魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第七章:プリンセス、物語を紡ぐ(仮)

(3)魔狼の森の主

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「……娘よもう一度聞こう」
「ですから、盗賊に捕獲されていたこの子を救い出してきました。お礼に私の家来になってください」
「………………我の聞き間違いではなかったようだ。我眷属を救い出した者の言葉をしかと聞こうと努めたが……やはり人間とは愚かな生き物だったようだ。我らは道を誤ったやもしれぬ……」
「あ、すいません。私魔族なんで。それと家来というのは少し違いますね。仲間になってください。一人ではちょっと実現出来そうにないので強い仲間を募集中なんです」
「戯言を聞く耳は持たぬ。眷属を救ったことに免じて特別に不問にする。去るが良い」
「……そういう訳にはいかないんですよ。魔狼王ガルム様。あなたには力尽くでも私の仲間になってもらいます」
「愚かな……人であろうが魔族であろうが我らに敵うはずもない。命を無駄に散らそうとは……」
「んー無駄……では無いと思いますよ? そもそもガルム様では私に勝てませんよ? 試してみます? でも試した挙句仲間にはならないーーって言われても困るので賭けをしましょう。ガルム様が勝てばガルム様のお好きな様になさってください。もちろん私を殺しても構いません。ですが私が負けなければ仲間になってください。いかがですか?」
「そのような賭けは無意味だ。我に敗北はない」
「だったらいいじゃないですか。それとも万一が心配ですか?」
「万に一つすらありえぬ確率だ。いいだろう。我の力を見誤っていたことを身をもって知るが良い。ただし、知る頃には手遅れだがな」

 ホントそうですね。手遅れですね。賭けが成立した以上私の勝ちは決まったも同然です。

「そうだといいですね。では始めましょう!」

 魔狼王ガルム。あらゆる魔法攻撃を無効化する魔法使いの天敵のような存在。その上物理特化型の戦士タイプだから普通に考えたら魔法使いの私に勝ち目なんてない。でもゲームと違って魔法には多種多様な使い方が存在する。故に私はこの世界の魔法使いって最強じゃね? と常々思っている。


 魔狼王との戦いが始まってしばらく。そろそろ私の異様さに気がついたらしい。
 オープニングの展開としてはゆっくりと歩み寄る魔狼王の眼前に魔法の盾を展開する私。無慈悲なまでの物理攻撃により破壊される魔法の盾。破壊されたそばから新たな盾でその歩みを阻む私。打ち砕くガルム様。以降エンドレス。

「どうしました?」

 僅かに顔色が変わった魔狼王に問いかける。
 物理攻撃を弾く魔力の盾を多重展開。仮に砕かれようともその都度追加展開。魔狼王の攻撃を一歩も動くことなく全て相殺している。ゆっくりだった彼の歩みは既に止まっているが果たしてその事に気がついているだろうか? 仮に気がついていなかったとしても破壊しても破壊しても再展開される状況については疑問を抱かない訳がない。

「どういう事だ?」
「どうもこうも見ての通りですよ? 貴方の攻撃は私には届きません」
「確かに素晴らしい強度と魔力量だがどう足掻こうと我の体力よりも貴様の魔力が先に尽きよう。我はこの邪魔な盾を砕いていればいいだけの事……」
「持久戦ですね。悪くないアイディアです。ですが結構大変ですよ?」
「このまま小一時間もすれば終わる事だ。覚悟するがいい」
「うーん。このペースだと回復量を考えると……いつまで経っても私の魔力は尽きませんね。例えばこうして他の魔法を絡めれば……」

 突如足元から伸びた蔦が魔狼王の体に絡みつく。そこへ動きを制約するように盾を追加展開してやると……。

「くっ!?」
「このように簡単には砕けなくなる訳ですね。盾を砕くペースが落ちると必然的に私の魔力は消費量を回復量が上回ります。さて問題です。一体いつになれば私の魔力は尽きるでしょうか?」
「馬鹿な!? そのような事があるはずがない!!」

 腰の入っていない打撃では盾を砕くのも一苦労な様子。これはもしかして思っていたよりも簡単な方法があるかもしれませんね……。

「何をするつもりだ!?」
「そうですね、降参していただけたら嬉しいですね」

 『束縛の蔦』と『魔法の盾』で彼の動きを制限して仰向けに宙吊りに。魔法の盾はガラス窓の様に透けて見えるのでガルム様の体に絡みつく蔦がはっきりと見える。ちょっと亀甲縛りとかーー。あ、今はやめておきます。変に興奮しちゃうとまずいので。(笑)

「この程度ーー!?」
「腕の力だけで砕ける程私の盾は柔じゃありませんよ? どうですか? 降参しませんか?」

 空中に大の字に貼り付け状態。通常の十倍の強度の蔦と魔法の盾を無数に使って全身を拘束。
 エ□ゲーだったらここからアレやコレやといかがわしい展開が始まる訳だけれど、拘束されているのが男の場合は……びーえる展開待った無し!?
 そう思えばイケメン黒王子のガルム様は素晴らしいキャスティングかしら? この尊大なお顔が快楽に歪む様はさぞ尊い事でしょう……。

「……姫様!」
「えっ!? あ、違うのよ!? これはそのちょっとした妄想というか願望というかーー」
「どちらでも結構です! あまりいやらしい妄想はお控えくださいませ!」
「ごめんなさいーー。ということでガルム様降参しませんか?」

 太腿を擦り合わせて頰を朱く染めるアンを見ていたらちょっとイケナイ気持ちになってしまったけれど、気を取り直してガルム様との交渉を再開します。ピンクの妄想どっか行っちゃえ!

「妖精か。確かに貴様は魔族のようだ。だがこの程度で我に勝ったつもりでいるのか? 我の想像以上の魔法だがそれまでのこと。魔法では我を倒すことはできぬ」

 さすがは世界の王の一柱たる魔狼王ガルム様だと感心する。身動き出来ないこの状況でもこれ程悠然としているだなんて。でも想像力は今一つのご様子。
 もし私が勝つために手段を選ばなければ。勝つ事そのものが目的だったなら……。今ここでガルム様の命運は尽きていたと言える。でも私の目的はその先にある。彼に勝利する事が目的ではないので手段は選ばせてもらいます。

「では降参していただけるように説得しましょうか……」

 ストレージから取り出したのは箒のようにスティックの先端にブラシがついた素敵アイテムその一。

「なんだそれは……!?」

 そう、このアイテムをどう使うのかというと……。

「コショコショコショ~」
「………………何がしたいのだ?」

 首筋から脇の下、背中や脇腹……まるで効果なしだとっ!?

「ひどいです……こんな事って……」

 最初は擽りからやがて敏感な部分を刺激するように移行して遂には……!!
 なんて妄想を捗らせていたというのにっっ!!
 まさか全く効果なしだなんて酷いわ!?

「酷いのは貴様の頭の中身だ!! 我で何という妄想をしているのだ痴れ者め!!」
「えっ!?」
「この様な拘束などーー!?」
「あっ、えっ!? なんで私の妄想がバレて……ああ!! そっか。確か相手の考えている事が分かるんでしたっけ?」

 そういえばそうでしたね。おかげで一周めは酷い目に……あ~う~……。それほど酷い目でもなかったかもしれないかなぁ~……なんて。
 そうよね、私の初めての相手なのよね、ガルム様って……。今世ではそういう展開にはしないようにするつもりだけれど、アレはアレでまぁ、なんていうかそのねぇ? 幸せ? 愛されてる感は凄く感じたのよね……。
 ふふふ。森の中で最初に抱かれた時はそれどころじゃなかったけれどもね。

「我で更なる妄想をするとは貴様……」
「あっ!? もうっ! 乙女の心を覗き見するなんて失礼ですよ!」
「戦いの最中にその様ないやらしい妄想に耽っておる奴がどの口で乙女などというのか。愚か者め」
「あーあーそういうこと言うんですねー。身動き一つ出来ず小娘に捕らわれている癖に」
「それがどうした? 我は貴様の魔力切れを待てば良いだけのこと。そもそも貴様に我を倒す術はあるまい?」
「それはどうでしょう? 例えば……『虚空』とかならどうですか? これも無効化出来ちゃいますか?」
「………………」
「おや? 表情が変わりました? やっぱり効果があるんですね」
「………………」

 よかった。まさか竜王みたいに拳で殴り飛ばされたらどうしようかと思ったわ。やっぱりあんな非常識な事が出来るのは竜王くらいのものよね。でもまぁ私としてはこれでどうこうというのは考えていない。それこそ目的達成が出来ない魔法だからね。

「ガルム様。降参しませんか? あなたが無効化出来る魔法は炎や風などのいわゆる属性魔法だけですよね? 先程の虚空の様な魔法は無効化出来ませんよね?」
「確かに完全無効ではないが、それで我に勝てるとは思わぬ事だな」
「そうですか……。ではどうすれば降参してくださいますか?」
「降参する気などない。非力な女の力では我に致命傷は与えられぬしその魔法でも同様だ。仮に一度や二度受けたところでその程度では我は死なぬ。逆にこの拘束が解けた時は貴様の最期の時となろう」
「そうですか……でしたらこれならどうでしょう?」

 更に『虚空』を十個ほど同時発動して見せます。

「ーー!?」
「一つや二つではダメでもそれ以上ならどうでしょう? 降参ーー」
「諄い!」

 最後まで言わせてもくださいません。これはちょっとお手上げですね……。ここまで頑固だとは予想していませんでした。ちょっと一周目の記憶が強すぎたのかもしれません。あの時の私を慈しむような優しい眼差しを期待していたけれど、今世では難しそうだと納得するしかないのかもしれない。
 どうやら彼を味方につける作戦は失敗した様ですね。さてならばどうするか? そんなものは決まっている。

「ーーわかりました……」

 宙に浮かべた闇の球体を消し去り、溜息を一つ。
 何度も経験した事とはいえあまり気持ちのいいものではない。でも大切な人を傷つけて生きるよりはずっといい。
 まるでベッドに横になる様に拘束されて浮かぶ魔狼王ガルム様。私を睨む目も黒王子の様な風貌もあの時のガルム様そのもの。ただその視線には私への愛情はなく敵意しか見えない。
 そんな目で見ないでーー。
 などと映画のワンシーンの様に泣き叫びたくなる。しないけど。でもこの胸に渦巻く様な想いは消えない。
 やはり体を捧げなければ私は愛してもらえないのか? 私の中で愛おしく想う人は何人もいて、その人達をみんな味方にしたい。でもその為に体を差し出す事はもうしたくない。そのつもりで抱かれたわけではないのだけれど、結果的にはそうして篭絡した様なものだった。だから今世こそは……。そう思っている。

 ーー私の負けですね。

 ガルム様を仲間にする事ができない以上この賭けは私の負け。蔦の束縛と魔力の盾による拘束を解きガルム様に自由をお返しする。

「何のつもりだ?」
「非礼をお詫びします。如何様にもなさいませ」

 深く頭を下げて謝辞を形にする。
 私とガルム様の間は僅か一歩程度の距離。こうして目を閉じて待てば私の今世は終わるでしょう。

(さようならガルム様……)
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