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店の二階が、中根のプライベートスペースとなっているそうだ。
階段下に下駄箱がある。少し傾斜の強い木の階段を登ると、同じく木の廊下。右手に台所、その逆側が畳敷きの二間だった。風呂とトイレは、台所脇の廊下突き当りだと言う。
「おお、障子」
「レトロだろ」
「俺は割りと好きやな」
笑いながら伝えれば、中根の眉間に皺が寄る。何か不満でもあるのだろうか。褒めたつもりなのだが。
「お兄ぃー」
階下から声が聞こえる。ああ山田姉弟か。
「今行く。入っとけ」
おい鍵開いてるのかよ。不用心だな。
「ここの商店街は、安全だからな」
「……俺今、声に出しとった?」
「顔に書いてある」
くつつ、と笑いながら、階段を降りていった。
中根がいなくなった部屋を、ぐるりと見渡す。
窓枠まで木でできている部屋は、八畳と六畳といったところか。八畳間にはこたつが置かれている。そこで食事をするのだろう。正面にテレビがあった。今いる六畳間側に敷かれている布団に、とすりと体を倒す。
「ふっくく。懐かしいな」
シーリングライト──なぞという表現は似つかわしくない、部屋の天井照明は、スイッチの紐に、リボンが結ばれている。これはあれだ。寝たまま、引っ張って電気を消せるものだ。
「今時これって」
中根がこれを引っ張っている姿を想像して、おかしくなってきた。
「なーに笑ってんだよ」
大量の料理をのせたトレイを手に戻ってきた彼が、こたつテーブルにそれを置く。そこから唐揚げを一つ、自分の口に放り込んだ。
「食う?」
考えたら、結局ポテトサラダしか食べていない。気持ちの悪さも落ち着いてきたことだし、少し何かを腹に入れたい。頷けば「手で悪いな」などと言いながら唐揚げを一つつまむ。起き上がって様子を見ていると、それを口の前に持ってくるものだから困ってしまった。
はくり。
一口で頬張る。少し大きいな。
「あ」
勢いで、中根の指まで食べてしまった。どうしよう。とりあえず、口から出すべきか──。頭をゆっくりと後ろに引けば、自然と指が口から離れる。良かった。ちらりと彼を見れば、その指を見たあと……。
「ふぉっ」
──口の中に唐揚げがあるせいで、変な叫び声になってしまった。
事もあろうに、中根はその指を、れろりと舐めているではないか。いやいやいやいや、それ、大丈夫? 俺の口の中に入ったものだぞ?
とにかく、先ずは自分の口の中にある唐揚げを処理する方が先か。もごもごと咀嚼する。
うん、美味しい。
……そうではないな。いやでも、美味しいものは美味しいのだ。思わず顔がほころんでしまう。飲み込んだあと、文句を言おうと中根を見れば──。
「んぁ……?」
ふわりとした柔らかな……これは、唇か。唇?
「っ──あ」
舌が這入り込む。キスをされているのだと理解できた時には、もう咥内を中根の舌が這いずり回っていた。
くちゅり、と音がする。一度離れたかと思った唇が再び重なり、内唇をつるつると食む。ふるりと体に何かが走るような感覚がする。その感覚に思わず、息をほうと吐き出してしまった。その隙間に、彼の舌が奥まで這入る。俺の舌に重なるそれは熱を持っていて、どろりと伝わってきた。
「ん……」
気持ち良い。思わずぎゅうと、中根の背に手を回してしまう。それに気付いたのか、俺の髪をそっと撫でてくるから堪らない。そろりと降りる掌が、耳朶に触れる。
「ひ、」
思わず体を引くと、唇が離れた。
「あれ。耳、気持ち良いんだ」
耳元で囁かれ、何故か息があがる。
「や、あ、……っえ」
いや、そもそもどうして、キスをされたんだろうか。目の前にある顔を見れば、びっくりするくらいの色気を、ダダ漏らしてきている。
「──なんで中根さ」
「達也」
「……たつ……や、そんなエロい顔しとんの」
ぐし、と手の甲で唇を拭いながら聞く。口の周りについていた唾液が、べとりと移った。その手を中根が引き寄せると、れろりと舐めてくるではないか。おいやめろって。恥ずかしい。
「な。え、ちょお……まてって」
「エロいのは、映司もなんだけど」
「は?」
「すげぇ、エロい顔してる。キスだけでトロットロって顔」
そんな阿呆な! 焦って両手を頬に当てるが、当然の如く顔なんてわからない。
「いや、そ、や、なく、っあ、みみ、なめ、な」
つつつ、と耳朶をそっと辿る舌が、かぷりとそこを齧る。
「あほっ、舐めないか、らって……齧る、とか──っ、は」
「映司」
中根の声が、耳に直接流れてくる。柔らかいその響きはまるで、媚薬のようだった。
「なぁ。俺、お前が好きなんだけど」
「す、き?」
唇に親指が這入る。前歯に触れ、下唇をそっとなぞった。
「うん。好き──映司」
「うん」
「お前、多分俺の事好きでしょ」
は?
俺の目をじっとみて、言い出す。
好き?
俺が、中根を?
「だってお前、別に仕事で使うわけでもないのに花買いに毎日来るし、じっと俺の方見続けるし」
「それ、は」
「うん。それは?」
両手が、俺の頬に触れる。
「なか──達也の、丁寧な仕事が見たくて……。その、働いとるとことか、指先とかが──」
突然。
目の前が、明るくなった気がした。まるで光が入ってきたような感覚。
そして。
「……好きなんか、俺。達也のことが」
好き。
そう思った途端、ストンとその気持ちが体の中に落ちていく。
そうか。俺は中根のことが好きなのか。
「ふっくくく。お前、自覚なかったの」
頬をぶにりと引っ張られる。
「ひゃはら、ひゃへろっへ」
「可愛いな」
屈託なく笑う顔を見てしまうと、好きなんて気付いたばかりのせいか、妙にドキドキしてしまう。
「なぁ。なんで俺の事」
「好きか、って?」
「うん」
ちゅ、ちゅ、と唇が額に、めじりに、頬に、鼻に落ちていき、最後にちゅう、と唇を吸う。
「毎日来ては、嬉しそうに自分が仕入れてきた花を買ってさ。しかも水揚げみたいな地味な作業も、楽しそうに見て。気にならない訳がないだろ。それにお前、旨そうに飯食うし。なんか、可愛いな、って」
掌が、髪の毛をさらりと撫でる。それだけで、気持ちが高揚してしまう。
「ところでさ」
「うん」
「セックスしても良いか?」
「……そういうの、はっきり聞かないで欲しいんやけど」
「お前ムードを大事にする派?」
「派閥みたいに言わんといて。まぁ……初めてやし」
「童貞?」
「違うわ」
名誉のためにすぐに否定したが、妙に意地になっているように思われただろうか。くくく、と笑う中根を、ぽかりと叩いてやった。
「予想はしとるけどな。一応聞きますわ」
「はいはい」
「──したい方?」
「したい方だねぇ。お前も?」
「そりゃ男やからね。でも……体格的に多分俺がされる方が……っわ」
言い終わる前に、ぎゅうと抱きしめられた。
「後ろ、初めてってことなんだよな。さっきのは」
こくり、と頷く。小さく耳元で「ありがとう」と呟くではないか。恥ずかしいから、やめてくれ。
「達也」
「ん」
「電気、消して」
引き出しから何かを取り出した後、照明からのびるリボンを、中根がカチカチ、と二回引っ張る。豆電球のオレンジ色だけが部屋に灯った。その間に、シャツを脱ぎ、ついでにボトムとパンツもまとめて脱ぐ。
「な、あれも」
俺の言葉に、もう一度カチリと引っ張れば、部屋が暗くなる。
「……思ったより、明るいんや」
「ああ。今夜は満月だからな」
外の光が部屋を照らす。
「俺としちゃ、その方が嬉しいけど。できれば電気つけてヤりたいよ。そのかわいい顔、見てたい」
「……勘弁して」
額をあわせて笑い合う。
「俺も脱ごうかな」
ばさりとシャツを脱ぎ去る中根の体は、日々の花仕事のせいか、随分と筋肉がついていた。
「筋肉、すごいな」
「俺は映司の柔らかそうな肌が、嬉しいけど」
「阿呆。これは今後筋肉になるための待機脂肪なんや」
「ふっ。いつまでも待機なんだろ?」
「ぬかせ」
笑い合いながら、ちゅ、ちゅ、と再びキスが降ってくる。そろりと耳に触れる掌が、僅かに震えていた。
ああ──中根も緊張しているのか、なんて思ったら、妙に嬉しくなってしまう。
かぷりと鼻先を齧られる。かと思えば、そこを、れろりと舐めてきた。
「ん。可愛い」
俺だって一応男だ。可愛い可愛い言われるより、格好良いと言われたい。言われたい、のに、なんだろう。ちょっと嬉しいのは。クソ。
ふわりと重なるだけのキスの後、その唇が顎に、喉に落ちていく。喉仏を舐められると、けほりと微かに咳がでた。
「あ、ごめん」
なんて言いながら、はくりとそこを咥える。
「っ、ぁ」
「喉も気持ち良いんだ」
笑いながら、尚も舐めてくる。そのまま鎖骨に降りた唇は、骨に沿って舌が這う。その度に、体がびくりびくりと跳ね上がってしまう。俺はこんなに感じやすかったのか、なんてぼんやりと思うが、それについてゆっくりと考える余裕なんてとうになくなっていた。
「やっ、そ、れ、」
「胸、感じるんだ。自分で触ったことあるの?」
「あ、ほっ、なに言っ、あ、んぁ」
中根の指先がくるくると胸の先端に触れる。中指と親指でつまみ、人差し指でふるふると弄ってきたかと思えば、逆側は唇でかぷりとかぶりつき、舌先が転がしてくるではないか。
「ひゃ、んぁ、あ、あ、あ、あ、」
俺の唇からはもう、だらしないほど言葉の欠片しか零れていかない。
「こっちも」
「ふぁあっあ、あ」
急に、中根の掌が俺の中心に触れる。
「パンパンだな」
「誰のせいや、と」
「俺のせいだな。悪い」
悪いと微塵も思っていない声で言うから、思わず吹き出してしまった。
「あっ」
「一回出しておこうぜ」
くちゅり。俺自身に何かが垂らされる。
「冷たっ」
「悪い。すぐ熱くなるから」
その言葉に、ローションを垂らされたのだと気付く。ヌルヌルする。そのまま、中根の掌が俺自身を包み、上下に動く。
「あっあっあっ」
規則正しい律動に、息が上がる。先端を人差し指でぬるりと撫で、掌で竿を刺激してこられたら、もうひとたまりもない。
「──ひっ、う、あ……っ、ふ」
どくどくと、白い液体が中根の掌に零れていってしまった。
「すげぇ可愛いな。たまんねぇ」
手についた精液をべろりと舐めながら言う。おい、そんなもの舐めるな。
はぁはぁとあがる息が少し落ち着いたところで、足元でとぷりと音がした。と、両脚を引き上げられる。
「えっ」
「悪い。出来る限り優しくしたいけど」
「けどっ?」
「──無理かも」
いやいやいやいや? 優しくして? 初めてなんで!
「ひンっ」
俺のその叫びが口に出る前に、中根の指が俺の中に這入ってきた。
ぐちゅり、とローションの立てる音が、聞こえる。ゆっくりと抜き差しされる指に慣れてきた気がしたのが、伝わったのだろうか。
「指、増やすな」
「やぁ、あ、あ、あ、あ、あ、」
拒否する間もなく、中根の指が俺の中に増やされる。どろりとローションも追加され、ぐりぐりと中を引っ掻き回されれば、もう頭の中は真っ白だった。はあはあとあがる息が、喉の渇きを訴えてくる。熱い──。
「っ、ひ……、ぃあっ、や、そこっ、あか、ぁ」
「ここか」
中の指が一点に触れた瞬間。体がびくりと、陸に上がった魚のように跳ね上がった。ずり、と指が増えた感覚。その指がずるずると体内を動き回り、ぐりぐりと気持ち良い場所を刺激してくる。
「やーっ、あ、あ、あ、あ、っンぁ、あ」
喉が焼ける。腹の奥底から何かが這い回る。知っている、この感覚。足先がピン、とのびた。
「っ、あ……っ、あ」
音のない声が漏れる。自分でも驚くぐらい高い音の、小さな響きがした。そのまま、体がどさりと布団の中に落ちていくように、力が抜ける。
「……でてない?」
「中でイっちゃったからな」
「俺、才能あんのやろか」
「ふっくく。お前、わりと余裕あんのな」
「──余裕? そんなんあるわけないやろ。必死や、必死」
そう言って笑えば、ちゅうとキスをされた。軽く触れた唇を、トントンとノックするように舌が触れる。ぬるりと隙間から舌が咥内に這入り込む。歯列をなぞり、上顎をぞろりと刺激してきた。
「んっ、ん……っん」
むずがる子どものように、首を振ろうとするが、中根の片腕が頭をロックする。それに気を取られているうちに、再び、指が後ろの孔へと忍び込んできた。
「んんっ」
唇が塞がれ、声が出せない。口の中には、中根の唾液がどろどろと流され、必死でそれを飲み込む。気持ちが良い。クラクラとする。彼のにおいが体に染み込んできて、蕩けそうだった。
ようやく離れた唇に、かはりと息を吐き出せば、そっと額にキスされる。ぼんやりとそれを見ていると、ぐしゅりともう一度後ろにローションを足された。
「え」
意識を戻せば中根が、スキンを口の端で開いている。
「息、吐いて」
「わかった。がんばる」
「頑張らないでいいから」
くたりと笑い、髪を撫でるが、その手はローションでベトベトだろう。思わず笑ってしまう。瞬間──。
「ひっ」
ずぐり、と中根自身が中に這入ってくる。痛い。痛い痛い痛い。瞳を大きくあけて、シーツを強く握る。
「映司、息吐いて。力抜け」
そんなことを言われても、どうしたら良いのかわからない。
「っあ」
戸惑っている俺の中心を、中根の掌が包む。びくりと体が揺れ、力が抜ける。
「そう。そのまま、吸って、吐いて」
声のまま、呼吸を繰り返す。ようやく息が整う。
「ゆっくり、進むな」
「へぁ? まだ這入って」
「あと半分」
半分だと? 無理! 無理だろう! お前の大きすぎないか?
「大丈夫大丈夫」
俺の心の声が聞こえたのか、中根がそう言うが、絶対に大丈夫ではないだろう。ぐちゅぐちゅと継ぎ足されるローションの感覚がする。
「映司。舌」
「ん」
言われたとおりに舌を出す。空気に触れた舌を、彼の舌先がつるりと舐める。
「んぁ」
ふるふると震えている舌が触れ合うのが、目の前で見えるだけで、妙に興奮してしまった。でろりと絡み合う二人の唾液が、そのまま俺の体に零れていく。
「っ、あ」
そのタイミングで、ゆっくり挿れるなんて言っていた中根のそれが、一気に奥に這入り込んだ。嘘つき!
「悪い……お前のそのエロい顔見てたら、余裕、なくなって」
息を荒げながら、がつがつと奥を突く中根に、文句を言いたいのに、そんな余裕など、ない。ただただ、その動きに置いていかれないように、彼の体にしがみつく。
「あ、あ、あ、あ、」
「映司かわいい……かわいい」
うわ言のように呟くその声が、俺の心を埋めていく。
「ふぁ、や。っ」
ごりごりと中を押される。彼の掌が俺自身をつかみ擦り上げていく。同じリズムで、奥へと刺激を送り──。
「んぁあああっ」
「えい、じっ」
「ひっあ、イっ」
「俺も──もう、イく」
どぼり。
体の奥底に、熱が吐き出される感覚。そうして。俺の腹の上にも、同じように自分の熱が、吐き出された。
*
アラームの音に目が覚めたら、体は綺麗に清められていた。中根が拭いてくれたのか。昨日イった後の記憶がまったくない。
「あー。なんや……恥ずかしいなぁ」
好きと判ってすぐにセックスをしてしまうだなんて、どこの高校生だ、と思う。でも。
「気持ち……良かった」
まさか自分が女性側の体勢で受け入れて、あまつさえ初めてのそれで、こんなに気持ち良くなってしまうとは。もしかして淫乱だったりするのだろうか。
「──なんてな」
気持ちの良いセックス上等。気持ち良くないより、全然良い。シャツを羽織り、伸びをする。
「あれ? 達也は下やろうか?」
時計を見れば七時。花屋は朝が早いと言うし、仕事を始めているのかもしれない。俺も一度アパートに戻り、着替えてから出勤をしよう。のそりと布団から抜け出す。
水道を借りて顔を洗い、布団を畳む。シーツなどは洗いたいが、さすがにそこまで勝手はできない。横に畳んでおこう。
こたつテーブルの上に、昨夜の食事がそのまま載っていた。食べたいな。
「冷蔵庫に入れて、今夜食べに来るか」
我ながら良い考えだ。がさがさと冷蔵庫へと突っ込む。勝手に開けて申し訳ないが、まぁ、このくらいは許されるだろう。
ぎしりと床板が鳴る。古い建物だ。あまり大きな音を出すのも、と思い、鞄を片手に、静かに階段を降りる。店先にいるのかと思っていたが、勝手口の方から声が聞こえた。
「ん? あれは山田……姉の方か」
顔はそっくりだが、制服で判別がつく。スカートを履いているから姉の方だ。
猫に餌をやっている。可愛いな。三毛猫か。声をかけようとしたところで、足が止まった。
「ヨメは?」
嫁? 今、嫁と言ったか?
「出てったきりだよ。帰ってきやしねぇ」
「元気かな」
「さぁな。戻ってきて貰いてぇけどよ。寂しいもんなぁ」
優しい顔で、猫を撫でる。その、顔に。手に。
息が止まるかと、思った。
「そう言えば、センセは?」
「まだ寝てるんじゃないか」
「ふーん」
「なんだよ」
「べっつに。センセ可愛いよねぇ」
「可愛いなぁ。ちょっと意地っ張りで噛み付いてくるところとか、似てるかもな。でも実はすごい、優しい」
「ああ! 確かに似てるね。ヨメっぽい」
落ち着け。冷静になれ。
足が震える。とん、と階段の手すりにしがみつき、ゆっくりとしゃがみこんだ。
「──っ、ふ」
息があがる。泣くな。涙よ落ちてこないでくれ。とにかく。とにかく店を離れよう。
大きく深呼吸をする。階段下の三和土で靴を履き、もう一度深呼吸。
「あっ、あの。一回家戻って出勤する、から……また!」
聞こえているのか、どうかなんてわからない。とにかくこの場を去らないと、と店側から飛び出した。
駅までの道を走る。大通りに出たら、タクシーを拾おう。
逃げたい。消えたい。好きと自覚して、好きと言われて。セックスまでしたのに、どういうことだ。
嫁がいたのか。ああ、従業員が休暇中でいないと言っていた。きっと奥さんなんだろうな。俺に似てる、とも言っていた。しかも──戻ってきて貰いたい、と。そうか。
俺は……身代わりだったのか。
階段下に下駄箱がある。少し傾斜の強い木の階段を登ると、同じく木の廊下。右手に台所、その逆側が畳敷きの二間だった。風呂とトイレは、台所脇の廊下突き当りだと言う。
「おお、障子」
「レトロだろ」
「俺は割りと好きやな」
笑いながら伝えれば、中根の眉間に皺が寄る。何か不満でもあるのだろうか。褒めたつもりなのだが。
「お兄ぃー」
階下から声が聞こえる。ああ山田姉弟か。
「今行く。入っとけ」
おい鍵開いてるのかよ。不用心だな。
「ここの商店街は、安全だからな」
「……俺今、声に出しとった?」
「顔に書いてある」
くつつ、と笑いながら、階段を降りていった。
中根がいなくなった部屋を、ぐるりと見渡す。
窓枠まで木でできている部屋は、八畳と六畳といったところか。八畳間にはこたつが置かれている。そこで食事をするのだろう。正面にテレビがあった。今いる六畳間側に敷かれている布団に、とすりと体を倒す。
「ふっくく。懐かしいな」
シーリングライト──なぞという表現は似つかわしくない、部屋の天井照明は、スイッチの紐に、リボンが結ばれている。これはあれだ。寝たまま、引っ張って電気を消せるものだ。
「今時これって」
中根がこれを引っ張っている姿を想像して、おかしくなってきた。
「なーに笑ってんだよ」
大量の料理をのせたトレイを手に戻ってきた彼が、こたつテーブルにそれを置く。そこから唐揚げを一つ、自分の口に放り込んだ。
「食う?」
考えたら、結局ポテトサラダしか食べていない。気持ちの悪さも落ち着いてきたことだし、少し何かを腹に入れたい。頷けば「手で悪いな」などと言いながら唐揚げを一つつまむ。起き上がって様子を見ていると、それを口の前に持ってくるものだから困ってしまった。
はくり。
一口で頬張る。少し大きいな。
「あ」
勢いで、中根の指まで食べてしまった。どうしよう。とりあえず、口から出すべきか──。頭をゆっくりと後ろに引けば、自然と指が口から離れる。良かった。ちらりと彼を見れば、その指を見たあと……。
「ふぉっ」
──口の中に唐揚げがあるせいで、変な叫び声になってしまった。
事もあろうに、中根はその指を、れろりと舐めているではないか。いやいやいやいや、それ、大丈夫? 俺の口の中に入ったものだぞ?
とにかく、先ずは自分の口の中にある唐揚げを処理する方が先か。もごもごと咀嚼する。
うん、美味しい。
……そうではないな。いやでも、美味しいものは美味しいのだ。思わず顔がほころんでしまう。飲み込んだあと、文句を言おうと中根を見れば──。
「んぁ……?」
ふわりとした柔らかな……これは、唇か。唇?
「っ──あ」
舌が這入り込む。キスをされているのだと理解できた時には、もう咥内を中根の舌が這いずり回っていた。
くちゅり、と音がする。一度離れたかと思った唇が再び重なり、内唇をつるつると食む。ふるりと体に何かが走るような感覚がする。その感覚に思わず、息をほうと吐き出してしまった。その隙間に、彼の舌が奥まで這入る。俺の舌に重なるそれは熱を持っていて、どろりと伝わってきた。
「ん……」
気持ち良い。思わずぎゅうと、中根の背に手を回してしまう。それに気付いたのか、俺の髪をそっと撫でてくるから堪らない。そろりと降りる掌が、耳朶に触れる。
「ひ、」
思わず体を引くと、唇が離れた。
「あれ。耳、気持ち良いんだ」
耳元で囁かれ、何故か息があがる。
「や、あ、……っえ」
いや、そもそもどうして、キスをされたんだろうか。目の前にある顔を見れば、びっくりするくらいの色気を、ダダ漏らしてきている。
「──なんで中根さ」
「達也」
「……たつ……や、そんなエロい顔しとんの」
ぐし、と手の甲で唇を拭いながら聞く。口の周りについていた唾液が、べとりと移った。その手を中根が引き寄せると、れろりと舐めてくるではないか。おいやめろって。恥ずかしい。
「な。え、ちょお……まてって」
「エロいのは、映司もなんだけど」
「は?」
「すげぇ、エロい顔してる。キスだけでトロットロって顔」
そんな阿呆な! 焦って両手を頬に当てるが、当然の如く顔なんてわからない。
「いや、そ、や、なく、っあ、みみ、なめ、な」
つつつ、と耳朶をそっと辿る舌が、かぷりとそこを齧る。
「あほっ、舐めないか、らって……齧る、とか──っ、は」
「映司」
中根の声が、耳に直接流れてくる。柔らかいその響きはまるで、媚薬のようだった。
「なぁ。俺、お前が好きなんだけど」
「す、き?」
唇に親指が這入る。前歯に触れ、下唇をそっとなぞった。
「うん。好き──映司」
「うん」
「お前、多分俺の事好きでしょ」
は?
俺の目をじっとみて、言い出す。
好き?
俺が、中根を?
「だってお前、別に仕事で使うわけでもないのに花買いに毎日来るし、じっと俺の方見続けるし」
「それ、は」
「うん。それは?」
両手が、俺の頬に触れる。
「なか──達也の、丁寧な仕事が見たくて……。その、働いとるとことか、指先とかが──」
突然。
目の前が、明るくなった気がした。まるで光が入ってきたような感覚。
そして。
「……好きなんか、俺。達也のことが」
好き。
そう思った途端、ストンとその気持ちが体の中に落ちていく。
そうか。俺は中根のことが好きなのか。
「ふっくくく。お前、自覚なかったの」
頬をぶにりと引っ張られる。
「ひゃはら、ひゃへろっへ」
「可愛いな」
屈託なく笑う顔を見てしまうと、好きなんて気付いたばかりのせいか、妙にドキドキしてしまう。
「なぁ。なんで俺の事」
「好きか、って?」
「うん」
ちゅ、ちゅ、と唇が額に、めじりに、頬に、鼻に落ちていき、最後にちゅう、と唇を吸う。
「毎日来ては、嬉しそうに自分が仕入れてきた花を買ってさ。しかも水揚げみたいな地味な作業も、楽しそうに見て。気にならない訳がないだろ。それにお前、旨そうに飯食うし。なんか、可愛いな、って」
掌が、髪の毛をさらりと撫でる。それだけで、気持ちが高揚してしまう。
「ところでさ」
「うん」
「セックスしても良いか?」
「……そういうの、はっきり聞かないで欲しいんやけど」
「お前ムードを大事にする派?」
「派閥みたいに言わんといて。まぁ……初めてやし」
「童貞?」
「違うわ」
名誉のためにすぐに否定したが、妙に意地になっているように思われただろうか。くくく、と笑う中根を、ぽかりと叩いてやった。
「予想はしとるけどな。一応聞きますわ」
「はいはい」
「──したい方?」
「したい方だねぇ。お前も?」
「そりゃ男やからね。でも……体格的に多分俺がされる方が……っわ」
言い終わる前に、ぎゅうと抱きしめられた。
「後ろ、初めてってことなんだよな。さっきのは」
こくり、と頷く。小さく耳元で「ありがとう」と呟くではないか。恥ずかしいから、やめてくれ。
「達也」
「ん」
「電気、消して」
引き出しから何かを取り出した後、照明からのびるリボンを、中根がカチカチ、と二回引っ張る。豆電球のオレンジ色だけが部屋に灯った。その間に、シャツを脱ぎ、ついでにボトムとパンツもまとめて脱ぐ。
「な、あれも」
俺の言葉に、もう一度カチリと引っ張れば、部屋が暗くなる。
「……思ったより、明るいんや」
「ああ。今夜は満月だからな」
外の光が部屋を照らす。
「俺としちゃ、その方が嬉しいけど。できれば電気つけてヤりたいよ。そのかわいい顔、見てたい」
「……勘弁して」
額をあわせて笑い合う。
「俺も脱ごうかな」
ばさりとシャツを脱ぎ去る中根の体は、日々の花仕事のせいか、随分と筋肉がついていた。
「筋肉、すごいな」
「俺は映司の柔らかそうな肌が、嬉しいけど」
「阿呆。これは今後筋肉になるための待機脂肪なんや」
「ふっ。いつまでも待機なんだろ?」
「ぬかせ」
笑い合いながら、ちゅ、ちゅ、と再びキスが降ってくる。そろりと耳に触れる掌が、僅かに震えていた。
ああ──中根も緊張しているのか、なんて思ったら、妙に嬉しくなってしまう。
かぷりと鼻先を齧られる。かと思えば、そこを、れろりと舐めてきた。
「ん。可愛い」
俺だって一応男だ。可愛い可愛い言われるより、格好良いと言われたい。言われたい、のに、なんだろう。ちょっと嬉しいのは。クソ。
ふわりと重なるだけのキスの後、その唇が顎に、喉に落ちていく。喉仏を舐められると、けほりと微かに咳がでた。
「あ、ごめん」
なんて言いながら、はくりとそこを咥える。
「っ、ぁ」
「喉も気持ち良いんだ」
笑いながら、尚も舐めてくる。そのまま鎖骨に降りた唇は、骨に沿って舌が這う。その度に、体がびくりびくりと跳ね上がってしまう。俺はこんなに感じやすかったのか、なんてぼんやりと思うが、それについてゆっくりと考える余裕なんてとうになくなっていた。
「やっ、そ、れ、」
「胸、感じるんだ。自分で触ったことあるの?」
「あ、ほっ、なに言っ、あ、んぁ」
中根の指先がくるくると胸の先端に触れる。中指と親指でつまみ、人差し指でふるふると弄ってきたかと思えば、逆側は唇でかぷりとかぶりつき、舌先が転がしてくるではないか。
「ひゃ、んぁ、あ、あ、あ、あ、」
俺の唇からはもう、だらしないほど言葉の欠片しか零れていかない。
「こっちも」
「ふぁあっあ、あ」
急に、中根の掌が俺の中心に触れる。
「パンパンだな」
「誰のせいや、と」
「俺のせいだな。悪い」
悪いと微塵も思っていない声で言うから、思わず吹き出してしまった。
「あっ」
「一回出しておこうぜ」
くちゅり。俺自身に何かが垂らされる。
「冷たっ」
「悪い。すぐ熱くなるから」
その言葉に、ローションを垂らされたのだと気付く。ヌルヌルする。そのまま、中根の掌が俺自身を包み、上下に動く。
「あっあっあっ」
規則正しい律動に、息が上がる。先端を人差し指でぬるりと撫で、掌で竿を刺激してこられたら、もうひとたまりもない。
「──ひっ、う、あ……っ、ふ」
どくどくと、白い液体が中根の掌に零れていってしまった。
「すげぇ可愛いな。たまんねぇ」
手についた精液をべろりと舐めながら言う。おい、そんなもの舐めるな。
はぁはぁとあがる息が少し落ち着いたところで、足元でとぷりと音がした。と、両脚を引き上げられる。
「えっ」
「悪い。出来る限り優しくしたいけど」
「けどっ?」
「──無理かも」
いやいやいやいや? 優しくして? 初めてなんで!
「ひンっ」
俺のその叫びが口に出る前に、中根の指が俺の中に這入ってきた。
ぐちゅり、とローションの立てる音が、聞こえる。ゆっくりと抜き差しされる指に慣れてきた気がしたのが、伝わったのだろうか。
「指、増やすな」
「やぁ、あ、あ、あ、あ、あ、」
拒否する間もなく、中根の指が俺の中に増やされる。どろりとローションも追加され、ぐりぐりと中を引っ掻き回されれば、もう頭の中は真っ白だった。はあはあとあがる息が、喉の渇きを訴えてくる。熱い──。
「っ、ひ……、ぃあっ、や、そこっ、あか、ぁ」
「ここか」
中の指が一点に触れた瞬間。体がびくりと、陸に上がった魚のように跳ね上がった。ずり、と指が増えた感覚。その指がずるずると体内を動き回り、ぐりぐりと気持ち良い場所を刺激してくる。
「やーっ、あ、あ、あ、あ、っンぁ、あ」
喉が焼ける。腹の奥底から何かが這い回る。知っている、この感覚。足先がピン、とのびた。
「っ、あ……っ、あ」
音のない声が漏れる。自分でも驚くぐらい高い音の、小さな響きがした。そのまま、体がどさりと布団の中に落ちていくように、力が抜ける。
「……でてない?」
「中でイっちゃったからな」
「俺、才能あんのやろか」
「ふっくく。お前、わりと余裕あんのな」
「──余裕? そんなんあるわけないやろ。必死や、必死」
そう言って笑えば、ちゅうとキスをされた。軽く触れた唇を、トントンとノックするように舌が触れる。ぬるりと隙間から舌が咥内に這入り込む。歯列をなぞり、上顎をぞろりと刺激してきた。
「んっ、ん……っん」
むずがる子どものように、首を振ろうとするが、中根の片腕が頭をロックする。それに気を取られているうちに、再び、指が後ろの孔へと忍び込んできた。
「んんっ」
唇が塞がれ、声が出せない。口の中には、中根の唾液がどろどろと流され、必死でそれを飲み込む。気持ちが良い。クラクラとする。彼のにおいが体に染み込んできて、蕩けそうだった。
ようやく離れた唇に、かはりと息を吐き出せば、そっと額にキスされる。ぼんやりとそれを見ていると、ぐしゅりともう一度後ろにローションを足された。
「え」
意識を戻せば中根が、スキンを口の端で開いている。
「息、吐いて」
「わかった。がんばる」
「頑張らないでいいから」
くたりと笑い、髪を撫でるが、その手はローションでベトベトだろう。思わず笑ってしまう。瞬間──。
「ひっ」
ずぐり、と中根自身が中に這入ってくる。痛い。痛い痛い痛い。瞳を大きくあけて、シーツを強く握る。
「映司、息吐いて。力抜け」
そんなことを言われても、どうしたら良いのかわからない。
「っあ」
戸惑っている俺の中心を、中根の掌が包む。びくりと体が揺れ、力が抜ける。
「そう。そのまま、吸って、吐いて」
声のまま、呼吸を繰り返す。ようやく息が整う。
「ゆっくり、進むな」
「へぁ? まだ這入って」
「あと半分」
半分だと? 無理! 無理だろう! お前の大きすぎないか?
「大丈夫大丈夫」
俺の心の声が聞こえたのか、中根がそう言うが、絶対に大丈夫ではないだろう。ぐちゅぐちゅと継ぎ足されるローションの感覚がする。
「映司。舌」
「ん」
言われたとおりに舌を出す。空気に触れた舌を、彼の舌先がつるりと舐める。
「んぁ」
ふるふると震えている舌が触れ合うのが、目の前で見えるだけで、妙に興奮してしまった。でろりと絡み合う二人の唾液が、そのまま俺の体に零れていく。
「っ、あ」
そのタイミングで、ゆっくり挿れるなんて言っていた中根のそれが、一気に奥に這入り込んだ。嘘つき!
「悪い……お前のそのエロい顔見てたら、余裕、なくなって」
息を荒げながら、がつがつと奥を突く中根に、文句を言いたいのに、そんな余裕など、ない。ただただ、その動きに置いていかれないように、彼の体にしがみつく。
「あ、あ、あ、あ、」
「映司かわいい……かわいい」
うわ言のように呟くその声が、俺の心を埋めていく。
「ふぁ、や。っ」
ごりごりと中を押される。彼の掌が俺自身をつかみ擦り上げていく。同じリズムで、奥へと刺激を送り──。
「んぁあああっ」
「えい、じっ」
「ひっあ、イっ」
「俺も──もう、イく」
どぼり。
体の奥底に、熱が吐き出される感覚。そうして。俺の腹の上にも、同じように自分の熱が、吐き出された。
*
アラームの音に目が覚めたら、体は綺麗に清められていた。中根が拭いてくれたのか。昨日イった後の記憶がまったくない。
「あー。なんや……恥ずかしいなぁ」
好きと判ってすぐにセックスをしてしまうだなんて、どこの高校生だ、と思う。でも。
「気持ち……良かった」
まさか自分が女性側の体勢で受け入れて、あまつさえ初めてのそれで、こんなに気持ち良くなってしまうとは。もしかして淫乱だったりするのだろうか。
「──なんてな」
気持ちの良いセックス上等。気持ち良くないより、全然良い。シャツを羽織り、伸びをする。
「あれ? 達也は下やろうか?」
時計を見れば七時。花屋は朝が早いと言うし、仕事を始めているのかもしれない。俺も一度アパートに戻り、着替えてから出勤をしよう。のそりと布団から抜け出す。
水道を借りて顔を洗い、布団を畳む。シーツなどは洗いたいが、さすがにそこまで勝手はできない。横に畳んでおこう。
こたつテーブルの上に、昨夜の食事がそのまま載っていた。食べたいな。
「冷蔵庫に入れて、今夜食べに来るか」
我ながら良い考えだ。がさがさと冷蔵庫へと突っ込む。勝手に開けて申し訳ないが、まぁ、このくらいは許されるだろう。
ぎしりと床板が鳴る。古い建物だ。あまり大きな音を出すのも、と思い、鞄を片手に、静かに階段を降りる。店先にいるのかと思っていたが、勝手口の方から声が聞こえた。
「ん? あれは山田……姉の方か」
顔はそっくりだが、制服で判別がつく。スカートを履いているから姉の方だ。
猫に餌をやっている。可愛いな。三毛猫か。声をかけようとしたところで、足が止まった。
「ヨメは?」
嫁? 今、嫁と言ったか?
「出てったきりだよ。帰ってきやしねぇ」
「元気かな」
「さぁな。戻ってきて貰いてぇけどよ。寂しいもんなぁ」
優しい顔で、猫を撫でる。その、顔に。手に。
息が止まるかと、思った。
「そう言えば、センセは?」
「まだ寝てるんじゃないか」
「ふーん」
「なんだよ」
「べっつに。センセ可愛いよねぇ」
「可愛いなぁ。ちょっと意地っ張りで噛み付いてくるところとか、似てるかもな。でも実はすごい、優しい」
「ああ! 確かに似てるね。ヨメっぽい」
落ち着け。冷静になれ。
足が震える。とん、と階段の手すりにしがみつき、ゆっくりとしゃがみこんだ。
「──っ、ふ」
息があがる。泣くな。涙よ落ちてこないでくれ。とにかく。とにかく店を離れよう。
大きく深呼吸をする。階段下の三和土で靴を履き、もう一度深呼吸。
「あっ、あの。一回家戻って出勤する、から……また!」
聞こえているのか、どうかなんてわからない。とにかくこの場を去らないと、と店側から飛び出した。
駅までの道を走る。大通りに出たら、タクシーを拾おう。
逃げたい。消えたい。好きと自覚して、好きと言われて。セックスまでしたのに、どういうことだ。
嫁がいたのか。ああ、従業員が休暇中でいないと言っていた。きっと奥さんなんだろうな。俺に似てる、とも言っていた。しかも──戻ってきて貰いたい、と。そうか。
俺は……身代わりだったのか。
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