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第27話「クロードと彼女の恋愛事情」
しおりを挟む「…全く眠れなかった」
頭の中では昨日のフラン先生のキスと言葉がずっとリフレインしまくっている。
『…側に居たいっていうのは…こういうことっすよ』
フラン先生の直球な求愛行動。酒に酔ってたから暴走したわけじゃないだろう。キスした後の赤くなったフラン先生の顔が本気だったのはニブい俺でも見て分かる。そしてめっちゃ可愛かった。
でも俺の見た目6歳児だよ? フラン先生はショタコンだった? いや、流石にそれはないだろう。今までフラン先生が可愛い少年を見て悶えていたところなんて見たことがない。
「…とりあえず起きるか」
ベッドから起きようとすると、体に力が入らずにそのまま床に倒れてしまう。
「ぐおっ! あれ、なんかフラフラする…ゴホッゴホッ」
その時、部屋をノックしてフィリスが入ってくる。
「クロード様! 朝ですよーってどうしたんですか、顔が真っ赤ですよ!?」
「あ…おはようフィリス…」
「お、おはようございます。ちょっと失礼しますね…」
フィリスの手が俺のおでこに触れる。ひんやりして気持ちいい。
「物凄く熱いですよ!? 寝てなきゃダメですよぉ!!」
フィリスの手によって強制的にベッドに戻される。どうやら風邪を引いてしまったらしい。
「今お医者様呼んできますから、絶対寝てなきゃダメですからね!!」
そう言ってフィリスが部屋を飛び出していく。まぁ風邪を引いたのも当然かも知れない。フラン先生と別れたあと、あの寒空の下で動けずに数時間そのままだったんだから。おまけに一睡も出来なかったんだから当然といえば当然だろう。
その後往診に来た医者の診察を受け、完璧に風邪だと太鼓判を押されてしまった。
「今日は寝てなきゃダメですからね。絶対安静です!!」
「…わかったよ。素直に寝てます」
フィリスが部屋を出て一人になると、熱でボンヤリしていても頭の中では昨日のことが思い起こされる。フラン先生の気持ちにどう答えればいいのかとか、もう一回キスしたいとか考えているうちに、俺の意識は深い眠りに誘われていった。
~フラン視点~
(あー、やっちまったっすやっちまったっすやっちまったすぅぅぅ!!!)
正直あそこまでする気はなかった。お酒が入ってたとは言え告白してキスまで…しかも自分からとか。でもクロっちが鈍感すぎるのがいけないんすよ。普通2人っきりで雰囲気だって悪くない状態であんなこと言ったら誰だって告白だって思うじゃないっすか! それなのに笑顔であんなこと言うなんて…そりゃ私もムキになってキスくらいしちゃうっすよ。でも…クロっちの唇柔らかかったっす。それに真っ赤になってめっちゃ可愛かったっす。キスなんて初めてしたっすけど変じゃなかったっすよね?
「フラン、ちょっといいか?」
一人で妄想に耽っていたらシルっちが私の部屋に入ってきた。
「シルっち、どうしたんすか?」
「先程クロードの家のメイドが来てな。どうやらクロードが風邪で寝込んだから今日は来れないらしい」
「えっ、クロっちがっすか!?」
「ああ。かなりの高熱らしくてな。だから今日は…」
「わ、私、クロっちのお見舞い行ってくるっす!!」
「お、おう」
私は慌てて準備してクロっちの家へと向かう。もしかしたらクロっちが風邪を引いたのは私のせいかもしれない。私があんなことしたから…そう思うと、いても立ってもいられなかった。
クロっちの家に着くと、乱れた髪を整えてから入口をノックする。
「ご、ごめんくださいっすー」
「はーい。あら、フランちゃん。こんな朝早くからどうしたのぉ?」
家の中から出てきたのはリューネさんだった。
「あの、クロっちが風邪引いたって聞いて、お見舞いに来たんすけど…」
「そっかぁ。わざわざ来てくれてありがとう。良かったら入って~」
「お、お邪魔するっす」
そのままリビングへと通される。クロっちの部屋に行くんじゃないんすね。
「クロちゃん今寝てるからぁ。あ、カーミラさん、お茶貰えるかな。2人分ね」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
「あ、お構いなくっす」
メイドさんにお茶を入れてもらう。さすが本場のメイドさん。めっちゃ紅茶が美味しいっす。
「それでフランちゃん。昨日クロちゃんと何かあったの?」
「えっ!? な、なんでっすか?」
「昨日クロちゃんがすっごく遅くに帰ってきたんだぁ。それでこんなに遅くまで何してたのって聞いたら、ちょっと考え事してたって赤い顔で言ってたの」
「そ、そうなんすか…」
(やっぱり風邪引いたの私のせいっすね…)
「それで、クロちゃんを心配してこんな朝早くにフランちゃんが来たから、もしかしてフランちゃんと何かあったのかなって思ったんだぁ。違ったかな?」
「…いえ、大体合ってるっす。申し訳ないっす! 私がクロっちにあんなことしちゃったから…」
「…あんなことって…どんなことかな? かな?」
ひぃっ!! リューネさんの目が怖いっす!?
「クロちゃんを傷付けたとかだったら…私もちょっと怒っちゃうかも?」
「いえいえ、傷付けたとかじゃなくてっすね…」
私はリューネさんに全てを懺悔した。お酒を飲んで調子に乗ってクロっちにキスしちゃったこと。でもクロっちへの好きな気持ちに嘘はないこと。そこにクロっちの鈍感な反応も添えて話した。
「うーん、それはクロちゃんも少し悪いかもねぇ。でもクロちゃんは性格は大人に思えるかもしれないけど、まだ子供なんだから。その辺も考慮して欲しかったかなぁ」
「申し訳ないっす…」
「まぁ人を好きになる気持ちに年齢とかは関係ないからねぇ。特にクロちゃんの場合、子供とは思えない言動とか行動力とかあるし。…わかったよ。あとはクロちゃんと二人で話し合ってどうするか決めて欲しいかな。ただ、キスくらいなら良いけどそれ以上は駄目だよ? 倫理的に」
「わ、分かってるっす! 流石にしないっすよ!!」
リューネさんに釘を刺されてからクロっちの部屋へと向かう。ここまで来たは良いけど正直クロっちにどんな顔をして合えばいいかわからなかった。でも私から避けるのは筋が通らないっすよね。
意を決してドアをノックすると、クロっちのか細い声が聞こえてきた。
「は~い、どうぞぉ…」
「お、お邪魔するっす」
クロっちの部屋に入ると、苦しそうにベッドに寝ているクロっちがいた。私に気付いたのか驚いたような顔をしてベッドから起き上がろうとする。
「あ、ダメっすよ。ちゃんと寝てないと」
「フラン先生…なんでここに…」
「クロっちが風邪引いたって聞いてお見舞いに来たんすよ。バナナとか持ってきたっすよ」
「あ、ありがとうございます…」
~クロード視点~
フラン先生が俺のベットの横の椅子に座り、2人の間に沈黙が流れる。置き時計のカチコチという秒針の音が妙に大きく聞こえていた。
「「あの…」」
「な、なんすか!? クロっちからどうぞっす!」
「いえいえ、フラン先生からどうぞ!」
「「・・・・・・」」
くっ、沈黙が辛い。なにか話さなければ…。
「あの…具合、どうっすか?」
「え、えぇ。さっきまで辛かったですけど、今は大丈夫ですよ」
「…その、ごめんっす。クロっちが風邪引いちゃったのって…私のせいっすよね? 私があんなことしちゃったから…」
「いえ、あの…俺は…」
「でも、でもね、あの時言ったこと…嘘じゃないんすよ? 私は本気でクロっちの側に居たいって…思ってるっす…」
「フラン先生…一つ、聞いてもいいですか?」
「…なんすか?」
「なんでその…俺なんかと一緒に居たいって思ってくれたんですか? 正直、俺なんて見た通りの子供だし、そんな風に思って貰える要素ってないと思うんですが…」
「そ、そんなことないっす!」
フラン先生が身を乗り出して全力で否定する。
「クロっちはカッコイイっす! それに一緒に居るとすっごく楽しいっすし、見た目は子供なのにちょっとエッチだけど大人な考えを持ってるっす。それにたまにドキってしちゃうくらい優しい時もあるっすし…クロっちの良いところなんて、他にもいっぱいあるんすよ?」
「あ、ありがとうございます…」
「あぅ…」
まさかフラン先生の評価がそこまで高いなんて思ってもみなかった。転生してから女の子には優しくしようと心がけていたが、こんな風に想ってくれているのを知ることが出来て正直ものすごく嬉しい。でも、俺自身はどうなんだ? フラン先生のこと、どう思っているんだろう。
「クロっち…私は…クロっちが好きっす。クロっちの気持ちも…教えて欲しいっす…」
「俺は…俺も、フラン先生が好きですよ」
「ほ、ホントっすか?」
「でも…フラン先生と同じぐらい気になっている子もいるんです。ユミナ先生やアリアにリムル。みんな、俺にとっては凄く大切な女の子達なんです」
「そ、そんなにいるんすか…」
言っていることは我ながら最低だが、俺の将来の目標はハーレムを作ることだ。だからフラン先生にも俺が他の女の子にも好意があることは言っておかなければならない。
「だから、こんな他の女の子にも好意を持っている状態で…フラン先生の気持ちにどう答えればいいのかわからないんです」
「…わ、私のことは、好き…なんすよね?」
「えぇ。それは間違いありません。俺は…フラン先生のことが1人の女性として好きですよ」
フラン先生が真っ赤になって俯いている。多分俺の顔も真っ赤だろう。しかし、気が多い俺を選んでくれるかはフラン先生が決めることだ。
「「・・・・・・」」
沈黙が長い。これはダメなやつかな…。
「…クロっちは…男爵様なんすよね?」
「え? えぇ、そうですよ」
「それじゃあ、結婚できるのは1人だけじゃないってことっすよね?」
「…まぁ、そうですね」
平民とは違い、貴族は重婚が認められている。所謂一夫多妻制が採用されているのだ。恐らくは子孫を多く残し、家の血を絶やさないための処置だろう。
「それなら…いいっすよ。私だけじゃなくて、他の女の子と恋人になっても」
「い、いいんですか?」
「そ、そのかわり! 私のことも大切にして欲しいっす! 放って置かれたら…泣いちゃうっすよ?」
フラン先生が目に涙を貯めて泣きそうになっている。よっぽど考えて出した答えなのだろう。このフラン先生の出した結論を、俺は重く受け止めなければならない。
「わかりました。俺の全てでフラン先生を大切にします。絶対に放ってなんて置きません。だから…俺の恋人に、なってくれますか?」
「…はいっす。私を…クロっちの恋人にしてくださいっす! んっ…」
フラン先生が感極まったのか、急にキスをしてくる。俺もそれを全力で受け入れる。フラン先生に風邪移っちゃったりしないかな?
「んっ…ちゅっ、んむ…んんっ、んちゅ…」
「ちゅ…んふっ、んちゅっ…ンくっ…んっ」
「んっ、んんん―――ぷはぁ…はぁ、はぁ…」
「はぁ、はぁ…フラン、先生…」
「にゅふふっ、クロっちのセカンドキスも、奪っちゃったっす」
頭がクラクラする。なんかもう色んなものが限界突破しているようだ。フラン先生が愛おしい。彼女の全てが欲しい。そんな考えが頭の中を支配する。しかし今の俺の小さなジュニアは全く役に立たない。その時、あのスキルのことを思い出した。
「【身体変化魔法】…発動! ぐっ、ぐおおおお!!」
「え、ちょっ…クロっち!?」
俺の体が光り輝き、着ていた衣服を突き破りながら体全体が急成長していく。体がミシミシと言いながら身長が伸び、筋肉が引き締まり、ジュニアがムクムクと巨大化していく。そんな光景を間近で見ていたフラン先生は、どうしていいか分からずに唖然としていた。
「クロっちが…大人になっちゃったっす!!?」
「はぁ…はぁ…ところでフラン先生、こいつを見てください。どう思いますか?」
「すごく…大きいっす…。じゃなくて! どど、どうしちゃったんすかクロっち!?」
「ちょっと魔法で…大人になってみました。さぁ続きを…くっ!」
「く、クロっち!? クロっちぃぃぃ!!」
目が覚めたのは暫く経ってのことだった。どうやら風邪を引いて熱があったところに【身体変化魔法】を発動したので、体に無理がかかって風邪が悪化しぶっ倒れてしまったようだ。
頭の裏に柔らかい感触がして、横を見るとフラン先生が膝枕をしていてくれていた。
「あ、起きたっすかクロっち?」
「はい…すいません。膝借りちゃって」
「ううん、いいんすよそれぐらい。それより体大きくなっちゃったっすけど、大丈夫なんすか? ちゃんと元に戻れるんすよね?」
「ええ、時間が経てば戻れますよ。…大きくなった俺、ダメでしたか?」
「え? あぁ、そう言う意味じゃないっすよ。大人のクロっちもカッコよくて良いと思うっす! でも、いきなり目の前で大きくなられたら…どうしていいかわからないっすよ…」
…そりゃそうだ。冷静に考えてみたら男が目の前でいきなり巨大化したら絶対ドン引きするだろう。少なくとも俺ならその時点で家に帰るレベルだ。どうやら頭が沸騰して暴走してしまったようだ。
「すいません。フラン先生が可愛すぎて暴走しました」
「あぅ…ありがとうっすクロっち。私、可愛いとかあんまり言われたことないっすから、好きな人に可愛いって言われるとやっぱり嬉しいものっすね。にゃはは…」
照れてるフラン先生も超可愛い。その愛らしい顔を見ていると、興奮して再びジュニアにブーストが掛かってしまった。そういや俺って今服が全部破けて全裸だったな。
「!!! く、クロっち? なんかその…おっきくなってるっすよ!?」
「す、すいません! 生理現象なので気にしないでください!」
股間を隠しながらこんなこと言うのは物凄く情けないな。まるで昔のエロ漫画のようだ。
「…その、そこ…苦しいんすか?」
「え? あ、いや、苦しいって言えば苦しいですけど…」
「き、気持ちよくしたら楽になるんすよね? 私も少しは知ってるっす!」
フラン先生が俺のジュニアをガン見している。これってまさか…そういうことか?
「その…気持ちよくしてくれますか? フラン先生…」
「私初めてで、下手かも知れないっすけど…それでもいいなら…」
「それじゃ、お願いします…」
「わ、わかったっす。私はクロっちの彼女っすからね。が…がんばるっす…」
フラン先生の手がブーストした俺のジュニアを握ろうと…コンコン…ん?
「クロちゃーん、起きてる~?」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!
「おおおおお起きてるよ!?」
「あわわわわわわわ!!」
「なんかすっごい慌ててない? 入るよぉ」
リューネ母さんが部屋に入ってきた瞬間、凍結魔法にでも掛かったように周囲が凍りついた。真っ赤になっているフラン先生と、その顔の間近にブーストしたジュニアを突きつけている俺。そしてその光景を見せ付けられているリューネ母さん。
「「「・・・・・・・・・」」」
ち、沈黙が重い…。
「えーっとぉ、クロちゃん…だよね? なんか色々大きくなってるけど…」
「…はい。不肖クロードでございます…」
「…服着たら2人共リビングに来てね。お話があるから」
「「はい…」」
その後なんとか合う服を探し出し、着替えてからリビングに行く俺とフラン先生を待っていたのは、笑顔だが完全に怒っているリューネ母さんのお説教タイムだった。
「とりあえず、正座しよっか。二人共」
「「はい…」」
それから約1時間、リューネ母さんの説教は続いた。最終的な判断は、恋人になるのは別にいいけど俺が成人(15歳)するまでエッチな事は禁止という厳しいものだった。
「母さん、それはさすがに…」
「ん? なぁにクロちゃん。文句でもあるのかな? かな?」
リューネ母さんの後ろに鬼神のようなものが見える。これ逆らっちゃダメなやつだ。
「な、何でもありません!!」
「よろしい。それよりクロちゃん、どうやって大人になったの?」
「え、いや、魔法だけど」
「いやいや、そんな魔法、私でも…ていうか国王陛下の近衛魔導師でも使えないと思うよ?」
そりゃそうだろう。【身体変化魔法】は魔法神お手製のオリジナルスキルだからな。リューネ母さんみたいな魔法のエキスパートには下手に誤魔化してもバレるだろうし、ここはある程度正直に話した方がいいのかもしれない。
「実は、この魔法は魔法神様に貰った魔法なんだ」
「魔法神様に?」
「うん。前に教会に行った時に大人になりたいってお願いしたら教えてくれたんだよ」
「………」
リューネ母さんは何かを考え込んでいる。魔法神様のことを言ったの拙かったかな?
「そっか…。クロちゃん、その魔法は人前では絶対使っちゃダメだよ。もし魔法革新協会とかにバレちゃったら大変なことになっちゃうからね」
「魔法革新協会?」
「うん。魔法技術の発展に全てを捧げてる集団があるんだ。その為には人体実験すら厭わないらしいんだよねぇ。もし捕まっちゃったら骨の髄まで研究材料にされちゃうから本気で気をつけてね」
そ、そんな物騒な協会があるのか。知らなかった。
「わ、わかった。気をつけるよ」
「うん。それじゃ話はおしまい。クロちゃんは風邪引いてるんだからお部屋に戻って寝なきゃダメだよ。フランちゃんも今日は帰ること。わかった?」
「了解っす。今日は帰るっすよ」
「それじゃ入口まで送りますね」
フラン先生と家を出る。リューネ母さんはリビングでずっと何かを考えているようだった。
「それじゃ帰るっすねクロっち。ちゃんと寝なきゃダメっすよ?」
「はい、わかってますよ。…フラン先生、またすぐに会えますよね?」
「もちろんっすよ。明日もまた来るから待ってて欲しいっす」
「わかりました。待ってますね」
フラン先生が周りをキョロキョロ確認してから俺に近づき、軽くちゅっとキスをしてくる。
「…また明日っす」
「…はい。また明日」
手を振りながらフラン先生が帰っていく。彼女っていうのは一緒にいるときは幸せで、離れると寂しいものだったんだな。こんな気持ち、初めて知った。
…頑張って絶対に幸せにしよう。そう心に深く刻み込む俺だった。
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