魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第六章:プリンセス、絶望に挑む

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 白磁の美しい浴室は今何となくピンクがかって見える。多分きっと充満する甘い蜜の香りのせい。私の体から溢れ出した媚薬が身も心も蕩けさせる芳しい香りとなって二人の女の子をトロットロにしている。
 まぁ私の方はそれほどではないのだけれど、これはアレかしら、自分の毒では死なないみたいな感じなのかしら? とっても興奮したし、いつのまにかアソコにブルブルの実が挿さっている事に驚きはしたけれど、目の前の美女の痴態に比べたら大したことはない。
 卑猥な表現だけれど穴という穴から色々と溢れている。ちょっともう私でもモザイクなしでは見ちゃいけない感じに仕上がってしまった。
 正直やり過ぎたと反省している。自分自身力を見誤っていたというか、これほどとは思っていなかった。今後に活かしていきたいと思う。

「……うん。綺麗にまとまったかしら?」
「ぁふぅぁん」

 虚しい独り言が絶妙なタイミングで発せられたマーナさんの喘ぎ声で打ち消された。

「……訳ないわよね、やっぱり」

 勇気を出して音源を見てみれば……。

 クパァ~からのトロリン&ブゥゥゥン、ブルブル、ピクピク……。

「あぁ……どうしようこれ……」

 言い方はアレだけれど、完堕ちしてますよね……快楽堕ち? 元に戻らなかったらどうしよう。
 こんなつもりじゃなかったのよ!? ホントに!! でもね、だってね? もっともっとって煽られて……私もちょっと楽しかったっていうのもあるのだけれど、それでもお互いにエスカレートして……。
 だって女の子体がこんなにも美味しい(?)だなんて知らなかったのよ!? 甘くて芳しくてもっともっとって舐めてたらいくらでも溢れてくるから……楽しくなって指とかオモチャとかで頑張り過ぎちゃった。えへえへへ……。

 反省はしている。でも後悔はーーしてるわね、さすがに。でも大丈夫。多分きっと大丈夫。なんたって私は美少女天才魔法使いだもの。こんな状態異常くらいーー!!

「『完全回復』、『解呪』、『異常治癒(メディカルキュア)』……これでどうかしら……『鑑定』」

 あと効果がありそうなのは『安定』の魔法くらいかしら?
 一縷の望みを持って表示されたステータスに目を向ければ……。

「なんて事なの……」

 標準的なステータス、特におかしな所のないスキル構成。
 だけど……特殊スキルが凄い。何が凄いって、アレよアレ。特級受付嬢とかクエスト鑑定士とか危険予知まである。おまけにアイドルーーなんてスキルもあるし。
 詳細効果は割愛するけど通りでマーナさんが受付したクエストの達成実績が高いはずだわ。彼女の助言に従いさえすればクエスト成功率が確実に上がるわね。
 凄いわマーナお姉ちゃん!!

 ………………。

 ごほん。本題はそこではありませんでした。
 これですよこれ。

 特殊スキルーー「愛の奴隷」。

 そのスキルの詳細は……。

「ーー!?」

 恐る恐る確認したところ……。字面から思い浮かべるモノよりも遥かにいいものだった。いや、いいどころかこれすごくないですか!?

 あっ!? それで妙にレベルが高いのかも!?

 特殊スキル「愛の奴隷」は主人に愛でられる事で成長する成長補助スキル。またあらゆる愛の責めに対して心身を病むことがなく全てを愛として受け入れる事ができる。

 凄いけど、凄いんだけど……やっぱりちょっとアレかもしれない。
 ちなみに、彼女に現状バッドステータスはない。あれだけの状態であるにもかかわらずない。ワンチャンさっきの魔法で回復したという事もなくはないけど……儚い希望よねきっと。

「んぅん……」
「あ、マーナさん気がついーー」
「ぁん、ご主人様ぁん」
「ーーた……」

 一瞬で私に絡みつき全身を使って愛撫してくる。

「あ、ちょっと、んぁん……待ってそこは……あ、ぃやぁん、ん、んん……」
「おはようございます、ご主人様……」
「おはよう……じゃなくてーーんむぅっ」
「ンチュ……チュチュ……ん? レロレロ……あむあむ……モミモミクチュクチュ……」

 ぬちゅぬちゅ。
 ぺろぺろ。
 ……。
 ぁぁ……ダメ気持ちいい……。
 ………………。
 
「ーーはっ!? 私は何を呆けて……ってマーナさん……何してるんですか?」
「あいはつれふ……あむあむ」
「ぁん……ちょっと、歯を立てないでください!」
「ふぁい」

 ………………イチャイチャ。

 …………イチャイチャ。

 ……イチャイチャ。


「マーナさん」

 何やってるんだろう私?

「はいキラリさん」
「そろそろ離れて貰えませんか?」

 これもスキルのせい? 今ちょっと快楽に溺れかけていたわよね私?

「ええ~~」
「そんな可愛らしい声を出してもダメです」
「どうしてもですか?」

 だからそこは弄らないでーー。

「ん……どうしてもです」
「ホントのホントにですか?」

 んんーー!!

「あ……だからホントの……ホントに……です」
「でもでもぉ、こっちはそうは言ってないみたいですよぉ?」

 クチュクチュクチュ……。

「んぁっ!?」
「ほらほら~どんどん溢れてきますよぉ?」
「んあ、ちょっ! あ、そこダメ! 搔き回しちゃいや、やめーーぁぁぁああっっ!!」

 頭の中が真っ白にになって目がチカチカする……もうっ! また逝っちゃったじゃない!!

「ほら気持ちよくなっちゃいましたね」
「んん……なっちゃいました……じゃないわよ!」

 ちょっと不味いわよ、なんだか呑まれやすくなってる気がするわ。

「あ、ほら怒らないでくださいませ、ご主人様♪」
「あん! だからご主人様はやめなさい!」
「でもぉ~私の中で何かがキラリさんをご主人様だと認識してるんですよね~。だからこうしてご奉仕してるんですから」
「ホントにいい加減にやめてください! これじゃどっちがご主人様だかわからないじゃないですか!?」
「ご主人様を気持ちよくして差し上げるのも私の役目ですよ。もちろんご主人様に可愛がってもらうのも役目ですけれども……。されるのもするのも大好きなのでどうぞ可愛がってくださいね?」

 小首を傾げて可愛らしくお願いしてくるマーナさん。ホントさりげなくあざとさを発揮するわね……。矛盾した表現かもしれないけれど、凄く自然に振舞っているから嫌味がない……? のかしらね。普通こういう媚びた態度とか仕草って同性には嫌われる傾向があるのだけれど……私には可愛らしく映るし、つい構ってあげたくなる。年上のお姉さんなんだけどね。

「可愛がっても何も行きずりの一夜の夢のはずでは?」
「そのつもりでしたけれど、あまりに気持ちが良かったものですから……出来ればキラリさんのモノにして欲しいです。ダメですか?」

 タレ目がちな目を僅かに潤ませて下から見上げるように見つめてくる……。破壊力抜群ね。ホントこの人見せ方を心得ているわ。
 
「ず、ずるいわね……なんて断り辛い雰囲気を作り出すのかしら……。でも、今の私はマーナさんを連れて行くだけの余裕がありません。もしもこの街へやってきた目的が上手くいってもまだまだ問題が山積しています。そんな私にーー」

 色々と言い訳をする私の唇にそっと人差し指指を当てて首を振る。

「お姉さんからアドバイスです。少し難しく、ややこしく考えすぎです。キラリさん。こういう事はそういう理屈じゃないんですよ。私を好きか嫌いか。連れて行きたいか行きたくないか。まずはそれだけを考えてみてください」
「………………」
「どうですか? 好きですか、嫌いですか?」
「……好き」
「傍に置きたいか置きたくないか、どちらですか?」
「………………」
「キラリさん、正直に言っていいんですよ? 仮にどちらだとしてもそれだけで決まる……だとか、ついて行く事が決定する訳ではないですから、正直な気持ちを教えてくれませんか?」
「……何の憂いもなければ一緒に行くのもいいかもしれないです」

 マーナお姉ちゃんとなら楽しい旅が出来そう。でも私は魔族で現状一族滅亡へのシナリオを辿っている最中。そしてそれをどうにか阻止、回避……何でもいいからどうにかしようと抗っている。
 だから今はまだ……。

「その憂いは容易く解消出来るものではないのですね? キラリさんが気持ちを押し留めてしまわなくてはならない程に……。残念です。一生に一度の運命の出逢い。神様が与えてくれた最高のパートナー……ご主人様だと心から思っています。お互いの気持ちはあれど今はまだ共に生きる事は出来ないのですね?」
「……はい」
「ほらほら、そんな泣きそうな顔をしないでください」
「ん……」

 頭を抱えるように柔らかな胸に抱かれて優しく髪を撫でられた。まるで母が子をあやすような……姉が妹を慰めるような……深い愛情に包まれた。

「キラリさん。いつか迎えに来てくれますか?」
「………………」

 返事をしようとしてそして押し留めた。人の一生は短い。花が咲き誇る時間はもっと短い。この世界の女性の婚期を考えればマーナさんは既に結婚していてもおかしくない年齢だ。それなのにいつまでかかるかわからない私の事情で待たせる訳にはいかない。
 どうしてこんなにも胸が苦しくて切なくなるのか……。自分でもよくわからない。ほんの一月ほどの関係。こうして深い仲になったのも今夜が初めてで……目的の為に止むを得ずだったはず……。

「………………?」

 あれ? どうして? 何で私……。

「おや? あと一押しだと思いましたのに……魅了が解けちゃいましたね?」
「魅了?」
「はい魅了です。私のスキルですよ。気に入った可愛い子を誘惑して食べちゃうんですよ、キラリちゃん」
「私も魅了にかかっていた!?」
「ええ。あと少しで堕ちるところでしたのに……残念」
「どうして……マーナさん……」
「どうしてと言われても……好きな子に全力を尽くす事に何か問題があります?」
「……ないですね」

 そういう言い方をされると否定し辛い。確かに相手の感情を捻じ曲げてしまうようなものなら別だけれど、既にある愛情を増幅、誘導するような魅了ならいいような気がする。
 いつから術中に嵌っていたのかわからないけれど、本当に自然に彼女を愛していた気がする。

「心配しなくても大丈夫ですよ? 偽物の恋じゃないです。私の想いもキラリさんの想いも本物です。大抵の人は色々な事情からそう簡単には想いを解き放てず心の中に閉じ込めたままにしてしまいます。今回の私たちでいうと女同士なんて普通はそう簡単には乗り越えられないでしょう?」
「そ、そうです……よね……」

 物凄くぎこちない返事になってしまった。いやだって私の場合そういう部分でブレーキってかかったことなかったからね……。愛があれば何でも出来る!!
 そんなある種脳筋に通じるものが……。
 考えたら少し落ち込むわねコレ……。

「あら? やっぱりキラリさんにもそっちの気があるみたいですね。もしかして好きになったら大抵の障害は乗り越えちゃう派ですか?」
「……否定出来ないかもしれません」
「あら~だとしたら尚更残念です。私の気持ちには一切の偽りはありませんから……どうですか? 美女を一人飼ってみませんか?」
「マーナさん。お気持ちは嬉しいですけど、今の私にはあなたを幸せにしてあげる事が出来ません。だから……ごめんなさい」
「はい。承知しました」
「……ごめんなさい」
「はい。良いですよ。でももう一つお姉さんからアドバイスです。私は別にキラリさんに幸せにしてもらおうだなんて思っていませんよ?」
「えっ?」
「もちろんキラリさんを私一人で幸せにしようなどと奢ってもいません。そういうのは二人で共に頑張るものです。一緒に頑張って幸せになるんですよ? 短い付き合いでしたけれど、良くも悪くも真面目すぎる気がします。人が一人で出来ることなんてたかが知れてます。だってほら、愛し合う二人ですら共に努力しなければ幸せにはなれないんですよ? ね? 一人の力なんてそんなものです」

 愛を例えにしたからなのかその言葉はスッと私の心に染み込んできた。今の私には少し耳が痛い。そうだね。と納得する反面、でも私が頑張るしかない。そう若干の反発も抱いた。一人の力は小さくても転がる小石がやがて大きな岩を動かす事もある。
 結局至る道は一つじゃないって事よね。協力して掴み取る幸せ、必死の努力で抗う最悪の未来。

「お姉さんからのアドバイス、心に刻みます」
「はい。ぜひ覚えておいてください。ついでに私はいつでもこの街でキラリさんをお待ちしていますよ。また訪ねてくださいね」
「え、ええ……覚えておきます。ありがとうございます、マーナお姉さん」
「はい、どういたしまして……。それじゃそろそろ寝室へ向かいましょう。まだまだ夜は長いですよ」
「えっ!? ちょっと待って!? あ、ほら、ガラードラ、従者を待たせているわ! そろそろーー」
「心配無用です。従者の方もお寛ぎ頂いています。今頃美味しいお酒を当家の使用人達と楽しんでおりますわ。さ、参りましょう」
「えっ、あっ、ちょっと!? マーナさん!? 服! 服着てない!!」
「はいはい、バスタオルで十分ですよ~。どうせすぐに脱ぎますからね~」

 素早く水気を拭き取られてバスタオルで包まれる。ちょうど胸からお尻を隠すくらいの長さで、凄くえっちな格好。一瞬目の前の同じ格好の美女に見惚れてしまった。

「さぁ行きますよ~」
「えぇぇぇぇぇっっっっっ!!??」

 そのまま入ってきた時とは違う方の扉へと引っ張られていきーー。
 目にした光景は薄いピンクを基調とした可愛らしいお部屋と正面奥にレイアウトされた大きな天蓋付きのお姫様ベッドでした。
 引っ張られた拍子に体に巻いたバスタオルがハラリと床に落ち再び私は一糸纏わぬ姿へと逆戻り。

「さぁ一夜の恋を満喫しましょう♪」

 まだ夜は始まったばかり。私無事に帰れるかしら……? とてつもない不安に不覚にも挫けそうになった。
 扉が閉まる音。そしてマーナさんの嬉しそうな、それはもう嬉しそうな声がいつまでも私の中で響いていました。
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