことが禁止されています。ちなみにこれは校則ではなく国法として全ての学園に定まっていることなのですが、それを無視するのですか?」

「そ、そんなもの俺には関係ない! 俺は偉いのだからな!」

「そうですか…ではギルバート=クロムハーツ! 国法を破るということは国家へ弓を引くということ! よって、あなたを国家への謀反を企てた罪、国家反逆罪で拘束します!」

「なっ! なんだとぉ!!」

「…と、普通なら言うのですが、今回は初回なのでお仕置きだけで済ませてあげましょう。こっちに来なさい!」

 ギルバートはシェリル先生に腕の関節を決められ連れて行かれてしまった。貴族の立場を振りかざすとああなるのか。俺も気を付けよう。

 しばらくして無言で反省し、憔悴したギルバートと共に先生は帰ってきた。

「みなさんの中にも貴族の出の人がいるかもしれません。だからといって特別扱いはしませんよ。身分を振りかざして周囲に迷惑をかけるような人はギルバートくんと同じ末路を辿ることになるから、気をつけてくださいね」

「「「「「はい!!」」」」」

「よろしい。では自己紹介を再開しましょう」

 それから先は生徒の中の貴族らしき奴らも礼儀正しくなってしまった。シェリル先生強いな。



 それからも自己紹介は進んでいく。

「私はセレスティーヌ。槍使い。冒険者ランクはD。よろしく」

 えらい淡白な自己紹介だな。

「私はシャルロッテです。…白狼族で冒険者ランクはCです。双斧使いで前衛ができます。よろしくお願いします」

 ざわ…ざわ…

 シャルロッテさんの自己紹介が終わったら何故か周囲がざわついていた。なにか引っかかるところがあったのか?

「俺はルシウス=マキシマムだ。見ろこのカッチカチの筋肉を! 俺のこの肉体に勝るものはない!! 当然武器もこの体と拳で、魔法も少々嗜んでいる。冒険者ランクはDだ。みんな宜しくな!」

 暑苦しい奴の次はリリアの番だ。

「みなさんはじめまして。私はリリア。Eランク冒険者で主に剣と風魔法を使います。まだまだ未熟者なのでご迷惑をかけることもあるかと思いますが、どうか長い目で見ていただけると助かります。これから一緒に頑張っていきましょう! よろしくお願いします!」

 さすがに礼儀正しい。委員長タイプだなリリア。

「それでは次はアーニャさん」

「はい! みなさんはじめまして! 私はアーニャ、12歳です。冒険者ランクはEランクでリリアちゃんと一緒に活動しています。冒険者って大変だよね。この前もフォレストオーガの群れに襲われちゃって、クロードくんとアステルくんに助けてもらっちゃったんだ。でもいっぱい楽しいこともあるし、冒険者として頑張って行きたいからいっぱい勉強したいと思います! だから、みなさんこれから仲良くしてくださいね!」

 アーニャマジ天使。実際アーニャの今の笑顔にやられた奴は多いだろう。不覚にも俺が彼女を守ってやんなきゃって気になってしまった。これが親心ってやつだろうか?

 自己紹介は続いて、次はアステル。

「僕はアステル=ラインハルト。アステルって呼んでくれると嬉しい。僕は今Cランクで困っている人を助けるために活動している。みんなもなにか困ったことがあったら僕に相談して欲しい。僕で力になれるなら頑張らせてもらうからね。それじゃ、あんまり長いとクロードにどやされちゃうからこのへんで。みんな、これからよろしくね!」

 歯を輝かせる勢いで笑顔を振りまく。なんだろう…このイケメン具合は。イケメンとか滅びればいいのに。さすが勇者(仮)だ。
 
 周りの女子からも
「か、かっこいい」
「めっちゃイケメン」
「抱かれたい…」
 等の声が聞こえていた。

 次は俺か。何言おう?

「えっと、アステルのあとで非常にやり辛いが、クロード=グレイナードです。身長は小さいけど12歳だから間違えないように。冒険者ランクはC。最近は討伐依頼を主にやっています。俺はアステルみたいに殊勝な気持ちで冒険者はやっているわけじゃなくて、冒険者になるのが昔からの夢だからやってます。だから俺と同じように自分の夢に向かって頑張ってる奴は一緒に頑張って行きましょう。よろしく!」

「やり辛いは酷いよクロード…」

「うっさいイケメン! 人のことダシにした奴が言うなっつの」

「あはは、可愛かったよクロードくん!」

「…ありがとう。アーニャも凄く可愛かったよ」

「うにゃっ!?///」

 自己紹介って結構恥ずかしいものなんだな。途中で何言ってるかわからなくなった。

「自己紹介お疲れ様でした。それでは次に、この30人で5人一組のグループを作ってもらいます。今の自己紹介でそれぞれのことはなんとなくわかったでしょう? ちなみにこのグループは一年間ずっと同じだから、慎重に選んだほうが賢明ね」

 ざわ…ざわ…

「これも将来、冒険者としてパーティを組むための練習です。制限時間は30分。決まったら班長が報告に来てくださいね。それじゃ開始!」

 突然始められ教室内はざわついている。俺はとりあえず周りの連中に相談してみる。

「5人グループだってさ。どうする?」

「私はクロードくん達と組みたいな。リリアちゃんは?」

「私もそうだけど、いいのかな? 私達とクロード君達じゃ結構ランク離れてるし…」

「僕は大歓迎だよ。クロードはどう?」

「俺も構わないよ。ランクなんて気合で上げればいいだけだし」

「そんなに簡単に上がんないけどね…でも、ありがとう2人共」

 Bランクの依頼を一緒に受けまくれば嫌でも上がるだろう。多分。

「それで、もう一人はどうするの?」

「そうだね。みんなは自己紹介で気になった人は居たかい?」

 周りを見るともうそこそこ決まっているようだ。このままでは余りを掴まされてしまう可能性がある。

「一人…気になった奴がいる」

「だれだれ?」

「あそこの獣人の子だ」

 そこには獣人の女の子が座っている。名前はシャルロッテ。白狼族とかいう種族で斧を使うらしい。見た感じかなりのポテンシャルを秘めている感じがした。

「シャルロッテちゃんだね。白狼族だったかな?」

「ああ。みんな勧誘してきていいか?」

「私は全然OKだよ!」

「私もいいわよ。行きましょう」

 みんなでシャルロッテさんの席へ行くと、シャルロッテさんは暗い顔でこっちを見た。

「あの…なんですか?」

「君を勧誘に来たんだシャルロッテさん。僕達の班に入らないか?」

「えっと、なんで私なんかを? 私…白狼族なんですよ?」

「それがどうしたんだ? そんなの勧誘しない理由にはならないと思うぞ?」

「うんうん! 一緒に頑張ろうよシャルロッテちゃん!」

 アーニャが優しく誘うが、シャルロッテさんは暗い顔が晴れないで俯いている。なにか悩みでもあるんだろうか?

「シャルロッテさん、白狼族であることに何かあるのか?」

「…私達白狼族は…人族や他の種族からも忌み嫌われてきました。獣人だからというのもあるのかもしれませんが、問題は…一緒にいた人が確実に不幸になるんです」

「不幸になる?」

「はい。私達白狼族と一緒にいたことで何かの原因で離婚したり、事故で死んでしまったり。私達は何もしてないのに、一緒にいることでそういうことが起きてしまうんです。だからあなた達も…私とは一緒にいない方がいいですよ。不幸になっちゃいますから」

「…くだらないな。そんなのはただの責任転嫁でしかないよ」

「え?」

「きみと一緒にいれば不幸になるとかそんなのはただの思い込みでしかないと僕は思う。不幸になった人達もそれを君達白狼族のせいにして責任逃れをしていたに過ぎないと思うけどね」

「そ、そんなことはありません! 私達はずっと言われ続けてきたんです! お前がいるから不幸になるんだと! お前なんかいなくなれと…私はっ!!」

 シャルロッテさんの目から涙が溢れてくる。本当に不幸な経験をしてきたようだな。呪いっていうのも気になるし、少し調べさせてもらおうか。【真眼】発動!


名前:シャルロッテ=ミースティア
年齢:12歳 種族:狼獣人(白狼族)
称号:白狼族の姫 Dクラス冒険者 クリスティア冒険者学園の生徒 呪い受けし者
加護:獣神の加護 状態:呪い
レベル:32
  HP:589/589
  MP:1190/1190
     筋力:168 体力:129 魔力:290 
     精神:348 敏捷:139 運:50
EXスキル
 【白狼変化】
魔法スキル
 【土魔法”LV5”】【風魔法”LV4”】【闇魔法”LV5”】    
 【無魔法”LV4”】【魔法制御”LV3”】【魔力操作”LV3”】
技能スキル 
 【聴覚強化】【嗅覚強化】【二刀斧術”LV6”】【剣術”LV3”】
 【隠密”LV4”】【索敵”LV6”】【体術”LV4”】【豪腕”LV5”】
 【礼儀作法”LV3”】
侵食スキル 
 【黒天狼の呪詛】

…これか? さらに【真眼】で【黒天狼の呪詛】を見てみる。

【黒天狼の呪詛】:白狼族に掛けられた呪詛。自分以外の周囲の存在を不幸にしていく。過去に起こった白狼族と黒天狼の戦いで敗れた黒天狼が、死の間際に断末魔の呪いとして白狼族に掛けたもので、白狼族は全てこの呪詛に侵されている。

 決まりだな。これを解除できればこの子は救えるはずだ。

《魔法創造起動。
術式構成:対象に不利な効果を与える状態異常を元から打ち消す。対象の状態異常の深刻度、その他解除するための条件の複雑さで魔力消費量が変動する。
術式名:状態異常解除ディスペル

状態異常解除ディスペルを創造するコストとしてMPを4000消費します。よろしいですか? Y/N

 コ、コストでかいな。しかしこれは彼女を救うための投資だ。YESっと。
 一気に2/3以上の魔力持って行かれ、急激な貧血になったかのようにふらついて机に手をついてしまった。アステル達が俺の様子に何事かと慌てている。

「ど、どうしたクロード! 大丈夫かい!?」

「あ、あぁ。問題ないよ。ちょっとふらついただけだから」

 そう言って【無限収納】からマナポーション(お徳用1.5ℓ)を取り出し一気飲みする。これから彼女の呪いを解除するのにどのくらいの魔力を消耗するかわからないからね。万全を喫して魔力を全快まで回復しておく。

「ホントに大丈夫? クロードくん」

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、アーニャ。それより今は…」

 俺はシャルロッテさんの前に立ち、気合を入れる。

「シャルロッテさん。俺でよければその不幸な呪い、どうにかしようか?」

「どういうことですか…?」

「これから君に掛けられた呪いを解かせてもらう」

「そ、そんな事出来るわけ…!!」

 俺はシャルロッテさんの顔の前に手をかざす。

「俺を信じて動かないでね。【状態異常解除ディスペル】起動! ぐっ!」

 発動と同時に猛烈な倦怠感が襲ってきた。やはりこの呪詛の解除には相当の魔力を使うらしい。淡く優しい光がシャルロッテさんを包み込む。そうしている間にも俺の魔力がガンガン消費されていき、とうとうレッドゾーン(3桁)に突入する。
 【無限収納】から再びマナポーション(お徳用)を3本取り出し、がぶ飲みしながら魔法をかけ続けると、シャルロッテさんの体から巨大な黒いモヤが現れ、黒板を爪で引っかいたような金切り声をあげながらやがて空中に霧散するように消えていった。
 …今のがシャルロッテさんの呪い。【黒天狼の呪詛】なのか。すべての黒いモヤが無くなった時には手持ちのマナポーション(お徳用)が全てなくなっていた。

「あの、今のは一体…」

「はぁ、はぁ…今のはシャルロッテさんに掛かってた呪いだよ。君が他人を不幸にするのは本当に呪いのせいだったんだ。【黒天狼の呪詛】って言うみたいだけど知ってる?」

「…知っています。先祖代々私達白狼族に掛けられた呪いです…もしかして今の黒いモヤが?」

「ああ。俺の魔法で解除させてもらったよ。これでもう君は他人を不幸なんかにしない。シャルロッテさんは呪いから解放されて自由の身になったんだ」

「そ、そんなことありえない! この呪いは今まで誰も解けなかったんです! そんな簡単に…」

「だったら自分のステータスプレートを確認してみたらいい。それで分かるだろ?」

 俺にそう言われてシャルロッテさんは無言でステータスプレートを見る。するとハッとした表情をして、次第に瞳には再び涙が溜まっていく。今度の涙は悔しさの涙じゃない。喜びの涙だ。

「そんな…こんなことって…」

 もう超絶だるくて今すぐ帰って寝たい心境だが、俺は気力を振り絞ってシャルロッテさんの肩に手を置いて、優しく笑いかける。

「これからはもう我慢しなくたっていい。こうして触れ合っても誰も不幸にならないし、友達だっていくらでも作っていいんだ」

「本当…ですか…? 私は…私の一族は…他の人達と触れ合いたかった…友達になりたかった…でも、そんなことしたらその人が不幸になるのわかってたから…私は…」

「…ああ、もう大丈夫。俺で良かったら喜んで友達になるよ。彼女達もね」

「そうだよシャルロッテさん! 私だって友達になるよ!」

「わたしだって友達になりたいもん! なろうよシャルロッテちゃん!」

「僕も君と友達になりたいな。友達にしてくれるかい?」

 シャルロッテの目が今までの暗いものから徐々に明るくなっていく。

「私…私…友達になりたいです。みんなと、友達になりたいです!!」

「よし、それなら俺達の班で、これから一緒に頑張っていこう!」

「…はい! ぐすっ…よろしくお願いします!!」

 ぱち…ぱち…ぱちぱち…ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち

 周りで俺達を見ていたクラスメイト達から拍手が鳴らされる。シャルロッテさんから呪いが取り除かれ、近寄っても不幸にならないと理解したのだろう。

「おめでとう!」
「おめでとうシャルロッテさん!」
「これで不幸にならないんだな! おめでとー!」
「おめでとうございます!」

「みなさん…ありがとうございます!!」

 周りのクラスメイトの歓声に答えて、まるで今までの不幸を断ち切るかのようにシャルロッテさんは大きく頭を下げた。こうしてシャルロッテは俺達の仲間になった。



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