魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第四章:プリンセス、聖都に舞う

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 聖王国グロウディアの王都は四つの貴族領に守られた難攻不落の都市である。
 東西南北に築かれたそれらの衛星都市は王都を守る城塞であり、各都市を管理する四つの公爵家は王家に忠誠を誓うこの国の要であった。
 また四つの都市はただの城塞都市ではなく、王国の軍事的な部分を担う重要な役割も合わせもっている。すなわち騎士団、魔導研究所、聖教会、そして冒険者ギルドを管轄する最高監督府であるという訳だ。

 人族はこの大陸で最も繁栄している種族の一つだが、残念ながらいくつもの国に別れてしまっている。
 他の種族が基本的に一つの国を形成するのに対してその真逆であり、その上で各国が主権を争いあっている為、国家間の紛争は絶えず起きている。
 それでも大陸の覇権を握っていられるのは人族が優秀であるからーーではなく、人口的な多数種族であることと、その他の種族にそうした欲求がないことによるところが大きい。

 ………………。

 まほプリの設定上の話だけれど。
 それでも大きくは異なっていないと思われる。
 これでも道すがら色々な話を見聞きしてきたので、それくらいは判断できる。
 そしてその中でもここ聖王国は大陸の北部から中央部を領地とする人族最大の王国なのであった……。

 ……というような設定のもと繁栄している大都市がここ聖王国王都な訳なのよね。

「アン……すごい人ね……」
「そうですね……カンドールも大きな街でしたけれどここはそれ以上ですね」

 道の端で屋台で買った揚げ物に齧り付きながら、私とアンはコソコソと内緒話に花を咲かせている。
 もちろん周囲に人はいないのだけれど、警戒はしている。バレたら面倒だから。
 ちなみに何のお肉かは分からないけれど串揚げはとても美味しい。

 それはさておき、目立たないように今日の私は紫紺の外套じゃなくて灰色の地味なローブにフードをかぶっている。その下は新調した冒険者装備一式。ただしハデス様に頂いた魔法の品で一見普通の革鎧だけど実はフルプレート並みの防御力を持っていたりする。さすがに下に着ている服は普通の服だけど。
 でも若草色の膝丈のワンピースは襟や袖口に蔦の様な模様が縫ってあってすごく可愛い。鎧よりもこちらの方が気に入った事は内緒だけれど。
 それにしてもガルム様の外套は凄く気に入っているのに、品質が良すぎて悪目立ちしてしまうという欠点があるのよね……。まぁ、鎧も見る人が見れば……だけれど外套を羽織れば隠れるからまだいいわよね。

「それで姫さまいかがいたしますか? 道中お話されていたようにまずはランク上げかと思いますが?」

 フードの中、耳元で囁かれるとなんだかゾクゾクしてしまう。アンの息が凄くこそばゆい。

「ん……そうね。自由に国家間を行き来出来るCランクにアップすることが必須なのよね」

 聖都から更に南下して国境の街ナンシスを経由するか、東の港町ロッドウィルから海路で行くか。何れにしても出国証を受領するには冒険者ならランクC以上でなければならない。
 白帝の件で多少のラッキーはあったものの、まだまだランクアップには貢献度が足りていない。
 それと昇格には規定の分類のクエストクリア実績も必要になるからその辺りを中心に効率よく受けていきたいところ。

「宿は先ほどのお店にしますか?」
「ええ。少しお値段は高めだけれど、安全には変えられないもの。アンがいるとはいえ一応若い娘の一人旅だから仕方がないわよね」
「そうですね。彼処なら作りもしっかりしていましたし防犯面でも安心ですね」
「……そうね。それに大通りからそれほど離れていないし、ギルドへも程よい距離感だし、彼処にしましょう」

 早速目的の宿に赴き部屋を確保。一階は食事処を兼ねているので部屋は二階から上。出来るだけ余計な喧騒は避けたいので三階の部屋を取ることにした。上階の方が少し値段が高くなるけれど、いい眠りの為には必要な経費だと思う。
 案内された部屋はとても綺麗に清掃されていて何の文句もない。ベッドはふかふかで寝心地も良さそうだ。
 思っていたよりもクオリティーが高くてビックリだけれど、これが王都の標準かしら、さすがね。

 カムフラージュ用の荷物を置いてから夕食の予約をしてギルドへ向かう。
 この時間からクエストを受注するつもりはないけれど、依頼状況の確認とギルドの雰囲気を見ておこうと思う。
 宿を出てすぐの大通りを少し歩けばギルドの建物が見えてきた。
 私たちが今いるのは聖王都の南にある衛星都市サウスコード。冒険者ギルドを管轄する貴族が治める街。そして冒険者ギルドの本部がある街。

 そのギルド庁舎はとても立派なものだった。さすがは聖王国の冒険者ギルド本部というだけはある。
 重厚感のある、それでいて長い歴史を感じさせる渋みの出た扉を開けて中へ。
 初めてはやっぱり少し緊張する。
 入ってすぐのところでフードを外してさっと中を見回した。
 広い。午後のこの時間はさすがに人は少ないのだろうけれど、それでもかなりの冒険者がいる。
 単純にこの何倍もの冒険者がこの街に滞在して今まさにクエストをこなしているのだろう。
 王都の冒険者とはいえ粗雑な人もいるだろうし、若い女というだけで絡まれる事もあると思う。

チンピラみたいな冒険者に絡まれて安宿に連れ込まれるーー。ゲームでは新しい街のギルドに行くと大抵起きる定番の陵辱イベントとして繰り返し使われた。

 この世界では……今のところないわね。
 このまま何事もなければいいのだけれど……。
 あらやだ!? これってフラグかしら?
 私も暫くはこの街で過ごすことになる。余計な揉めごとに巻き込まれないように気をつけよう。もちろん自分から首を突っ込むような事も無いようにしなくてはね。
 さて、とりあえず受付に行って顔見せといきましょう。


 左から三番目の受付が女性だったのでそこへ向かう。

「こんにちは、初めて来たのですが、何かするべき事はありますか?」

 冒険者証を取り出してカウンターに置く。銀色の金属カード。実は魔法銀をほんの少し混ぜていて特殊な魔法で情報を記録しているらしい。

「キラリさん……ですね。こんにちは。王都へはどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」

 カードを確認して水晶にかざすと受付嬢の前にステータスウィンドウのようなものが表示された。
 微妙に近未来感があるけれど、ここは魔法の発達したファンタジー世界。気にしたら負けよね。

「一つは観光です。あとは成り行き……でしょうか? 旅をしながらその路銀稼ぎにクエストをこなして……といったところです」
「お一人なんですか?」
「基本的にはそうです。道中で他の冒険者と行動を共にする事もありますが、固定パーティーは組んでいません」
「履歴を拝見しました。あの……Aランクパーティーに所属してキマイラを討伐されているようですが……」

 疑うというよりは驚きを隠せない様子で確認してくるけれど、私を見れば誰でもそんな反応をするだろうとは思うので特に抗議などはしない。
 前もあったわね、こういうのは。
 小柄な美少女がキマイラのような強力な魔獣と戦うだなんて……そんな感じだろうと思う。

「はい。支援系統の魔法が得意なので主にそちらで協力をさせていただきました」

 なので嘘ではないけれど本当でもない話で誤魔化しておく。

「ああ、なるほどそういう事ですね」

 訳知り顔で納得したと頷く受付嬢。ただ、なんとなく急に舐められたような印象を受けるのは仕方がないと諦めるべきなのか……。

「他にも……緊急クエスト達成ですか? それ以降の受注がありませんので、多少受注に制限がかかりますね」
「ぇ!?」
「具体的には現在Dランクのようですが前回受領から空白期間がありますので。一つ下Eランクのクエストを受けていただき実力を確認をさせていただくことになりますがよろしいですね?」
「えっと……そういうのがあるんですか?」

 確かに二ヶ月くらい冥王様のところで遊んでいたわけで……仕方がない……のかしら?

「はい。実力不足で万一の事があるといけませんから」

 あ、これは完全に雑魚扱いされてないかしら?

「ちなみにどのようなクエストになりますか?」
「そうですね、採取と討伐ーーまぁ間引きクエストでしょうか。南に森があるのですが、そちらでのさぎょ……仕事になりますね」

 この人今作業っていいかけたわね。ギルドのスタッフっていわゆる国仕えだから質はいいはずなんだけどなぁ……。

「ぁっ!?」

 ん? 急に表情が変わったーー。

「ーーというわけで、あとはクエストボードのEランクの所を見てください。はい、終了」
「あ、ちょっと!?」

 いきなり話をぶった切られてーー追い払われてしまった。
 その後にはーー。

「お帰りなさぁい」

 語尾にハートマークでも付いていそうな甘い声で冒険者グループを迎える受付嬢の姿があった。
 どうやらそのグループのリーダーっぽい戦士の人が狙いのようだ。冒険者にしては随分といい装備をしている。これはきっと貴族の子息だろう。
 やれやれ……。ギルドスタッフの質も落ちたものね。まさか男漁りをするような娘がいるだなんて……。
 まぁギルドと揉めてもいい事ないし、掲示板でも確認して今日は帰りましょう。


 クエストボードのEランクコーナーには正直言って微妙なクエストしかなかった。
 そもそもEランクが対象だから当然なのだけれど、基本的な採取とか討伐とは名ばかりの間引きクエストとか、多少マシかな? というので上位冒険者の荷物持ち……。

「むぅ~~~」

 思わず唸ってしまう。
 これは時間ばかり無駄にして貢献ポイントを貯められないパターン。チラリと上のランクを見れば本来の私のDランクならもう少しまともなものがある。それでも物足りないのは変わらないのだけれど……。
 俺くんが知るゲームのクエストよりも全体的にレベルが低いみたい。つまり早くランクを上げないとまともなクエストを受注できない……でもランクアップの為にはクエストをこなさなければならなくて、更に今の私は本来のランクのクエストを受ける為にこの微妙なクエストをこなすしかないという……。

「これは厳しいわね……」

 何かいい手がないかしら……。

「ーーハーイ、ハニー。困っているようだね?」
「わっ!?」

 ビックリした! 人の気配には気がついていたけれどまさか話しかけてくるとは思わなかった。
 振り向くと金髪のそこそこイケメンキャラ……の人がいた。一目でわかるーーというかさっきの発言でわかる通りチャラい感じの人だ。
 見た目も身振りなんかもういかにもな感じで、正直苦手なタイプだと思う。

「困ってーー」
「大丈夫です! どうもありがとうございます!!」

 大げさに礼をして素早くその場を立ち去る。
 ああいうタイプの人とは関わらないに限る。絶対ろくな事にならない。特にこの世界では十中八九アレ系になりかねない。

「オイオイ? そんなに警戒しないでくれよ子猫ちゃん」
「ーー!?」

 キラリは逃げ出した! しかし回り込まれてしまった!?
 何ですって!? いくら魔法を使ってないからって……ないからって……うん。回り込まれるか。私の素のステータスは一般人クラスだし……。

「すいません、急いでますので……」
「そんなに露骨に避けられると僕としては傷つくんだけどね? 君このギルドは初めてでしょう? いいのかな? 主任の僕にそういう態度で……」

 主任!? このチャラい人が!?

「えっと……」
「さぁ、僕が直々にギルドについて説明してあげよう。おいでハニー」
「え、ちょっと、待って……」

 視線で助けを求めるも目があった何人かの職員にはスッと目を逸らされてしまった。
 そのまま強引に手を引かれてパーテーションで区切られた半個室へ連れて行かれる。
 四人がけのテーブルに何故か並んで、しかも奥側に座らされてしまうと逃げようにも逃げられない状況に。
 扉はないけれど外からは完全に死角になっていて、いくらギルド内とは言ってもさすがにちょっと身の危険を感じる。

「さぁ、王都のギルドの主任であるこの僕が色々と説明してあげよう。まずはこれを見てくれたまえ」

 テーブルの上に広げられたメニューのようなものを指して説明が始まった。

「これがーーこうでね」

 ち、近いんですけど……。

「あれがーーこうなっているんだよ」

 何でいちいち手を触るの!?

「だからね、担当者がいないとここでは冒険者としてやっていけないんだよ? 分かるね?」

 肩を抱き寄せられて……もう一方の手が私の体にーー!!

「あの……ちょっとこういうのは……」

 スカートの裾から手が入り込んできた!?
 太腿を撫でながら脚の間へと手が……。
 ぃやあ!!

「やめてください……」

 脚を強く閉じて抵抗するけれど……。

「話を聞いていなかったのかな? 担当者がいなくなるよ? さぁ楽にしてくれないか? それとも始めてなのかな? 大丈夫。主任である僕に任せたまえ……直ぐに緊張がほぐれるさ。それとも……冒険者をやめるのかい?」
「ぅぁ……」

 完全に脅しが入っている。言うことを聞かなければ冒険者としての活動をさせない。
 そして聞くべき言う事というのは……。
 どうすればいいの?

「んぁ……」

 もう一方の手が服の上から胸を鷲掴みにしてきたた。
 つまりエ□イベント!
 モンスターじゃないからどう抵抗すればいいのか……。
 行動を選択できないまま胸と脚を弄られて体が火照ってきてしまう。
 私の感情とは無関係に快楽を与えられる行為に体が反応してしまう。

「ぁぁ……」

 甘い吐息が溢れてしまう。

「随分と感じやすいみたいだね……」

 ちがっーー。
 否定の言葉は敏感な蕾を突かれて言葉にならない悲鳴に打ち消されてしまった。
 下着の上からネットリと擦りあげられて体がビクリと跳ねた。
 ダメ……体がいう事をきかなくなっちゃう。
 これ以上は……。

「ーー主任!」

 無理矢理逃げ出そうとしたその時、外から声が!

「ッチッーー何だい?」

 音も立てずにものすごい速さで席を立ちパーテーションの外へ出て行った。凄い……。感心してる場合じゃないけれど。でも今のうちにここを出よう。

「あ、あの、ありがとうございました! 失礼します!」

 ギルド内に響くくらいの大きな声で言って深々と頭を下げる。そしてそのままその場を後にする。
 これならもう一度はやりにくいでしょうから。


 外へ出た途端に安心して膝の力が抜けそうになった。
 あんな風に迫られたのは初めてでなんだか怖かった。何と言っていいのかわからないけれど、私のことが好きとかそういうのではなくて、それこそ女の人なら誰でもいいような感じがすごく嫌で……。ハデス様の所に戻りたい。そんな風に思って泣きそうになる……。
 とにかくここを離れよう。ギルドの前じゃまだ不安だから。
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