187 / 278
第五章:プリンセス、最果ての地に散る
(30)
しおりを挟む
宿までの間の出来事はあまり良く覚えていない。
山頂で見た光景。あの立ち昇る黒煙と飛び交う竜の姿が焼き付いて離れない。
道中の私は何事かを呟き続けていたらしいけれど、それすらも良く覚えていない。多分どうすればいいのかそんな事を考えていたんだと思う。意識なかったみたいだけど。
「落ち着いたようね。お水飲む?」
「はい……お姉様……。いいえ、聖女ソフィス様。状況を教えてください!」
「わかっているわ。でもまずはお水を飲みなさい。それから落ち着いて話をしましょう」
渡されたグラスの水はほんのりと冷たくて頭に登った熱を冷ますような気がした。
ふとテーブルの上の水桶やタオルが目に入った。きっとソフィス様が見ていてくれたのだろう。
「あ……その、ありがとうございました。ここまで連れてきていただいて……」
「いいわよ、そんな事くらい。久しぶりに誰かを背負って歩いたわ。思ったよりも軽くてびっくりしたわ」
「す、すいません……。私山頂からそのあまり覚えていなくて……」
「ずっと「どうしようどうしよう」って呟いていたわね。意識がないはずなのに……。それと先程も言ったけれど暴れたりしなくてよかった。あなたが遠慮なく暴れたら多分誰にも止められないでしょう? 運が良ければノインあたりなら気絶させたり出来るかもしれないけれど、私には無理よ。だから大人しく背負われてくれてよかったわ」
そう言って髪を撫でられた。ソフィス様の手はいつだって優しい。時々怒らせて拳骨を落とされたりもしたけれど。
「それでは状況を説明するわね。とにかく落ち着いて聞く事。もし……感情に任せて動くのなら……私を殺してから行きなさい。それが出来ないのならまずは落ち着きなさい。いいわね?」
「えっ……そんなに酷い状況なんですか!? 私!!」
いてもたってもいられなくて立ち上がろうとしたその時ーー!?
「あっーー」
お姉様に抱きしめられた。
「落ち着きなさい。このまま話をします」
「お、お姉様!?」
慌てふためく私を宥めるように優しく包み込む。背中をさする手が心を穏やかにする。
お姉様の息づかいが、匂いが私を包み込んでくれている。すごく安心する。
「あら? またお姉様と呼んでくれるの? 嬉しいわ。キラリさん、あなたは私の……私たちの大切な仲間よ。色々思うところはあると思うけれど、私たちを信じてくれる? たとえ種族が違っても私もあなたも争いは望んでいないはずよね。ルクスもそうよ。彼は変わった勇者でね……。昔の私が何度言っても魔物や魔獣だって無闇に討伐したりはしなかったわ。甘い。甘すぎる。そう思っていたのだけれど、彼はここまでその信念を曲げずにやり遂げてきたわ。ここまできたらもう彼を応援しよう。私でもそう思っているのよ。いつも厳しい事をいうノインや王国側の人間としての立場もあるメルだって……うふふ。ルクスは不思議と信じたくなる何かを持っているみたい。キラリ、あなたはどう? 短い時間だったけれど勇者と一緒に過ごしてどうだった?」
「私は……」
多分最初から彼を疑ってはいなかったと思う。勇者とはそういう存在だから。そのはずだから。でも記憶とは裏腹に彼の言葉の粗を探してはいたのかもしれない。でもそんなものは見当たらなくて。それどころかあまりの一致具合に逆に呆れてしまうくらいだった。
よくもまあこれ程までの善人が捻くれる事なく成長できたものだと。そう、人の世もそこまでダメではないのではないかーーそう思えるくらいには……。
ーーでも。
戦争は始まり、魔王国からは黒煙が立ち上っていた。
記録にある限りそんな事はこれまで一度としてなかった。竜族が人族に与する事など聞いたことがなかったのに!
「ほらほら、また感情が高ぶっているわ。落ち着いて。まずは勇者のことだけを考えてみて……ね?」
「……はい」
黒い感情が一瞬で消えてしまう。
いい匂いと柔らかな温もり。これは反則ではないかしら。
「……勇者は……ルクス様はお兄ちゃんみたいな人です」
「そうかしら? それにしてはちょっと……うーん……。本当に?」
「くすくす。はい。多分私が何者だろうと関係なく、一度仲間として受け入れてくれた以上ルクス様は私のことを放り出さないような気がします。まるで妹を守るお兄ちゃんみたいな感じです」
「そう? あなたがそう言うのならそれでもいいわ。私は……手のかかる弟にしか思えないけれどもね」
「でもルクス様の方が年上でしたよね?」
「それでもよ。次から次へと面倒な話を持ってきては私たちに迷惑をかけるんですからね。あれは弟扱いで十分ですわ」
「くすくす……。そうかもしれませんね」
「いつものキラリに戻ってきたかしら?」
「そうですね……おかげさまで随分と落ち着いてきました。この至宝の柔らかさをいつまでも堪能していたいです」
「あら嬉しいわ。ちょうどベッドの上ですし今から少し気分転換をしましょうか……ちゅっ」
「ひゃぁっ!?」
「何をそんなに驚いているの? 軽くキスしただけでしょう?」
「ま、ま、ま、待って!? 待ってください!? えっと、えっと、い、一体どうしたんですか!? 最近変ですよ! 妙に私に絡んでくるし……その……スキンシップが過剰というか、エ○チな感じというか……」
「それこそ何を言っているのよ。あなたが望んで開いた扉でしょう? それともあなたの気持ちはいい加減なものだったとでもいうのかしら? もしそうだとしたら……」
抱きしめる腕に力がこもっていく。
えっ、あ、ええっ? ちょっと待って……え、ぁぅぐぅっ……ちょっ……くる……しい……。
「ぇ、ぁ……ぅぅう……くはぁぁっ」
「……ごめんなさいキラリ。少し強く抱きしめすぎたわね。でもこれでわかってもらえたわよね? 私は本気よ?」
「お姉様……女同士ですよ? わかっているのですか?」
「ええ。もちろんよ。愛があればそんな事は些細なことよ。気にしないわ。そうよ! 私は男たちのあの絡みつくような視線がずっと嫌だったのよ。もう、なんなのよあいつらときたら! 舐め回すように全身を見てそして最後は絶対また胸に戻ってくるのよ! わかってるわよ! 男はみんな大きな胸が好きな事くらい!! それでもずっとこうだと嫌なのよ! わかるでしょ!? あなただって小柄な割に胸だってお尻だって凄く綺麗だものね。そういう視線を感じたことがあるでしょう!?」
「え、ええ……」
「でしょう!? だからいっそ女なら……何度かそう思った事はあったのよ。でも女は女で色々あるのよ。どうしたって自分と相手とを比べてどちらが上かをつけてしまうのよ。無意識のうちにね。中にはそうでない子もいるにはいるけれど、少数派ね」
「はぁ……。それで、その……」
「それで色々あって今に至る訳ですわ!」
「端折り過ぎですお姉様。それでは肝心な部分が全くわかりません」
「その少数派が更に女同士の愛を受け入れる可能性は凄く低い。そこに現れたのがあなたよ。私がいくら拒んでも関係なく纏わり付いてイチャイチャイチャイチャ。しかも何故かわからないけれどそれが嫌じゃない不思議。私の心は揺れたわ。このままいっそこの娘にしてしまえばアレやコレやが一気に解消するかもしれない! そう思い始めた矢先にこの間の事があって……私は覚悟を決めたわ。あなたを嫁にすると!!」
幾分か弱まっていた力がまた強くなった。
そしてその言い分はなんていうか「ヤケ」になっているような気がしてならない。
何かこう子供が出来た時に責任を取る判断をした男の心境……ぽい感じ。
でも……色々決断した前提条件が少し……いやかなり間違っているんですけど……。まあ私のせいだけれど……えへ♪
ちょっとまぁ、そのアレよ。私も少しハメを外しすぎたのかもしれないということよ。だってまさかあんな話を全部信じちゃうだなんて思わないわよ。それこそこの人かなり上位の冒険者であり、世の人々に癒しの聖女とまで呼ばれるお方なのよ? ちゃんといつもの悪ふざけだってわかってもらえると思うじゃない。それがまさかまさか……。あ~もう! 何でこうなるのかしら!?
「……お姉様……」
「なぁにキラリ」
妙に甘い声を出すお姉様……。何故これで男がいなかったのだろうか? もしやこの人マジモンだったのだろうか? 一抹の不安がよぎるけれど、踏み外す前にしっかりと確認をしてあげましょう。何も好き好んで女同士の愛を育まなくてもいいと思うの。勘違いなら尚更だし、変な責任意識でも嫌だし。
あとちょっと私が後ろめたい。
「先日の宿での件ですが……」
「ゃだ、恥ずかしい。二人の初めての日ね。うふふ」
「私が説明した事は全部冗談ですけど、承知の上ですよね? わかっていて仰っているのですよね?」
「えっ? ジョウ……ダン?」
「はい。あの晩酔いつぶれたお姉様を部屋に運んで服を脱がせて下着だけにしました。ついでに私も裸になって一緒のベッドで眠りましたが、それだけですよ? お話した様なエ○チな事は一切ありませんでしたが、承知の上で私に愛を告白しているのですよね?」
「えっ……あの話全部ウソだったの!?」
かなりの動揺。これはやっぱり騙されて覚悟を決めたのでは……。
「お姉様?」
「えっと、その……。も、もちろんですわ! あなたの嘘になんて騙されていませんわ! 私だって体の状態くらいわかりますもの! おかしいとは思っていたのですけれども酔っていましたし……そういうものなのかしらなんて思っていたのですけれど……。でも……そうなのですね……あれはなかったのですね……」
段々と言葉から力がなくなっていく。
「ーーというのも嘘です。あの晩私とお姉様は言葉に言い表せないほど絡み合い、互いを求め合い、愛し合いました。それはもう欲望の限り……」
「えっ、えっ、えっ!? 待って!? どっちなのどちらが本当なの!?」
「目覚めた時からだが気怠かったのを覚えていませんか? そういう事です……」
「ええ、ええ! そうよ。確かにとても体が重くてお腹のあたりが苦しかったわ! そうよ。私たちは愛し合ったのよ! だから一緒に生きていきましょうキラリ!!」
あーダメだこの人。この手の話に関しては知識も経験も何もかも足りてない気がする。よくこんな純粋培養みたいな美女がこの年まで生娘で生きてこれたわね……。これこそ天然記念物だわ。
「お姉様……今からお話しする事をよく聞いて、その上で決めてくださいませ。いいですね?」
「何よ急に怖い声出して……。わかったわよ聞くわよ。それで何かしら?」
「よろしい。まず初めにあの日私たちの間には何もありませんでした」
「えっ!? ウソ……だって……」
「さすがに今回は全て真実を語ります。私はお姉様の事が好きですから、お姉様の人生の岐路となる選択肢を誤情報で決めさせる訳にはいきません。いいですね? ちゃんと受け止めてくださいね?」
「え、ええ。わかったわ」
「まずあの晩は何もなかった。翌朝の気だるさはただの二日酔い。お腹の奥が重かったのは単なる食べ過ぎです。酔ったお姉様を勘違いさせてイチャイチャしようとした私が裸にして一緒のベッドで眠っただけ。あの日の真相は以上です」
「えっと……」
「以上です!」
「は、はい!?」
「その上で私と一緒に生きる道を選びますか? 友人としてではなく恋人として?」
「えっと……」
そう呟いたきり黙ってしまった。
今必死に考えているのだと思う。一度は決めた百合の道だけれど、もしかしたら真性かもしれないけれど、それでも誤った情報に踊らされた感はあるわけで、改めて真実を知った上で考えてみてほしい。それでも私が好きならそれはそれでいい。でもそうでないのなら、まだ間に合う。
……というか別にまだ何もしていない。ちょっとスキンシップ過剰な仲のいい女の子同士でいける……と思う。
さぁ、長い思考の果てにお姉様が出した結論は!!
「あの……キラリさん……ごめんなさい。もう少し考えてもいいかしら? あなたの事が嫌いというわけではないのよ? でも色々と誤解があったみたいで、その……知ってしまうと決心が揺らいでしまったというか何というか……」
「わかりました。それでいいのですよお姉様。無用な困難ならば避けて通るべきです。私はお姉様の幸せを願っていますからね」
「ありがとうキラリさん……。やっぱりあなたの事をとても愛おしく思うわ。でもまだよくわからないの。だから、まずはお友達から始めましょう! ね?」
えーっと……その表現もちょっとなんだか変な気がするけれども……一先ずこれでいいわよね?
それとちっとも話を聞けていないのですけれども……やれやれですわ……。
でもお陰で私は平静になれた。
山頂で見た光景。あの立ち昇る黒煙と飛び交う竜の姿が焼き付いて離れない。
道中の私は何事かを呟き続けていたらしいけれど、それすらも良く覚えていない。多分どうすればいいのかそんな事を考えていたんだと思う。意識なかったみたいだけど。
「落ち着いたようね。お水飲む?」
「はい……お姉様……。いいえ、聖女ソフィス様。状況を教えてください!」
「わかっているわ。でもまずはお水を飲みなさい。それから落ち着いて話をしましょう」
渡されたグラスの水はほんのりと冷たくて頭に登った熱を冷ますような気がした。
ふとテーブルの上の水桶やタオルが目に入った。きっとソフィス様が見ていてくれたのだろう。
「あ……その、ありがとうございました。ここまで連れてきていただいて……」
「いいわよ、そんな事くらい。久しぶりに誰かを背負って歩いたわ。思ったよりも軽くてびっくりしたわ」
「す、すいません……。私山頂からそのあまり覚えていなくて……」
「ずっと「どうしようどうしよう」って呟いていたわね。意識がないはずなのに……。それと先程も言ったけれど暴れたりしなくてよかった。あなたが遠慮なく暴れたら多分誰にも止められないでしょう? 運が良ければノインあたりなら気絶させたり出来るかもしれないけれど、私には無理よ。だから大人しく背負われてくれてよかったわ」
そう言って髪を撫でられた。ソフィス様の手はいつだって優しい。時々怒らせて拳骨を落とされたりもしたけれど。
「それでは状況を説明するわね。とにかく落ち着いて聞く事。もし……感情に任せて動くのなら……私を殺してから行きなさい。それが出来ないのならまずは落ち着きなさい。いいわね?」
「えっ……そんなに酷い状況なんですか!? 私!!」
いてもたってもいられなくて立ち上がろうとしたその時ーー!?
「あっーー」
お姉様に抱きしめられた。
「落ち着きなさい。このまま話をします」
「お、お姉様!?」
慌てふためく私を宥めるように優しく包み込む。背中をさする手が心を穏やかにする。
お姉様の息づかいが、匂いが私を包み込んでくれている。すごく安心する。
「あら? またお姉様と呼んでくれるの? 嬉しいわ。キラリさん、あなたは私の……私たちの大切な仲間よ。色々思うところはあると思うけれど、私たちを信じてくれる? たとえ種族が違っても私もあなたも争いは望んでいないはずよね。ルクスもそうよ。彼は変わった勇者でね……。昔の私が何度言っても魔物や魔獣だって無闇に討伐したりはしなかったわ。甘い。甘すぎる。そう思っていたのだけれど、彼はここまでその信念を曲げずにやり遂げてきたわ。ここまできたらもう彼を応援しよう。私でもそう思っているのよ。いつも厳しい事をいうノインや王国側の人間としての立場もあるメルだって……うふふ。ルクスは不思議と信じたくなる何かを持っているみたい。キラリ、あなたはどう? 短い時間だったけれど勇者と一緒に過ごしてどうだった?」
「私は……」
多分最初から彼を疑ってはいなかったと思う。勇者とはそういう存在だから。そのはずだから。でも記憶とは裏腹に彼の言葉の粗を探してはいたのかもしれない。でもそんなものは見当たらなくて。それどころかあまりの一致具合に逆に呆れてしまうくらいだった。
よくもまあこれ程までの善人が捻くれる事なく成長できたものだと。そう、人の世もそこまでダメではないのではないかーーそう思えるくらいには……。
ーーでも。
戦争は始まり、魔王国からは黒煙が立ち上っていた。
記録にある限りそんな事はこれまで一度としてなかった。竜族が人族に与する事など聞いたことがなかったのに!
「ほらほら、また感情が高ぶっているわ。落ち着いて。まずは勇者のことだけを考えてみて……ね?」
「……はい」
黒い感情が一瞬で消えてしまう。
いい匂いと柔らかな温もり。これは反則ではないかしら。
「……勇者は……ルクス様はお兄ちゃんみたいな人です」
「そうかしら? それにしてはちょっと……うーん……。本当に?」
「くすくす。はい。多分私が何者だろうと関係なく、一度仲間として受け入れてくれた以上ルクス様は私のことを放り出さないような気がします。まるで妹を守るお兄ちゃんみたいな感じです」
「そう? あなたがそう言うのならそれでもいいわ。私は……手のかかる弟にしか思えないけれどもね」
「でもルクス様の方が年上でしたよね?」
「それでもよ。次から次へと面倒な話を持ってきては私たちに迷惑をかけるんですからね。あれは弟扱いで十分ですわ」
「くすくす……。そうかもしれませんね」
「いつものキラリに戻ってきたかしら?」
「そうですね……おかげさまで随分と落ち着いてきました。この至宝の柔らかさをいつまでも堪能していたいです」
「あら嬉しいわ。ちょうどベッドの上ですし今から少し気分転換をしましょうか……ちゅっ」
「ひゃぁっ!?」
「何をそんなに驚いているの? 軽くキスしただけでしょう?」
「ま、ま、ま、待って!? 待ってください!? えっと、えっと、い、一体どうしたんですか!? 最近変ですよ! 妙に私に絡んでくるし……その……スキンシップが過剰というか、エ○チな感じというか……」
「それこそ何を言っているのよ。あなたが望んで開いた扉でしょう? それともあなたの気持ちはいい加減なものだったとでもいうのかしら? もしそうだとしたら……」
抱きしめる腕に力がこもっていく。
えっ、あ、ええっ? ちょっと待って……え、ぁぅぐぅっ……ちょっ……くる……しい……。
「ぇ、ぁ……ぅぅう……くはぁぁっ」
「……ごめんなさいキラリ。少し強く抱きしめすぎたわね。でもこれでわかってもらえたわよね? 私は本気よ?」
「お姉様……女同士ですよ? わかっているのですか?」
「ええ。もちろんよ。愛があればそんな事は些細なことよ。気にしないわ。そうよ! 私は男たちのあの絡みつくような視線がずっと嫌だったのよ。もう、なんなのよあいつらときたら! 舐め回すように全身を見てそして最後は絶対また胸に戻ってくるのよ! わかってるわよ! 男はみんな大きな胸が好きな事くらい!! それでもずっとこうだと嫌なのよ! わかるでしょ!? あなただって小柄な割に胸だってお尻だって凄く綺麗だものね。そういう視線を感じたことがあるでしょう!?」
「え、ええ……」
「でしょう!? だからいっそ女なら……何度かそう思った事はあったのよ。でも女は女で色々あるのよ。どうしたって自分と相手とを比べてどちらが上かをつけてしまうのよ。無意識のうちにね。中にはそうでない子もいるにはいるけれど、少数派ね」
「はぁ……。それで、その……」
「それで色々あって今に至る訳ですわ!」
「端折り過ぎですお姉様。それでは肝心な部分が全くわかりません」
「その少数派が更に女同士の愛を受け入れる可能性は凄く低い。そこに現れたのがあなたよ。私がいくら拒んでも関係なく纏わり付いてイチャイチャイチャイチャ。しかも何故かわからないけれどそれが嫌じゃない不思議。私の心は揺れたわ。このままいっそこの娘にしてしまえばアレやコレやが一気に解消するかもしれない! そう思い始めた矢先にこの間の事があって……私は覚悟を決めたわ。あなたを嫁にすると!!」
幾分か弱まっていた力がまた強くなった。
そしてその言い分はなんていうか「ヤケ」になっているような気がしてならない。
何かこう子供が出来た時に責任を取る判断をした男の心境……ぽい感じ。
でも……色々決断した前提条件が少し……いやかなり間違っているんですけど……。まあ私のせいだけれど……えへ♪
ちょっとまぁ、そのアレよ。私も少しハメを外しすぎたのかもしれないということよ。だってまさかあんな話を全部信じちゃうだなんて思わないわよ。それこそこの人かなり上位の冒険者であり、世の人々に癒しの聖女とまで呼ばれるお方なのよ? ちゃんといつもの悪ふざけだってわかってもらえると思うじゃない。それがまさかまさか……。あ~もう! 何でこうなるのかしら!?
「……お姉様……」
「なぁにキラリ」
妙に甘い声を出すお姉様……。何故これで男がいなかったのだろうか? もしやこの人マジモンだったのだろうか? 一抹の不安がよぎるけれど、踏み外す前にしっかりと確認をしてあげましょう。何も好き好んで女同士の愛を育まなくてもいいと思うの。勘違いなら尚更だし、変な責任意識でも嫌だし。
あとちょっと私が後ろめたい。
「先日の宿での件ですが……」
「ゃだ、恥ずかしい。二人の初めての日ね。うふふ」
「私が説明した事は全部冗談ですけど、承知の上ですよね? わかっていて仰っているのですよね?」
「えっ? ジョウ……ダン?」
「はい。あの晩酔いつぶれたお姉様を部屋に運んで服を脱がせて下着だけにしました。ついでに私も裸になって一緒のベッドで眠りましたが、それだけですよ? お話した様なエ○チな事は一切ありませんでしたが、承知の上で私に愛を告白しているのですよね?」
「えっ……あの話全部ウソだったの!?」
かなりの動揺。これはやっぱり騙されて覚悟を決めたのでは……。
「お姉様?」
「えっと、その……。も、もちろんですわ! あなたの嘘になんて騙されていませんわ! 私だって体の状態くらいわかりますもの! おかしいとは思っていたのですけれども酔っていましたし……そういうものなのかしらなんて思っていたのですけれど……。でも……そうなのですね……あれはなかったのですね……」
段々と言葉から力がなくなっていく。
「ーーというのも嘘です。あの晩私とお姉様は言葉に言い表せないほど絡み合い、互いを求め合い、愛し合いました。それはもう欲望の限り……」
「えっ、えっ、えっ!? 待って!? どっちなのどちらが本当なの!?」
「目覚めた時からだが気怠かったのを覚えていませんか? そういう事です……」
「ええ、ええ! そうよ。確かにとても体が重くてお腹のあたりが苦しかったわ! そうよ。私たちは愛し合ったのよ! だから一緒に生きていきましょうキラリ!!」
あーダメだこの人。この手の話に関しては知識も経験も何もかも足りてない気がする。よくこんな純粋培養みたいな美女がこの年まで生娘で生きてこれたわね……。これこそ天然記念物だわ。
「お姉様……今からお話しする事をよく聞いて、その上で決めてくださいませ。いいですね?」
「何よ急に怖い声出して……。わかったわよ聞くわよ。それで何かしら?」
「よろしい。まず初めにあの日私たちの間には何もありませんでした」
「えっ!? ウソ……だって……」
「さすがに今回は全て真実を語ります。私はお姉様の事が好きですから、お姉様の人生の岐路となる選択肢を誤情報で決めさせる訳にはいきません。いいですね? ちゃんと受け止めてくださいね?」
「え、ええ。わかったわ」
「まずあの晩は何もなかった。翌朝の気だるさはただの二日酔い。お腹の奥が重かったのは単なる食べ過ぎです。酔ったお姉様を勘違いさせてイチャイチャしようとした私が裸にして一緒のベッドで眠っただけ。あの日の真相は以上です」
「えっと……」
「以上です!」
「は、はい!?」
「その上で私と一緒に生きる道を選びますか? 友人としてではなく恋人として?」
「えっと……」
そう呟いたきり黙ってしまった。
今必死に考えているのだと思う。一度は決めた百合の道だけれど、もしかしたら真性かもしれないけれど、それでも誤った情報に踊らされた感はあるわけで、改めて真実を知った上で考えてみてほしい。それでも私が好きならそれはそれでいい。でもそうでないのなら、まだ間に合う。
……というか別にまだ何もしていない。ちょっとスキンシップ過剰な仲のいい女の子同士でいける……と思う。
さぁ、長い思考の果てにお姉様が出した結論は!!
「あの……キラリさん……ごめんなさい。もう少し考えてもいいかしら? あなたの事が嫌いというわけではないのよ? でも色々と誤解があったみたいで、その……知ってしまうと決心が揺らいでしまったというか何というか……」
「わかりました。それでいいのですよお姉様。無用な困難ならば避けて通るべきです。私はお姉様の幸せを願っていますからね」
「ありがとうキラリさん……。やっぱりあなたの事をとても愛おしく思うわ。でもまだよくわからないの。だから、まずはお友達から始めましょう! ね?」
えーっと……その表現もちょっとなんだか変な気がするけれども……一先ずこれでいいわよね?
それとちっとも話を聞けていないのですけれども……やれやれですわ……。
でもお陰で私は平静になれた。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる