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第四章:プリンセス、聖都に舞う
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体を綺麗にしてから外へ出ると火のそばにはドーソンさんが座っていた。
「大丈夫か?」
私を見るなりそう声をかけてきた。一瞬何が? って思ったけれど、先程までの事を思い出してなんとなく悟った。
それはそうよね。あれだけ大きな声で嬌声を響かせていれば嫌でも気がつくわね。
「……どうにかね……」
一瞬誤魔化そうとしたけれど、意味がないと思い直した。
「そうか……すまねぇな。少し行き過ぎる事もあるが悪い奴らじゃねぇんだが……」
少し……ね。普通の女の子だったらアレはダメじゃないかな。私だから平気だけれど……。
「……?」
何? ドーソンさんがこちらを窺うような表情で見ていた。
「いや、お前が気にしてねぇなら構わねぇんだが?」
「ああ、そういう意味か……」
どうやら何かしら責任を取らせるか? そういう意味の視線だったらしい。
「で、どうする?」
「んーー別にいい。大した事はされてないし、こう見えて経験豊富なのよ?」
「ふっ……ありがとよ。あんなのでも長年苦楽を共にした仲間なんでな」
あ、なんか冗談に思われたっぽい。……別にいいけど。
「それで、どうしますか? 彼女たち暫く使い物になりませんよ?」
まぁやってやれない事はないけれど、あんな事をされたんだから相応の罰は必要よね。今もまだ快楽地獄の最中にいる。アレ結構辛いのよね……。
「そうだな……ここから壁までは半日もかからねぇから昼前に出発するか……。あの森の中で夜を迎えるのは避けたかったんだがな……」
「それ程危険が?」
以前私は迷いの森の奥の結界を抜けて世界樹にあっているけれど、その時は有り余る魔力と魔法レベルにモノを言わせて空を飛んで侵入した。結界も干渉してすり抜けたからある意味ズルをしている。
だから実際のところ世界樹を隠すために施された魔法とは相対していないし、当然その脅威も知らない。
「危険……と言えば危険なのか。よくわからねぇがあの森からは嫌な気配がするんだよ。特に夜は魔物も活性化するからな……。まぁどの森でも夜は危険なんだが、あそこは特に嫌な気配がする……まぁ所謂冒険者の勘ってやつだな」
「勘……か」
そういうの実はあまり馬鹿にできないのよね。特にスキル絡みだとそれこそ危機感知系統ならレベルによっては勘がいいでは済まされないほどで、明確にアラートとして機能する。
本音を言えば鑑定して見てみたいのだけれど、それはやってはいけない行為だから我慢するしかない。
「ドーソンさんはいつもその勘に従ってますか?」
「……ああ。それでこれまで生き残ってきた。勿論嫌でも行かなきゃならねぇ時もあったがな」
「そうですか……」
ドーソンさんの勘……予感……直感……。なんだかよくわからないそれがイコール命の危機というわけではなさそうだけど、ほぼ何かがあるのは覚悟しておいたほうが良さそうね。
自惚れるわけではないけれど、私の魔法なら大抵の事態は乗り切れるはず。だったら私は自分が魔法を使える状態を堅持すればいい。
「行かない……という選択肢はありませんよね?」
「ああ。仕事はやり遂げる主義なんでな。そうやすやすと尻尾巻いて逃げるわけにはいかねぇ……が、今回は別だ。嬢ちゃんが嫌なら引き返す。嬢ちゃんはあくまでゲストだからな。俺の一存で嬢ちゃんの命まで賭けさせるわけにはいかねぇ」
むぅ~。なんか無駄にいい男ね。何でこんな山賊にしか見えないのにいちいちカッコいいのかしら? これで見た目が王子様だったら……やだ!? 想像したら凄くドキドキしてきた。
「……お、お気遣いどうも。でもね、私も中途半端は嫌いなの。いざとなったらいざとなった時よ。全力で抗いましょう!」
「見た目に反して勇ましいな。惚れちまいそうだ」
その苦笑に鼓動が高鳴った。や、やめて~。
「そ、それはやめてください。今度は疑いじゃ済まなくなります!!」
「そうか、そりゃ残念だ」
「と、とにかくお姉様方をどうにかしてきます」
「ああ……」
「少しでも早く出発した方がいいでしょう?」
「そうだな。すぐに出れるようにしておく」
「はい」
このクエスト思っていたよりも難易度が高いんじゃないかしら? そもそもは世界樹にたどり着けないように立ち回るつもりだったのにおかしな事になってきたわね。一体どんな仕掛けが施されているのか……。
世界樹の言っていた人族の王に関しても気になるし……。本当なら近づかないのが一番いいのだけれど、それはいっても仕方がない。
色々とうまく立ち回らなくちゃいけないわね……。
さしあたっては三人のお姉様方を使える状態に戻さなくちゃいけない。
同じ事を繰り返さないように言い含めた上で……。サブクエストのくせに難易度が高そうなんですけど……。
「ーーいいか、こっからはちょっと真面目に行くぞ。出来るだけこの森にいる時間は最小限にしてぇ。ファム、前回のルートを急ぎで進んでくれ」
「了解」
ようやく冒険者らしい雰囲気になったドーソンパーティー。
あわや第二ラウンド開始かと焦ったけれど、何とかやり過ごしてキャンプを引き払った。
キャンプから迷いの森外縁まではほんの一時間ほどの距離。ここからは前回結界まで到達した彼らの腕前を発揮してもらうことになる。
私は温存。結界の対処が今回の主目的だから。
実際は回復量を上回らない限り消費しないから問題ないのだけれど、それはナイショだから。
ファムさん、ドーソンさん、ミストさん、私、最後尾にナナンさんの順で森を進む。
一応前後を警戒出来る配置なのだけれど、マップがある私にはあまり意味がない。これもナイショだから仕方がないけれど。
みんなの目の前でマップを見るわけにもいかないのでそちらはアンに任せている。だから時々耳元でアンが囁く。今度は右前方。距離はまだ少しある。魔物の数は五。群れているようなので狼系の魔物の可能性が高い。恐らくもう少し接近すればファムさんの感知範囲に入るのではないだろうか?
言いたいのを我慢していつでも対応できるように備えておく。
「ーー魔物接近中よ。一時の方向。距離は二十。数は……五。風上から接近しているから恐らくは魔獣系統。この森なら森狼の可能性が高いわ。次点で屍肉喰」
私の予想とも合致する。数や方向なんかもマップ通り。さすがC級冒険者だけのことはある。十分な仕事ではないだろうか。
「ファム無視だ。ある程度近付いたら俺が対処する」
「了解……ほどほどにね」
どうやらパーティーとしては狼程度の相手はしない事に決めたようだ。それよりも先を急ぐ事を優先した訳だけど……。
姫様、まもなく視認できるかと……。
耳元でアンが囁いた。
おおよそ見当をつけていた方角を見れば木々や藪の合間に黒い影が見えた。
「フォレストウルフ……」
森に住むメジャーな魔物の一種。群れで狩りをする動物系の魔物。特に使える部位もなく、あえて狩るような冒険者はいない。一応毛皮が使えなくもないけれど、質が良くないから二足三文にしかならない。
「追い払うぜーー気合を入れとけよ!」
次の瞬間空気が張り詰めた。
辺りに充満する濃厚な殺気がビリビリと感覚を刺激する。
静寂。
森という生命の溢れかえる場所からその気配が希薄になる。
知らず知らず呼吸が浅くなっていた事に気がついた。
これは……威圧スキル!?
それも結構レベルが高いのではないかしら……。
「邪魔をするんじゃねぇ」
ドーソンさんが一歩狼たちの方へ踏み出すと彼らがのまれたのがわかった。生存本能が逃げを選択させたみたい。
「行くぞ」
「……は、はい!」
どうやら仲間である彼女たちでも多少の影響があるらしい。みんな身体が強張っているみたい。直接的な殺意は向けられなくても辺りを圧迫する気配には反応してしまうのか……。
ドーピング済みでなければ、そして直接標的にされたなら……今の私でも意識を持っていかれるかもしれない。
アンは大丈夫かしら?
手を差し伸べればまるで大丈夫ですと言わんばかりにギュッと抱きしめられた。
「ファム、真っ直ぐ進め。今日は出来るだけ戦闘は避けるぞ」
「ーー了解」
再び森の奥へと歩みを進める。
じきに迷いの森エリアに到達する。
そこからが本番。上手く森を抜けられなければ死ぬまで彷徨い続ける事になるけれど……彼らはちゃんと戻ってきている。そう思うと案外優秀なのよねこの人たちって……。
まぁ、それでもキャンプで襲われたことは忘れないけれども……。やり返したからお互い様かもしれないけれど、あれよね、やられてなきゃ私からはしないから、やっぱり何か要求すればよかったかしらね。
まぁいいわ。勧誘された主目的で裏切るわけだし……。
世界樹には……お爺ちゃんには会わせられないわ。
ごめんね、ドーソンさん。
「大丈夫か?」
私を見るなりそう声をかけてきた。一瞬何が? って思ったけれど、先程までの事を思い出してなんとなく悟った。
それはそうよね。あれだけ大きな声で嬌声を響かせていれば嫌でも気がつくわね。
「……どうにかね……」
一瞬誤魔化そうとしたけれど、意味がないと思い直した。
「そうか……すまねぇな。少し行き過ぎる事もあるが悪い奴らじゃねぇんだが……」
少し……ね。普通の女の子だったらアレはダメじゃないかな。私だから平気だけれど……。
「……?」
何? ドーソンさんがこちらを窺うような表情で見ていた。
「いや、お前が気にしてねぇなら構わねぇんだが?」
「ああ、そういう意味か……」
どうやら何かしら責任を取らせるか? そういう意味の視線だったらしい。
「で、どうする?」
「んーー別にいい。大した事はされてないし、こう見えて経験豊富なのよ?」
「ふっ……ありがとよ。あんなのでも長年苦楽を共にした仲間なんでな」
あ、なんか冗談に思われたっぽい。……別にいいけど。
「それで、どうしますか? 彼女たち暫く使い物になりませんよ?」
まぁやってやれない事はないけれど、あんな事をされたんだから相応の罰は必要よね。今もまだ快楽地獄の最中にいる。アレ結構辛いのよね……。
「そうだな……ここから壁までは半日もかからねぇから昼前に出発するか……。あの森の中で夜を迎えるのは避けたかったんだがな……」
「それ程危険が?」
以前私は迷いの森の奥の結界を抜けて世界樹にあっているけれど、その時は有り余る魔力と魔法レベルにモノを言わせて空を飛んで侵入した。結界も干渉してすり抜けたからある意味ズルをしている。
だから実際のところ世界樹を隠すために施された魔法とは相対していないし、当然その脅威も知らない。
「危険……と言えば危険なのか。よくわからねぇがあの森からは嫌な気配がするんだよ。特に夜は魔物も活性化するからな……。まぁどの森でも夜は危険なんだが、あそこは特に嫌な気配がする……まぁ所謂冒険者の勘ってやつだな」
「勘……か」
そういうの実はあまり馬鹿にできないのよね。特にスキル絡みだとそれこそ危機感知系統ならレベルによっては勘がいいでは済まされないほどで、明確にアラートとして機能する。
本音を言えば鑑定して見てみたいのだけれど、それはやってはいけない行為だから我慢するしかない。
「ドーソンさんはいつもその勘に従ってますか?」
「……ああ。それでこれまで生き残ってきた。勿論嫌でも行かなきゃならねぇ時もあったがな」
「そうですか……」
ドーソンさんの勘……予感……直感……。なんだかよくわからないそれがイコール命の危機というわけではなさそうだけど、ほぼ何かがあるのは覚悟しておいたほうが良さそうね。
自惚れるわけではないけれど、私の魔法なら大抵の事態は乗り切れるはず。だったら私は自分が魔法を使える状態を堅持すればいい。
「行かない……という選択肢はありませんよね?」
「ああ。仕事はやり遂げる主義なんでな。そうやすやすと尻尾巻いて逃げるわけにはいかねぇ……が、今回は別だ。嬢ちゃんが嫌なら引き返す。嬢ちゃんはあくまでゲストだからな。俺の一存で嬢ちゃんの命まで賭けさせるわけにはいかねぇ」
むぅ~。なんか無駄にいい男ね。何でこんな山賊にしか見えないのにいちいちカッコいいのかしら? これで見た目が王子様だったら……やだ!? 想像したら凄くドキドキしてきた。
「……お、お気遣いどうも。でもね、私も中途半端は嫌いなの。いざとなったらいざとなった時よ。全力で抗いましょう!」
「見た目に反して勇ましいな。惚れちまいそうだ」
その苦笑に鼓動が高鳴った。や、やめて~。
「そ、それはやめてください。今度は疑いじゃ済まなくなります!!」
「そうか、そりゃ残念だ」
「と、とにかくお姉様方をどうにかしてきます」
「ああ……」
「少しでも早く出発した方がいいでしょう?」
「そうだな。すぐに出れるようにしておく」
「はい」
このクエスト思っていたよりも難易度が高いんじゃないかしら? そもそもは世界樹にたどり着けないように立ち回るつもりだったのにおかしな事になってきたわね。一体どんな仕掛けが施されているのか……。
世界樹の言っていた人族の王に関しても気になるし……。本当なら近づかないのが一番いいのだけれど、それはいっても仕方がない。
色々とうまく立ち回らなくちゃいけないわね……。
さしあたっては三人のお姉様方を使える状態に戻さなくちゃいけない。
同じ事を繰り返さないように言い含めた上で……。サブクエストのくせに難易度が高そうなんですけど……。
「ーーいいか、こっからはちょっと真面目に行くぞ。出来るだけこの森にいる時間は最小限にしてぇ。ファム、前回のルートを急ぎで進んでくれ」
「了解」
ようやく冒険者らしい雰囲気になったドーソンパーティー。
あわや第二ラウンド開始かと焦ったけれど、何とかやり過ごしてキャンプを引き払った。
キャンプから迷いの森外縁まではほんの一時間ほどの距離。ここからは前回結界まで到達した彼らの腕前を発揮してもらうことになる。
私は温存。結界の対処が今回の主目的だから。
実際は回復量を上回らない限り消費しないから問題ないのだけれど、それはナイショだから。
ファムさん、ドーソンさん、ミストさん、私、最後尾にナナンさんの順で森を進む。
一応前後を警戒出来る配置なのだけれど、マップがある私にはあまり意味がない。これもナイショだから仕方がないけれど。
みんなの目の前でマップを見るわけにもいかないのでそちらはアンに任せている。だから時々耳元でアンが囁く。今度は右前方。距離はまだ少しある。魔物の数は五。群れているようなので狼系の魔物の可能性が高い。恐らくもう少し接近すればファムさんの感知範囲に入るのではないだろうか?
言いたいのを我慢していつでも対応できるように備えておく。
「ーー魔物接近中よ。一時の方向。距離は二十。数は……五。風上から接近しているから恐らくは魔獣系統。この森なら森狼の可能性が高いわ。次点で屍肉喰」
私の予想とも合致する。数や方向なんかもマップ通り。さすがC級冒険者だけのことはある。十分な仕事ではないだろうか。
「ファム無視だ。ある程度近付いたら俺が対処する」
「了解……ほどほどにね」
どうやらパーティーとしては狼程度の相手はしない事に決めたようだ。それよりも先を急ぐ事を優先した訳だけど……。
姫様、まもなく視認できるかと……。
耳元でアンが囁いた。
おおよそ見当をつけていた方角を見れば木々や藪の合間に黒い影が見えた。
「フォレストウルフ……」
森に住むメジャーな魔物の一種。群れで狩りをする動物系の魔物。特に使える部位もなく、あえて狩るような冒険者はいない。一応毛皮が使えなくもないけれど、質が良くないから二足三文にしかならない。
「追い払うぜーー気合を入れとけよ!」
次の瞬間空気が張り詰めた。
辺りに充満する濃厚な殺気がビリビリと感覚を刺激する。
静寂。
森という生命の溢れかえる場所からその気配が希薄になる。
知らず知らず呼吸が浅くなっていた事に気がついた。
これは……威圧スキル!?
それも結構レベルが高いのではないかしら……。
「邪魔をするんじゃねぇ」
ドーソンさんが一歩狼たちの方へ踏み出すと彼らがのまれたのがわかった。生存本能が逃げを選択させたみたい。
「行くぞ」
「……は、はい!」
どうやら仲間である彼女たちでも多少の影響があるらしい。みんな身体が強張っているみたい。直接的な殺意は向けられなくても辺りを圧迫する気配には反応してしまうのか……。
ドーピング済みでなければ、そして直接標的にされたなら……今の私でも意識を持っていかれるかもしれない。
アンは大丈夫かしら?
手を差し伸べればまるで大丈夫ですと言わんばかりにギュッと抱きしめられた。
「ファム、真っ直ぐ進め。今日は出来るだけ戦闘は避けるぞ」
「ーー了解」
再び森の奥へと歩みを進める。
じきに迷いの森エリアに到達する。
そこからが本番。上手く森を抜けられなければ死ぬまで彷徨い続ける事になるけれど……彼らはちゃんと戻ってきている。そう思うと案外優秀なのよねこの人たちって……。
まぁ、それでもキャンプで襲われたことは忘れないけれども……。やり返したからお互い様かもしれないけれど、あれよね、やられてなきゃ私からはしないから、やっぱり何か要求すればよかったかしらね。
まぁいいわ。勧誘された主目的で裏切るわけだし……。
世界樹には……お爺ちゃんには会わせられないわ。
ごめんね、ドーソンさん。
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