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第21話「謁見とカレーパン」

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 トラブルはあったが2日間の旅の末、やっと王都に到着した。王都の入口の門では門番が警備していて、この時間でも来場者の検問待ちで行列を作っている。俺達はその行列を避け、行列の右側にある貴族用の入口の方へと馬車を向かわせた。

「失礼します。身分証の確認をさせていただきます」

「ガルシア=グレイナード・ファルネスだ。これでいいか?」

 父さんが懐から貴族証を取り出し衛兵に見せる。貴族証は爵位のある者だけが持つことが許される証明書だ。衛兵はそれを確認すると、敬礼し道を開けてくれた。

「拝見致しました。ファルネス卿、ようこそ王都へ」

 衛兵の検問を抜け、馬車を走らせそのまま王都内に入る。王都内には人が多く集まっていて、路上でパフォーマンスをする人達なんかもいた。

「やっぱり王都は賑やかっすね」

「そうですね。建物も綺麗に装飾されてるし人も多い。何かイベントでもあるんですかね?」

「ああ、明日から王国生誕祭があるからな。私はそれに参加するために王都に来たんだが、言ってなかったか?」

「初耳だよ、父さん」

 確かに色々な露天や屋台も出ていて、お祭りみたいな雰囲気を醸しだしていた。すぐにでも屋台巡りをしたい気持ちに駆られてしまう。

「…気持ちはわかるが、王都観光は後でも出来るさ。先に王城に報告に行く。フラン君達にも付き合ってもらうから、そのつもりでな」

「えっ!?」

「シャルティア嬢を救出した功労者だからな。もしかしたら報奨金が出るかもしれないぞ?」

 領主にそう言われたら行かない訳にはいかない。フラン先生は泣く泣く了承した。

「マジっすか…。お金は欲しいけど勘弁して欲しいっす…」

「大丈夫ですよフラン様。取って喰われる訳ではありませんし…」

「心の準備をしておいてくれ。おや、そろそろ王城が見えてきたな」

「あれが王城…。やっぱり大きいね」

 お城の見た目は、前世にあったドイツの ノイシュヴァンシュタイン城に近いかな。王城の外には外堀があり、橋の上では何人かの衛兵が警備している。俺達はその橋の上を通り、王城の門に到着した。

「これはファルネス卿。ようこそお越しくださいました」

「至急国王陛下に謁見したい。リーゼフォン・ウル・バルクホルン侯爵閣下の孫娘であられるシャルティア嬢とアリア嬢を道中で保護したと伝えろ」

「なんと…畏まりました。すぐ連絡致しますので少々お待ちください」

 衛兵がそう言うと門の横の兵舎へと戻り、違う兵を城の中に走らせて報告に行かせたようだ。走って連絡とか遅すぎるだろ。通信の魔道具とかないのかな? …今度魔法で作れないか研究するか。


 数分後。


「確認が取れました! 陛下がお会いになられます! 案内を付けますので城内の謁見の間へとお進みください! こちらの方で武器をお預かり致します」

「わかった。全員ここで降りて謁見の間に行く。サムソン、馬車を頼んだぞ」

「畏まりました。皆様いってらっしゃいませ」

 手持ちの武器を衛兵に渡したあと兵士の案内で王城に入り、2階にある謁見の間へと向かう。城の中はそのまんま中世のお城って感じだな。全身鎧の置物や絵画が飾ってあり、隅から隅まで掃除され綺麗に管理されてるようだ。

「何故私まで謁見を!? くっ! 胃がやばい!」

「クロードくん…大丈夫、だよね?」

「大丈夫ですよ…多分」

「やばいっす…勘弁して欲しいっす…」

 俺達は緊張して吐きそうなレベルでピークを迎えていた。謁見の間の扉の前に来ると兵士がそこに立ち止まり、大声で報告を告げる。

「ファルネス子爵御一行様が御到着なさいました!!」

 すると重厚な扉が開かれ、俺達は謁見の間の中に足を踏み入れる。

 そこには左右に全身鎧の兵士が整列し、文官っぽい人達が数人その奥に並んでいる。そして最奥の階段の上には、ウェーブのかかった銀髪と長いヒゲに、王冠をかぶったガタイのいい人が豪華な椅子に座っていた。

 父さんが階段前のカーペットの端まで進み、跪いて臣下の礼を取る。俺達も父さんに習って、後ろで同じよう膝を着いた。

「ガルシア=グレイナード・ファルネス、只今参上いたしました。国王陛下に拝謁賜われること、恐悦至極に存じます」

「うむ。楽にするが良い。久しぶりだなファルネス卿。話は聞いている。バルクホルン侯爵の孫娘の保護、ご苦労だったな」

「はっ!」

「シャルティア! アリア!」

「「お祖父様!!」」

 あの人がバルクホルン侯爵なのかな? お祖父様というには結構若い見た目の50代後半な男性とシャルティアさん達は抱き合い、再会の喜びを噛み締めている。

「お久しぶりです、バルクホルン侯爵閣下」

「おぉファルネス卿、孫娘たちを保護して頂き感謝する!」

「いえ、道中息子が魔物に襲われている騎士を発見しまして。その騎士を私の護衛の冒険者達が救出したところ、盗賊にシャルティア嬢達が攫われたことが分かったのです」

「と、盗賊に攫われただと!?」

 バルクホルン侯爵がシャルティアさん達を驚いたように見る。

「そうなのですお祖父様! 盗賊に攫われた私達を救うために私の勇者様が颯爽と駆けつけ、あっという間に盗賊達を退治してくださったのです!」

「どういうことじゃシャルティア? 詳しく説明せよ」

 シャルティアさんが当時の状況を説明する。そこで盗賊の牢屋の中にいた奴隷の女の子達のことも説明し、なんとか面倒を見てあげて欲しいとバルクホルン侯爵に訴えかけた。

「ふむ…話はわかった。その奴隷達のことは後で考えるとしよう。それで、勇者様とは?」

 ギンッとした目で思いっきり睨まれた。俺じゃないって。

「はい! そちらにいる虎獣人の女性がフラン様! 私の勇者様です!」

「なんじゃ、女性ではないか」

「女性ですよ? 彼女こそ私が思い描いていた勇者様そのものなのです!」

「お祖父様、お姉様のいつもの勇者病です」

「おぉ…シャルティアは相変わらずなんじゃな」

 バルクホルン侯爵がフラン先生に近寄っていく。フラン先生はそれにより更にビクついていた。

「そこの冒険者。名を聞かせてもらえるか」

「はっ! ファルネス領の冒険者パーティ『銀月の誓い』のフランと申しましゅ!」

 噛んだな。

「そうかフラン。我が孫娘を救いしこと、誠に感謝する」

「い、いえ! 身に余る光栄であります!」

「今儂が渡せるのはこれしかない。少ないが受け取ってくれ」

 そう言うと、侯爵がフラン先生にお金が入った小さな袋を渡す。

「えっと、よろしいのですか?」

「うむ受け取れ。孫娘たちの護衛料だ」

「はっ! ありがたく頂戴いたします!」

 フラン先生は緊張しながらもちょっと嬉しそうにしていた。よかったね。

「…してファルネス卿、その男子が貴殿の倅か?」

「はい、左様でございます。クロード、ご挨拶を」

 父さんに促され、再度頭を下げる。

「はい父上。お初にお目にかかります。ガルシア=グレイナード・ファルネスが三男、クロード=グレイナードと申します。国王陛下に拝謁賜われること、恐悦至極に存じます!」

「うむ、表を挙げよ」

「はっ!」

 顔を上げて国王陛下を見る。やっぱり本物の国王は威厳が違う。気を抜いたら平伏してしまいそうな感覚に陥る。よく見ると国王陛下からは謎のオーラが立ち上り、そのオーラがいつの間にか膝を付いていた俺を包み込んでいた。次第にその力が増していき、土下座させられそうな程の強烈な圧力が俺を襲う。ていうかなんなんだこのオーラ…何かのスキルなのか!? 気合入れろ俺、この力に飲まれちゃダメだ!! うぎぎぎぎぎぎ!!

「…ふむ、いいな」

「え?」

 国王陛下が力を抜くと、今まで感じていた謎のオーラの圧迫感が無くなった。

「その年齢で儂の覇気に対応するとはな。末恐ろしい子供だ」

「まったくですな。さすが剣帝と謳われたファルネス卿の子供よ。ほっほっほ」

 国王陛下とバルクホルン侯爵が和やかムードで話している。ほっほっほじゃねーよ。こっちは一杯一杯だったのに何わろてんねん。

「えっと…どういうことですか?」

「クロード、陛下はお前に『王の覇気』を掛けられていたんだ。体が重く感じなかったか?」

「たしかに国王陛下と目を合わせた途端、何かに圧迫されてる感じはしましたが…」

「それが『王の覇気』。大の大人でも並の者なら跪いて平伏してしまう程の圧力を放つスキルなんだ」

 やっぱりあれはスキルだったんだな。『王の覇気』って…どっかの海賊王か!

「手加減したとは言えあっさり抗われてしまったな。ファルネス卿、賭けはお主の勝ちのようだ」

 …賭けてたのかこのオッサンども。

「賭けって、何を賭けてたんです?」

「お前が陛下の『王の覇気』に耐えきれず平伏したら陛下の勝ち。耐えたら俺の勝ちってことでな」

「それじゃ景品を渡そうか。おい、例の物をこれへ」

 陛下がパンッパンッと二回手を叩くと、騎士の一人が布に包まれた長い物を持ってくる。それを俺の手に渡されると、ズシッとした重さを感じた。

「これは?」

「開けてみるがいい」

 布を取ると一振りの剣が現れた。手に持ってみると吸い付くような感覚がする。これ絶対高いやつだ。

「それは我が国の名工が打ちし剣。銘をセルシオンと言うらしい」

「こ、これを頂けるのですか!?」

「うむ、ファルネス卿が冒険者になるお主への餞別にとな」

「お前なら陛下の覇気にも耐えられると思ったからな。貰っておけ」

「…わかりました。ありがたく頂戴致します!」

「うむ。それではクロード。お主にはかの異端者。錬金術師グリュンストン=マスカレイドのことを聞かせてもらいたい。話してくれるな?」

「畏まりました。お話致します」

 俺はクルーエル遺跡のダンジョンであったことを俺の暴走時の力のことはぼかして話した。さすがに人を生き返らせたなんて話すわけにはいかないからね。すると陛下は、いまいち納得できないような顔をしている。

「…なる程な、話は分かった。だがクロード。お主はその戦いの後、5年もの長い眠りに就いたと聞いた。それは何故なのだ?」

「…わかりません。恐らくは錬金術師との戦いで魔力を使いすぎたのが原因かと」

 陛下がじっと俺を見つめている。この人もしかして、俺のスキルや贖罪の眠りのことを知ってるのか?

「…まぁよい。今はそれで納得しておこう。では謁見はここまでとする。ファルネス卿、クロード、冒険者『銀月の誓い』の諸君、錬金術師の討伐とバルクホルン侯爵令嬢の救出、大儀であった!」

「「「「「はっ!」」」」」



 ようやく謁見が終わり城のロビーへと降りてきた。衛兵に預けた俺達の武器を回収してから城の外へ出る。そういえばこの後ってどうするんだろ?

「父さん、この後の予定はどうなってるの?」

「ああ、お前達の宿はもう取ってあるからそこに行ってくれ。俺の名で予約してある。サムソンが場所を知っているからそのあとは自由にしていい。私は仕事で城にいるから好きにしてくれ」

「わかりました。シャルティア様達はどうするんです?」

「私達はお祖父様のお家にご厄介になります。奴隷の子達のこともありますし、大型の違う馬車を手配していますからここでお別れですね。…ファルネス卿、クロードくん。そして勇者様方。改めてお礼を申し上げます。私とアリアを助けていただきありがとうございました」

「ありがとうございました」

 そういってシャルティアさん達が頭を下げる。

「いえ、お気になさらないでください。偶然が重なってこうなったに過ぎません」

「そうっすよ! 困ってる人がいたら助ける。当たり前のことっすから!」

「フラン様…はいっ!」

 ふと気付くと、アリアさんが俺の近くに寄ってきて服の裾を引っ張ってくる。

「あの、クロード様」

「どうしましたアリア様?」

「あの、ね…お願いがあるのです」

 顔を赤くしながらモジモジしてる。トイレか?

「私と…お友達になって欲しいのです!」

「へっ!?」

「私、まだ学校にも行ってないから友達がいないのです。だから…ダメですか?」

 可愛い女の子にそんな潤んだ目で言われて断れる奴がいるんだろうか。いやいない(断言)

「全然ダメじゃないですよ。俺で良ければ友達になってください!」

 ぱぁっと咲き誇るような笑顔になるアリア様。可愛い子の笑顔はいいものだ。

「じゃ、じゃあ名前、アリアって呼んでくださいです。言葉遣いも敬語じゃなくていいですよ」

 ちょっと悩んだが、本人がいいって言うならいいのかな?

「じゃあアリア、これからよろしくね。俺のこともクロードって呼んでくれる?」

「はいです! クロード、こちらこそよろしくお願いするのです!」

 二人で握手を交わす。こうして俺とアリアは友達になった。周りの大人共がニヤニヤしててなんかウザかった。言いたいことがあるなら言いなさいよ!


 アリア達と別れた後、俺達は馬車で宿へと向かう。宿の名は『パルパル亭』。ラーメン屋みたいな名前だな。しかし外観は綺麗で、結構高そうな宿だ。

 馬車を降りて中に入ると、10代前半の赤毛を後ろで三つ編みにした女の子が出てきた。

「いらっしゃませ! お泊まりですか?」

「えっと、予約してるはずなんですけど」

「ご予約のお名前を伺ってもいいですか?」

 父さんの名前でいいんだよな?

「ガルシア=グレイナード・ファルネスです」

「はい! 伺っていますよ。5名様3泊で2部屋の予約を受けていますが、部屋割りはどうしますか?」

「男女別で。2:3で分けてください」

「かしこまりました! では軽く説明させていただきますね。食事は朝晩の2食出ます。朝は7時から10時で、夕食は18時から21時までです。要らない時は言ってくださいね。お風呂は1階に浴場があるのでそちらをお使いください。入浴時間は朝8時から夜20時まで開いていますので、ご自由にお使いください。何か質問等はありますか?」

「馬車で来ているのですが厩舎はありますか?」

「はい、宿の裏手に厩舎がございますので、そちらをご利用ください。料金は既に頂いてますので大丈夫ですよ」

「わかりました。サムソン、馬車お願いね」

「畏まりました」

「それではこちらが部屋の鍵になります。お客様のお部屋は2階になります。どうぞごゆっくりお過ごしください。何かありましたら私、サーシャのところまで来てください」

 鍵を受け取り先生達と別れて部屋の中に入る。部屋は4人部屋だ。父さんは城で仕事だから広々使えるね。とりあえず着替えますか。



 コンコンとノックする音が聞こえる。

「クロっちー! これから王都探索しに行かないっすかー?」

ドアがノックされフラン先生の声が聞こえる。王都探索か。屋台も出てたし美味しいものあるかもね。

「はーい。今行きまーす」

 準備を整え4人で宿を出る。宿には屋台で食べるから夕食はいらないと伝えておいた。サムソンにも声をかけたが、馬のブラッシングしたいから行かないらしい。

「まずはどこに行きますか?」

「適当でいいんじゃないっすか?」

「そうだな。見る場所はいくらでもあるだろう」

「美味しいもの、たべたいな」

「了解です。んじゃ行きますか」

 4人で大通りを歩き出すと早速いい匂いがしてくる。そこには様々な食べ物を売っている屋台がひしめき合っていた。

「クロードくん、あれ、なにかな?」

「まさか…たこ焼き、だと!?」

 あの焼いてる鉄板の穴の開き具合を見ると、まさにタコ焼き専用プレートだ。でもなんでここに。ていうかなんで異世界にこんなものがあるんだ?

「おじさん、その焼いてるプレートってどこで手に入れたの?」

「あん? これは俺の爺さんが勇者様にもらった由緒正きプレートだ。誰であろうと売れねぇよ!」

 やっぱり勇者関連か。まぁいい。肝心なのは味だ。

「その中って何入ってるの? タコ?」

「タコってなんだよ。この中に入れてるのはオクトールって海の魔物の肉だ!」

「そ、それじゃオクトール焼き4つくださいな」

「おうよ! まいどあり! 銀貨2枚だ」

 料金を払う。1個500円か…お祭り価格だな。
 焼いていたたこ焼きを素早く船皿に8個掬い、ソースをかける。青のりとマヨネーズ、鰹節等は無いらしい。そこまで求めるのは酷というものか。

「お待ちどう! 熱いから気をつけて食ってくれ!」

「ありがとー」

 オクトール焼きを4つ持って先生達のところへ向かう。

「買ってきたからみんなで食べましょう!」

「クロっちごちっす!」

「すまんな。頂こう」

「ありがとうクロードくん、いただきます」

 早速食べてみるか…。フーフーと熱を冷ましハフハフ言いながら食べると、ソースの香りと味が広がってゆく。中に入ってるのは…タコだな。これタコ焼きだわ。なんだよオクトールって。でもこうなるとマヨネーズが欲しい。今度暇な時に作ってみよう。あとお好み焼きも食べたくなってきた。

「どうしたの、クロードくん。難しい顔、してるよ?」

「いえ、何でもないですよ。次の店行ってみましょうか」

「うん、行こう」

 その後も屋台巡りをする俺達。やはり日本の料理の知識が中途半端に伝わっているのか、微妙に足りない料理が出回っていた。この王都の人にとってはこれが普通の味なんだろう。色々納得いかないが仕方ない。そんな感じで屋台を回っていると、遠くの屋台からなにやら激しい声が聞こえてきた。

「何をするんですか! 止めてください!!」

「うるせえ! こんな変な物食わせやがって! お前らやっちまえ!!」

 どうやら馬鹿な客が暴れているらしい。

「やめて! お父さんの屋台が!!」

 獣人のお姉さんが叫び声をあげた。虐められているのは獣人のお姉さん。…自称ケモナーの俺の前で獣人のお姉さんを襲うとはいい度胸だ。さあ、お前らの罪を数えろ!!



 部下Aが屋台に備え付けてある椅子を手に持ち、屋台を破壊しようとしている。

「へへ、こんな屋台ぶっ壊してやるぜぁ!」

「待てぃ!! 天空○心拳 旋風蹴り!!」

 高速で接近した俺の飛び蹴りを顔面にめり込ませ、部下Aが変な声を上げながら吹き飛んでいく。

「ごぶぁ!!」

「なっ!! 誰だ貴様!!」

 俺はビシッとリーダー格の男を指さし、格好良く例の決めゼリフを吐く。

「貴様等に名乗る名前はない!!」

「ガキじゃねぇか! お前らやっちまえ!」

 その後はただの一方的な蹂躙だった。身体強化アクセルブーストを掛け、5人いた相手を全員素手でボコボコにしていく。一応手加減はしてるから殺してはいない。そしてリーダー格の男の胸ぐらをつかみ、笑顔を浮かべるながら威圧してみた。

「次この店を襲ったら…どうなるか解るよね?」

「ばび…すびばぜんでじだぁ…」

「ならさっさと消えた方がいいよ。俺の気はそんなに長くないからね♪」

「は、はいぃ! おいお前ら!!」

 ならず者達は足を引きずりながら去っていった。獣人の女の子を虐める輩は成敗だ!

「あの、ありがとうございました!」

 後ろから声がする。振り向くと長い尻尾を揺らした狸っぽい獣人のお姉さんが立っていた。

「いえ、お店は大丈夫でしたか?」

「はい。おかげさまで。あの、なにかお礼を…」

「別にお礼とかはいらないですよ。それよりお店の物を売って頂けませんか?」

「あ…はいもちろん! 少々お待ちください!」

 気を使わせないように知らずに言ってみたが、ここってなんの店なのかな? 香ばしくていい匂いがする。前にどこかで嗅いだような匂いだ。

「はい、どうぞ! 揚げたてです!」

 揚げ物にこの匂い…まさか! もらった揚げ物を半分に割り、中の具を確かめる。

「これってまさか…カレーですか!?」

 この異世界で俺の至高のソウルフード、カレーに出会えるなんて思ってもいなかった。

「はい! ご存知なんですか?」

「えぇ…まさかここで食べれるなんて…」

 一口食べてみると、あの独特のカレー味が口いっぱいに広がる。異世界に転生してかれこれ11年経つが、まさかこの味を忘れていたなんて…。そんなことを考えているとちょっと涙が出てきた。

「あ、あの、大丈夫ですか?」

「あぁ、すいません。この味が懐かしくてつい」

 服の袖で涙を拭う。しかしこのカレーパンは美味い。味のバランスが芸術的と言ってもいいだろう。

「もしかしてトルデリーテ王国の方なんですか?」

「トルデリーテ王国?」

「はい、この料理の発祥の地なんですけど、違いました?」

 カレー発祥はトルデリーテ王国か。覚えておこう。今度是非行ってみたい。

「いえ、そういうわけでは。ずっと前に食べたことがあったんです」

「そうなんですね。気に入って頂いて良かったです」

「あのこれ、買えるだけ頂けませんか?」

「えっ!? あの・・・」

「ここで買わなかったらもう食べられないかも知れませんから」

 今日屋台を回ってもカレーを使った店なんて一軒もなかったからな。今買わなければきっと後悔してしまうだろう。有り金全部叩いてでも買い占めるつもりだ。

「あの、もし良かったら…レシピを教えましょうか?」

「!!! いいんですか!?」

「はい。助けて頂きましたし、そんなに思い入れがあるなら特別に♪」

「ぜひ…ぜひお願いします、お姉さん!!」

「はい! それじゃこちらへ。お名前聞いてもいいかしら?」

「あ、名乗らずにすいません。クロードって言います」

「私はアリーシャです。それじゃ頑張りましょうクロードくん!」

 屋台に入って、ついでに店番もやりながらレシピを教えてもらう。日本とこの世界とじゃ、香辛料の名前や使ってる道具が違うから覚えるのに苦労したが、アリーシャさんの教えもあってなんとかモノにすることが出来た。これで物を揃えればいつでもカレーが食べれる。

「さすが若いだけあって物覚えが良いですね」

「いえ、アリーシャさんの教え方がいいからですよ」

 自分で作ったカレーパンを試食する。スパイスを多少変えることで、前世で自分が食べていたカレーに近い味にすることができた気がする。美味い。

「この味です。ありがとうございますアリーシャさん!」

「いえ、お役に立てたようで良かったです」

 アリーシャさんと俺の作ったカレーパンを食べていると、先生達が屋台にやってきた。一緒に行動してたことすっかり忘れてたな。

「クロっち! やっと見つけたっす!」

「突然走り出したと思ったら…何をやっている?」

「いなくなっちゃ、ダメだよ?」

 先生達に事情を話し、カレーパンを食べてもらう。これ食べて許してください!

「ほぅ、美味いな」

「これってたしか、カレーっすよね? 前に食べたことあるっす!」

「はむはむ・・・おいしい」

「それじゃアリーシャさん、今日は本当にありがとうございました!」

「いえ、こちらこそありがとうございました。あなたが来てくれなかったら私の、父の屋台が壊されていたかもしれません。本当にありがとう、クロードくん」

「いえ、レシピを教えてもらったし気にしないでください。アリーシャさんも商売頑張ってくださいね。それじゃ、また来ます!」

「うん、またね!」

 カレーのレシピをゲットしてホクホク顔で屋台を後にする。アリーシャさんの笑顔と尻尾、可愛かったな。絶対また来よう。うん。
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