魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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 真っ直ぐに作られた道を突き進むと遂には森を抜けた。……抜けてしまった。やはり迷う余地はありませんでした。
 迷いの森を力技でねじ伏せたような気がしてなんだかとても物悲しい感じです。……ようなではなく正しくねじ伏せたわけですけれども。
 しかし、森は抜けたけれど眼前には新たな障害が立ちはだかっていた。およそ二十メートルはあろうかというほぼ垂直の崖。誰の目にも明らかなほどに平坦なその壁は自然に生まれたとは思えない。そんな崖が左右に見える限りずっと伸びていてその端は森の中へ消えていく。恐らく緩やかなカーブを描いているのだろう。世界樹を囲むように存在していると推測できる。そして想像通り人為的に作り出された地形なのは間違いなさそうだ。その証拠に崖の所々に何か印のようなものが刻まれている。
 それにしてもこの崖の規模は凄い。大昔に成された事だろうけれどもこれはなかなかすごい事だと思う。今の私でもこれほどのことができるかどうか……。

「……凄い崖ですね……」
「そうだな。流石にこれを登るのはキツイ。ファム」
「はい、こっちよ」

 私たちはその案内に従い右の方へ向かう。崖に沿って暫く進むと人が十分通れるような細長い亀裂が見えてきた。

「………………」

 ああ……。そういえばそうだった。
 森を抜けた先にある世界樹へと至るダンジョン、その入り口が確かこんな感じだったわね。ダンジョンと言えば聞こえはいい(?)けれど実際はただのトンネル。ただし途中にボス部屋があるけれどもね。
 確か……ボスはオリハルコンゴーレム。世界樹の番人だったと思う。物理、魔法の両方に高い耐性を持つ強敵。正直このパーティーでは無謀もいいとこだ。進め方次第では戦わなくてもいいのだけれど……。人族の王とやらのせいでそのルートは消滅している。いいえ、もしかしたらどこかに守り手のエルフの一族の生き残りとかがいるかもしれないけれど、入り口の前にいる時点でいようがいまいが関係ない。
 もともと迷いの森でリタイア予定だったのに……一体どうしてこうなった!? そんな悲鳴をあげたいです。
 さて、どうしたものかしらね……。

「恐らくこの洞窟が入り口だろうが……例の結界で閉ざされている」
「私には解けなかったけれど、キラリあなたならどう?」

 悔しそうなミストさんには悪いけれど、私なら解ける。でも……これを解くということは番人との邂逅を意味する。恐らく全滅してしまう。

「……見たところ相当古い時代に施された封印の魔法ですね。結界ーー封印自体は恐らく解けると思いますが……」

 言葉を切って重々しい雰囲気を演出。どうやって諦める方向に持って行こうか、ここが女優キラリの腕の見せ所。

「……続けろ」

 もう少し溜めたかったけれどもドーソンさんに話の先を促されてしまった。あわよくば諦めてはくれないかしら……そう思いながら続ける。

「ーーその先には相当なモノがあるか、いるかです。封印は恐らく古代魔法王国期のものですから……財宝か死か……そのレベルの選択になります」

 実際には相当なモノがあるしいるので両方が正解ですがね。

「「「………………」」」

 皆が息を飲むのがわかった。恐らくそこまでの事だとは考えていなかっただろう。
 本来ならここはこのレベルの人が来るところではない。ラスボスと戦えるレベルのパーティーで来るべきところ。それがなぜCランクのパーティーが来ているのか……。いいえ、それこそ現実なら誰がきたっておかしくないのかしらね……。森の魔物のレベルはそこまで高くはないし、迷いの森も絶対に攻略不可能なものではない。現に頭の痛くなる方法で攻略されているわけだし……。
 それでなくても偶然突破してしまう可能性もなくはない。それでも高レベル(具体的には10レベル)の魔法使いがいなければここから先へは進めないはずだけれど……。
 思わず崖を見上げて想像を巡らせる。登れば行ける!?
 ゲームと違いなんでもできる現実ならそれもまた実現可能な選択肢として存在する。上が見えないほどの崖じゃないから、やってやれないことはない。私自身も崖を飛び越えて幻惑結界をすり抜け世界樹のところまで到達している。
 成せばなんとかなってしまう。良くも悪くもそれこそが現実世界の現実たる所以。
 さぁ、どうしますか? ドーソンさん。


「ーーミスト。どう思う?」

 重苦しい沈黙を破ったのはやはりリーダーのドーソンさん。
 主語がなさ過ぎてあれだけれど、今回の場合は私の話をどう思うかという事だろう。
 可能性の話だけど、私が嘘をついている事だってあり得る。例えば財宝を独占するためにとかね。
 そしてそれを完全否定する事は出来ないし、そこまでの信頼関係にはない。それこそ即席パーティーだから仕方がない。
 また、私の思い違いで実はそこまでの脅威はない。という場合もある。
 確かにゲームでの情報を話しただけで、この世界のこの場所に必ずしもゲームと同じボスが配置されているとは限らない。ただし、この先に財宝である世界樹は存在する。未確認なのはボスくらいのものだ。

「嘘やデマカセではないと思いますわ。私もこの結界は相当古いもので、恐らくは古代王国期のものだと思っていました。それでそういう場所には強力なガーディアンと財宝がつきものですから……」
「ファム、何かわかるか?」
「いいえ。この先の気配は何も感じられないわ。森の方からは魔物の気配がするから、多分結界のせいね」
「ナナン……お前の直感はなんて言ってる?」
「………………行きたくないわ」
「そうか……」

  話の流れは撤退に傾いている。でも……何故かドーソンさんだけはそうじゃないような気がする。
 彼の勘が何かを告げているのだろうか?

「ーーキラリ……」
「は、はい?」

 いきなり名前を呼ばれて少し慌ててしまった。
 まさか私にも聞くのかしら?

「お前はどう思う?」
「………………先程お話した通りーー」
「そうじゃねぇ。お前の勘とか気持ちとかそういう奴だ。あと知ってる情報からの推測か? ……お前ーーこの先に何があるのか知ってるんじゃねぇか?」
「「「「ーー!?」」」」

 思いもよらない問いかけに無様な悲鳴をあげるところだった。アブナイアブナイ。これでも王女なのよ!? そんな失態はできないわ……過去のことは忘れなさい。人間前を見て歩くのが大切よ。
 というか、ホントにいきなり何を言い出すのこの人!? ちょっと勘弁してほしいわ。
 だいたいいつ何処で私がそんな事を匂わせた!?
 確かにこの先というか、辿り着くべきゴールに何があるのかは知っている。知っているどころか既に行ったことがある。
 だからと言って普通はそんな風には思わない。思うはずがない。
 一体どのような思考を経てそういう結論に達したのか……。
 ……そうか、これもあれかーー。

「……勘……ですか?」

 ここまでくると勘では済まされない。それこそ予知とか予言? それとも天啓? 何か人智を超えたそういう力じゃないかしら?

「そうでもあるし、そうでもない」
「………………?」

 ごめんなさい、ちょっと意味がわからなかったので時間をちょうだい……。
 えっと……どういうこと?

「悪いな、別にお前を疑うとか詰問するとかそういうつもりはねぇ。この先にはすげぇもんがある。それとすげえやつがいるはずだ」
「……は……い?」

 ますます意味がわからない。つまりドーソンさんはこの先に何があるのか、いるのか知っているということでいいのかしら?

「もともとこの地は守り手の一族が管理していた……」

 そうしてドーソンさんは語り出した。衝撃の事実をーー!!
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