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第六章:プリンセス、絶望に挑む
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「アン、次は武神王国へ向かうわ」
先送りしても問題なさそうな出来事はすっ飛ばしてしまう。それでも彼の国を止められるかどうかはわからない。わからないけれど、それが出来なければ結局どうする事も出来ない。
藁にもすがるとは正しくこういう事なんだろう。
本来どの勢力とも関わらないはずの竜族を動かす何かがあるはず。それさえ取り除けば竜王の介入は阻止できるはず。そうすれば魔族は滅びない。魔王が、お父様やお母様たちが人族に負けるわけがない!
推測や願望まみれかもしれないけれど私にはそこにすがるより他に打てる手立てがない。
だからーー。
「少し無理をするかもしれないけれど一緒に来てくれるわね?」
「もちろんです、姫様。私に出来ることは多くはありませんがそれでも姫様をお一人には致しません」
「ありがとう。側にいて話を聞いてくれるだけで私にとっては何者にも勝る助力よ。アン、本当にありがとうね」
マップを展開して飛行ルートを確認する。
街道を行けばかなりの時間を要するけれど、遮るもののない空なら相当な時間を短縮出来る。
竜王が参戦しての魔王討伐戦はまだ半年以上先の出来事。全てが同じとは限らないけれど、それまでにこの難問を解決できれば私の勝ち……いいえ、グッドエンディングが見えてくるはず!
あんな未来はいらない。私は必ず成し遂げて見せるわ!!
ーーone month laterーー
……なんてテロップが表示されるのかしら?
そんな他愛もないことを考えながら通りを歩いていると横手から優しいおじさんの声に呼び止められた。
私ほどの美少女だとそこら中から声がかかって大変だわ。
「よぉ! キラリちゃん、おはようさん!! 今日も頑張りなよ!!」
そんな風に朝の喧騒の中通りを歩く私に呼びかけてきたのは丸いアンパンみたいな顔のパン屋さん。朝のこのやり取りももう二週間くらい続いているかしら。
「おはようございます、今日もいい天気ですね」
私も元気よく返事をする。
早起きして散歩中のおばあさんやおじいさんが優しい笑みを浮かべている。
「ほら、これを持ってお行き」
「あっ!?」
茶色い小さな紙袋を持たされた。
「いつもありがとうございます。また帰りに買いに寄りますね」
何度も通ううちにこうして朝焼きたてのパンをお弁当がわりにくれるようになった。毎日ではないけれど、ふんわりと優しい味のパンは私の大好きなお昼ご飯になった。
「子供が気を使わんでいい。ちょっと焦げちまった売り物にならんやつだ。美味しく食べてもらえるだけで嬉しいもんだ」
「ホントにありがとうございます! 行ってきます!!」
「ああ、いってらっしゃい! 気をつけて行くんだよ」
見送ってくれるパン屋のおじさんに手を振りながら角を曲がって冒険者ギルドへ。数メートルと歩かぬうちにまた声がかかる。ふふふ。モテる女は大変ね。
「おう、ちびっ子。今日も元気か?」
別の道からこちらの通りへと合流してきたのは先輩冒険者のゴールドさん。子供子供とからかいながらもずっと私の事を気にしてくれている優しいおじさん。今のところ怪しい性癖の片鱗は見えないから大丈夫だと思う。でも油断はしないわ。
「ちびっ子じゃありません、キラリです。何度言ったら覚えてくれるんですか!」
「一人前になったら覚えてやるよ。で、今日も薬草採取か?」
「そのつもりです。でもそれが何か?」
冒険者になりたての私が受けられるクエストなんてその大半が採取系のクエストだ。しかし一ヶ月も経つというのに未だに新米扱いとはこれいかに!?
本来新人が受領できる依頼の中にも討伐系があるのだけれど、何故か受けさせてもらえない。「まだ実力不足よ」なんて言われて受付のお姉さんに処理して貰えないのだ。なんて理不尽なんだろう。
「それなら関係ないだろうけどな、北の森には行くなよ。ちょっと魔物の様子がおかしいからな」
「へぇ~」
薬草は南の林の方が育成状況が良く、態々北の森に行く人はいない。ごく少数、そちらにしかない貴重な薬草……というかキノコ類を取りに行く時くらいのものだろう。それらは薄暗いちょっとジメッとした所を好むからどうしても森の奥の水辺周辺を探すことになる。
まぁ例によって私は行ったことがない。というか、南の林のクエストか街中のおつかいクエストしかさせてもらえない。ホントなんて理不尽なのよ!!
「おっすゴールドじゃねえか! 今日も姫を口説いてんのか?」
「何くだらねぇ事言ってやがる! こんな自分の娘くらいの子供を誰が口説くかよ」
「それもそうだな。いくら可愛くても姫は対象外だな。でも姫は気をつけろよ。姫くらいがいいって変態もいるからな」
「お前がそうでない事を祈るよ」
「馬鹿言うな、俺はノ……何でもねぇ。おっと、おはよう姫。今日も元気か?」
反対側から冷やかすような声。見た目のチャラさからは想像できないが、実はメチャクチャ真面目なのよねザックさんって……。見れば見るほどホストにしか見えないけど。
それにしてもまた私のファンが増えたわね! 姫、姫と呼ぶのはどうかと思うけれど、そもそもキラリはお姫様である事は間違いないからおかしくはないのだけれど、なんかちょっと違うのよね。
「はい元気ですよ! あと、おはようございます、ザックさん。今日も早いですね。あと姫はやめてください」
「おう、わかったよ姫。でゴールド、今日は北に行くだろ? 俺らも混ぜてくれねぇか?」
全然わかってないですよねザックさん!? この人は何故か初対面の時から私を姫と呼び偶にお菓子をくれる。この前もらった苺の飴はとっても甘くて美味しかった。
「かまわねえぞ。他にダンテの奴らも一緒だ」
「おーダンテか。久しぶりだなぁ。あいつ貴族の姫さんと上手くやってるらしいな」
あー、少し前に貴族のお嬢様に見初められたイケメン冒険者さんの話だ。でも確かあの人って没落貴族の子息だったらしいのよね……。そう思うとあの容姿や雰囲気も納得がいくわ。金髪碧眼、物語に出てきそうな感じのいかにも「勇者」って感じなのよね。
まぁ本物の勇者様には及ばないかな、ふふふ。
「おお、予想外にな。おかげで賭けた金がパアだ」
「クックック。友達がいのない野郎だな。そんな事だからスッちまうんだよ。俺なんて見事に酒代儲けたぜ?」
「何? お前うまく行く方に賭けたのかよ!?」
「ふっ、ギャンブラーと呼んでくれ」
「かーっ、マジか!? あんなもん一週間で振られるのが鉄板だろうがよ……クソっ、マジかよ……」
酷いなゴールドさん。普段あれだけ仲良く一緒に飲んだりしてたのに振られる方に賭けたのね……。ザックさんの方がよっぽど友達っぽいじゃない。でもザックさんも賭けとかするのね。ちょっと意外だわ。見た目からすると全く違和感はないのだけれど。
「おっと、俺はちょっとリーダーんとこ寄ってから行くからまた後でな。どうせ現地集合だろ?」
「おう、またな!」
「おう! あ~それと姫、今度うちのリーダーと食事でもしてやってくれ。何かまた悩んでるみたいなんだよ。この前姫と食事した後すげースッキリした顔してたから、いい気分転換になったんだろうよ。暇な時にでも誘ってやってくれねーか?」
「あ、はい。私で良ければ今度お誘いしてみます」
「ありがとよ、じゃぁな!」
手を振りながら小道に入っていくザックさんを私も手を振りつつ見送る。リーダーって確か……ノーラさんよね。すっごいナイスバディのお姉さん冒険者でチームリンクスのリーダーさん。普段は凛とした姐御肌なのにお酒が入ると涙もろくてとっても可愛くなっちゃうのよね……。いやぁ最初見た時は誰!? って思ったわ。どう見ても別人だったものね。でもまぁ確かにだいぶ溜まっていたかもしれないわね。仕方がない、今度会ったら誘ってみよう。
それはそれとして北の森ね私も調べてみようかしら……。
「あの、ゴールドさん、皆さんで北に行くんですか?」
私に行くなと言った北の森。魔物の様子がおかしいとかなんとか……。
「ああ。俺らが調査してくるからそれまではお前ら初心者共は行くんじゃねぇぞ。こういうのは大抵どっかから強い魔物が迷い込んだに決まってるからな」
ああ、なるほど。それで元からいた魔物と競合して騒がしくなっている訳か。なぁんだ、それなら別に気にする事もないか。
「……気をつけてくださいね」
「任せとけ、ちびっ子は安全な林の方で頑張ってこい」
「もーまたちびっ子って言うしー」
「そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
頭をクシャッと撫でられた。
ぶー。私何度も十六だって言ったのに、絶対信じてないわよね? もうっ!!
ちなみにいくら私でもこうしてみんなが気にして声をかけてくれるのが美少女とお近付きになりたいからという訳ではない事くらい理解している。さっきまでのはただのストレス発散の妄想……空想にしとこう。そういう事よ。何事も自分の心持ち次第よね? たまにはモテる女プレイくらいしてもいいでしょ?
……それにしても私って最近独り言……頭の中で一人でボケてツッコミして……みたいな事をよくしてるような気がするわ。これもきっと俺くんの記憶の影響よね? 以前はこんな事なかったと思うの……多分。
今のところ特に困ってないから構わないけれど、気をつけないともしも話の途中にトリップしたりとかしたら大変だわ。それこそ余計にお子様扱いされるわよね? ほら長時間真面目な話は無理かーみたいな! ムキィーーッ!!
そうこうするうちにギルドに着いた。
思わず小さくため息を一つ。いつまでもこうしている訳にもいかないのに……。そんな思いに駆られる。
時間は有限。しかも私史上最大の死亡フラグが迫ってきている。前回とは違うストーリー展開だとしても行き着く先は一つ。色々な要素が魔王討伐作戦へと集約されていく。前回は最初から最後まで蚊帳の外というか知らないうちに話が進んでいたような感じで私が関わった時には時すでに遅し。魔族は私一人を残して滅亡していた。もしかしたら生き残りがいたかもしれないけれど、どちらにしろ種族としては滅びるだけだったと思う。今回はそうはさせない。
まだどうにか出来る算段はついていないけれど、それでもどうにかするしかない。
焦り、焦燥、不安……そして逃げ出したくなる気持ち。全てに打ち勝つ……そんな格好のいい事は言えない。少し未来を知って強くなったつもりでも所詮私は十六年程度しか生きていない。その程度の経験で世界を変えるような大それた事をしなくちゃいけない。
やるしかない。出来ることをやるしかない。何とか出来ると信じて。
そう信じて私はおよそ一ヶ月間。この街、武神王国ガイゴーン王都ラスバンで情報収集に努めている。もし王都であるこの街で有力な情報が得られなければ詰んでしまうかもしれない。その場合は竜王と直接対峙するしか思いつく手段がない。戦えば確実に敗北する相手と向き合う勇気が今の私にあるかどうか……。
それともう一つ私を焦らせているのが自分自身の成長に関してだ。この街に来て一ヶ月私の体はほぼほぼ変化していない。
つまり私は見た目は子供、頭脳は大人的な状況にある訳だ。
まぁ、今急に成長されても困る訳だから都合がいいような気がしなくもない。
くよくよウジウジしていても仕方がない!! 気持ちを切り替えろ!! 私はできる子!! ファイト! キラリ!!
何事も気の持ちよう、考え方次第! 物事の視点が変わればピンチはチャンス。まだまだ頑張れるわ!!
先送りしても問題なさそうな出来事はすっ飛ばしてしまう。それでも彼の国を止められるかどうかはわからない。わからないけれど、それが出来なければ結局どうする事も出来ない。
藁にもすがるとは正しくこういう事なんだろう。
本来どの勢力とも関わらないはずの竜族を動かす何かがあるはず。それさえ取り除けば竜王の介入は阻止できるはず。そうすれば魔族は滅びない。魔王が、お父様やお母様たちが人族に負けるわけがない!
推測や願望まみれかもしれないけれど私にはそこにすがるより他に打てる手立てがない。
だからーー。
「少し無理をするかもしれないけれど一緒に来てくれるわね?」
「もちろんです、姫様。私に出来ることは多くはありませんがそれでも姫様をお一人には致しません」
「ありがとう。側にいて話を聞いてくれるだけで私にとっては何者にも勝る助力よ。アン、本当にありがとうね」
マップを展開して飛行ルートを確認する。
街道を行けばかなりの時間を要するけれど、遮るもののない空なら相当な時間を短縮出来る。
竜王が参戦しての魔王討伐戦はまだ半年以上先の出来事。全てが同じとは限らないけれど、それまでにこの難問を解決できれば私の勝ち……いいえ、グッドエンディングが見えてくるはず!
あんな未来はいらない。私は必ず成し遂げて見せるわ!!
ーーone month laterーー
……なんてテロップが表示されるのかしら?
そんな他愛もないことを考えながら通りを歩いていると横手から優しいおじさんの声に呼び止められた。
私ほどの美少女だとそこら中から声がかかって大変だわ。
「よぉ! キラリちゃん、おはようさん!! 今日も頑張りなよ!!」
そんな風に朝の喧騒の中通りを歩く私に呼びかけてきたのは丸いアンパンみたいな顔のパン屋さん。朝のこのやり取りももう二週間くらい続いているかしら。
「おはようございます、今日もいい天気ですね」
私も元気よく返事をする。
早起きして散歩中のおばあさんやおじいさんが優しい笑みを浮かべている。
「ほら、これを持ってお行き」
「あっ!?」
茶色い小さな紙袋を持たされた。
「いつもありがとうございます。また帰りに買いに寄りますね」
何度も通ううちにこうして朝焼きたてのパンをお弁当がわりにくれるようになった。毎日ではないけれど、ふんわりと優しい味のパンは私の大好きなお昼ご飯になった。
「子供が気を使わんでいい。ちょっと焦げちまった売り物にならんやつだ。美味しく食べてもらえるだけで嬉しいもんだ」
「ホントにありがとうございます! 行ってきます!!」
「ああ、いってらっしゃい! 気をつけて行くんだよ」
見送ってくれるパン屋のおじさんに手を振りながら角を曲がって冒険者ギルドへ。数メートルと歩かぬうちにまた声がかかる。ふふふ。モテる女は大変ね。
「おう、ちびっ子。今日も元気か?」
別の道からこちらの通りへと合流してきたのは先輩冒険者のゴールドさん。子供子供とからかいながらもずっと私の事を気にしてくれている優しいおじさん。今のところ怪しい性癖の片鱗は見えないから大丈夫だと思う。でも油断はしないわ。
「ちびっ子じゃありません、キラリです。何度言ったら覚えてくれるんですか!」
「一人前になったら覚えてやるよ。で、今日も薬草採取か?」
「そのつもりです。でもそれが何か?」
冒険者になりたての私が受けられるクエストなんてその大半が採取系のクエストだ。しかし一ヶ月も経つというのに未だに新米扱いとはこれいかに!?
本来新人が受領できる依頼の中にも討伐系があるのだけれど、何故か受けさせてもらえない。「まだ実力不足よ」なんて言われて受付のお姉さんに処理して貰えないのだ。なんて理不尽なんだろう。
「それなら関係ないだろうけどな、北の森には行くなよ。ちょっと魔物の様子がおかしいからな」
「へぇ~」
薬草は南の林の方が育成状況が良く、態々北の森に行く人はいない。ごく少数、そちらにしかない貴重な薬草……というかキノコ類を取りに行く時くらいのものだろう。それらは薄暗いちょっとジメッとした所を好むからどうしても森の奥の水辺周辺を探すことになる。
まぁ例によって私は行ったことがない。というか、南の林のクエストか街中のおつかいクエストしかさせてもらえない。ホントなんて理不尽なのよ!!
「おっすゴールドじゃねえか! 今日も姫を口説いてんのか?」
「何くだらねぇ事言ってやがる! こんな自分の娘くらいの子供を誰が口説くかよ」
「それもそうだな。いくら可愛くても姫は対象外だな。でも姫は気をつけろよ。姫くらいがいいって変態もいるからな」
「お前がそうでない事を祈るよ」
「馬鹿言うな、俺はノ……何でもねぇ。おっと、おはよう姫。今日も元気か?」
反対側から冷やかすような声。見た目のチャラさからは想像できないが、実はメチャクチャ真面目なのよねザックさんって……。見れば見るほどホストにしか見えないけど。
それにしてもまた私のファンが増えたわね! 姫、姫と呼ぶのはどうかと思うけれど、そもそもキラリはお姫様である事は間違いないからおかしくはないのだけれど、なんかちょっと違うのよね。
「はい元気ですよ! あと、おはようございます、ザックさん。今日も早いですね。あと姫はやめてください」
「おう、わかったよ姫。でゴールド、今日は北に行くだろ? 俺らも混ぜてくれねぇか?」
全然わかってないですよねザックさん!? この人は何故か初対面の時から私を姫と呼び偶にお菓子をくれる。この前もらった苺の飴はとっても甘くて美味しかった。
「かまわねえぞ。他にダンテの奴らも一緒だ」
「おーダンテか。久しぶりだなぁ。あいつ貴族の姫さんと上手くやってるらしいな」
あー、少し前に貴族のお嬢様に見初められたイケメン冒険者さんの話だ。でも確かあの人って没落貴族の子息だったらしいのよね……。そう思うとあの容姿や雰囲気も納得がいくわ。金髪碧眼、物語に出てきそうな感じのいかにも「勇者」って感じなのよね。
まぁ本物の勇者様には及ばないかな、ふふふ。
「おお、予想外にな。おかげで賭けた金がパアだ」
「クックック。友達がいのない野郎だな。そんな事だからスッちまうんだよ。俺なんて見事に酒代儲けたぜ?」
「何? お前うまく行く方に賭けたのかよ!?」
「ふっ、ギャンブラーと呼んでくれ」
「かーっ、マジか!? あんなもん一週間で振られるのが鉄板だろうがよ……クソっ、マジかよ……」
酷いなゴールドさん。普段あれだけ仲良く一緒に飲んだりしてたのに振られる方に賭けたのね……。ザックさんの方がよっぽど友達っぽいじゃない。でもザックさんも賭けとかするのね。ちょっと意外だわ。見た目からすると全く違和感はないのだけれど。
「おっと、俺はちょっとリーダーんとこ寄ってから行くからまた後でな。どうせ現地集合だろ?」
「おう、またな!」
「おう! あ~それと姫、今度うちのリーダーと食事でもしてやってくれ。何かまた悩んでるみたいなんだよ。この前姫と食事した後すげースッキリした顔してたから、いい気分転換になったんだろうよ。暇な時にでも誘ってやってくれねーか?」
「あ、はい。私で良ければ今度お誘いしてみます」
「ありがとよ、じゃぁな!」
手を振りながら小道に入っていくザックさんを私も手を振りつつ見送る。リーダーって確か……ノーラさんよね。すっごいナイスバディのお姉さん冒険者でチームリンクスのリーダーさん。普段は凛とした姐御肌なのにお酒が入ると涙もろくてとっても可愛くなっちゃうのよね……。いやぁ最初見た時は誰!? って思ったわ。どう見ても別人だったものね。でもまぁ確かにだいぶ溜まっていたかもしれないわね。仕方がない、今度会ったら誘ってみよう。
それはそれとして北の森ね私も調べてみようかしら……。
「あの、ゴールドさん、皆さんで北に行くんですか?」
私に行くなと言った北の森。魔物の様子がおかしいとかなんとか……。
「ああ。俺らが調査してくるからそれまではお前ら初心者共は行くんじゃねぇぞ。こういうのは大抵どっかから強い魔物が迷い込んだに決まってるからな」
ああ、なるほど。それで元からいた魔物と競合して騒がしくなっている訳か。なぁんだ、それなら別に気にする事もないか。
「……気をつけてくださいね」
「任せとけ、ちびっ子は安全な林の方で頑張ってこい」
「もーまたちびっ子って言うしー」
「そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
頭をクシャッと撫でられた。
ぶー。私何度も十六だって言ったのに、絶対信じてないわよね? もうっ!!
ちなみにいくら私でもこうしてみんなが気にして声をかけてくれるのが美少女とお近付きになりたいからという訳ではない事くらい理解している。さっきまでのはただのストレス発散の妄想……空想にしとこう。そういう事よ。何事も自分の心持ち次第よね? たまにはモテる女プレイくらいしてもいいでしょ?
……それにしても私って最近独り言……頭の中で一人でボケてツッコミして……みたいな事をよくしてるような気がするわ。これもきっと俺くんの記憶の影響よね? 以前はこんな事なかったと思うの……多分。
今のところ特に困ってないから構わないけれど、気をつけないともしも話の途中にトリップしたりとかしたら大変だわ。それこそ余計にお子様扱いされるわよね? ほら長時間真面目な話は無理かーみたいな! ムキィーーッ!!
そうこうするうちにギルドに着いた。
思わず小さくため息を一つ。いつまでもこうしている訳にもいかないのに……。そんな思いに駆られる。
時間は有限。しかも私史上最大の死亡フラグが迫ってきている。前回とは違うストーリー展開だとしても行き着く先は一つ。色々な要素が魔王討伐作戦へと集約されていく。前回は最初から最後まで蚊帳の外というか知らないうちに話が進んでいたような感じで私が関わった時には時すでに遅し。魔族は私一人を残して滅亡していた。もしかしたら生き残りがいたかもしれないけれど、どちらにしろ種族としては滅びるだけだったと思う。今回はそうはさせない。
まだどうにか出来る算段はついていないけれど、それでもどうにかするしかない。
焦り、焦燥、不安……そして逃げ出したくなる気持ち。全てに打ち勝つ……そんな格好のいい事は言えない。少し未来を知って強くなったつもりでも所詮私は十六年程度しか生きていない。その程度の経験で世界を変えるような大それた事をしなくちゃいけない。
やるしかない。出来ることをやるしかない。何とか出来ると信じて。
そう信じて私はおよそ一ヶ月間。この街、武神王国ガイゴーン王都ラスバンで情報収集に努めている。もし王都であるこの街で有力な情報が得られなければ詰んでしまうかもしれない。その場合は竜王と直接対峙するしか思いつく手段がない。戦えば確実に敗北する相手と向き合う勇気が今の私にあるかどうか……。
それともう一つ私を焦らせているのが自分自身の成長に関してだ。この街に来て一ヶ月私の体はほぼほぼ変化していない。
つまり私は見た目は子供、頭脳は大人的な状況にある訳だ。
まぁ、今急に成長されても困る訳だから都合がいいような気がしなくもない。
くよくよウジウジしていても仕方がない!! 気持ちを切り替えろ!! 私はできる子!! ファイト! キラリ!!
何事も気の持ちよう、考え方次第! 物事の視点が変わればピンチはチャンス。まだまだ頑張れるわ!!
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