魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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「ーードーソン!!」
「ッミスト!! 急いで!!」
「私たちを庇ってーーいやぁぁぁっっ!!!」
「ファム落ち着く。ミストなら助けられる」
「これはーークッ……『癒しの光』!!」
「ドーソン! しっかりして!! 今癒すから!!!」
「……お前たち……ケガ……してねぇか……」
「喋らないで! 私は大丈夫だから! 私たちみんな大丈夫! あなたが守ってくれたから!!」
「そう……か……よかっーーごふぉ……」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「ドーソン……死ぬ?」
「ナナン!! 死なせないわ! 私が死なせませんとも!! 『癒しの光』! 『癒しの光』! 『癒しのーー』」
「おい……無茶……すんじゃねーよミス……ト」
「いやよ! いやですわ!! 今しないでいつ無茶をするというのですか!!?? 死なせません……死なせませんっっ!!」
「ファム……ミスト……ナナン……顔を……もっとよく見せてくれ……」
「あ、あ、あぁぁ……」
「ドーソンーー」
「……『癒しの光』」
「おいおい……なんだお前らその顔は……」
「だって……」
「可愛い顔が……台無し、じゃねぇか……」
「あなたは鳴き顔も好き」
「そりゃ違う、ナキガオだろ……くっ」
「嫌よ……ねぇ嫌よドーソン! 死なないで! そんな死ぬ前みたいな事を言わないで!!」
「……ぁあ……死なねぇ……こんな可愛い女たちを残して逝けるかよ……ぅっ」
「いつも逝ってるわ」
「ふっ……そうだな。お前はかわらねぇな……」
「だってそれが私。ドーソン……死ぬ?」
「ナナン!?」
「……いつかはな……」
「……の光……そんなものいつかの話で結構ですわ!」
「ドーソン……キスしていい?」
「……わざわざ聞くような事か?」
「……そうね。私のモノだもの、好きに……して……いぃ……うぅ……」
「……ナナン……」
「お前でもそんな顔……するんだな……。ファム……ミスト……。今までありがとよ。俺には勿体ねぇ美女だったぜ? 愛してるぜ……だからーー絶対に幸せになれ! それが……俺の最期の命令だ……」
「「「ドーソン!!」」」

 ………………。

 …………。

 ……。

 緊迫した状況なのはわかったのだけれど……爆発で吹き飛ばされた私の事は誰も気にしてくれないのかしら?
 少し離れていた私はドーソンさんに庇ってももらえず、憐れ吹き飛び見事な恥ずかしい姿勢で気を失っていた。気がついた時にはご覧のようなクライマックスシーンが展開されていたわけで……。
 意識を失っていたのはさほど長い時間ではないみたいだけれど。
 舞台では血みどろのドーソンさんにすがりつく三人の美女たち。
 ミストさんが必死に治癒の魔法をかけているけれど、アレはダメね。あのレベルの怪我だと基本の治癒魔法では対処できないわ。でもリザレクションなら……そうかレベル的に……いやあれって派生魔法だったかしら? どちらにしろまだ使えないのね。
 私の待遇に少々不満が残るのだけれど……そこは目を瞑りましょう。

「……みんな無事……ですか……?」
「キラリーー」

 少し白々しいけれども弱々しく呼びかけた。

「無事……だったの?」
「……ええ……何とか……」

 精神的には随分ダメージを受けましたよ私。
 何あのお涙頂戴的なシーンは!? そもそもレベル8の魔法使いがいるのに何してるの!? そう突っ込みたかったわ。だって私なら『完全回復』(リザレクション)を使えるーー。……あれ? もしかして知らないのかしら? 高レベル魔法使いはそもそも人数が少ないし、己の手の内を安易に晒す冒険者は更に少ない。
 だとすると私を放置していたのにも頷ける。残念ながら急遽パーティーに参加した私の優先順位は彼女らにとって一番下なのだから。
 だからと言って拗ねたりはしないわよ。助けられる命は助けたいわ。彼に……彼らに好意を抱いているのだしね。
 でも……タダじゃ嫌ね……うふふ。

「ーーっ!? ドーソンさん!? 酷い怪我じゃないですか!? ……これ……助からないんじゃ……」
「そんな事ない!! ミスト!!」
「ええ! 勿論ですわ!! 『癒しの光』!」
「ドーソン……愛してる」
「ナナン! 諦めないで!! 私は、ファムにはあなたが必要です! だから……だから死なないでーー!!」
「私だって……私だってですわ!! 死なないでーーいいえ、死なせませんわっ!!」
「………………」
「えっと……リザレクション」(ぼそ)
「ーーお前ら……愛してる……ぜ……」

 ……その言葉を振り絞りように言うとカクンと体から力が抜けたように崩れた。そうね。ドラマ……? お芝居とかでよくあるやつね。

「「「ドーソン!!!」」」

 三人娘の悲痛な声が耳に痛い。
 よく見れば胸が上下に動いているのだし、穏やかな寝息のような息づかいなんだから気がつくでしょうに……。
 まぁ、でもそうよね。彼女らも理解はしていたと思うから。あの傷は助からないって事を。
 ……しかーし! この私にかかればあの程度の怪我など怪我のうちにも入らない。自慢じゃないけれど死んでさえいなければ完治させる自信があるわ!
 ……なので、もう少しこの劇団ドーソンのクライマックスシーンを鑑賞させてもらいましょう。


 ……でだいたい一時間くらい経ったかしら?

「……ねぇミスト……どうしてドーソンは生きているの?」

 あ、やっとおかしい事に気がついたみたい。結構長かったわね。その間に四角関係を巡るドロドロのドラマーーは展開されなかったけれど、彼女らがどれほど彼を愛しているのかは見させてもらった。

「……わ、私にもわかりませんわ……」
「ミストの方が死にそう。魔力を消耗し過ぎ」

 確かに顔色がおかしい。少し魔力授与(マナ・トランスファー)してあげたほうがよさそうね。

「ええ……さすがに少々無茶がすぎました……はぅ……」
「ちょっと、しっかり!」

 ふらりと倒れかけたミストさんをファムさんが慌てて支えた。

「ありがとう……ございますわ……」

 抱きかかえられた弱々しい美女……絵になるわね。支える方も美女だから百合感が物凄いけれども。

「傷がない。呼吸、脈拍共に安定。これは多分寝てるだけ」

 まるで医師の診察のような発言ではあるのだけれど、体に触れる手つきがいやらしくてそうは思いたくない。敢えてストレートに表現するとドーソンの体を弄る美人痴女かしら。

「ーーそんな!? ミスト!?」
「ありえませんわ。あの傷は私の魔法では癒せません」
「ならどうしてーー」
「無理だからと言って諦められるのですかファムは?」
「……出来るわけないじゃない。……そうね私があなたでも同じことしたわねきっと」
「はい」
「だったらどうして……」
「そんな事は簡単。キラリが怪しい」

 ーーほぇ!? 
 突然矛先が私に!?
 何故!?

「……キラリ……あなたなの?」
「そうですわ……私よりも上位の魔法を扱えるあなたなら……」
「なるほど……。それもそうね。私たち以外にこの場にいるのはあなただけ。あなた以外にありえないわね」
「状況証拠は十分」
「……ありがとう……ありがとうキラリ。あなたがいてくれたからドーソンは……ドーソンは死なななかった!」
「ファム……。そうですわね。キラリちゃんのお陰ですわ。ありがとうございます」
「同意。だからキラリの胸は捥がないでおく」
「ど……どうも……」

 眠るドーソンから離れて私を拝むように感謝の言葉を雨のように振らせる三人に少し気圧されてしまう。
 ここまでされるとどうしていいのかわからない。
 こっそり癒した事が微妙な罪悪感として私の心を苛む。

「あ、いえ、そのぉ……」

 いい加減この状況をどうにかしようと私が口を開きかけた時。

「「「ーーでも、それはそれ、これはこれ」」」
「ふぇぇ!?」
「彼を気遣う私たちをーー」
「あなたはここからどのような気持ちでご覧になってらしたのかしら?」
「………………ギルティ」
「え!? え!? えぇぇぇっっ!!??」

 力強い六本の腕が私の体を押さえ込んでーー!?
 あ、これってなんかデジャビュ!?
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