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第五章:プリンセス、最果ての地に散る
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いくつかの町を経て街道の終点、ナンシスの街に辿り着いた。
正確にはこの先も道は続いているので終点ではないのだけれど、一般的に終点と呼ばれている。
理由はいくつかあるのだけれど、一つはこの街が聖王国領としての最南端であるという事。
一つはここから次の街へと向かう主なルートが海路になるという事。
一つが整備されていない山越えの道に変わるという事。
だからこの街が街道の終点と呼ばれている。
それにしても通常聖都からここまで馬車であれば一月程の行程なのだけれど、およそ倍の期間がかかった。言うまでもなく立ち寄る町々で困った人々から依頼を受けていたからだ。
ギルドを通じて正規の依頼として受けたものもあれば、偶々出会った人から無償で引き受けたものまで……。まるで物語ーーいいえ、ゲームの勇者のように次から次へとクエストを引き受けてしまうのだ。
仲間に相談はするものの基本的に引き受ける前提の相談でどのように攻略するのかという話が主であり、引き受けない系の選択肢はそもそもないようだった。それなのにパーティーを組んでいる三人のお姉様方は多少の文句は言うもののこれといって明確に非難する事なく、協力してクエストをクリアしていく。
一度三人それぞれに聞いてみたけれど、その答えはなんというか長年連れ添った夫婦のようにも思えるもので……。
「仕方がないわよ。良くも悪くも困っている人を見捨てられない性分なのよ彼は……」
「悪癖だが私は嫌いではない。急ぐ時は相応に発破をかければ済むだけだな」
「面倒だけどねぇ……それが王国の為になるのなら……仕事……と言えなくもないかねぇ」
言葉は違っても三人とも勇者の事を好いているのかな? メルさんですら言葉と表情が一致してなかったくらい。
こんな人がいるのかと感心してしまう。同時に物凄く興味を惹かれる。彼の行動の原動力はなんなのだろうか? 無償の愛? それとも他の何か? 名誉や名声のようなものは興味がなさそうだし、そもそも貴族である彼がお金に困っている筈もない。財宝や女にも特段の執着はなさそうだ。実際四人の美女に囲まれる日々を送りながら理性を保っている。普通のラノベの主人公なら愛と欲望の日々まっしぐらよね。
……私のことはいいのよ。ほっといて頂戴。一応自覚はあるのだからいちいち言われなくてもいいのよ。
で勇者の話に戻るけれども、そうなると浮かぶ疑惑がアレよねアレ。お・と・こ♪
まさか!? そっちの気が!? 思ったりもしたけれど、色々思い出した結果それはないと結論付けた。
だって無意識に私たちの胸や腰に視線が行く時があるんだもの。普通に女の子が好きなのは確実よね。
それに……。
男同士の濡れ場シーンは想像したくないわね。私女同士は許せるけれど男同士は無理。例え自分の趣味だろ!? と非難されようともBLはムリなのよ。
幸い勇者にその気はないけれど。貴族にはそういう人も多いらしい。少女のような姿の少年を囲うらしい。
……倍くらいに美化したらいけない事もないかしら……? やっぱムリだわ。
「キラリさん……その、着きましたよ」
目的の宿の前に到着したようだ。
あの朝以来聖女様の私を見る目が妙に熱っぽい。
あんなのは一時の気の迷いだと思うのだけれど……大丈夫かしら? 特別夜這いだとかそういうのはないけれど、今みたいな視線を感じると心配になってしまう。
私の中で聖女ソフィス様はとても大切な存在になってしまっている。好きになって貰えるのはとても嬉しいけれど、それで彼女の本来の幸せを奪い去るつもりはない。
遊びとかそういうつもりはないけれど、女の子同士ふざけて絡み合う。そのレベルのつもりだったから……。それなのに妙にスキンシップが増えたような気がするし、私の世話を焼きたがるのよね……。これやってしまったかしら!?
「大きな宿ですね! ここで一泊して明日は山越えですか?」
「そうなるな。海路の方が楽だったんだが……」
「仕方がないねぇ。騎士団連中が船を占有してしまってるらしいからねぇ。精鋭だけならともかくそれ以外の補給部隊やなんかも一緒らしいじゃないか。大所帯で何をする気なんだか……」
言われるまで考えもしなかったけれど、行軍には兵士以外にも様々な役割が必要になる。精鋭二百をフィンまで移動させ為にはそれなりの兵糧が必要になる。実際の人員は倍くらいになるのではないかしら?
流石に自国領で搾取はしていないから酷い行軍にはなっていないでしょうけれど。
「そもそも一体どうやって渡るつもりなんだ? 船で大軍を渡らせるのは不可能だと聞いていたんだがな……」
「武神王国か……一体どのような手段を得たというのか? いずれにしろ信憑性が高くなければ各国が精鋭を派遣することはないだろう。大勢を渡らせる手段は確実にあるという事は間違いない」
「脳筋国家の筈なんだけどねぇ……」
そうよね……。熟練の船乗りがいてようやく渡れる海の難所を超えなければならない筈。連合軍推定一千の精鋭部隊とそれを支えるための部隊。それだけの人数をどうやって魔王国へ渡らせるのか?
不可能であってほしい。でも虚偽の情報では五王国全てが動くとは思えない。
だから何らかの方法はある。それを事実として考えなくてはいけない。
陛下……お母様……。
正確にはこの先も道は続いているので終点ではないのだけれど、一般的に終点と呼ばれている。
理由はいくつかあるのだけれど、一つはこの街が聖王国領としての最南端であるという事。
一つはここから次の街へと向かう主なルートが海路になるという事。
一つが整備されていない山越えの道に変わるという事。
だからこの街が街道の終点と呼ばれている。
それにしても通常聖都からここまで馬車であれば一月程の行程なのだけれど、およそ倍の期間がかかった。言うまでもなく立ち寄る町々で困った人々から依頼を受けていたからだ。
ギルドを通じて正規の依頼として受けたものもあれば、偶々出会った人から無償で引き受けたものまで……。まるで物語ーーいいえ、ゲームの勇者のように次から次へとクエストを引き受けてしまうのだ。
仲間に相談はするものの基本的に引き受ける前提の相談でどのように攻略するのかという話が主であり、引き受けない系の選択肢はそもそもないようだった。それなのにパーティーを組んでいる三人のお姉様方は多少の文句は言うもののこれといって明確に非難する事なく、協力してクエストをクリアしていく。
一度三人それぞれに聞いてみたけれど、その答えはなんというか長年連れ添った夫婦のようにも思えるもので……。
「仕方がないわよ。良くも悪くも困っている人を見捨てられない性分なのよ彼は……」
「悪癖だが私は嫌いではない。急ぐ時は相応に発破をかければ済むだけだな」
「面倒だけどねぇ……それが王国の為になるのなら……仕事……と言えなくもないかねぇ」
言葉は違っても三人とも勇者の事を好いているのかな? メルさんですら言葉と表情が一致してなかったくらい。
こんな人がいるのかと感心してしまう。同時に物凄く興味を惹かれる。彼の行動の原動力はなんなのだろうか? 無償の愛? それとも他の何か? 名誉や名声のようなものは興味がなさそうだし、そもそも貴族である彼がお金に困っている筈もない。財宝や女にも特段の執着はなさそうだ。実際四人の美女に囲まれる日々を送りながら理性を保っている。普通のラノベの主人公なら愛と欲望の日々まっしぐらよね。
……私のことはいいのよ。ほっといて頂戴。一応自覚はあるのだからいちいち言われなくてもいいのよ。
で勇者の話に戻るけれども、そうなると浮かぶ疑惑がアレよねアレ。お・と・こ♪
まさか!? そっちの気が!? 思ったりもしたけれど、色々思い出した結果それはないと結論付けた。
だって無意識に私たちの胸や腰に視線が行く時があるんだもの。普通に女の子が好きなのは確実よね。
それに……。
男同士の濡れ場シーンは想像したくないわね。私女同士は許せるけれど男同士は無理。例え自分の趣味だろ!? と非難されようともBLはムリなのよ。
幸い勇者にその気はないけれど。貴族にはそういう人も多いらしい。少女のような姿の少年を囲うらしい。
……倍くらいに美化したらいけない事もないかしら……? やっぱムリだわ。
「キラリさん……その、着きましたよ」
目的の宿の前に到着したようだ。
あの朝以来聖女様の私を見る目が妙に熱っぽい。
あんなのは一時の気の迷いだと思うのだけれど……大丈夫かしら? 特別夜這いだとかそういうのはないけれど、今みたいな視線を感じると心配になってしまう。
私の中で聖女ソフィス様はとても大切な存在になってしまっている。好きになって貰えるのはとても嬉しいけれど、それで彼女の本来の幸せを奪い去るつもりはない。
遊びとかそういうつもりはないけれど、女の子同士ふざけて絡み合う。そのレベルのつもりだったから……。それなのに妙にスキンシップが増えたような気がするし、私の世話を焼きたがるのよね……。これやってしまったかしら!?
「大きな宿ですね! ここで一泊して明日は山越えですか?」
「そうなるな。海路の方が楽だったんだが……」
「仕方がないねぇ。騎士団連中が船を占有してしまってるらしいからねぇ。精鋭だけならともかくそれ以外の補給部隊やなんかも一緒らしいじゃないか。大所帯で何をする気なんだか……」
言われるまで考えもしなかったけれど、行軍には兵士以外にも様々な役割が必要になる。精鋭二百をフィンまで移動させ為にはそれなりの兵糧が必要になる。実際の人員は倍くらいになるのではないかしら?
流石に自国領で搾取はしていないから酷い行軍にはなっていないでしょうけれど。
「そもそも一体どうやって渡るつもりなんだ? 船で大軍を渡らせるのは不可能だと聞いていたんだがな……」
「武神王国か……一体どのような手段を得たというのか? いずれにしろ信憑性が高くなければ各国が精鋭を派遣することはないだろう。大勢を渡らせる手段は確実にあるという事は間違いない」
「脳筋国家の筈なんだけどねぇ……」
そうよね……。熟練の船乗りがいてようやく渡れる海の難所を超えなければならない筈。連合軍推定一千の精鋭部隊とそれを支えるための部隊。それだけの人数をどうやって魔王国へ渡らせるのか?
不可能であってほしい。でも虚偽の情報では五王国全てが動くとは思えない。
だから何らかの方法はある。それを事実として考えなくてはいけない。
陛下……お母様……。
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