魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第五章:プリンセス、最果ての地に散る

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「もう少しで山頂ですね。そこからの景色が凄いんですよ」
「楽しみね」

 山の麓にフィンの街があり、その向こうには海が、そしてクライマックスの地、魔王国が海の向こうに見える。ゲームでは旅の終着点であり、クライマックスを盛り上げるためにショートムービーなんかが差し込まれていた。
 まぁ普通のゲームと違って魔王を倒す勇者パーティーではなかったけれども。
 ヒロインたちの目的は魔王の妃となること。そこで一応のエンディングとなる。もちろんエンディングは二人が愛し合うシーンである。
 今にして思うと一体あのゲームはどの層をターゲットに作られたのだろうか? 基本的にエ□ゲーの癖に妙に乙女ゲー的な要素ーー世界の王たちがイケメン揃いでそれぞれタイプが異なる(もちろんそんな彼らと愛し合うシナリオも用意されていた)ーーとか、「魔王の妃END」に始まり「聖王の側室END」や「勇者の恋人END」など一応のハッピーエンドがいくつも用意されていたし。当然「BAD END」も無数にあった。まぁ、そちらの方はロクでもないものばかりだった。いわゆるエ□ゲーのバッドエンドだからそういうものばかりだ。……陵辱系、監禁系、魔物の苗床などの妊娠系などなど。
 今の私の感情としては御免被りたいものばかり。色々な事があったけれどそれなりに幸せ……だったわよね? うん、多分幸せだったと思うの。

 ……だよね?

 さて、この坂を登りきったら頂上ね。

「それにしてもキラリくんは凄いな。こんなに楽な山越えは初めてだ」

 そう、現在私たちは浮遊の魔法で移動している。おかげで山を登る負担は大幅に軽減されている。

「そうだねぇ。なんなら昼寝しててもいいくらいだしねぇ。これはもうキラリちゃんに足を向けて眠れないねぇ」

 ……不可能ではないわね。実際立ってるだけの状態だしね。

「そんな大袈裟ですよ。ねぇ、お姉様?」
「そうね、この感謝の気持ちは夜しっかりとお返ししなくてはいけないわね、うふふ」

 しまった!? 話を振る相手を間違えた!?
 でもずっとそばに寄り添っている人を無視できなんだもの、仕方がないじゃない!!

「ほら、見えてきたぞ」
「ああ、俺もフィンは初めてだ。そしていよいよーー」

 上り坂がなくなって視界が一気に開けた。そこから見える景色はーー。

「えっ……なに? なんで……」

 麓の街並み、青い海。そしてその向こうに立ち昇る黒煙。

「何が起きている!?」
「あれはーー魔王国か!?」
「キラリ!?」
「すでに始まっている……のかねぇ?」

 時折走る閃光と炎? それから何かが飛んでいる?

「空から攻撃しているのか?」
「はっきりは分からないが……あれは竜か?」
「ドラゴン? 騎士団は!? 教会の聖女たちは大丈夫なの!?」

 魔族と人間の戦争に竜族が参戦したの? それともどちらかに組した?

「そうか、これが騎士団を派遣した理由か! 従来の船ではなく竜を使った空からの侵攻……。これが武神王国の自信の正体か……」

 どうして竜族が!? 彼らは魔族とも人族とも距離を置いていたはずだし、どちらかに助力するような事もないはず。
 そもそも竜族がその気になればこの世界でも最高の戦力のはず。数が少ない事が唯一の弱点だけれど、そもそも強さの次元が違う。一対一国。それが竜の力。

「そんな……」

 お母様、お父様!

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 どうすればいい!? 竜と戦える? 以前戦った青龍はあくまでも竜の力を借りた人でしかない。
 天山で遭遇した飛竜もセロの変身した姿。それでも決して弱くはなかった。
 でも今度は違う。本物の竜が相手だ。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 どうする!? ここからなら飛んでいける? 全力で飛べば間に合うかもしれない。でも……その状態で戦えるとは思えない。
 どうすればいい!?

「ーーキラリ!!」
「おい、大丈夫か!?」
「おっと……魔法が解けてしまったねぇ……」
「どうした? 大丈夫なのか?」
「キラリさん!? しっかりしてください!」

 あ、あ、あ……。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう!
 考えがまとまらない。飛んでいって戦う? でもそれじゃ勝てないかもしれないし……。
 でもそれ以外にできることなんて……。
 どうしようどうしようどうしようどうしよう……!!
 頭も体も何もかもがぐるぐる渦を巻くように絡め取られているようで息苦しい。早く、早く考えをまとめないと。今できる何かを今すぐにーー。

「あ……」

 あ……れ……?

「ーーノイン!!」
「心配いらない。気絶させただけだ。おかしな気配が漂い始めていた。随分と混乱もしているようだ。万一魔力の暴走などという事態になれば手がつけられない。ソフィス、目を離すなよ」
「……そうね。わかっているわ。私がそばについているわ」

 目の前が真っ暗闇になった。
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