魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(8)ピクニックーーじゃなくて世界征服一歩目です♪

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 冥王国は今日もいい天気です。
 地下だけど。
 そよぐ風が花びらを舞わせています。
 地下だけど。
 遠くを見れば川が流れているのが見えました。
 やっぱり地下ですけれども。

 一見するとそうとは思えないのだけれど、それでも確実にここは地下の世界。冥王ハデスが治める地底王国ーーというと急にB級映画感が強くなる様な気がするのは気のせいだろうか?

「……で、どうするのだ?」
「そうですね。ここはひとつ令嬢と執事に扮して堂々と正面から訪問いたしましょう。魔王国第三王女ーー改め、新生魔王国ヒストリアの女王として国交を樹立しに来た。というのはどうでしょうか? 結んでくれないと暴れちゃうぞ♪ みたいな感じです」
「ククク。面白い。ならば我は……そうだな、女王の執事として側に立とうか」
「いいですね。美形の執事が側に仕えるだなんて夢の様です。早速衣装チェンジしましょう!」

 やるならとことん。遊びこそ全力で! 私のモットーである。あれ? いつからそうなんだっけ? ちょっと思い出せないな。まぁ別にいいか。

 という事で私は豪華絢爛なドレスに、ガルム様は黒い執事服に。もうあれですよあれ、似合いすぎて悶絶しそうです。こんな執事に冷たい目と口調で苛められたい。ああっっ!! エスエムチックな展開も嫌いじゃないですわたし。
 ちょっと想像しただけで大興奮です。ああっっ!! そこはいけませんわガルム!? 貴方は執事で私はこの国の女王なのよ!? ダメ、いけないわーー。

「あイタ!?」
「妄想も程々にしておけ」
「あら、また乙女の心を無断で読んだのですか? でもガルム様ならいいですよ? 現実にしてしまっても?」
「冗談も程々にせぬか。少しは恥じらいを持て馬鹿者」
「恥じらい……ですか……。うふふ。難しいかもしれませんね。だってあの時ガルム様にたっぷりと注がれて無くしちゃいましたからーーあイタ!?」
「恥じらいを持て!」
「はぁい……。うふふ、あらら? もしかして照れてます?」
「………………」

 少し楽しくなって、嬉しくなってキャッキャウフフしてしまいました。まぁガルム様は終始無言だったので私一人ではしゃいでいた訳ですけどね。
 でもほんの少しだけガルム様の口元にも笑みが浮かんでいた様に見えたのは私の願望でしょうか?




 冥王の居城は突然の珍客に騒然としていた。こういうのを蟻の巣を突いた様なーーと表現するのだろうか。開けっ放しの門の側に立つお飾りの守衛だけがまるで別世界にいるかの様に強張った顔をしている。有り得ない外からの来訪者を警戒しているというわけだ。ちなみに私たちの事ですそれ。
 でも心配しなくても問答無用で暴れたりなんてしないから大丈夫なのに。
 まぁそんな事を知る由もなければ知ったところで信用するに値しない訳で彼の状況がなんら変わるものではないのだけれど、頑張れって応援してあげるくらいはしてあげてもいいかなとか思ったりもする。
 ーーなどと取り留めのない事を思いながら私は白いガーデンテーブルと揃いの椅子に優雅に腰掛けて穏やかなティータイムを満喫中だったりする。
 いやぁストレージってほんっとうにいいもんですね。(笑)

 さてここはガルム様の宮殿から転移でやってきた冥王城の門の前。長閑な田舎町の守衛よろしく欠伸を噛み殺していた門番に冥王ハデスに会いにきたと告げて半刻ほど。
 何者かと問うたもう一人いた守衛はガルム様の口上を受けて猛烈な勢いで城の中へと駆けて行った。
 取り残された相方が哀れでならなかったのでニッコリと微笑みをプレゼントしてあげました。
 なのにずっと睨みつけてくるなんて失礼しちゃうわ。

「やめろ、貴様の笑みは男を魅了する」
「あら? そうですか、にっこり♪」
「……何のつもりだ?」
「いえ、少し魅了しておこうかと思いまして」
「……我には効かぬ」
「あら残念」

 などと遊んでいると門の奥の方が騒がしくなってきた。
 数人の騎士と美人秘書と、なんと御大自ら登場である。今日のハデス様は白のワイシャツに黒のパンツという割とラフな格好だった。それでも絵になるし思わず見惚れてしまうのはイケメン補正に違いない。ガルム様とはまた違う魅力的な殿方である。俺様感が強く夜の相手は大変だけれどーーまぁ時間を問わず大変だけれど、抱かれると幸せにはなる。ちゃんと全力で愛してくれる。さすが王様である。
 ちなみに美人秘書はレイチェルさんでした。相変わらずの出来る女感が凄い。そして美しい。素敵ですわ。お姉様とお呼びしたいくらいです。
 って私お姉様多過ぎかしら? でもそういうハーレムもいいですわよね?

「おいテメェ! 人様の庭先で面白いことしてくれるじゃねーか」

 王様の癖に最初のセリフがチンピラである。

「どちら様でしょうか? 随分と下っ端感のあるご挨拶ですが、私は冥王様にご用がありますの、早く呼んできてくださるかしら?」

 私の発言にレイチェルさんが笑いを堪えている。

「おもしれー事言うじゃねーか。覚悟は出来てるって事だな?」
「あら? どの様な覚悟でしょうねガルム?」
「さて。皆目見当もつきません。所詮は下っ端の戯言です。キラリ様が思慮される必要はございません」
「ーーガルムだと!?」

 後ろに控えていたガルム様を凝視するハデス様。一瞬でその表情が強張りチンピラ改め王の顔に変わりました。さすがですね。というかガルム様の存在を認めてなおチンピラ然としていたら協力者としての資質なしと断ぜざるを得ませんでした。そんな事はあり得ないと確信していてもやはりホッとするものですね……。ふふふ。

「あら、貴方を呼び捨てにするとは図々しい下っ端ですわね」
「そうですねキラリ様」
「チッ。女、俺が誰だか最初からわかってやがったな。ガルムテメェもいつから犬に成り下がった!?」
「よく吠える下っ端だな。一々貴様の問いに答える義務はない」
「そうか、相変わらず感じの悪い奴だ。それで女、俺に何の用があって来た?」
「……? あの、私が用があるのはこの城の主、冥王ハデスなのですが?」

 可哀想なモノを見る目で見て差し上げました。挑発ですね。冷静に判断されるとこれから先の話が面倒なので少しでも冷静さを欠いて頂けると有難いのです。

「ーー無礼者! こちらに在わすお方をどなたと心得る! 恐れ多くも冥王国国王ハデス様にあらせられる! 即刻その無礼な態度を改めなさい!!」

 おっとっと。先にレイチェルさんの導火線に火がついてしまった様だ。これはマズイわね……。

「これはこれは大変失礼を致しました。まさか国王様自らがこの様な場所まで起こしになるとは思いもしませんでした。非礼をお詫びいたします」

 立ち上がり軽く謝罪の礼をとる。
 さて、仕切り直しましょうか。

「改めまして冥王ハデス様にご挨拶を申し上げます。私は新生魔王国ヒストリア女王キラリ・フロース・ヒストリアと申します。お初にお目にかかります」
「新生魔王国……だと? 魔王ヴェルファストは健在だったはずだが……」

 鋭い視線が私ーーの後ろに立つガルム様に向けられた。

「左様でございますわ。魔王ヴェルファストは私の父でございます」
「ならば貴様が王位を継承したという事か?」
「いいえ。そうではございません。私が新たに国を興したのでございます」
「何だと?」

 またしても視線は私の後ろへ向けられる。
 確かに魔狼王ガルムと私とでは前者の方が格上と認識する事に理解は出来る。しかし今目の前に立ち話をしているのは私であり、ガルム様はその従者として私の側に控えている。
 これは大変に失礼な事だ。決して対等であるはずの相手にして良いことではない。自分が散々おちょくった事は棚に上げて言うのも何だけれど……。

「ハデス様、今話しているのは私です。そう度々ガルムへと問うのは失礼ではございませんか?」
「おいガルム、何なんだこの女は! それとも貴様本気でこの女に降ったのか!!」

 激昂するハデス様に対してガルム様は無言で見返すのみ。俺様キャラはともすれば咬ませ犬感が出てしまうものですが……ガルム様とはちょっと相性が良くないですね。悠然と応じるガルム様ってば素敵ですわ。

「チッ! 正気かよ。一体何があったってんだ……。まあいい。それで女、俺様の国に何の用だ? 事と次第によっちゃただでは済まさん。覚悟の上で発言しろよ」

 ふむ。私の想定より険悪な感じになった。これはこれで別に構わない。最初からやる事は決まっている。何せ私がやろうとしているのは世界征服なのだから。

「それでは早速要件をお伝え致します。冥王ハデス様とその王国は今日より私の国、新生魔王国ヒストリアに降っていただきます。我が国の支配下に入りなさい」

 一瞬でこの場の空気は凍りついた。
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