魔法の国のプリンセス

中山さつき

文字の大きさ
上 下
260 / 278
第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(15)勇者と魔族のお姫様③

しおりを挟む
「ーーもうお気付きかとは思いますが、勇者はある種の道化のようなもの。魔王と魔族はそれこそ人族の奴隷のようなもの。その関係性を維持したまま世界を回していくためには当然ですがその双方に同じ認識が必要ですよね?」
「ーー!?」

 表情を見れば見当はつきます。これまでの話で薄々とは察していたと思いますが、ご理解いただけて何よりです。納得できるかどうかは別問題ですけれども。
 それでも驚きを隠せないのは……内容が内容だけに仕方がないことかもしれませんね。

「それはつまり……最初から聖王と魔王が繋がっていたという事なのか?」
「逆にお伺いします。そうでない場合に天敵システムは機能しますか?」

 …………。

 絶対に機能しないーーとは言えないのかもしれない。でも程よい距離感で自らの繁栄を求めずにただ目の上の瘤としてあり続ける事が出来るだろうか?
 度々訪れる勇者と言う名の無礼者の相手を適切に行えるだろうか?
 そして辺境の小さな島一つで生活に必要な物資が揃うものなのか?
 考えれば自ずと答えは見えてくるはず。

「……無理だな」
「ーーノイン!?」
「お前にもわかるだろうソフィス。素人考えでも無理がありすぎる。確かに短期間であれば成立するかもしれんが長い時間そうあり続けることは不可能だ」
「そうですね。時間の長短がどれくらいかは人それぞれですが、このシステムの稼働時間は千年単位ですよ。千年か二千年かそれとももっと永い時間なのかは私も知りませんけどね」
「そんな……」
「私の感覚ではそれ程の永い時間は不可能だ。しかし同時にそれ程の時間となると人族では何十世代も経ていることになるが……。はたしてそのような長期間成立するものなのか?」
「どうでしょうね。私にもわかりません。ただし。一つ言えることは今現在もこのシステムは稼働しているということでしょうか?」
「なるほど。納得だ。何者かが成立させ続けている訳か」
「はい。ですが一つ訂正を。何者かではなく聖王と魔王が成立させています。魔族も人族もその殆どが何も知らずにその時代その時代を生きています。世界の根底で一定の平和を維持しているのは聖王と魔王。そしてその他八人の王たちです」
「ーー!?」

 何を驚くというのでしょうか? 王が二人も関わっているシステムの事を他の王が知らないはずがありませんでしょう?

「……それはつまり……?」
「簡潔に言いますが、全員グルですね」
「何という……」

 絶句。

 そして私の後ろに立つそのうちの一人に自然と視線が集まる。
 当の本人はそのような視線を気にすることなく平然としているーーのでしょうね、きっと。(苦笑)

「ーーそれで。それでもし今の話が事実だとして君は何をしようとしている? 何を望んでいるんだ?」
「さすが勇者様。話が早くて助かります。私が望むのは平穏な日常です。一人の女の子として平穏で幸せな暮らしをしたい。ただそれだけです」
「そんな事の為に?」
「そんな事?」

 おっといけない。思わず殺気が漏れてしまったかもしれませんね。

「ーーいや、すまない。そういうつもりではない。ただもっとこう大きな何かを想像していただけだ」
「勇者様、そういうつもりがどういうつもりなのかは問いませんが、あなたがそんな事と仰った『平穏な日常』がどれほど素晴らしい事なのかはそうではない人生をおくらなければ気がつかないのかもしれません」
「すまない失言だった」
「いいえ。責めている訳ではないのです。これまでの私はそんなささやかな幸せすら無縁だったという事です。そしてだからこそ渇望してもいるのです」
「………………。それでキラリ嬢、どのようにしてその願いを実現するつもりなのかな?」
「あっ! そうですわ! そこが問題ですわ。平穏な日常を求めるのに何故……」

 一同の視線が再び私の後ろへ。うん。やっぱり王の存在は別格ですね。

「例えば何処かの田舎町でそっと暮らす。そんな事を考えた事もあります。ですが、それでは私一人が難を逃れるだけで魔族や魔王は討伐の危険に晒され続けます。魔族にだって親兄弟友人知人がいます。あなた方人族と何も変わらないコミュニティを形成しています」
「……なるほど。侵略に対して抗うのは当然の事……だな」
「待て! 魔物を使って侵略しているのは魔族の
ーー」
「ルクスそれがそもそも誤解だという話だろう?」
「それは……」
「待って、二人ともちょっと待って。その事実を明らかにしたのが魔族という事を忘れないでちょうだい。彼女の言っていることが正しいとは限らないわ。私たちを騙そうとしているのかもしれないでしょう」
「否定はしない。しかしその目的が見当もつかない。彼女が我々を騙す目的は何だ? 戦力か? 自惚れるわけではないが我々は相当強い。あくまで人族というカテゴリーではな? しかし彼女の側には我々以上の戦力が既にある。ならば目的は他にあるのか?」
「それは……」

 少々混乱しているご様子ですが、そう悪くはない展開かと思います。
 想定する最悪の脚本は勧善懲悪。これまでの魔族に対する感情、思想誘導は私たちを完全なる悪役にしてしまっている。でも今この場ではその定義が揺らぎつつある。私が投げ込んだ石が良くも悪くも大きな波紋を広げているからだ。
 そして何が良かったのかはわからないけれど、ちょっといい方向に話が進んでいる気がする。正直お姉様の悪感情はちょっとやそっとではどうにもならないと思っていた。それが……どうした事でしょう? ちょっと苦手な相手と一緒に居るくらいの感じ……ですよね?
 うーむ。謎だわ。あれかしら魔族の姫という高貴なオーラがお姉様のお姉様心をくすぐったのかしら?(笑)
 ああ見えてーーというか見た目通り母性愛に溢れているお方ですからね。えっ!? お胸様のサイズの話ではありませんよ!?

(ひゃっ!?)

 今一瞬物凄い殺気のようなモノを感じたのですがまさか……。あ、睨んでる!?

「ゴホン。色々と情報が多すぎたようですね。アン、リラックス出来るようにお茶のおかわりを用意してくれる?」
「かしこまりました」

 再びお茶の支度をする為にキラキラひらひらとうちの可憐な妖精さんが舞うように動き回る。
 その様子はある種のマスコット的に場を和ませる力があるかもしれないーーなどと思ってしまった。
 そんな可愛らしい妖精のダンスを横目に閑話休題といきたいところですが……。

「ありがとう、助かる。俺たちには君の情報を精査する時間も余裕もツテもない。だから何を聞いても結局はこの場にいる四人で判断するしかない訳だがそれは理解しているだろうか?」

 そうはいかないようですね。

「私はあなた方が勇者様とその御一行だと知った上で会いに参りました。ルクス様は勇者である事を否定されておりますが、それは一旦横に置いておきましょう」

 四人の顔を順に見つめて僅かなタメを作る。決してもったいぶっている訳ではなく、私自身の覚悟の問題でもある。
 非常に良い……いやそこそこ友好的な……まぁ相応に話を聞いてはくれる距離感……あ、ヤバイ。ちょっと覚悟が揺らいできたかもしれない。(笑)

「ーー誤解のないように先に申し上げておきます。情報の裏付けが取れない今この場で何かしら返答をいただきたいーーというつもりではありませんのでご安心ください。本日こうして皆様にご挨拶にお伺いした目的はまずは私の事を知っていただきたかったのです。私といいますか魔族といいますか、それも含めたこの歪な世界の事を……と申し上げるのが一番いいかもしれません」
「それで?」
「はい。まずは知っていただく事。私たちと皆様方とが相容れぬ存在では決してないという事。私たち魔族は人族を侵略する意思などないのだという事。それらを知ってもらった上で勇者様に判断していただきたかったのです。それでも魔王討伐をするのかどうか」
「………………」
「ああいえ、違いますからね。ここで返事をしていただくつもりではありません。情報を持ち帰り存分にご検討くださいませ。今はそれで十分ですから」
「今は?」
「はい、今は。いずれは皆様とももっともっと友好的な関係を築きたいと願っておりますが、今はまだ時期尚早でしょう。この場で何をどうお話したとしても私への不信感は拭えないでしょう?」
「否定はしない。それにルクスが勇者ではないかもしれない。その場合は君のこの努力はあまり意味をなさないだろう」
「そうですね。その心配は不要ですが、それで構いません」
「何故俺が勇者だと断定する?」
「……………」
「答えられないのですか?」
「いいえ、開示する情報、根拠がないのです。どのように解釈されるかはお任せしますが、ルクス様が勇者であるという事を私が知っているから。これがその問いに関する返答のすべてとなります。根拠も理由も何も提示できません。ただその事実を知っているというだけです。ですから訝しがる皆様のお気持ちも理解しております」
「……ふむ。わかった。これ以上詮索しても我々が知りたい事は聞けそうにないだろう。勇者の件はこのくらいでいいだろう。それで勇者に会いに来た魔王の娘の目的は果たせたのかな?」
「はい。そしていいえですね」
「どういう事だ?」
「つまり、まだ話は続くという意味さ」
「……の、ようですわね」
「やれやれ。ちょっと休憩を希望したい……かねぇ?」
「だな。まぁこの状況がそもそも休憩みたいなものだとは思うが……」
「情報を整理する時間が欲しいです」
「という事だがどうだろうか?」
「もちろんです。もしよければ隣の部屋をお使いください。私どもはこちらでお待ちしております」
「わかった。ありがたくお借りしよう」

 これにて勇者との会談第一幕は終了ですね。
 休憩を挟んで第二幕が始まります。私も気合を入れ直しましょう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の先生に召使にされた僕はお悩み解決を通して学校中の女子たちと仲良くなっていた

結城 刹那
恋愛
 最上 文也(もがみ ふみや)は睡眠に難を抱えていた。  高校の入学式。文也は眠気に勝てず保健室で休むことになる。  保健室に来たが誰もいなかったため、無断でベッドを使わせてもらった。寝転がっている最中、保健室の先生である四宮 悠(しのみや ゆう)がやって来た。彼女は誰もいないと分かると人知れずエロゲを始めたのだった。  文也は美女である四宮先生の秘密を知った。本来なら秘密を知って卑猥なことをする展開だが、それが仇となって彼女の召使にされることとなる。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...