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第23話「王国生誕祭2日目」

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「もう朝か…」

 今日の目覚めは芳しくない。昨日やらかしちゃったというか、やられちゃったというか。王国中の人達に勇者認定されて外を歩きにくい。男爵にまでなってしまうし…。

「本気で引きこもっちゃおうかな…」

 だが周りがそれを許さない。今日も売られた子牛のようにお祭りに引っ張られていくんだろう。


 コンコン。

 ドアのノックの音が聞こえる。やはり引っ張られて行く運命だったようだ。

「はいー、どちらさまですか?」

「クロード、俺だ」

 ドアを開けると、父さんが入ってきた。

「父さん!?」

 何で父さんがこんな朝っぱらから…。仕事しないで大丈夫か?

「聞いたぞクロード。昨日は大活躍だったらしいな」

「大活躍っていうか、陛下への攻撃魔法を防いで襲撃犯捕まえただけだよ?」

 父さんは『はぁ…』と大きい溜め息を吐く。

「それを大活躍と言わずに何と言うんだ」

「でもそのせいで王都住民に勇者認定されちゃったんだよ! 恥ずかしくて外歩けないよ…」

 少し歩くだけでヒソヒソ噂されるのだ。悪い噂じゃないのかもいれないけど正直気分は良くはない。前世で色々あってそういうのは気になるお年頃なのだ。

「まぁ、そういうのは気にするから気になるんだよ。気にしないで普通に祭りを楽しんでみたらどうだ?」

 父さんも無茶を言う。それが出来たらこんなに凹んでいない。

「…善処します」

 やれやれといった感じで、懐の中からなにかを取り出した。

「クロード、これをやるから元気出せ」

 父さんから手渡されたそれは、なにかのチケットのようだった。

「これは?」

「今日のイベントの特別チケットだ。誰か誘って行ってくるといい」

 そのチケットには『クリスティア花火大会特別遊覧ペアチケット』と書かれていた。

「花火!?」

「ああ、なんでも勇者が作った光り輝く魔法を城の魔導師が空に打ち、それが爆発してとても綺麗に見えるって話だ」

 やっぱり勇者か。現代知識取り入れまくりだな。多分魔法創造を持った勇者とやらが作ったんだろう。

「ありがとう。楽しんでくるね」

「ああ。それじゃ俺は仕事だから行く…無理はするなよ。心配するからな」

「…うん。ありがとう、父さん」

 そう言って父さん行ってしまった。仕事忙しいのにわざわざ来てくれたなんて、感謝しないとね。引きこもりはやめて部屋を出ると、そこには誰もいなかった。先生達の部屋を訪ねても反応がない。

「あのークロード様にお手紙預かってるんですが」

 俺を見つけたサーシャさんが声をかけてきた。サーシャさんは朝のエプロンスタイルで俺への手紙を持っている。誰からだろう?

「ありがとうサーシャさん」

「いえ、それでは失礼します」

 早速中身を見てみる。これが不幸の手紙的な物だったら枕を濡らして引き篭る。


 私達は闘技場に武闘会を見に行く。
 クロードは寝ていたので手紙を残す。
 後でお前も来るといい。

 シルビア


 シルビア先生らしい、さっぱりした手紙だった。イベントで武闘会とかもやってるんだね。行くかどうかは別にして、とりあえず街に出よう。何するかはそれから考えても遅くはない。

 街の中の喧騒は昨日と変わらない。むしろ昨日より人が増えてる気がする。この中に紛れ込めば俺のことなんてわかるわけないよな。気にしないでおこう。頑張る。

 昨日行けなかった屋台で朝食を買いつつ歩く。しばらくすると、大きな声や激しい音がするエリアに入った。この辺はアミューズメントエリアなのかな? 大道芸や力試し。弓での的あて。輪投げ等いろいろと体を使ったアトラクションがある。その奥の一角に大きなテントがあり、競りのような声が聞こえてきた。看板を見ると、どうやらテントの中にはオークション会場があるらしい。掘り出し物があるかもしれないからちょっと見ていこうかな。


「次の品はこちら!」

 品物が台車で運ばれ、ステージの中央のテーブルに置かれる。そこには煌びやかな短剣が鎮座していた。高そうだなあの短剣。

「かつての勇者が使っていたとされるティターニアの短剣! 風属性の効果がついている魔法剣で、専門家の鑑定書のついた本物です! こちら金貨500枚から!!」

「550!」「600!」「610」・・・

「それではこちら金貨900枚で落札です!!」

 900枚か。白金貨9枚分。900万円である。俺もちょっと欲しいと思ったけどお金は有限だ。臨時収入があったけど無駄遣いしちゃいかんよね。

「それでは次の品はこちらです!」

 あ…あれは!

「勇者が残したらしきレシピ集! 表面にレシピ集と書かれているだけで中身は未知の文字で書かれています。文字を研究をする方には丁度いいかもしれません! 金貨50枚からスタートです!」

「60」「70!」「90!」

 値段が上がっていく。遠めだから見づらいけど、あの中身って日本語だよな。もし勇者が残した日本食のレシピとかだったら絶対欲しい。これはもう買うしかないよね。手を挙げて金額をコールする。

「150!」

「さぁ150出ました。他にいませんか!」

「160」「170」「175」

「さぁ175、175です! 他にいらっしゃいませんか!」

 なかなか竸ってくるな。そろそろ決めにかかってみよう。

「300!!」

「さぁ300! 300です! 他にいらっしゃいませんか!」

 誰もコールしないところを見ると、竸っていた連中は諦めたようだ。まぁ読めない本に意味ないしな。

「それでは金貨300枚で落札です!」

 どうやら落札できたようだな。これ以上値が上がったらどうしようか悩んだところだったから良かった。買ったものを受け取りに、商品受け取り所に行く。

「落札おめでとうございます! こちら商品になります」

 白金貨3枚を支払い、レシピ集と書かれた本を受け取る。中にはたしかに日本語が書かれていた。ぱっと見はやはり料理のレシピらしい。後でじっくり読ませてもらおう。


 オークション会場を出てどこか落ち着いて本を読める場所を探す。表通りはうるさいから裏通りにでも行ってみるか。表通りの脇道から裏通りへと入る。表の喧騒とは隔絶されて静かになった。

「きゃあ! や、やめてください!」

 静かになったと思った途端、奥の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。本読ませなさいよ。

「マジか…」

 トラブルホイホイは健在らしい。声のする方へ行くと、3人の冒険者のような男達がフードを被った女性を追い込んでいるようだった。

「へへ、こいつだよな。聞いてた格好と同じだし」

「お嬢さん、こんなところに一人で来たら危ないよ。俺達みたいなのがいるからね! ひゃははは!!」

「何をするんですか! 腕を離してください!」

「残念ながらお前はもう俺らのものなんだよ! このフードも取っちまいな」

「あっ!」

 フードが剥ぎ取られその姿があらわになる。その姿は見目麗しい美少女だった。というかどこかで見たことある顔だ。あれってまさか…

「当たりだ。こいつ攫えば白金貨だぜ」
「おい、早く攫っちまおうぜ! いや、その前にちょっとぐらい味見しても大丈夫だよなぁ!」
「そうだな、もうここでヤっちまおうぜ! おい、服脱がせろ!」

「いや…いやぁ!!」

「はい、そこまで!」

「がはぁ!!」

 身体強化アクセルブーストを掛け、鞘から抜いてない剣で相手の脇腹に強打を打ち込む。相手は回転して吹っ飛び、壁にぶつかり動かなくなった。

「なっ! 誰だてめぇ!」

「お前らわかってんの? 生誕祭中に犯罪犯したら下手したら処刑だよ?」

「はぁ? 何言ってんだこのガキ」

「処刑が怖くて犯罪やるかよ!」

 あぁ、そっちの人種ってことね。さっきの話を聞く限り誰かに依頼でもされたのかな?

「なら手加減はいらないな」

 ダッシュで突っ込み相手に行動する隙を与えない。剣の鞘で顎を打ち抜き、ボディに膝を入れ、延髄に鞘を振り下ろして地面に叩きつける。女性を掴んでいた手は離され、その男の意識は消失した。

「…で、お前はどうする? やる?」

「い、いや、勘弁してくれ! 俺が悪かった!!」

「あっそ。許して欲しかったら、誰にこの子を攫うように言われたか吐いてもらおうか」

 鞘から剣を抜き放ち、男の喉元に突きつける。

「なっ、ひ、ひぃぃ!」

「さっさと吐け。こう見えても俺は忙しいんだ」

「くっ、黒いローブで全身を覆った男だ! 名前は知らねぇ。そこの女の特徴を教えられて、攫えば白金貨1枚と交換してくれるって言われたんだよぉ!」

 それだけじゃ全然わからんな。黒ローブ?

「他には? その男の特徴は? 取引方法は? お前達はなんでその依頼を受けた?」

「さ、攫ったらその女は丁重に扱えと言われた。裏路地に女を連れて行けば深夜に引き取りに来るとも…それ以上は知らねぇ…顔も見えなかったしな。俺達は依頼料が破格だから依頼を受けただけだ! 勘弁してくれ!」

 この子の特徴をこいつらに教えた事といい、報酬が破格な事といい、この子の素性を知っていて狙わせた可能性大だな。そうじゃなきゃ丁重に扱えなんて言わないだろう。何が目的かは知らないが、黒ローブの男…要注意だな。

「もういいや。じゃあおやすみ」

「へぶっ!!」

 男の顎を剣の柄で思いっきり打ち上げると男は気絶し、その場には俺と襲われていた女性だけが残った。男達が全員動かないのを確認すると、女性が俺に近づき頭を下げてくる。

「あのっ、ありがとうございました!」

「いえ、それより…」

 女性の顔を見る。服装と髪型変えてるけどやっぱりそうだよな。昨日見たばっかりだし間違いない。

「こんなところで何してるんですか? リムル王女様」

「!! なっ、なんのことですか!? 私はただの女の子…」

「いや、昨日会ってるじゃないですか。パレードで」

 王女は俺の顔をじっと見てはっとした感じになった。身長とかでも分かりそうなものなんだが。

「ク、クロード様!?」

「正解です。改めてクロード=グレイナード男爵です。以後お見知りおきを。それでさっきの質問に戻るんですが、なぜここに?」

「あの、その…」

「…とりあえず場所を変えましょうか。こんなとこじゃ落ち着かないでしょう。近くにカフェがあるのでそこ行きましょうか」

「は、はい…」


 裏路地から表通りにある近くのカフェへと向かう。店の中に入ると、ちょうど席が空いていた。

「とりあえずなにか頼みましょうか。何飲みます?」

「紅茶を…お願いします」

「了解です。お姉さん注文いいですか?」

「はーい、今行きまーす」

 紅茶と果実水を注文して、王女様と向き直る。王女様は落ち着かない感じでそわそわしていた。

「それじゃ改めて聞きますが、なぜここに?」

「えっと…お父様に報告しますか?」

「いえ、ここにいるのにもなにか事情があるのでしょう? それを聴かずに報告したりはしませんよ」

「そうですか、ありがとうございます。実は…」

 王女様が城を抜け出す理由ってなんだろう。その身が現在進行形で狙われてるし、家出とかだったら速攻王城に連絡決定だな。連絡しなかった場合、下手したら俺が罰せられる可能性がある。王女様の返事を待ち息を呑む。

「私、お祭りを見てみたかったのです!」

「…はい?」

「いっつもお城から外を眺めるだけで、城下には行ったこともなかったのです。それで今回のパレードに出たあとにその気持ちが大きくなってしまって…お城を抜け出して自由になったと思ったら変な男の人達に絡まれて、それであなたに助けていただいたのです」

「城下の祭りを見たかった…だけ?」

「だけって…私にとっては重要なことなんですよ!」

 王女様も相当思いつめていたんだろうか。ちょっと涙目になっていた。そんなにお祭りが見たかったのかな。…本当は今すぐにでもお城に帰したいが、少し祭りを見るくらいなら許されるよね? 何かあったら俺が彼女を手段を選ばずに守ればいい。

「わかりました。それじゃ俺が案内しましょうか?」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ。その代わり、俺の友達になってください」

「と、友達!?」

「そう、今から対等な関係。王女様も王女様としてじゃなくて1人の人間、リムルお姉ちゃんとして扱います。いいですか?」

「友達…リムル、お姉ちゃん…」

 どうしたんだろう。なんか王女様がプルプルしてる。昨日のアリアみたいにやってみたんだが、やっぱり王女様と友達とかダメだったかな?

「あの、やっぱりダメですか?」

「いえ! ダメなんてことはありません! 友達になりましょう、クロード様!」

「わ、わかりました。それじゃこれからはクロードって呼んでください。あと言葉使いも丁寧じゃなくていいよ。普通で」

「普通…私はこれが普通なのですが…」

 まぁ王女様だから、そこはしょうがないか。

「ならそれで大丈夫だよ。あとは服とか髪とかもっと弄ればリムルお姉ちゃんが王女様だってわからなく出来るかも」

「本当ですか!?」

「うん。お茶飲んだあと服屋さんに行ってみようか」

「でも…私そんなにお金持ってないですよ?」

「今日のところは俺が払うよ。友達になった記念のプレゼントってことで」

「!! 友達の…プレゼント…」

 どうやら王女様は友達に飢えてるっぽい。それなら一緒に遊んで満足させてあげなきゃね。一応【探索魔法サーチ】で黒ローブの男を調べているが、検索にヒットしない。この辺にいないのか服装を変えているのかはわからないが。彼女への敵意も感じないし、とりあえずは大丈夫だろう。

 カフェを出たあと、その足で一件の服屋さんに入った。先ほどのカフェの店員曰く、ここが今、王都の女の子に一番人気の店らしい。洋服の店『アルフラー・ベル洋裁店』。店内に入ると、そこには身体が屈強な筋肉に覆われた、強面で三つ編みの漢女な店員がいた。

「いらっしゃぁい! アルフラー・ベル洋裁店へようこそぉぉぉん♪」

 くねくねしながらこちらにやって来る。漢女な店員って流行ってるのか?

「私が店主のアルフラー・ベルよん。ベルちゃんって呼んでねぇ♪」

 また濃いのが出てきたなぁ。グレゴリオさんと似たようなものを感じる。

「あの、この子の洋服一式をお願いしたいんですが」

 リムルお姉ちゃんはフードを取り、顔を晒した。そこには長い金髪を束ねた美少女が立っている。

「よ、よろしくお願いします」

「あらぁ! 可愛い子じゃないのぉん! これは腕が鳴るわねぇ!」

 そう言ってベルちゃんは商品から服を数枚選び出し、リムルお姉ちゃんに手渡す。

「そうねぇ、とりあえずこんなものかしら。試着してみてくれるかしらぁん」

「は、はい! 着てみますね!」

「あのリムルお姉ちゃん、服の着替え方ってわかる…よね?」

「わかりますよ! 馬鹿にしないでくださいぃ!」

 そう言ってプンプンしながら試着室の中に入っていった。王女様といえば全部侍従とかにやらせて着替えも出来ないイメージがあったんだが、どうやらそんなことはなかったらしい。ベルちゃんが俺の近くに寄って囁いてくる。

「…坊や、あの子王女様よね? リムルって呼んでたし」

「!! わかってたんですか?」

「そりゃあね。私も何回か顔を見たことあるし。私一度見た人間の顔は忘れない特技があるのよぉ」

「それで、どうします?」

 衛兵に連絡とかするなら速攻でリムルお姉ちゃん連れて逃げるけど。

「どうするって、なにか事情があるんでしょ? 私は可愛い女の子の味方なの。それを邪魔したりしないわよん。あなたも悪い子に見えないしね」

 そう言ってウインクしてくる。キツいって。

「それなら、服もそうだけど髪も変えて変装させてあげて欲しいんです。リムルお姉ちゃんが王女様だってわからないように」

「変装して何する気なのん?」

「祭りが見てみたいらしいんです。今まで城の中からしか見たことないからって。そんなささやかな願いなら叶えてあげたいじゃないですか」

「そういうことね。承ったわぁん! あの子を変身させちゃいましょう!」

「よろしくお願いします」

 試着室から出てきたリムルお姉ちゃんは薄い空色のワンピースを着ている。どうやらこれが気に入ったらしい。むっちゃ可愛い。麦わら帽子もあったら完璧なんだが。

「それで決定かしらぁ」

「はい! この服すっごく可愛いんで気に入っちゃいました!」

「ありがとぅ。それじゃこっち来てもらえる? その服に合わせてお化粧しちゃうから」

「お化粧も出来るんですか?」

「ええ。この店は服だけじゃなくて化粧品も取り扱ってるのよぉん」

 そう言いながら奥の部屋へ進み、そこで変装用化粧を施す。ぱっとみではリムルお姉ちゃんが王女様とはわからない感じになった。でもこれはこれで可愛い。

「クロード、どうですか?」

「あぁ、良く似合ってるよ。すごく可愛い!」

「あぅ/// ありがとう、ございます」

「初々しいわぁ。それじゃ化粧代はサービスってことにしてあげるわねぇ」

「いいんですか?」

「えぇ。甘酸っぱいものを見せてもらったお礼よぉん」

「? よくわからないけどありがとうございます」

 会計を済ませ店を出る。リムルお姉ちゃんの元々着ていた服は俺の【無限収納】に入れておいた。

「あの、お代本当に良かったんですか?」

「別に問題ないよ。一応冒険者やってるしそこそこ持ってるから」

「冒険者さんなんですか!? その歳ですごいですね…」

「リムルお姉ちゃんは何歳なの?」

「私は今12歳ですよ。今年から学園に通っているんですよ」

「12歳か。俺と1歳しか変わらないじゃん」

「1歳って…え? 11歳なんですか!?」

「うん。俺の年齢聞いた人が大体同じ反応するけどね。それで学園って、クリスティア貴族院?」

「は、はい…知っているんですか?」

「俺の兄さんが2人通っていたんだよね。もう卒業しちゃったけど」

「それじゃ私の先輩がお兄さんなんですね。同じ学園の者として、お兄さんに宜しくお伝えください」

「うん、わかったよ。それじゃ屋台でも見てまわろうか」

「はい!」

 やたら数がある屋台を見て回る。昨日も何件か回ったけど、屋台ってのは何回回ってもいいものだね。唐揚げや、たこ焼きモドキ、クレープなんかも食べた。
 相変わらず【探索魔法サーチ】に敵対反応はない。出てこないつもりかな?

「あっちに色々遊べるのもあるよ」

「行ってみましょう!」

 先ほど行ったアミューズメントエリアに行ってみる。人通りが多く騒がしい所だ。ここなら黒ローブの男が居たとしても仕掛けられないだろう。傷付けるだけなら逆にやりやすいけど、出てきた瞬間に御用にしてやる。

「あれ、可愛いですね」

 そこには弓の的あてがあり、景品の大きなクマのぬいぐるみが飾ってある。行けるかな?

「一回やらせてください」

「あいよ! 弓は3本で当たった点数で景品は変わるぜ。坊やは小さい弓の方がいいよな」

「いえ、普通の弓で大丈夫ですよ」

 ちょっと大きいが、身体強化アクセルブーストを使えば余裕で引ける。

「あいよ! それじゃ頑張ってくれ」

「クロード! 頑張ってください!」

 目標はクマのぬいぐるみ。25点以上取れるとゲットだ。的までの距離は約8mで中心にあたると10点。そこから外にズレていく度に2点マイナスとなる。フラン先生にあれだけ投擲と弓を学んだ俺の命中率に死角はない。一本目を放つとまっすぐ中心へと当たった。

「おお! すげぇ」
「何だあの少年、ど真ん中当てたぞ」

 2本目はちょっと外して8点、そして3本目。

「ここだ!」

 弓を放つと、一本目に当てた矢の真横へと突き刺さった。

「すげぇ! おめでとう、これが景品だ」
「スゲェぞ坊主!」
「あのクマいいなぁ」

 景品の大きなクマのぬいぐるみを受け取る。周りの声援に手を振って答え、そのまま俺達は店を出た。

「すごいですクロード! こんなに弓が上手だったなんて!」

「あはは、ありがとう。それじゃあはい、これあげる」

「えっ!? いいんですか?」

「リムルお姉ちゃんの為に取ったんだから。もらってくれなきゃ困っちゃうよ」

「…ありがとうございます。クロード」

 そんなこんなやってるうちに、時間はもう夕方になっている。色々やってたら時間経つの早いなぁ。そうだ、あのチケット…。

「リムルお姉ちゃん、最後に行きたいところあるんだけどいいかな?」

「え? どこ行くんですか?」



 花火大会は少し離れた場所に見るための会場を設営している。徐々に人が集まってきている会場に行き、受付に今朝父さんにもらったチケットを見せる。

「このチケット使えますか?」

「! 坊や、このチケットどこで手に入れたのかな?」

「父さんに貰ったんだけど」

「そのお父さんの名前教えてもらってもいいかな?」

「ガルシア=グレイナード・ファルネスですけど」

「!! こ、これは失礼しました。貴族様とは思わず…」

「いや、かまわないですよ。席に案内してもらっていいですか?」

「はい! それではこちらへご案内します」

 案内された先は花火が見える河川敷が一望できる特等席。傾斜がある地面に【無限収納】から布を敷いて座ると一心地付いた。周囲には人があまりいなく、これから暗くなるから絶好のポジションだろう。【探索魔法サーチ】の警戒度をMAXにしておく。

「こんな場所のチケット、よく手に入りましたね」

「今日の朝に父さんがくれたんだよ。一緒に行く人いなかったからどうしようかと思ってたけど、リムルお姉ちゃんが付き合ってくれてよかった」

「クロードは…恋人とかいないんですね」

「まだ11歳の子供に何言ってるんだか」

「そうでしたね。11歳なんですよね…」

 暫くリムルと話していると、徐々に辺りが暗くなってくる。その時、拡声魔法による放送が聞こえた。

『これより第55回王国生誕祭記念花火大会を開始いたします!』

 ヒュ~~~…どぉぉぉん!!

 花火が上がる。花火っぽい魔法かな。でもちゃんとあの花火の形になっている。それ以外にも動物の形や果物の形、剣や弓の形なんかもあった。

「綺麗ですね…こんなに綺麗な花火、初めて見ました…」

 リムルお姉ちゃんはずっと花火の方を見ている。本当に感動しているようだ。花火の光に照らされたその姿は、思わず見惚れてしまうほどに綺麗だった。

「俺も初めて見たよ。こんなに綺麗なの」

「はい! …クロード、今日は色々ありがとうございました」

「どうしたの? 急に」

「ちゃんと言っておきたかったんです。今日は本当に楽しかったです。お祭を体験できたし、お洋服を買ってもらって、クマのぬいぐるみも貰っちゃって、花火も見せてもらって…。私、貰ってばかりですね」

「言っただろ、出会った記念って。俺もリムルお姉ちゃんと遊べて楽しかったからおあいこだ」

「…もうリムルでいいですよ? なんかクロードと話していると、年下な気が全くしないですし」

「そうか? まぁリムルが喜んでくれたなら、エスコートした俺も面目が立つってもんだよ。俺と遊んでくれてありがとう、リムル」

 そう言いながら笑いかけると、リムルの顔がちょっと赤かった。花火のせいかな?

『それではこれで第55回王国生誕祭記念花火大会を終了します!お忘れ物のないようお帰りください!!』

「…終わっちゃいましたね」

「そうだな…んじゃ帰るとしますか」

 結局変装したのが効いたのか、黒ローブらしき敵対反応はなかった。こちらに視線を飛ばしている人間は何人かいたが一般人ぽいし、リムルが可愛いから仕方ない。黒ローブ…帰ったのかな?

「はい…」

 花火会場から出て2人で王城へ向かう。しかしリムルの表情はまだ暗い。

「やっぱり城には帰りたくないのか?」

「…帰りたくないって言ったらどうしますか?」

「どうもしない。そのまま送り返す」

「…厳しいですね」

「でもなにか困ってるなら助けてあげたい。俺はリムルの友達だからな。友達が困ってるなら力になってあげたいんだよ」

「クロード…ありがとうございます」

「それで、なにか困ってるのか?」

「いえ…ただ、お城に戻ったらまた退屈な毎日が待ってるんだって思ったら、戻りたくなくって。おまけに今日抜け出しちゃったから、これからしばらく外に出してもらえないかもしれないし」

「…それじゃさ、来年俺、王都の冒険者学校に入学するからその時にまた会おうよ。俺もリムルとまた会えるのを楽しみにしてるからさ。それまでお互い頑張るってことじゃだめか?」

「王都に来るんですね…わかりました。私もまたクロードに会えるようにがんばります!」

「ああ! 俺も頑張るよ。リムルに負けないように」

 お互いに笑い合うとリムルが何かを決意したような表情を見せた。

「今日は帰ります。最後まで送ってくださいね、クロード男爵様♪」

「畏まりましたリムル王女様」

 そのままリムルと街道を歩いていく。王城に着くと兵士が駆け寄ってきた。

「おい! ここは王城だぞ。こんな時間に何をしている!」

「ただ今戻りました。…私がわかりませんか?」

「お前は何を言って…お、王女さま!!!?」

「王女様、変装をしているのをお忘れかと」

「あっ!」



 その夜、いなくなっていた王女様が発見されたと城内は大騒ぎになった。俺は謁見の間に通され、リムルを発見し、救った恩人として陛下に感謝されてしまう。

「クロード、リムルを見つけてくれて感謝する」

「いえ、たまたま王女様が攫われそうなところに通りかかっただけですので。救出した時に王女様に絡んでいた男達に聞いたのですが、リムル王女様を狙っている者がその者達に依頼を出していたようです」

「ん? どういうことだ。詳しく述べよ」

 3人組の男から聞いた話と、警戒していたが結局それ以降何もなかったことを話した。リムルは知らなかったかのように驚いたような顔をしていた。

「私が狙われていたなんて…そ、そんなこと初耳ですよ!?」

「いやいや、王女様を囲んでた男が言ってたの一緒に聞いてましたよね!?」

「…だが、なぜ見つけてすぐに王城に連絡しなかったのだ? リムルが狙われているとわかっていたのだろう」

「それは…リムル王女様の願いを叶えるためです。その願いを叶えるため連絡しなかったことは謹んでお詫びいたします」

「…リムルよ、その願いとはなんだ? 申してみよ」

「それは…生誕祭を見てみたかったのです。王城から眺めただけではなく自分の目で。私はいつもお城という名の籠の鳥ですから…たまには自分自身で飛び立って見てみたかったのです!」

「…楽しかったか?」

「…はい。とっても! クロードが居てくれたから…」

「話はわかった。今回は2人共お咎めなしとしよう。リムルを城から出さずに城下で祭りを見せていなかった私の落ち度でもあるからな。だが次からは黙って出て行くのは勘弁してくれ。心配するからな」

「わかりました。ごめんなさい」

「それと、クロードに役目を与える。来年の生誕祭では正式にリムルのエスコートをせよ。それで今回の責任を果たすものとする」

「お父様…ありがとうございます!」

「お役目承りました。必ずやそのお役目果たしてご覧に入れます!」

「うむ。それでは今日はここまでだ。クロード、ご苦労だった」

「はっ! それではまたお会いしましょう。リムル王女様」

「はい。また会えるのを楽しみにしていますね。クロード」


 陛下との謁見も終わり王城を出る。今回の件はお咎めなしで済んだし、来年もまたリムルと祭を回れる。その期待に帰りの足取りは軽かった。結局黒ローブの正体は分からずじまいだったが、陛下には伝えたんだから何らかの処置を取るだろう。そう願うことしか俺には出来ない。


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30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

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