魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(29)虎の威を借るなんとやら……

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 それではバトル後のリザルトです。

「…………ぷ」

 真面目にしたくてもついついニヤけてしまう今日この頃。

「――!!」
「いやですよ、怒らないでくださいよぉ~」
「だったら他の服を寄越せ」
「そんなもったいない事出来ません」

 ジロジロ。

「み、見るな!」

 いやいや、どうやったって手で隠すのは無理だし変にモジモジしてる方がそそりますよ?
 ……それにしてもこれは少々犯罪的ですね。小柄な童顔女性にスク水……。

「――ご馳走様です♪」
「……さすがに引きますわ」
「あら? お姉様も負けた訳ですからメルさんとご一緒しますか?」

 スッともう一枚を取り出して広げて見せる。
 もちろん胸元には「そふぃす」と手書き文字の名前入り。

「――け、結構です!! それに私はキチンと服を着ていますから関係ありません!!」

 物凄い剣幕で言われた。でも服くらい……ねぇ。と勇者様に視線を送りつつ。

「大丈夫ですよ。勇者様に斬って貰えばいいんですから♪」

 女性陣の視線が勇者様に突き刺さる。

「な、何故!?」
「……わかってはいるが……すまんな。我慢してくれ」
「そ、そうですね。ルクスが悪い訳ではないのですが……」
「アタシは恨み言の一つくらいは言いたいんですけどねぇ?」
「では私はお礼ですね♪」
「貴方ねぇ……」
「うふふ。楽しいですねぇ」

 俺は楽しくない。とでも言いたそうな勇者様の事はとりあえず置いておいてもっとこの時間を堪能したいのですが……。

「さて、無事に決着もついた事ですしこれからの事をお話ししましょうか?」
「……もし納得がいかないと言えばどうなるだろうか?」
「ノイン?」
「示した力では納得がいきませんか?」
「いや。確かに私たちは敗北した。だがどうだろうか?」

 一同を、仲間を見回して彼女は言葉を続けた。

「届きそうにないほどの差を感じたか? 彼らに感じたほどの力の差を彼女に感じたか? 所詮は虎の威を借る狐だと何処かで思ってはいないか?」
「「「…………」」」

 なるほど。魔法使いが剣だけで勇者パーティーを圧倒する程度では納得がいかないと。4対1だったんですけどねぇ? まぁいいでしょう。

「ふむふむ……。なるほど。どうやら皆様もそのような思いが多少なりともあるようですね……。さて、どうしましょうか……」

 頬に人差し指を当てて首を傾げるあざといポーズで考える振り。いや、考えてるけどもね!?

「お嬢様、彼我の力量差も解らぬとは所詮はその程度の器。このような者どもなど捨て置けば良いのです」
「そう言ってやるな犬っころ。魔法使いである嬢ちゃんが剣一本で相手をした事はスゲェが確かに真似のできない事じゃねぇ」
「妾でも容易く真似できるよのう」

 あんた達はみんな例外よ。私のような普通の美少女と比べないでほしいわ。

「うーむ………………」

 はてさて。後ろで好き放題な王達はともかく、もっと圧倒的な力量差? コイツやばい!! みたいなのがいるって事よね。でもどういうものがそれに該当するのか……。

「なるほど……実におもしろ……」

 ――くはないか。せっかく頑張って剣で相手したのに意味ないじゃん!

「やれやれだわ。つまるところ私に力を示って事よね。でも今以上のモノは無理よ」
「ならばその程度のものだったという事だな。後ろにおられる王達の威を借る狐――」
「――なのでお求めの商品は魔法でご提供致しましょう。魔法使いですからね。文句はございませんでしょう? さすがにあなた方に向けて放つと大問題ですから……」

 手頃な的を求めてぐるりと見回せばちょうど良さそうなお山を発見。マップとサーチで安全確認。よし!!

「はい。ではあそこの岩山を的に私の魔法をご覧に入れましょう。もしそれでも納得がいかないようであれば、もうそれで構いません。私は狐さんで結構ですよ、コンコン♪」

 手首を軽く曲げてあざとかわいい狐ポーズ。ダンスとか踊っちゃおっかなぁ~?
 …………。
無言勘弁してください。もうね、めっちゃ居た堪れないの。心折れるよ!?

「――ゴホン。それでは参ります!!」

 七つの封印を解き放ちあらゆるモノを消滅させる究極の魔法――『全テヲ撃チ砕ク神々ノ断罪』。これなら色々派手だし、中途半端なレベル10魔法とかよりもいいのではないだろうか? メテオと違って常識的な範囲の被害で済むでしょうしね。
 使う魔法は決まった。よしいきますわよ!!

 意識を集中して己の中の魔力を解放する。それは淡い桃色の輝きを放ち私の全身から滲み出すように周囲へと広がって行く。
 第一の鍵――解錠!

「α Ursae Majoris――Dubhe」

 一つ目の白色の魔法陣が私を中心に広がる。眩い光の魔法陣。何となく聖なるモノというイメージ。

「β Ursae Majoris――Merak」

 二つ目、蒼色の魔法陣が一つ目に重なるように現れる。今度は空かそれとも海か。

「γ Ursae Majoris――Phecda」

 三つ目の魔法陣は緋色。紅玉石の様な澄んだ輝き。これはもう炎よね。

「δ Ursae Majoris――Megrez」

 四つ目は翠。もちろんエメラルドの様な輝き。魔法陣は個々に異なる紋様を描き、重なり、複雑な陣を形成する。翠は……森? 自然?

「ε Ursae Majoris――Alioth」

 五つ目は黄金の魔法陣。キラキラと星の様に輝くそれは白、蒼、緋、翠に重なり輝きを増す。まるで全てを祝福するかのようなエフェクトに見える。黄金の煌めき。

「ζ Ursae Majoris――Mizar」

 六つ目を解放する。既に解かれた五つの魔法陣を内包する二重の環状の魔法陣がゆっくりと回り始める。内と外、互いに逆方向に回転するリングが私の魔力をグングン吸い取っていく。
 最後の封印を解錠すれば究極魔法が顕現する。
 あの時の私は私の全てを賭してこの魔法を発動させた。許せない想いを抑えきれずに暴発させた禁断の魔法を打ち砕くために。魔法は私の願いに応えて世界を滅亡から救った。
 そしてまるで一人芝居の様な孤独な滅びの演目をやり遂げた私はその生涯を終えた。
 一体何をしているのだろうかと自分で自分の馬鹿さ加減に呆れもしたけれど……。

 今回は違う。
 今度の魔法は望む未来を手にするための手段。
 私は諦めない。
 私は欲張る。
 全てを望み全てを手にしてみせる。
 だからこれはある意味で過去を精算する儀式の様なモノ。

「η Ursae Majoris――Benetnasch」

 七つ目の魔法陣がその姿を現す。色はピンク。私の色。オパールの様な優しい色合いのピンク。
 陣の形態は蔦。全ての魔法陣を繋ぐ愛の魔法陣。
 七つの封印を解き放ち全てを包み込み撃ち砕く力。愛ゆえに神々は汝を断罪する。

「――顕現せよ! 『全テヲ撃チ砕ク神々ノ断罪セプテントリオンズ・フルバースト』!!」

 私の中から大きな力が抜き取られる。ポッカリと大きな穴が空いたまま体の奥深くが抉られた様な感覚。中心から痺れる様な疼き。
 立体的に絡まり合う複雑な魔法陣が強い輝きを発しながら動きが加速してゆく。
 そしてその強い光が私の胸の前の一点に凝縮される。幾億光年も先で輝く恒星の如きソレは破滅への引き金。私はソレをそっと押し出す様に目標とした岩山へと解き放つ。
 流れ星が尾を引く様にスッと光が走って中腹へと吸い込まれ……。
 そして岩山が消える。元よりそこには何もなかったかの様にただ消える。次いで物凄い強風が吹き荒ぶ。
 辺り一帯のあらゆるモノを吸い尽くそうとするかの様に岩山があった今は何もない場所へと向かって……。

 暴風警報が収まる頃、私は振り返り一同に向けて淑女の礼をとる。スカートの端をちょこっと摘んで軽く膝を折り、少々芝居がかった調子で告げる。

「如何でしょうか? 私の力の程は?」

 何やら顔色のすぐれない勇者様御一行。強風に煽られた髪が凄い事になっているのはご愛嬌でしょうか? ちなみに私は『護りの風』で自衛いたしました。もちろん王達も何事もなかったかの様に立っています。

「返事がない――」

 ただの……。やめておきましょう、この辺で。
 今や私は一国の女王。(自称)
 ちょっと、今自称とかつけなかったかしら? 気のせいかしら?
 まぁいいわ。いつまでもこうしているわけにもいきませんから彼らの結論をお伺いしましょう。
そしてその返答の如何によって私のこれからを再検討しなくてはなりません。
 ああーめんどくさいですわ。
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