3 / 15
第3話 夕暮れに、ドラゴンに乗る
しおりを挟む
イリヤ君を、怒らせちゃったのかな……。
そう思う私の横で、ライムさんはエルくんに言う。
「エルくん、この部屋、響ちゃんのスマホが圏外だから、電波が入る様にして。そうだ今後のために、ダンジョン全体にスマホの電波が入る様にしてよ」
「ウチの魔法は、電話会社の工事か?」
文句言いながらも、エル君は作務衣のふところから、カードと羽ペンを取り出して、何やらサラサラと書きつけた。
私は不思議に思ってたずねる。
「あの、それ、何やってるんですか」
「マジックカードに、魔法の羽ペンで術式を書き込んどる。ウチらエルフは、こうやって魔法を使うんや」
うわ、魔法って言ってる……。
「え、凄い。それ、私でも出来ますか?」
「エルフやから魔法が使えるんや。響さんが使っても、ただの紙とペンや」
すぐにスマホの画面にアンテナが立った。凄い、本当にエルくんは魔法を使えるんだ。
そこからの、ライムさんの行動は早かった。
私にすぐ電話をかけさせ、叔母さんが出ると、ライムさんが代わる。
「うちの子が、道ばたで具合を悪くしたのを、響さんが病院に運んでくれまして。おかげで大変、助かりました。ご連絡が遅れて申し訳ありません。すぐ、うちの車でお送りいたしますので」
横で聞いている私が感心するくらい、ライムさんは、電話の向こうの叔母さんを、うまく言いくるめた。
「じゃ、おうちに帰ろうか」
そう言うとライムさんは、乾いた制服と、大きめのレインコートを私に渡すと、着替えのために、部屋に一人にしてくれた。
この制服、どうやって乾かしたのかしら。普通なら乾燥機にかけるんだろうけど、ここへ来てからは、変な物ばかり見ているので、余計な想像をしてしまう。
制服に着替え終わってから、レインコートはどうしよう、一応、傘は持ってるんだけどな、と思っていると、ライムさんが部屋に入ってきた。
「あ、傘は飛ばされるから使えないわ。あとカバン貸して。しまっちゃうから」
カバンを、どこにしまうんだろう。不思議に思いながらカバンを渡すと、ライムさんは少し困った様な顔で言った。
「今さら、何を見ても驚かないよね?」
でも私は、やっぱり驚いてしまった。
彼女は私のカバンを、ズブズブと、自分のお腹の中に入れてしまったのだ。
「ラ、ライムさん、それ」
「ああ、汚くないから大丈夫よ。ベトベトにもならないし」
「そうじゃなくて、なんで、お腹の中にカバンが!」
ペロッと舌を出して笑うと、ライムさんは言った。
「私、スライムなのよ。隠していた訳じゃないけど、黙っていて、ごめんね」
スライムって……。あの、ファンタジーでよく見る、ゼリーみたいな生き物?
次の瞬間、まるで氷が溶けるのを早送りで見る様に、ライムさんの体がくずれて、床一面に広がった。びっくりしている私の耳に、ライムさんの声が聞こえる。
「大きさが同じくらいの物ならば、何にでも化けられるわ。あ、私が女の子なのはホントよ。男の子にも化けられるけど」
そう言うとライムさんは、ムクムクと人の形になり、イリヤくんの姿をとった。
と思ったら、またドロッと溶けて、エルくんの姿になってみせる。
「えっと、いろいろと説明して欲しいです……」
「それは今夜、響ちゃんが寝た後でね。とりあえず帰るわよ」
女の人に戻ったライムさんがピィッ、と口笛を吹くと、大きな窓がひとりでに開いた。外にいたドラゴンが、長い首をヌウッ、と部屋の中に突っ込んでくる。
「ひいいっ!」
思わず逃げようとする私のえり首を、ライムさんがつかむ。
私はそのまま、ライムさんに引きずられる様にして、ドラゴンの長い首に乗せられた。
なに、これからどうなるの。
ウロコがザラザラするドラゴンの首にまたがりながら、私は戸惑っていた。
ライムさんは、私の後ろから抱きしめる様に、両手を回して言う。
「私がつかんでいるから大丈夫だけど。落っこちないようにしてね」
「落っこちるって、なんの事ですか?」
答えるより先に、ライムさんがもう一回、口笛を吹くと、私たちを乗せたドラゴンは、部屋の中に入れていた長い首を引っ込めた。
その首にまたがっている私たちも、窓の外へ出る。
ちょっと待って、これ、まさか。
次の瞬間、大きな翼をはばたかせて、ドラゴンは空へと舞い上がった。
「ひっ!」
私は振り落とされない様に、ドラゴンの首にしがみついた。
何か、大きな布みたいなものが、私の体をつつみこんで、ドラゴンの首に巻き付いている。後で気が付いたけれど、それはライムさんが自分の体を平べったくして、私が落ちない様に、ドラゴンの首に固定してくれたのだった。
雨が降る真っ暗な夜空を、ドラゴンは凄いスピードで上昇していく。
パラパラと雨が身体に当たった。まるで遊園地の絶叫マシーンだ。
ライムさんが押さえてくれているとはいえ、私はただ、目をつぶってドラゴンの首にしがみついているしかなかった。
どのくらい、しがみついていただろう。
ドラゴンが急上昇をやめたと同時に、顔に雨が当たる感覚が消えた。
両目を開けた私は、その前に広がる光景に声を上げた。
「うわぁ……」
視界一面に雲の海が広がり、その上に、こうこうと満月が輝いている。
雨がやんだのではない。私たちが乗ったドラゴンは、雨雲を突き抜けて、その上に出たのだ。
雨って、雲の上だと降っていないんだ。私は、当たり前の事に感心した。雲の上になんか来た事ないんだから、仕方がない。
ドラゴンはゆっくりと、雲海の上を飛んで行く。
私の耳もとで、ライムさんが言った。
「響ちゃんの家、このあたりよね?」
そうだ、ライムさんは、さっき叔母さんと電話して時に、家の住所を聞いていたっけ。
もう着いたんだ。学校まで、電車を乗り継いで一時間半はかかるのに、ドラゴンで飛んできたら、すぐだ。もっとも、どこから飛んできたのか、わからないけど。
みんな、あの場所をダンジョンと呼んでいた。
ダンジョンって、ファンタジー作品に出てくる地下迷宮の事だよね。でもこの日本に、そんなものが、あるのかな?
そんな事を考えていると、ライムさんが言った。
「じゃあ、下りるよ」
私は戸惑った。私の家、すなわち叔父さんと叔母さんの家は、住宅街にある一軒家だ。タクシーならぬドラゴンが家の前に降りたら、大騒ぎになっちゃう。
「私がしっかりつかまえているから」
そうライムさんが言うのを聞いて、嫌な予感がした。
そして、その予感は的中した。
ライムさんは、のばした両腕を、スルスルと私の体に何重にも巻きつけた。
そして、そのまま、雲の上を飛んでいるドラゴンから、飛び降りたのだ。
「いやああああああ!」
雲を突き抜け、私はライムさんと一緒に、風を切って落下して行く。
耳もとで風がビュウビュウ鳴り、髪の毛が激しくはためく。
前にテレビでスカイダイビングの映像を見て「私には出来ないな」と思ったが、今、やってしまっている。
私とライムさんは、ぶ厚い雨雲を突き抜けた。住宅街の明かりが、星空の様に広がっているのが見える。
キレイ……だなんて思っている余裕はない。私たちは、そこに向かって凄いスピードで落ちているのだから。
どんどん落ちて行って、もうだめだ、と思った時。
急にグン! と上に引っ張りあげられるショックが、私の体を襲った。
ライムさんが、体を薄く広くのばして、風を受けて落下スピードを落としたのだ。
パラグライダーの様な姿になったライムさんに、しっかりと掴まれながら、私はゆっくりと住宅街に降りて行った。
道路に降り立った私は、膝から崩れ落ちそうになった。人の姿に戻ったライムさんが、慌てて抱き止めてくれる。
「何も言わずに飛び降りてごめんね。言ったら、響ちゃん反対すると思ったから」
そりゃするよ! と私は思った。
ドラゴンに乗って雲の上を飛んで、スカイダイビングするなんで、今朝、登校する時は予想もしなかった。
その後、ライムさんはお腹からカバンを取り出して私に渡すと、一回り年上のおばさんに姿を変えて、叔父さんの家のブザーを押した。
「響! 心配したんだよ!」
叔母さんより早く、二つ年上の従姉の恵ちゃんが、サンダルをつっかけて玄関から飛び出し、私に抱きついた。
恵ちゃんは、私がこの家に来てから、本当のお姉ちゃんみたいに接してくれる。叔父さんと叔母さんも優しいけれど、私は何でも話せる恵ちゃんも大好き。
ライムさんは叔母さんに「病気になった息子を私が道端で見つけて、病院に連れて行ってくれた」と言うウソを話していた。
いや、その「息子」というのをイリヤくんにすれば、まんざら嘘でもないんだけど。
叔母さんと互いにペコペコおじぎをしあった後、ライムさんは帰って行った。
こっそり「響ちゃん、またね」と私に囁いて。
その後、私は恵ちゃんに「やっぱ響は立派だよ! 倒れている人を助けるなんて」と褒められながら晩ご飯を食べた。
叔父さんも叔母さんも「良い事をしたね」と言ってくれて、帰りが遅くなった事を怒ったりはしなかった。
その日は、イリヤくんたちと出会ったり、ドラゴンに乗ったり、スカイダイビングをして興奮していたからか、私は、いつもより口数が多かった様だ。ご飯をおかわりしながら、恵ちゃんが私に言った。
「響、最近、元気がない感じだったけど、また明るくなって安心したよ」
その言葉に、私の心はズキン、と痛んだ。
そうだった。私、昔は活発で元気な子だった。
でも二年前に、事故でお父さんとお母さんが死んで。あの頃の私は、その悲しみを忘れようと、受験勉強にのめり込んだんだ。
お父さんとお母さんが、私を入れたがっていた聖陽学院に、必ず合格するんだ、と。
だから、あまり友達と、はしゃぐ様な事は、しなくなってしまった。
しかも合格して入った学校で落ちこぼれて、ずっと、ゆううつだったけど。
今日、イリヤくんたちと出会って、刺激を受けた気がする。
その日は、成績が悪くて先生に呼び出された事は、叔父さんや叔母さんには言いだせなかった。
ご飯の後、お風呂に入って、私は眠ってしまった。
だが、とんでもない一日は終わっていなかった。
そう、私はライムさんの「寝た後で説明するから」という言葉を忘れていたのだ。
そう思う私の横で、ライムさんはエルくんに言う。
「エルくん、この部屋、響ちゃんのスマホが圏外だから、電波が入る様にして。そうだ今後のために、ダンジョン全体にスマホの電波が入る様にしてよ」
「ウチの魔法は、電話会社の工事か?」
文句言いながらも、エル君は作務衣のふところから、カードと羽ペンを取り出して、何やらサラサラと書きつけた。
私は不思議に思ってたずねる。
「あの、それ、何やってるんですか」
「マジックカードに、魔法の羽ペンで術式を書き込んどる。ウチらエルフは、こうやって魔法を使うんや」
うわ、魔法って言ってる……。
「え、凄い。それ、私でも出来ますか?」
「エルフやから魔法が使えるんや。響さんが使っても、ただの紙とペンや」
すぐにスマホの画面にアンテナが立った。凄い、本当にエルくんは魔法を使えるんだ。
そこからの、ライムさんの行動は早かった。
私にすぐ電話をかけさせ、叔母さんが出ると、ライムさんが代わる。
「うちの子が、道ばたで具合を悪くしたのを、響さんが病院に運んでくれまして。おかげで大変、助かりました。ご連絡が遅れて申し訳ありません。すぐ、うちの車でお送りいたしますので」
横で聞いている私が感心するくらい、ライムさんは、電話の向こうの叔母さんを、うまく言いくるめた。
「じゃ、おうちに帰ろうか」
そう言うとライムさんは、乾いた制服と、大きめのレインコートを私に渡すと、着替えのために、部屋に一人にしてくれた。
この制服、どうやって乾かしたのかしら。普通なら乾燥機にかけるんだろうけど、ここへ来てからは、変な物ばかり見ているので、余計な想像をしてしまう。
制服に着替え終わってから、レインコートはどうしよう、一応、傘は持ってるんだけどな、と思っていると、ライムさんが部屋に入ってきた。
「あ、傘は飛ばされるから使えないわ。あとカバン貸して。しまっちゃうから」
カバンを、どこにしまうんだろう。不思議に思いながらカバンを渡すと、ライムさんは少し困った様な顔で言った。
「今さら、何を見ても驚かないよね?」
でも私は、やっぱり驚いてしまった。
彼女は私のカバンを、ズブズブと、自分のお腹の中に入れてしまったのだ。
「ラ、ライムさん、それ」
「ああ、汚くないから大丈夫よ。ベトベトにもならないし」
「そうじゃなくて、なんで、お腹の中にカバンが!」
ペロッと舌を出して笑うと、ライムさんは言った。
「私、スライムなのよ。隠していた訳じゃないけど、黙っていて、ごめんね」
スライムって……。あの、ファンタジーでよく見る、ゼリーみたいな生き物?
次の瞬間、まるで氷が溶けるのを早送りで見る様に、ライムさんの体がくずれて、床一面に広がった。びっくりしている私の耳に、ライムさんの声が聞こえる。
「大きさが同じくらいの物ならば、何にでも化けられるわ。あ、私が女の子なのはホントよ。男の子にも化けられるけど」
そう言うとライムさんは、ムクムクと人の形になり、イリヤくんの姿をとった。
と思ったら、またドロッと溶けて、エルくんの姿になってみせる。
「えっと、いろいろと説明して欲しいです……」
「それは今夜、響ちゃんが寝た後でね。とりあえず帰るわよ」
女の人に戻ったライムさんがピィッ、と口笛を吹くと、大きな窓がひとりでに開いた。外にいたドラゴンが、長い首をヌウッ、と部屋の中に突っ込んでくる。
「ひいいっ!」
思わず逃げようとする私のえり首を、ライムさんがつかむ。
私はそのまま、ライムさんに引きずられる様にして、ドラゴンの長い首に乗せられた。
なに、これからどうなるの。
ウロコがザラザラするドラゴンの首にまたがりながら、私は戸惑っていた。
ライムさんは、私の後ろから抱きしめる様に、両手を回して言う。
「私がつかんでいるから大丈夫だけど。落っこちないようにしてね」
「落っこちるって、なんの事ですか?」
答えるより先に、ライムさんがもう一回、口笛を吹くと、私たちを乗せたドラゴンは、部屋の中に入れていた長い首を引っ込めた。
その首にまたがっている私たちも、窓の外へ出る。
ちょっと待って、これ、まさか。
次の瞬間、大きな翼をはばたかせて、ドラゴンは空へと舞い上がった。
「ひっ!」
私は振り落とされない様に、ドラゴンの首にしがみついた。
何か、大きな布みたいなものが、私の体をつつみこんで、ドラゴンの首に巻き付いている。後で気が付いたけれど、それはライムさんが自分の体を平べったくして、私が落ちない様に、ドラゴンの首に固定してくれたのだった。
雨が降る真っ暗な夜空を、ドラゴンは凄いスピードで上昇していく。
パラパラと雨が身体に当たった。まるで遊園地の絶叫マシーンだ。
ライムさんが押さえてくれているとはいえ、私はただ、目をつぶってドラゴンの首にしがみついているしかなかった。
どのくらい、しがみついていただろう。
ドラゴンが急上昇をやめたと同時に、顔に雨が当たる感覚が消えた。
両目を開けた私は、その前に広がる光景に声を上げた。
「うわぁ……」
視界一面に雲の海が広がり、その上に、こうこうと満月が輝いている。
雨がやんだのではない。私たちが乗ったドラゴンは、雨雲を突き抜けて、その上に出たのだ。
雨って、雲の上だと降っていないんだ。私は、当たり前の事に感心した。雲の上になんか来た事ないんだから、仕方がない。
ドラゴンはゆっくりと、雲海の上を飛んで行く。
私の耳もとで、ライムさんが言った。
「響ちゃんの家、このあたりよね?」
そうだ、ライムさんは、さっき叔母さんと電話して時に、家の住所を聞いていたっけ。
もう着いたんだ。学校まで、電車を乗り継いで一時間半はかかるのに、ドラゴンで飛んできたら、すぐだ。もっとも、どこから飛んできたのか、わからないけど。
みんな、あの場所をダンジョンと呼んでいた。
ダンジョンって、ファンタジー作品に出てくる地下迷宮の事だよね。でもこの日本に、そんなものが、あるのかな?
そんな事を考えていると、ライムさんが言った。
「じゃあ、下りるよ」
私は戸惑った。私の家、すなわち叔父さんと叔母さんの家は、住宅街にある一軒家だ。タクシーならぬドラゴンが家の前に降りたら、大騒ぎになっちゃう。
「私がしっかりつかまえているから」
そうライムさんが言うのを聞いて、嫌な予感がした。
そして、その予感は的中した。
ライムさんは、のばした両腕を、スルスルと私の体に何重にも巻きつけた。
そして、そのまま、雲の上を飛んでいるドラゴンから、飛び降りたのだ。
「いやああああああ!」
雲を突き抜け、私はライムさんと一緒に、風を切って落下して行く。
耳もとで風がビュウビュウ鳴り、髪の毛が激しくはためく。
前にテレビでスカイダイビングの映像を見て「私には出来ないな」と思ったが、今、やってしまっている。
私とライムさんは、ぶ厚い雨雲を突き抜けた。住宅街の明かりが、星空の様に広がっているのが見える。
キレイ……だなんて思っている余裕はない。私たちは、そこに向かって凄いスピードで落ちているのだから。
どんどん落ちて行って、もうだめだ、と思った時。
急にグン! と上に引っ張りあげられるショックが、私の体を襲った。
ライムさんが、体を薄く広くのばして、風を受けて落下スピードを落としたのだ。
パラグライダーの様な姿になったライムさんに、しっかりと掴まれながら、私はゆっくりと住宅街に降りて行った。
道路に降り立った私は、膝から崩れ落ちそうになった。人の姿に戻ったライムさんが、慌てて抱き止めてくれる。
「何も言わずに飛び降りてごめんね。言ったら、響ちゃん反対すると思ったから」
そりゃするよ! と私は思った。
ドラゴンに乗って雲の上を飛んで、スカイダイビングするなんで、今朝、登校する時は予想もしなかった。
その後、ライムさんはお腹からカバンを取り出して私に渡すと、一回り年上のおばさんに姿を変えて、叔父さんの家のブザーを押した。
「響! 心配したんだよ!」
叔母さんより早く、二つ年上の従姉の恵ちゃんが、サンダルをつっかけて玄関から飛び出し、私に抱きついた。
恵ちゃんは、私がこの家に来てから、本当のお姉ちゃんみたいに接してくれる。叔父さんと叔母さんも優しいけれど、私は何でも話せる恵ちゃんも大好き。
ライムさんは叔母さんに「病気になった息子を私が道端で見つけて、病院に連れて行ってくれた」と言うウソを話していた。
いや、その「息子」というのをイリヤくんにすれば、まんざら嘘でもないんだけど。
叔母さんと互いにペコペコおじぎをしあった後、ライムさんは帰って行った。
こっそり「響ちゃん、またね」と私に囁いて。
その後、私は恵ちゃんに「やっぱ響は立派だよ! 倒れている人を助けるなんて」と褒められながら晩ご飯を食べた。
叔父さんも叔母さんも「良い事をしたね」と言ってくれて、帰りが遅くなった事を怒ったりはしなかった。
その日は、イリヤくんたちと出会ったり、ドラゴンに乗ったり、スカイダイビングをして興奮していたからか、私は、いつもより口数が多かった様だ。ご飯をおかわりしながら、恵ちゃんが私に言った。
「響、最近、元気がない感じだったけど、また明るくなって安心したよ」
その言葉に、私の心はズキン、と痛んだ。
そうだった。私、昔は活発で元気な子だった。
でも二年前に、事故でお父さんとお母さんが死んで。あの頃の私は、その悲しみを忘れようと、受験勉強にのめり込んだんだ。
お父さんとお母さんが、私を入れたがっていた聖陽学院に、必ず合格するんだ、と。
だから、あまり友達と、はしゃぐ様な事は、しなくなってしまった。
しかも合格して入った学校で落ちこぼれて、ずっと、ゆううつだったけど。
今日、イリヤくんたちと出会って、刺激を受けた気がする。
その日は、成績が悪くて先生に呼び出された事は、叔父さんや叔母さんには言いだせなかった。
ご飯の後、お風呂に入って、私は眠ってしまった。
だが、とんでもない一日は終わっていなかった。
そう、私はライムさんの「寝た後で説明するから」という言葉を忘れていたのだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
悪役令嬢?何それ美味しいの? 溺愛公爵令嬢は我が道を行く
ひよこ1号
ファンタジー
過労で倒れて公爵令嬢に転生したものの…
乙女ゲーの悪役令嬢が活躍する原作小説に転生していた。
乙女ゲーの知識?小説の中にある位しか無い!
原作小説?1巻しか読んでない!
暮らしてみたら全然違うし、前世の知識はあてにならない。
だったら我が道を行くしかないじゃない?
両親と5人のイケメン兄達に溺愛される幼女のほのぼの~殺伐ストーリーです。
本人無自覚人誑しですが、至って平凡に真面目に生きていく…予定。
※アルファポリス様で書籍化進行中(第16回ファンタジー小説大賞で、癒し系ほっこり賞受賞しました)
※残虐シーンは控えめの描写です
※カクヨム、小説家になろうでも公開中です
転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました
ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー!
初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。
※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。
※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。
※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m
【下地版】ハズレ勇者の鬼畜スキル 〜ハズレだからと問答無用で追い出されたが、実は規格外の歴代最強勇者だった?〜
水先 冬菜
ファンタジー
「こんなハズレ勇者など、即刻摘み出せ!!!」
某大学に通う俺、如月湊(きさらぎみなと)は漫画や小説とかで言う【勇者召喚】とやらで、異世界に召喚されたらしい。
お約束な感じに【勇者様】とか、【魔王を倒して欲しい】だとか、言われたが--------
ステータスを開いた瞬間、この国の王様っぽい奴がいきなり叫び出したかと思えば、いきなり王宮を摘み出され-------------魔物が多く生息する危険な森の中へと捨てられてしまった。
後で分かった事だが、どうやら俺は【生産系のスキル】を持った勇者らしく。
この世界では、最下級で役に立たないスキルらしい。
えっ? でも、このスキルって普通に最強じゃね?
試しに使ってみると、あまりにも規格外過ぎて、目立ってしまい-------------
いつしか、女神やら、王女やらに求婚されるようになっていき…………。
※ちょっと、続きが見たいという方がいたので、小説家になろうに、移して、編集し出してみています。
よろしければ、こちらの方へリンクを貼り付けておきます。
追伸
最近、色々と忙しいので、不定期の更新になりますので、よろしくお願い致します。
https://ncode.syosetu.com/n1040gl/
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる