魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(16)蒼の世界と母なる海の王

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『キラリは天空王を仲間にした!』

 そんなメッセージが流れたような気がする。もちろん気のせいだけど。

「王を三人も配下にするとは前代未聞だな」
「それを言うなら王を配下にする事自体じゃねぇか?」
「お前と違って我は降った覚えはない。あくまで興が乗っている間は側にいてやる。それだけだ」
「へいへい、そうですか。無駄にプライドが高いのもどうかと思うがね俺様は……。だいたい最初に自分で三人とか言わなかったか?」
「知らんな」
「そうか。まぁどうでもいいけどな」
「相変わらず仲がいいなお前たちは……」
「心外だな」
「冗談だろ!?」
「そう言う反応を同時にするから仲良し扱いなのじゃよ」
「「………………」」
「それで我らが主殿はこれからどうするおつもりじゃ?」

 おっと、彼らの会話を懐かしんでいる場合ではなかったわね。

「もちろんつぎのステップへ進みますよ。私の目的は世界征服ですからね。まだまだこんなものでは終わりませんよ!!」
「つまり……」
「なるほど。次は誰の番だ?」

 さすが皆さん察しが良くて素晴らしいですね。上司としてとっても楽が出来て幸せです。

「それでは皆さんにそれぞれお仕事をお任せしますねーー」

 こうして私は三人の優秀な部下たちに仕事を割り振るのでした。そして私は次のターゲットへ向かいます。



 
 深い海の底とは思えない。
 海底宮殿といえば世の中のほぼ百パーセントが想像すると思うのだが、ここにはその光景がなかった。

「不満そうだな?」
「当然ですわガルム様! ちょっと一言申し上げたい気分です!」
「そうか」
「ええ、そうですわ!」

 海底宮殿だと言うのに……言うのに……何故に蛍光灯の灯るありふれた天井を見なければならないのか!? 普通ガラス天井のアクアリウムでしょ!! それなのにここは……。いいえ! まだここは屋内。外に出ればきっと……。そうきっと大丈夫!! まだ希望は潰えていないわ!!
 外にはきっと熱望する海底からの景色があるはず!!

 ーーだがそんな希望は儚く散った。私の願いは見事に裏切られた。
 窓の外の景色も見慣れたありふれた空。どこにでもあるような白い雲と青い空。何でだよ!? ここ海底だよ!?
 これはもう私が怒るのも仕方がないと思う。

「ガルム様!! どうして定番の水中からの景色ではないのですか!?」
「我に言われても知らぬが、奴曰く陽の光を浴びる事は大切な事だかららしい」
「そんな常識をこのような形で取り入れて欲しくありませんでした……」
「健康には気を使うたちだからな。我からすれば非健康極まりない生活をしておいて何を今更なのだが」
「ええ、ええ。そうでしょうとも。海底の宮殿に引きこもっておいて健康も何もありませんわ!!」

 御察しの通りここは海王の居所である海底宮殿である。青い空と白い雲。風にそよぐ草原があろうともここは海底なのである。
 そんな秘境中の秘境とも言える場所に通常のプロセスを全て無視してガルム様の転移で突撃訪問致した訳ですが……。(いやもうコレは定番になりつつあるわね……)
 まぁ今回もその定番通り突如玄関……というか転移でやってくる事を前提としたヘリポートみたいなだだっ広い部屋に転移してきた訳である。
 そんな私たちを無機質な表情のメイドさんが出迎えた。何の前触れもなく現れた来訪者に少しも驚くことなく「いらっしゃいませ、魔狼王様」と。 
 逆にこちらがビックリして言葉が出てこなかったくらいだ。まぁどう見てもアンドロイドだからそういうものなのかと後から納得はしたけれども……。
 で、そんな彼女に案内されてやってきたこの部屋ーー居間(?)で待つ事三十分。
 彼女ーーメイドさんが主人を呼びに行ってくれているのだけれど……呼びに行ってくれているのよね!? 一向にやってくる気配がないのである。

「ガルム様……このまま待っていても大丈夫なのでしょうか?」
「……そうだな、まずいかも知れん。奴のことだからメイドに呼ばれた事を忘れて趣味に没頭しているやも知れぬ」
「その……海王様はどの様な方なのでしょうか?」

 まほプリの海王はバリバリの武闘派で七つの海(適当)を股にかける海賊の様なキャラクターだった。もちろんイケメンキャラで野蛮な感じの人? 荒々しいというか野性味溢れるというか……海の男? 表現が難しいわね。でもまぁなんとなくイメージ出来ると思うけれど、そういう感じのキャラだった。
 でも……。どうも違うらしい。この部屋、屋敷……廊下しか見ていないけれど、それらを見る限りでは先のイメージとはかけ離れている。
 住居からイメージする人物像は……整然とした室内。落ち着いた雰囲気の家具。質素ではないがかといって豪華でもない。中流階級で家計に余裕があるお家みたいな感じ。
 成金色は感じないから、いいとこのお嬢様が一流商社の管理職と結婚して控えめなでも確かなクオリティの生活をおくっている様な感じ。
 こういうのはなんて言えばいいんだろう? 普通に上品なご家庭? セレブではないけれども庶民でもない。

「……十中八九我らの来訪を忘れているだろう。そういう奴だ」
「そういう方なのですか? お仕事? がお忙しいとか?」
「いや完全に趣味だな。奴の口癖は「働いたら負け」だからな……」
「………………」

 あーなんていうか、それだけでおおよその人物像が思い描けてしまう。海王は恐らく……。

「そうするとこのまま待っていても?」
「どれだけ待たされるか分からん。仕方がないこちらから出向こう」

 そう言って立ち上がったガルム様がわたしに手を差し伸べてくれた。
 あまりにも予想していなかった行為に少し驚いた。

「ありがとうございます」
「礼など不要だ。我は貴様の執事役だからな」
「はい、そうでしたね」

 やろうと思えばもっと完璧な執事が出来るのに……なんていうか照れた感じが萌えますね。

 応接室……代わりの居間を出て廊下を右へ進む。単純に来た方と反対に進めば奥かな? という感じで私の手を引くガルム様はズンズン進む。それはもう遠慮など一欠片もなく、まるで我が家を行くかのように。
 いいのか!? いいんだな!? いやでも人様のお宅ですよ!? もっとこう遠慮とかそういう成分があって然るべきではないのでしょうか?
 しかしガルム様の歩みは止まらない。途中左右の分岐点があり、そこで一瞬立ち止まったけれどすぐに右へと進みます。

「あのガルム様?」
「どうした?」
「いいのでしょうか?」
「何がだ?」
「いえ、勝手に家の中を歩き回ったりして?」
「心配ない。奴のテリトリーに入らねば何をしても気にも止めん奴だ。そのかわりテリトリーを侵した者には容赦せぬがな」
「………………」

 お家の中はそのテリトリーではないのでしょうか!? 一瞬で血の気が引いた私を歯牙にもかけず、変わらぬ調子でガルム様は進んでいきます。
 やがて廊下の途中に下りの階段を見つけるとガルム様はその前でピタリと立ち止まりました。ここが海王様の?

「おい、メイド!」

 そして何処へともなく呼びかけると先ほどのメイドさん……? が現れた!!

「ーー!?」

 えっ!? 今どこから!?

「どうなさいました?」
「海王を呼んでくれ」
「かしこまりました」

 丁寧なお辞儀をしたメイドさんは階段ーーのすぐ側の壁をノックしてーー!?

「ご主人様お客様です」
「えっ!? そっちなの!?」
「階段はフェイクだ」

 隠し扉!?
 いや、ダンジョンかよ!? ここ自宅じゃないんですか!?

「あー悪いね、忘れていたよ。随分待たせたかな? 入ってくれたまえ」

 中にいる人物の声が聞こえた。ちょっとまだ驚きが治らない。

「久しいな。相変わらずのようで安心した」

 なんでもないことのように答えながら部屋へと入るガルム様。
 そこは如何にもな感じの部屋だった。そう、いかにも引きこもりの研究室チックな部屋。壁一面のモニターには世界地図? ぱっと見では理解できない様々な数値が表示されている。複数の矢印やそれらの数値が世界の何かを表しているのだろう。ありきたりだけれど各地の気候や海流などだろうか?
 海王なのに気候の管理もするのかしら? あ、でも海流と気候とは密接に関連しているのだったかしら? ちょっと勉強不足で曖昧だけれども……。

「うちにお客なんていつぶりだろうね?」
「はいおよそ三百年振りでございますご主人様」
「そうかい、もうそんなに経つのか。時間が過ぎるのはあっという間だねぇ」
「前回は誰が来たのだ? 思い当たるのは……サカイくらいだが?」
「お、正解。夫婦でだけどね」
「そうか、懐かしいな」

 何とも緊張感のない会話。しかも声が若い。若いというか幼い。あれか!? 合法ロリ!?
 そういえば今のところその枠は空いていたような気がする……。ここへきてその属性も補完してくるとはやるな!!

 ……っておバカな妄想に囚われてる場合じゃないわね。これが海王の平常運転なの? いつもこういう感じなの? 流石にちょっとあれじゃないかしら? 王の威厳とかそういうのも大事じゃないかしら? 初見のお客さん(私)がいるのよ?

「それで、んーこの声はガルムかな? 珍しいね、引きこもりの君がうちに来るなんてさ?」
「貴様に言われたくはないな。そもそも我は引きこもっておるわけではない。用事がないから出歩かぬだけだ」
「理由なんてどうだっていいさ。事実は君が住処から出ていないという事だけだよ。それで何の用だい? 遂に我慢の限界に達したかな?」
「何だそれは? まぁいい。我は貴様に会いたいという客を連れて来ただけだ」
「へぇ……『客』ねぇ?」

 その段階になって初めて椅子がくるりと回って座っていた人物の全貌が明らかになった。
 背もたれに隠れるほど小柄な若い女性。声と状況から分かるのはそれくらいだった。
 振り返った彼女はーー。

「ガルム様は見ないで! あなたはなんて格好をしてるんですか!?」

 若い娘というかお子様は裸ではないものの下着としてのタンクトップのシャツと白いパンツ姿。
 もちろんパンツというのはあのパンツです。ズボンじゃない方ですよ!!

「まだ子供とはいえそのかっこうはいけません!! ちょっとメイドさん! 何か着るものを用意してください!!」
「……かしこまりました」

 ちらりと主人に目配せをしたメイドが返事をして衣服の用意を始める。

 これがーー海王とのファーストコンタクトとなりました。
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