魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第六章:プリンセス、絶望に挑む

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「金貨一千枚ーー」

 長い沈黙の後国王陛下が発した言葉だ。

「へ……陛下……それはあまりにも……」
「ふむ。少ないか? ならば倍出そう」
「なっ!?」

 言葉を失うアーノルドさん。私はというと……高額だという事は理解できてもどのくらい高額なのかが理解できていなかった。
 ガイゴーン金貨一枚がおよそ百万円相当。それが千まい……二千枚だから……。二十億!?
 えっ!? マジで!? いやいやいやいやそれはちょっと……マジなんですね!?
 これだけアレばずっと遊んで暮らせるわね……。もう何もしなくてもいいわね……。ふふふ。そうできたらどれ程幸せでしょうね。
 でもダメだわ。そんな大金があったらおかしくなってしまうわ。

「いいえ陛下。それでは高額過ぎます。最初の半分で結構です」
「ほう……?」

 大幅なディスカウントにそれでは他に何を望むのか。鋭さを増した目がそう問うているように見えた。
 
「よかろう。五百で良いのだな?」
「はい陛下」
「それで儂に何を望む?」
「さすがは陛下……聡明でございます。後日で構いません、もう一度謁見の機会を設けて頂きたくお願いを致します」
「それだけか?」
「それだけにございます。もう一度陛下とお話をさせて頂ければ私は十分でございます」
「なるほど。まだ何か隠し玉があるわけか。面白い。よかろう。その条件を呑もう。都合をつけて使いをやる。……アーノルドよ、それまでキラリ嬢をもてなしてくれぬか?」
「も、もちろんでございます。陛下のお言葉がなくとも彼女は娘の友人でございます。引き続き当家でもてなし致しましょう」
「そうか、それはすまぬ。その方にもいくばくか褒美をとらせる。後日取りに来るがよい」
「はっ……ありがたき幸せにございます」
「ありがとうございます陛下……」

 どうにか首の皮一枚繋がった……。そんなところだろうか。想定していた流れではなかったけれどなんとかなりはした。一先ず次回の約束を取り付けられた点も評価したい。
 王族……というか国王陛下自身を相手によく頑張ったと思う。よし、そう思う事にしよう!

「ではアーノルドよ次も楽しみにしておるぞ」
「はっ。陛下のお眼鏡にかないますようこのアーノルド持てる力以上を発揮致します」
「うむ。エルナよ一行を外まで送るがよい。テイル次へ向かうとしようか」
「「かしこまりました」」

 これにてファーストコンタクト終了となりました。でもまだ気を抜いちゃダメ。王宮の外に出るまでが謁見よ!(笑)



 その夜、ランドロール家のダイニングルームにて、私と今回はガラードラも食事に招かれた。
 バレていないつもりだったけれどさすがは大商人。いつ私とガラードラの事を勘付いたのかしら?
 まぁ知られて困る設定ではないのでいいけどね。

「ありがとうございました、アーノルドさん! おかげさまで商品は全てお買い求めいただけましたし、後日もう一度お会いする約束も得られました。大成功です!!」

 本命は別だから決して大成功ではないのだけれど、遠い異国の商人の身としてはどう考えても大成功だろう。

「あ、ああ……そうだねキラリさん」
「あら? お父様、随分とうかない様子ですが何か心配事ですか?」

 今日も綺麗ですねマーナさん。白いドレスもよく似合っています。でもちょっと胸元が大きく開きすぎな気もしますね……。まったく、どうしてこうみんなスタイルがいいのかしら? ある意味そこが一番ゲームっぽい所かもしれないわね。

「いや、なんでもない。ああ、忘れるところだったアルトバート、今晩からキラリ嬢には奥の客間を利用していただくから用意をしておいてくれないか」
「……一番奥ですか? わかりました」
「そう……マーナ、今夜話したい事があります。食後は私の部屋にいらっしゃい」
「わかりましたお母様。キラリさんまた明日ご一緒しましょうね」
「え、ええ是非……。それよりもアーノルドさん、どうして新しいお部屋に?」
「あ、ああ……それはね陛下からもてなす様に言われたからだな。通常の客間ではなく特別なお客様用の部屋を使っていただくのだよ。今後ともランドロール商会をご贔屓に……と言うことかな?」
「なるほど! 言ってみれば先行投資みたいなモノですね!」

 本物の商人ならランドロール商会が警戒するのも頷けるけれど、私の場合はあくまでも仮の姿。本来はまったく気にする必要がないのだけれど、それはアーノルドさんにはわからない事。相応以上のおもてなしをするのにも一応は納得できる。一応は……ね。

「そうかもしれないね。上手く陛下に取り入る事が出来ればあなたはとても大きな後ろ盾を得られるでしょう。それは商売をする上でとても強力な武器になる。私としては思いがけずライバルに塩を送ってしまった様なものかもしれないね」
「アーノルドさん、私は受けた恩を仇で返す様なことはしません。それにマーナさんの、大切なお友達のお父様にご迷惑をかけるような事はしませんから。これからもよろしくお願いします」
「ーーもちろんそんな風には思っていないからね。短い期間だったけれど貴女の人と成りは観させてもらった。仕事柄それなりには人を見る目があるつもりだ。だからこちらこそよろしくキラリさん」
「はい!」

 ちょっと嬉しい。仮初めの商人とはいえ最高の相手に
褒めてもらった。思っていたよりもずっと嬉しいものなのね。


 その後晩餐を済ませた私とガラードラはメイドさんに案内されて新しいお部屋へ。数日間お世話になった部屋よりも一段階グレードアップした様なお部屋で隅々まで手入れが行き届いている印象。
 もっとお部屋を見たい所だけれど、時間は有限。早速作戦会議と洒落こみましょうか。(笑)
 まずは魔法による盗聴対策を施し、そしてお茶菓子の用意。私の分は食後のお茶程度だけれど、どれだけ食べるつもりなのか彼の分は大皿に山盛りの肉と野菜。少しは遠慮してほしいものだけど仕方がないか。
 早速床に座り込んでお皿を抱えるガラードラを見て大きなため息を一つ。
 まぁいいわ。静寂の魔法で包み込んだ室内なら何を言ってもやっても外にはバレませんからね。

「食べながらでいいから話を聞いてちょうだい。まずは竜姫の手がかりをまるでつかむ事ができなかった点。正直想定外だったわ。ガラードラ、あなたも何の手応えもなかったわよね?」
「うむ。共鳴の音はしなかったな。我の予想が外れたか?」
「いいえ、恐らくは当たっていると思うわ。そうでなければ幾ら何でも金貨二千枚はないでしょう。高すぎるわ。しかもてっきり全部まとめてだと思っていたのに剣一本の対価だったのよ!? 何か必要に迫られてでもなければそこまで出さないと思うの」
「なるほど……だがいくら斬れ味がよくともあんなものでは我らには敵わぬぞ?」
「知ってるわ。少なくとも竜と相対した事があればあんなもの一本あったところでどうこうできる相手じゃないことは明白よ。それでも人間が竜に対抗しうる武器の中では上位に入るわ。そうね……アレを勇者か剣聖が使えばあなたでも苦戦するかもしれないわよ?」

 いや、どうだろうか? 多分……話にならないか。そもそも戦艦にゴムボートで挑むようなもの。スケールが違いすぎるわね。

「勇者か……今代の勇者はそれほどの強者か?」
「あら? 意外ね。もっと激昂するかと思ったわ」
「貴様は我をどのような目で見ておるのだ。我は竜族の英雄ガラードラであるぞ。そしてやがては竜王を超える存在。その我が人族の勇者程度と比べる意味がわからぬ」
「程度……か」

 まぁ確かに人族程度……よね。私もそう思うわ。竜王を知っているから……だからあれと何度も戦うガラードラは私が思う以上に凄い奴なのよ……多分。
 ……きっと。ちょっと自信ないけど。

「………………」

 目の前で胡座をかいて座る巨漢。お裾分けしてもらってきたツマミと酒を遠慮なく飲み食いするこの駄竜。やっぱそうは思えないわ。

「それでこれからどうするのだ?」
「そうね……」

 ただ相手の出方を待つというのも芸がないと思うのよね。だからといってできる事には限りがある。どうしたものかしら?
 いくつか思い浮かぶ事はあるけれど、そのどれかでいくか他の案を検討するか。相方(ガラードラ)はきっと何も考えていないでしょうしね。

「あ、そうだガラードラ」
「ん、どうした?」
「一つお願いがあるのだけれどいいかしら?」
「我に出来る事であれば吝かではない」
「そう? 助かるわ。今はあなたにしか頼めないのよ」
「ほう……我にしか出来ぬことか! 悪くないな。仕方がない。今は互いに協力し合う者同士。我に任せるがよい!」
「ありがとう♪ そう言ってもらえると助かるわ♪」

 だってその為に最初からアンには席を外してもらっていたのだもの。それだけじゃないけどね、うふふ。まだ大丈夫だと思うけれど、早め早めがいいわよね? 禁断症状(?)みたいなのが出ても困るし。その辺の有象無象よりはガラードラに抱かれる方がずっと良い。……ううん。ガラードラがいい。だって意外と優しく抱いてくれるんだもの。私彼に抱かれるの嫌いじゃないわ。
 背中のファスナーを下ろしながら彼の側へ……。

「ーーぶふぅっ!?」
「ちょっとまたなの!? 汚いからやめてよね」
「馬鹿者! それは我の台詞である! 貴様は何故また衣服を脱ぐのだ!?」
「え!? 着たままの方がいいの? でもそれってちょっと変態ポイわよね。あ、でもちょっと興奮するかも……。こんな風に肩とか太腿とかを中途半端に晒け出してさ……。ぁやだぁ……私も興奮してきたかも」

 慌てて逃げ出そうとするガラードラにそうはさせじと抱きつく私。胡座は失敗だったわね!

「待て待て!? 貴様は何を考えているのだ!?」
「んふ。えっちな事しか考えてないかもぉ~ちゅっ♪」
「こら……やめぬか……くっ……」

 随分と苦しそうね……なんてね。毒じゃないわよ。ちょっと気持ちよくなるお薬よ。(笑)

「んふふ。媚薬入りのお酒効いてるでしょ? たっぷり濃いのを混ぜておいたからお詫びに私を好きにしていいわよ」

 首に腕を回して体を摺り寄せる。
 熱い。
 触れた処が火傷しそう。それにほらアソコはその気になってるじゃない。我慢しちゃ体に悪いわよ。

「やめぬか……さもなくば……」
「さもなくば……どうなっちゃうの? いいのよ? 奥様に遠慮しないで。私は只の欲望の捌け口よ。浮気でも何でもないわ。私にとってはこうする事が食事みたいなものなの。だからお願い私にあなたの濃いミルクを飲ませて……お願い、欲しいの……」

 うわぁ。なんかえっちだぁ。(笑)

「馬鹿者……後悔するなよ……あの時とは違って加減がきかぬぞ」
「望むところよ。ほらはやく……」

 何だかんだ言いながら私のお願いに応えてくれる英雄さん。加減出来ないとか言うところも照れてる様にしか思えないし……。変ね、そういうところを可愛いとか思ってしまう私がいる。ちょっと好きになっちゃったのかも?(笑)
 ふふふ。今日も気持ちよくしてもらおっと。
 彼の腕に抱き締められてウットリしていると……。
 カチリと部屋の隅から音がした。

「なんだ?」
「あ~……。もう少し待ってくれても良かったのになぁ……」

 そう、あと少し……と言うところでシューっという空気が抜けるような音がし始めた。そしてそれと同時に微かに甘い香りが部屋中に広がり始める。

「残念、時間切れだわ。わかっていると思うけど暴れちゃダメよ」
「これは……毒か?」
「いいえ、睡眠薬よ。なんだか様子がおかしかったし、昨日までと違う部屋に通されたからもしかしてとは思っていたのよ。嫌な予感は当たるものね」
「あの商人め、タダでは済まさぬ」
「そう言わないで。王様に命じられたら仕方がないわよ」
「チッ……」
「だから暫く大人しくしてね。狙いは十中八九私だから。それにあなたをどうにかできる人はいないでしょ?」
「ふん。人間如きにどうこうされようがない」
「でしょ。だから暫く成り行きに任せてみましょう。きっと向こうからお姫様に引き合わせてくれるわ。後ろ暗いモノを隠すような場所がそういくつもあるとは思えないもの。きっと同じ建物か場所か……とにかく同じ隠し方をすると思うわ。私もあなたもそう簡単にどうにかできるタイプじゃないから、せっかくのご招待だしお受けしなくちゃね。さてそろそろ効いてくる頃よ。ほら恋人の令嬢を抱き締めて?」
「偽りの恋人だからな!」
「わかってるわよ。それじゃ第二ラウンドといきましょうか。ガラードラ、お姫様の為にも慎重にね?」
「わかっておる。貴様も死ぬなよ」

 殺されたくらいで私が死ねば世界はきっと平和ね。

「もちろんよ。それじゃ……ん!」

 両手を広げて催促すると若干嫌々そうな表情ながらも抱き締めてくれた。優しくはあるけれど逞し過ぎて気持ちよくはない。でもこのゴツゴツした筋肉の感触も嫌いではないのだけれどもね……うふふ。

「ちゅっ、おやすみなさい……」

 堪えようのない眠気が瞼を降ろしていく。さて次に目覚めた時私はどうなっているだろうか……。
 まさかいきなり殺しはしないと思うのだけれど……。
 ああ……ダメ。そろそろ意識が……。

 ………………。
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