魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(22)伝説の武具登場

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 さぁ勇者様方との会談の続きを始める事に致しましょう。

「……ゴホン。それでは始めさせていただいてよろしいでしょうか?」

 厳かにそれでいて何事もなかったかのように努めて平坦な調子で私は場の空気を一新ーー

「ーーでさっきのはどういう事なのか説明してくれないのかねぇ?」

 ーー出来なかった。
 見事なまでに的確に相手の嫌がるところをこれでもかとイヤラシク突いてくるだなんてさすがは王国屈指(?)の密偵ねっ!! あのニヤけた表情が腹立つ!!

「な、何の話でしょうか。人族と魔族の間に空いた広く深い溝を埋めるべくーー」
「それはそれでもちろん重要だけどねぇ……。今はそれ以上に重要なことがあるさねぇ?」
「そ、そ、その様な事案は御座いません。な、何よりも大切な事は二つの種族の誤解を解き明るいーー」
「家族計画?(笑)」
「違うわっ!! 酔っ払いのオッサンですか!?」
「いやぁねぇ。この可愛らしい姿が目に入らないのかねぇ?」
「ハッキリくっきり見えてます! そもそも自分で自分を可愛いとかいうキャラですかあなた!? 人の事をすぐに揶揄って……」
「それが仕事だからねぇ。ぃひひひ」
「何が仕事ですか。そんなのはただの趣味です!」
「それもそうさね。ではそちらのご趣味は?」
「はい音楽鑑賞と読書ーーって見合いか!? 思わずベタな趣味を言っちゃったじゃないですか!」
「なかなかいいレスポンスだねぇ。いっそコンビでも結成するかねぇ?」
「しません!」
「おや残念。結構いい線いけそうなのにねぇ」
「いい線って……」
「そうさねぇ、ベストフォーくらいかねぇ?」
「……良いのか悪いのか微妙すぎてツッコミしづらいわよ。どうせなら優勝とか、いっそ初戦敗退とかでしょ? その方がネタ的にも扱いやすそうーーって違うわ!!」
「ぃひっひひひ。やるねぇ、一人ボケ一人ツッコミだねぇ?」
「ボケてませんから! ツッコミーーはしたけども、今のはネタじゃありませんから!!」
「やっぱりコンビでも組むかねぇ?」
「やりませんから!!」
「それで先程の目の毒な光景はどのような意図があったのか説明責任を果たしてもらえないかねぇ?」
「あ、あれは、その……なんていうか、不可抗力というか、そもそもなんの意図もないものであって……」

 この場の責任者として何らかのケジメをつけなければならないのだろうか。しかし一体何をどう説明しろというのだろうか。そもそもクアラの悪戯であり、見られた事自体がイレギュラーな訳で、彼らに対する何らかのアクションですらない。故にここは見なかった事にするべき事案ですらあるのではないかと逆に不満に思えてしまう。しかしだからと言ってこの様な些細な事で関係に無用な波風を立てたくもない。
 結局の所私が泥をかぶるほかないのかもしれない。

「ーーあの」
「ーーメル、もうそのくらいにしておけ」

 えっ!? え、えっ!?

「そうかい? 今面白い所なんだけどねぇ?」
「彼女の素……というか違った一面が見られただけで十分だ。今の姿を見れば人族と魔族の違いなどない事がよくわかる」
「違いないな」
「だ、だからと言って魔族に気を許す訳ではありませんからね」
「はいはい。みんな揃って人がいいねぇ。少しは交渉役の苦労を察して欲しいものだねぇ」
「いつも感謝しているさ。それにな、あのまま続けていても有利にはならなかっただろうさ」

 戸惑う私を置き去りにして一同の視線が私の後ろへと向けられる。
 はて? 後ろに何かあったかしら? そう思い視線を向ければ笑いを堪える元凶の顔が見えた。

「くくく……。キラリよ素が出ておったぞ。交渉ごとに臨むときはもっと気を引き締めておかねばならぬぞ」
「わ、わかってるわよ!! わかってるけど、あなたにだけは言われたくないわよ!! 大体さっきの窮地自体があなたの所為でしょ!! ところ構わず発情しないでほしいわ、ホントにっ!!!」
「何を言うておる。妾が発情しておればあの程度では済まぬぞ? 今頃其方は快楽の海で溺れておるよ」
「あぁぁぁぁぁぁぁっっもうっっ!! もう少し侍女らしくしなさいよ!!!」
「おお、そうであったな。妾は今そなたの侍女じゃったな。どれ女王陛下よ肩でも揉んでやろうか?」
「結構です! それにそれが上の者への態度ですか……。はぁ……。せめて人前くらいは演じてくださいよ……」
「くくく。どう取り繕うても同じじゃ。妾やガルムが何者かの下につく事はない。王とはそう言う存在じゃ。じゃがその王たちがそなたと行動を共にしておる事実は相当なものじゃぞ? のう勇者よ」
「っ……」

 急に話の矛先を向けられた勇者が言葉の詰まった。表情の重さに比べて少々顔が赤い気がするのはクアラの色気の所為だと思いたい。

「既に察しておろうが妾は天空城の主、天空王クアラである。まずはそなたらにーーというよりは勇者にこれらを贈ろう」

 パチンと指を鳴らすと私たちと勇者の間の中空に光が生まれた。
 柔らかな光はゆっくりと大きくなりその光から一振りの剣と鎧とそして盾が姿を現した。
 三つの武具はいずれも白を基調として剣にはスカイブルーのライン模様が施され、鎧はエメラルドグリーンの装飾が華美になりすぎない程度に。そして盾にはディープブルー輝きがの弧を描いている。それぞれ色は違えど同じデザインコンセプトで作られたセット装備。
 そして私はーー俺はこれを知っている。

「こ、これは!?」
「綺麗ですね。武具に向ける言葉ではないかもしれませんが」
「見事な武具だ。王家でもこれ程の剣は所有していないのではないか」
「神話級の装備品……に見えるねぇ……」

 言葉の端々に驚きが感じられる。それもそのはずでこれらの武具は伝説に謳われる勇者の為の物。天空の剣、大地の鎧、蒼海の盾と呼ばれるモノなのだから……。
 それにしても……。

「「「「………………」」」」

 それらの武具越しに勇者様方と目が合った。それはもう皆様と心が一つになった瞬間の様に思えた。彼らの目もまた一様に私と同じ事を考えといるーーと何故か確信した。

(デカくね!?)

 そう。絶対そう思ってる。剣なんて某モンスターを狩るゲームの大剣みたいなサイズだし、鎧は甲冑? フルプレートメイル? だし、盾に至ってはこれってなんていうんだっけ? 大楯? 小柄な人が完全に隠れちゃう様な大きさ。
 えっ!? 勇者ってこんなの全部装備するの? 動けなくないですか!? って言う感じのサイズ感。もし私が勇者ならいらないと丁重にお断りするかもしれない。その様な品物である。これはアレだ。伝説は伝説のままの方が良かったかもしれない。

「何じゃお主ら感動が薄いのう? 正真正銘まごう事なき伝説の武具じゃぞ? 見た目も性能も破格じゃぞ?」
「そ、その様ですね……」

 辛うじて絞り出した勇者様のセリフからは全く気持ちは感じられない。

「ねぇクアラ。これちょっと大きすぎないかしら?」
「飾っておくのにちょうどよかろう?」
「いや待って!? 実用品でしょ!?」
「無論じゃ」
「どこが?」

 どう見ても非実用的にしか見えない。大体こんな装備つけて旅なんて無理でしょ。重すぎて死ぬわ。

「キラリよ、其方まさかこれらが見た目通りの武具だと思ってはおるまいな? 勇者の為の武具じゃぞ? 全てにおいて抜かりはないぞ」
「ふっ……成る程。それは私も失念していたわ。そうよね。あなた達が用意した武具がただの剣や鎧でなどある筈がなかったわね!」
「そうじゃ! これらは勇者専用装備。その名に恥ぬ特殊効果満載じゃ!!」

 それならば色々と腑に落ちなかった点も納得できるというもの。例えばサイズや重量などは勇者が持つ時に限り変化すればいいわけよね!!
 凄いわ!! なんて言うかこう胸の奥に炎が灯った様なそんな感じよ!! 変形合体よっしゃーーーっっ!! みたいな感じね!!!

「さぁ勇者よこれらの武具を手にしてみるが良い!!」
「是非是非! どうなるのか楽しみだわ!!」
「物凄いテンションなんだが、一ついいだろうか。これらの装備品だが、もし勇者以外が手にしたらどうなる?」
「別にどうもならぬぞ? 先程妾が取り出して見せたではないか。何ならキラリに持たせてお主は触れるだけでも良いぞ?」
「何で私が生贄みたいになってるのよ!?」
「別に触れたものを蝕む様な邪悪な呪いなどかかっておらぬよ。あくまでも勇者が手にした時のみ真の力を発揮するだけじゃ。勇者が不審がっておるのじゃからホストであるお主が持たずして誰が持つというのか?」
「そう言われるとそうかもしれないけど……」
「いや、それにはーー」
「いいえ、そうしてもらいましょう。魔族の言うことなど信じてはいけません」
「妾は魔族ではないがの」
「そ、それは詭弁です。あなたもそこの魔族に与する以上容易く信じる訳にはいきません」
「別に断りはせぬぞ。そもそも妾が言うたことじゃからな。ではキラリよさっさと持つが良い。のんびりしておるとまた何ぞ要求をされかねぬからのう」
「いや何であなたが偉そうに仕切ってるのよ……。まぁいいわ。剣でいいかしら? 持つわよーー!? おもっっ!?」

 見た目以上? いや通りかしら? 物凄く重い。私ってばか弱い乙女だから常時ステータスアップ魔法をかけてる訳だけれど、それでも持つのが精一杯だわ。これを剣として振り回すなんてとても無理ね。こうして、抱え持つのが限界だわ。

「さぁ勇者よ触れるが良い。お主が誠に勇者であれば剣は真の姿を現すであろう」
「………………」
「緊張するわね」
「ああ。だが問題ないだろう。ただ触れるだけのこと。少なくとも彼女が触れて何事も起きていない以上触れるだけでどうにかなる事はないだろう」
「そうね……」
「いしし。問題なしねぇ……。あの谷間に挟まれた剣に触れるっていうのが笑えるねぇ」
「言ってやるなメル。ただでさえ妙な緊張感が漂っていると言うのに……。お前というやつは全く……」
「いい加減にしてくれ。どんどんやりづらくなってるじゃないか」
「役得役得さね」
「別に気にせず剣を握ればいいではないか」
「妾的にはキラリの胸を揉むというハプニングに期待じゃがのう?」
「黙りなさいエ□メイド。あなたに介入させるのではなかったと今とても後悔しているわ」
「ふむ。スムーズに話が進んだと思うがのう? 勇者に勇者であると認めさせた方が色々と都合が良いじゃろう?」
「彼が勇者である事は揺るがないわ。認めようと認めまいと私は知っているからいいのよ」
「ちょっと待ってくれ。だから俺は勇者ではないとーー」
「そういうのもういいですから」
「往生際が悪いのう」
「いやそういう問題ではーー」
「いいから早よう触れるが良い。見た目以上にボリュームがあって触り心地抜群じゃぞ?」
「あなたは一体何の話をしているのかしら?」
「無論勇者の剣の話じゃが、他の何かに聞こえたかのう?」
「いい性格ね……まぁいい加減あなたにツッコミを入れるのも疲れてきたわ。ルクス様取り敢えず剣を手にして頂けますか?」

 煩い外野は無視して抱えた剣の柄をルクス様の方へと差し出す。机越しに少しセクシーな姿勢になってしまったことは致し方がないと諦めよう。

「……わかった」

 そう覚悟を決めた様な表情で彼は剣へと手を伸ばした。勇者が剣を握りしめた瞬間抱えた腕から重さが消え巨大な剣が眩い光を放ちその真の姿を現したーー!?
 低く唸るようなブゥゥゥゥゥンンンという音を発して……。
 光はわずかな時間で収束し辺りは異様な沈黙に包まれた。

「「「………………」」」
「クククククク……」
「ぃ、ぃ、ぃ……」
「な、な、なーー」

 ぃぃゃぁぁぁぁああああああっっっっっ!!!!!!!!

 私の悲鳴が響き渡ることになった。
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