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第31話「ホワイトデーと王都への旅立ち」
しおりを挟む王都の家の準備が終わってからは冒険者学園へ行くための準備をする。一般教養や冒険者に必要な知識の勉強。並行して黒屋の経営や先生達とのデートなど。ファルネス領でのやり残しがないように一日一日を大切に過ごしていた。
そして今日は3月14日。所謂ホワイトデーであり、俺と先生達が付き合って一ヶ月記念日だ。先生達にこの日は4人とデートしたいと誘ったら快く受けてくれたので、いつもより気合入れて準備した。13時に待ち合わせしたので15分前に待ち合わせ場所に到着する。デートは女の子より先に現場に行くのが俺のポリシー。その場で待っていると、しばらくして先生達が3人でやってきた。
「すまないなクロード。待たせてしまったか?」
「いえ、俺も今来たところで…」
先生達の格好がいつもと違う。シルビア先生は大人っぽくシックな色のワンピース。フラン先生はチェックのパンツにニット。ユミナ先生は可愛いピンクのワンピースにカーディガンを着ている。
「みんな可愛いですね。とっても似合ってますよ!」
「あ、あぁ。ありがとう。こういう格好は初めてしたんだが、気に入ってくれたようだな」
「今日は大切な日っすからね。気合入れてきたっす!」
「ありがとう。クロードくんも、かっこいいよ」
「ありがとうございますユミナ先生。それじゃ行きましょうか」
今日は記念日だから下調べしてデートプランを考えてきた。この世界には遊園地やゲーセンなどのアミューズメント施設なんてあるわけないのでプランを考えるのに苦労したが、これならなんとかなるだろう。
「クロードくん、手を繋いでもいい?」
「もちろんですよユミナ先生」
「あ、私もクロっちと手を繋ぐっす!」
そんな感じで転翔の羽を使ってデートへと出発した。王都の俺の家の庭に転移してからみんなで歩いて街に出る。まずは演劇を見るために劇場に行くことにした。
「私、劇場に入るのって初めてっすよ。やっぱり人が多いんすね」
「そうだね。私も初めてだから、ちょっと楽しみ」
「クロードは劇場に来たことはあるのか?」
「中に入るのは俺も初めてですよ。せっかく入るんだから楽しんでいきましょうね」
「ああ、そうだな」
場内でチケットを買ってから席に着く。この日上演していたのはシャークピアース原作の恋愛劇『ラミアとシャーロット』。互いに敵対するバタンキュー家の若者ラミアとアウトレット家の令嬢シャーロットの悲恋を描いた物語だ。
『おぉラミア様、どうして…どうしてあなたはラミア様なの!? 家を捨ててお父様を殺して! それが嫌なら私を愛すると誓って! そうすれば私はあなたのものになれるのよ! あははははは♪』
『…これ声かけたらヤバくね?』
2時間に渡る劇が終わると、場内から拍手が巻き起こる。内容も感動的で面白く、演者の技量が高くて思わず感動してしまったので思わず俺も拍手してしまっていた。
「はぁ、面白かったすねぇ。涙が出たっす…」
「うんうん。とっても感動した…」
「演劇というのは…こんなにも心を打つものだったのだな…」
先生達にも好評だったようで一安心だ。次はカフェで一服タイムにしようと思っている。前もって調べて良さげなカフェを見繕ってあるので、先生達を連れてそのカフェへと行くことにした。
中に入るとちょうど席が空いていたのでそこに座る。
「いらっしゃいませぇ! ご注文をどうぞ!」
「ここのオススメは季節限定のパフェみたいですよ」
「パフェ…ってなんすか?」
「果物やゼリーとかの詰め合わせみたいな感じのデザートですね。美味しいですよ」
「クロっちのオススメっすか。んじゃ私はそれにするっす!」
「私も、それにしようかな」
「よくわからんから私もそれでいい」
「了解です。季節のパフェと紅茶4つお願いします」
季節限定のパフェはこの辺で取れるフルーツに滑らかなチーズを合わせた一品だ。これがかなり美味しく、先生達にも高評価だったらしい。シルビア先生とフラン先生がおかわりしていたのを見ても当たりだったことがよくわかる。
このあとはショッピングだな。以前リムルと行った『アルフラー・ベル洋裁店』へと連れて行く。この店には色々なものが置いてあるから退屈はしないはずだ。
「アルフラー・ベル洋裁店へようこそぉぉぉぉん♪」
「び、びっくりしたっす。この人もしかしてグレゴリオちゃんの知り合いっすか?」
「あら、グレゴリオ隊長のこと知ってるのぉ?」
「はいっす。友達っすよ! お姉さんも知ってるんすか?」
「もちろんよぉん! 私達筋肉天使隊の隊長だものぉん✩ ちなみに私は副隊長のベルよん。ベルちゃんって呼んでねぇ♪」
やっぱりこの人もグレゴリオさんと同類だったんだな…。まぁそんなことはどうでもいい。今回ここへ来たのには買い物の他に理由があるのだ。先生達が買い物をしている間にこそこそとベルちゃんに話しかける。
「ベルちゃん、準備は出来てる?」
「もちろんよぉん✩ あなたに頼まれた通りの服を用意しておいたわぁん♪」
「ありがとう。それじゃ着替えてくるね」
そう言って服を受け取り、試着室へと入る。【身体変化魔法】発動! うおおおおおお!!
「あれ? クロっちどこ行っちゃったっすか?」
「わかんない。どこかな?」
「お待たせしました。先生達」
「ん? 先生達って…お前、もしかしてクロードか!?」
「そうですよ。どうも、クロード=グレイナード20歳です」
紳士っぽいポーズで決めてみる。変身したせいで全身に鈍い痛みが走っているが気にしない。
「おおおおお! クロっちカッコイイっす!!」
「わぁ、すごい格好良いよ。話を聞いてはいたけど、ほんとに大人になれるんだね」
「まさかここまでとは…。正直恐れ入ったぞ」
ベルちゃんに特注で用意してもらったスーツを身に纏い登場してみたが、女性陣の反応は上々でちょっと安心した。今の俺の身長は180cm近くありシルビア先生よりも高いので、これでなんとか釣り合いも保てるだろう。
「ここからは大人のデートです。張り切って行きましょう!」
大人モードになった俺とちょっと顔が赤い先生達は夕暮れの街の中を歩いていく。そして今日のために予約しておいた落ち着いた雰囲気のお高いレストランへと入った。
洒落た雰囲気の中、給仕の手によってグラスにワインが注がれていく。
「それじゃ、交際一ヶ月記念と俺達のこれからの未来に。乾杯」
「「「乾杯(っす)」」」
生まれて初めてワインなんて飲んだが…渋いな。この世界では20歳未満飲酒禁止なんて法律はないから問題ない。今の俺、体は20歳だし。
その後もコース料理が続々と出てくる。さすがちょっとお高いレストラン。料理の美味しさもかなりのものだ。食通のユミナ先生も唸る味である。
「実は、先生達に渡したいものがあるんです」
「私達にっすか?」
「悠愛の誓日のお返しです。受け取ってくれますか?」
先生達一人ずつの前に小さな箱を差し出していく。先生達がその箱を開けると、驚いたようにこちらを見た。
「クロード、これは…」
「俺はこれから先も、王都に行ったとしても先生達と離れたくはありません。だからこの腕輪を側にいられない俺の代わりに持っていて欲しいんです」
先生達に渡したのは先生達の誕生石をつけた腕輪だ。誕生石なんていう概念はこの世界にはないが、なんとなく思いついて【変形魔法】を駆使して自分で作り上げた自慢の逸品を用意した。腕のサイズは手を繋いだ時に密かに測っていたので大丈夫なはずだ。
「ク、クロっち。これってもしかしてこ、婚約腕輪ってやつっすか!?」
「クロードくん…嬉しいよ。こんな素敵なプレゼント、初めて」
「さすがだなクロード…私の予想を遥かに飛び越してくるとは…」
婚約腕輪ってなんぞ? まぁ先生達も喜んでくれたみたいだし、今回のデートは大成功と言ってもいいだろう。食事の後、先生達を送るため転翔の羽で先生達の宿まで飛ぶ。お別れをしようとした時、先生達に止められた。
「クロード、よかったら少し寄っていかないか?」
「うんうん。もうちょっとお話、したいな」
「私も…もうちょっとクロっちと一緒にいたいっす。ダメっすか?」
「…わかりました。それじゃお邪魔しますね」
この後、俺の魔法が解けるまで先生達と共に過ごした。王都に行く前に大切な思い出を作ることが出来て本当に良かった。
それから暫くして、とうとう王都へ旅立つ時が来た。今日でしばらくファルネス領ともお別れだな。昨日までに黒屋のみんなには引継ぎは済ませてある。食材の供給もそれぞれの業者に頼んだので問題ないはずだ。ミクにゃんに『店長いないと寂しいにゃ!』と泣かれるとは思わなかったが。
部屋で着替えてから荷物を持ってフィリスと共にエントランスに出ると、その場にみんなが待っていた。リューネ母さんが目を潤ませて抱きついてくる。
「クロちゃん、ちゃんとご飯食べなきゃだめなんだよ? お洗濯してね? あとあと…」
「大丈夫だよリューネ母さん。フィリスもいるし、他の子達も一緒なんだから」
「フィリスちゃん! クロちゃんのことお願いね!」
「畏まりました! お任せ下さい奥様!」
「リューネは心配しすぎですよ。クロードはしっかりしているから大丈夫です。ね?」
「うん。問題なしだよオリビア母さん。ちゃんと準備したから大丈夫」
父さんが近寄ってきて頭を撫でてくる。父さんに頭撫でられたのなんてかなり久しぶりだ。
「お前なら大丈夫と思うが、試験では気を抜くなよ」
「わかってるよ父さん。全力でやってくるから心配しないでね」
クリスティア冒険者学園に入るためには入学試験を受けなければならない。指導方針が実力主義というから今からちょっと楽しみだ。
エントランスを出て、家の門の前で父さん達と話していると先生達の声が聞こえてきた。
「クロっちー!!」
「クロード! 間に合ったか」
「はぁ、はぁ、間に合った」
「先生達も来てくれたんですね。そんなに慌ててどうしたんですか?」
「ああ、これを渡したくてな。さっきまで作ってたんだ」
シルビア先生とユミナ先生の手には、ミサンガが握られていた。
「これは?」
「ああ、フランに聞いて私達も作ってみたんだ。これには私の髪の毛が編み込まれている」
「私も一緒に、作ったんだよ。受け取ってほしいな」
フラン先生に11歳の誕生日にもらったその人の安全が保障されるっていうあれか。ミサンガを受け取ると、それには何か不思議な力を感じた。
「これは…何か強い力を感じますね」
「それには私達の願いが込められている。試験の合格と王都での生活の無事を願うぞ」
「私の魔力も込めておいたの。大事にしてくれたら、嬉しいな」
「ありがとうございます。ずっと大事に付けてますね」
肌身離さず着けていよう。ミサンガが切れたら願いが叶うかもだしね。
「ああ。それを私達と思って頑張ってくれ。修練を欠かすなよ」
「はい! ありがとうございます!」
「それで、私からはこれっす!」
フラン先生は自分の愛用の短剣を差し出した。ミスリル製のいいやつだ。
「クロっち短剣一本しか持ってないっすよね? 良かったらこれも使って欲しいっす」
「でも、いいんですか? フラン先生の短剣なのに」
「全然いいっすよ。クロっちには死なれたくないっすからね!」
「…ありがとうございます。大切に使います」
フラン先生から短剣を受けとり腰に差す。短剣が2本あるとなんかかっこいいよね。
「それじゃ、お別れっすね…クロっち、元気でやるっすよ」
「クロード、健闘を祈る。また会おう」
「クロードくんまたね。絶対またね」
「先生達もお元気で。休みに入ったら帰ってきますから、その時はゆっくり話しましょうね」
一人づつ順番に抱きしめていく。流石に家族の前だからキスは自重しておいた。
「それじゃ、行ってきます!」
みんなの応援と期待を胸に俺は転翔の羽を掲げ、フィリスと共に決意を新たに王都へと飛んだ。
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