魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第五章:プリンセス、最果ての地に散る

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 まるで応接室のような落ち着いた色合いの家具で整えられた室内にはボスが待ち構えていたりはしなかった。
 いいえ、ある意味ではボスではあったのでしょう。
 正面の執務机の向こうにゆったりと腰を下ろす物言わぬ骸。上質なローブを纏ったその骸に向かって執事とメイドは深々と頭を下げた。

「どういう事だ?」
「我らが主人、アルバート・フォン・シュタインベルク様でございます」
「古代魔法王国の貴族か!?」
「左様でございます。私共も随分久し振りにお目にかかりますが……少々痩せましたでしょうか?」
「……そういう問題じゃないよねぇ」
「そうですよセバス様! さすがにこれは痩せすぎです。旦那様は以前はもっとふくよかで起き上がるのにも一苦労でございました。それがまあなんともスリムになられました。およよ……」
「冗談なのか本気なのか判断に困るのだけど」
「でも自分の主人をネタにしますか普通?」
「この人達ならあり得ると思いませんかキラリさん?」
「……あり得ると思ってしまう今までの行いが酷い……」
「ですわよね」

 ホントこのメイドと執事のボケっぱなし漫才には辟易させられたものだ。微妙にどこが笑いのツボなのかわからないところが辛い。ただ時々俺くんの記憶が引っかかりを覚えるのだけれど、俺くんって古代の人だったのかしら? その割にその手の知識はないような気がするのだけれども……?
 まぁある意味自分探しは置いておくとしましょう。
 もういい加減この屋敷から出たくてしょうがないもの。

「それで、私たちはここで何をすればいいんだ? また戦うのか?」
「いいえ。ここがゴールでございます。机の上に赤い石のハマった彫刻がありますのでそちらをお取りください」
「赤い石……この皿のような物の事か?」
「はい。その石を外してお持ちください。私共を含むすべての魔導人形はその石より魔力を得ております。砕くもよし、何かに利用するもよし……。ただし、一度取り外しますと再度取り付けても人形繰りの魔導具としては機能しません」
「つまり……?」
「私共とはここでお別れでございます」
「ルクス様、皆様方。最後に楽しいひと時を過ごすことができました。私たち魔導人形ではご主人様の元へ来ることができませんでした。皆様のおかげでこうして敬愛する主人とともに逝く事ができます。口うるさい老執事はともかくとしてお茶目な美少女メイドとお別れするのはお辛いでしょうが、どうか皆様の旅の無事を願っております」
「最後までその憎まれ口は変わりませんねメアリー。まぁいいでしょう。では皆様、短い間でしたがお世話になりました。亡き主人に変わってお礼を申し上げます。そしてどうぞ、深紅の魔石をお取りください」

 ゆっくりと魔石に歩み寄り手を伸ばして、そして躊躇する。
 ルクス様……。

「セバス、メアリー……短い間だったが楽しい冒険だった! お前たちのことは忘れない。さらばだ!」

 一息に告げるとカチッと小気味のいい音をさせて魔石を手にした。

「クエストコンプリート! 帰るぞみんな!!」

 大きな真っ赤な魔石を手にした勇者ルクス様。その後ろには物言わぬ骸となった館の主人と不敵な笑みを浮かべる執事とメイドの姿がーー!?

 ん!?

 不敵な笑みですって!?

 自分の見た光景に警鐘が鳴り響いた。

「おっと、言い忘れておりましたが、魔石を外しますとーー」

 ヴィィィーーーーン!! ヴィィィーーーーン!!

 激しい警告音が鳴りだし、どこにあるのかわからないけれど赤いライトが明滅し始めた。
 さっきの笑みは確実にこれのことね。
 睨んだところで後の祭り。今更彼らをどうにかしてもきっと無意味だろう。
 この手の展開のお約束はわかりきっている。逃げ道を探すことが先決ね。

「なんだーー!?」
「おい執事、どういうつもりだ!?」
「ご心配なく。ただの言い忘れでございます」
「不安しかないだろうが!?」
「大丈夫です。ただの自爆スイッチですから」
「そうかただのジーーバク? 自爆にただのもただじゃないのもねぇよ!? ふざけるな! 出口はどこだ!?」

 執事に詰め寄るルクス様をノインさんが抑えた。

「落ち着け、可能性は向こうの扉しかない」
「しかしーー!!」
「ルクス! 二人の事は放っておいてここから出ましょう! 最初の入り口のところへ繋がっているわ!!」
「先に行くよ~」

 メルさんが真っ先に扉を潜った。

「キラリさんも!」
「はい!」

 急かされて私も続く。

「はて、のんびり私共に構っていてよろしいのですかな?」

 飄々としたセバスさんの声と怒気を孕んだルクス様の声が遠く後ろから僅かに聞こえた。

「もう! いいから急いで!! ノイン!!」

 階段を駆け下りてエントランスへ。先行するメルさんが扉を開けると普通に外が見えた。
 拍子抜けするくらいあっさりと出口にたどり着くことが出来た。
 振り返ると階段を駆け下りる三人と扉のところで見送る執事とメイド。

 二人は私の視線に気がつくとニッコリ笑って丁寧な礼を送ってきた。

「やられたわね……」



 全員が外に出て屋敷から距離を取ると屋敷はまるで蜃気楼のように揺らいで跡形もなく消え去った。

「自爆は!?」
「嘘だったようだな」
「何よそれ……必死に逃げたのよ?」
「でもまぁ中にいたらどうなったかはわからないけどねぇ?」
「そうですね。少なくとも楽しい結末にはならなかったのではないですか?」

 綺麗さっぱり消え去った屋敷のあった場所を見ながら私たちはしばらく呆然と立ち尽くした。
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