魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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「ーー姫様! 姫様!!」

 ナニ……私を呼んでいるの……?

「姫様! キラリ姫様!! しっかりしてください!! 指輪があるから平気だって言ってたじゃありませんか!? それなのにどうして!? 姫様!!」
「……アン……あ、いい……あなたも一緒に? うふふ……仕方がない娘ね……いいわ、おいでアン……」

 珍しいわね。アンが一緒にしたいだなんて……。でもアンならいいわ。ハデス様に可愛がって頂きましょうね。

「ダメ!? まだおかしいままだわ!! 指輪があるのにどうして……あっ!? もしかして、持ってるだけじゃダメなのではっ!?」
「ほら、早くおいでなさい」
「姫様! いい加減正気に戻ってください!!」
「何を言ってるのアン? ほら、早く脱いで。もう、自分で脱げないのなら私が脱がせてあげるわ。ほら、じっとしてーー」
「姫様! ダメです! いや、やめてください! 姫様、姫様、姫様ーーーーー!!!」

 アンの悲鳴……アン!?

「……アン……」

 目の前に私の大切なお世話妖精の泣き顔。そして何故か半裸。何があったの……何故私がアンに襲いかかっているの!?

「姫様! ダメです! 正気に戻ってください!」
「ーーいっ!!」

 アンの小さな手が私の頬を強く叩いた。パチン! と乾いた音が響いたけれど音の割には痛くはない。思わず痛いと言いそうになったけれど、アンの小さな手と力で叩かれたって痛いわけがない。

「アン……」
「姫……様?」
「アン……」
「正気に戻りましたか!?」
「ええ……ごめんなさい。私は一体……?」

 アンの服を元どおりに直しながら問う。いえ、わかってはいるのだけれど一応聞いてみる。
 今の自分の姿を見れば……いやでも何があったのかはわかるのだけれど……。

「姫様はあの木の幻覚に惑わされておりました。そばまで近づくと急に衣服をお脱ぎになり、自分から木の突き出したアレに跨って腰を振り出しーー」
「いい! もういいわ! わかったからーー」

 恥ずかしくなって慌ててアンの言葉を遮る。

「ーー何度も何度も嬌声を上げて狂ったかのように腰を振り続けました」
「だから、もういいって!!」

 それでも説明を続けるアンを大きな声で制止する。

「姫様……大丈夫だって言ったじゃないですか!」
「アン……」

 怒ったような口調から一転アンは涙声になって続けた。

「いつもいつもいつもいつもいつも! 姫様は無茶をされます!! 私がいくら心配してお諌めしてもご自分を危険に晒します。姫様のあられもない姿を私が何とも思わないとでも!? 私がどのような気持ちで姫様を見ているか考えたことがお有りでしょうか!? アンは……アンは……」

 今回は……いいえ。積み重なった私の軽率な判断がアンをここまで苦しめていただなんて……。アンが私の事を大切に思ってくれている事。それが姫に仕えるお世話妖精の域を超えて思ってくれているという事は知っていた。
 いいえ、それも知っているつもりだったのかもしれない。
 こんなにも感情を露わにするアンは滅多にない。

「アン……本当にごめんなさい。あなたが思うほど私は自分の安全を省みていない訳ではないのよ。確かに至らないところはあると思うけれど……決して自分の事を蔑ろにしている訳ではないの……言い訳にしか聞こえないでしょうけれど……」
「……わかっては……いるのです。それでも……それでも私は……」

 泣きながら私の頬に身体を寄せるアン……少し震えている?

「アン……」

 そっと彼女の体を包み込むように両手で抱く。
 頬に彼女の涙が触れた。ほんの少しの嗚咽と共に。

 アン……心配をかけているのは間違いない。でも私も特別無茶をしているつもりはないのよ。これは本心からそう思っている。多分、今の私を傷つける事は相当難易度が高い。
 普通の怪我はもちろんだけれど、女の子にとってとっても大切なアレについても……私の心や体が傷つく事は……難しい……と思う。
 だって今も別に何とも思っていない。
 ああ、恥ずかしいなとか、またやっちゃったわ……みたいなそういった感情はあるのだけれど……穢されてしまったーーみたいなものは全くない。
 いつからか……そういう風に思う事はなくなっていた。ただ気持ちいい事をしただけ。
 相手が誰とかは……どうかな? ハデス様とかシーラくんとか……うん。やっぱり好きな相手がいい。そう思う心はまだ残っているみたいね。
 よかった。出来ればこの気持ちは失いたくないわ。
 一人の女の子として……。
 だからごめんね、アン……。きっとこれからもあなたを苦しめてしまうわ。
 どうしてもあなたが耐えられないその時は……。その時は……。


「どう、落ち着いた?」

 立ち枯れた桜ーーじゃなかったわ、ピンクツリーの幹に寄りかかって私はアンを抱き締めていた。
 さすがにずっと頬でというのは辛いので今は胸で抱いている。ぱっと見お人形を胸に挟んでいるみたいで、感動的なシーンをイメージしたいのに何故か卑猥に見えてしまう。
 確かにアレをアレできるくらいには私の胸も育っているので、アンの小さな体を抱きしめると必然谷間に挟まるような感じで……これはこれで凄くドキドキするのよね。
 別にわざわざ裸になって抱き締めている訳ではないのよね……たまたま話の成り行き上服を着て改めて……という感じではなかったというだけの事。
 でもそれで良かったのかもしれない。何となくだけれどアンの心が平穏を取り戻したような気がするから。

「……はい……あの……今日はこのままくっついていても……」
「えっ!?」
「あ、いえ、申し訳ありません! すぐ離れーー」
「いいわよ。ずっと胸で挟んでいてあげるわ。苦しくても知らないわよ? さすがに服は着るからね?」

 甘えて……いるのかしらね。まさか胸に挟まれていたい……とは言ってないか。

「はい……姫様の心臓の音をもう少しお聞かせください」

 胸の谷間で小さな美少女妖精がうっとりとしな垂れている様はどこか儚く、幻想的です……そして言いようのないエ□ティシズムを感じる……よくわからないけど、そういう感じのドキドキがする。

「姫様……鼓動が早くなりましたよ? 喜んでくれていたりするのでしょうか……そうだと嬉しいです」

 えっと……独り言……よね? 少し返事をするのを躊躇ってしまう。眠るように目を閉じたアンを振り落とさないように脱ぎ捨てた衣服を着直す。
 ブラは……しないほうがいいかしらね。多分肌着でも胸をある程度は支えられるから大丈夫。でも激しい運動は避けましょう。この若さで胸を垂らせたくはないかしら……。


 アンを落ち着かせている間にピンクツリーの方は処理を完了している。もともと致している間に木の生命力は吸い取っていたみたいで、私が正気に戻れたのもドレインが寄与していたみたいだ。
 体内に入った毒素もある程度の時間で吸収してしまうので、アンの頑張りがなくてもいずれはどうにかなっていた。時間はもっとかかったと思うけれど。だからアンが助けてくれて良かった。
 その時間が今回は重要だったのだから。
 木自体はこれで問題ない。あとは無数になった実なのだけれどそれも植物支配の力で何とかしてある。
 今木になっている実は芽吹く事はない。これだけあればいくつ無くしても大丈夫……ああ……勿体ない。出来れば全部収穫してしまいたいのに……しまいたいのにぃぃぃ!!
 そういう訳にいかない。それが悔しい。

 仕方がないけれど今回は諦めるしかない。
 思っていたよりも時間がかかってしまった……主に私の不手際の所為なのだけれどもね……。
 それでもギルドの討伐隊が来るまでに完了できたからよしとしましょう。

「アン、マップをお願いできる?」

 胸元を広げてそこで蕩け中の私のお世話妖精さんにお願いする。彼女は恍惚とした表情で頷くとマップを展開してくれた。
 私が言うのも何だけれど……アンてそっちの気でもあるのかしら? あの表情は……反則よ!?
 だって今物凄く……あの娘を食べてしまいたくなっちゃったんだもの。
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