魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第二章:プリンセス、岐路に立つ

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 全てが終わったその夜。私は天空王に招かれて彼女の私室を訪れていた。
 天空王の私室は城の上層階にあり、大きな窓から見える景色はまさに天空の城だからこそのもの。
 月明かりに照らされる夜の雲海と満点の星空。月が欠けているから星々の輝きにも圧倒されてしまう。星の海と雲の海。なんてロマンティックなのかしら……。色々と不安定になっていた心が少し癒されたような気がする。

「どうだ、素晴らしい眺めだろう? ここからの眺めは格別だからな」

 今この部屋には私と彼女、天空王クアラの二人だけ。シーラくんは天空王の伴侶である眼鏡のおじさまに連れられて何処かに行ってしまった。天空王自身が私と二人で話をしたいと望んだからだ。
 振り返って彼女と向き合う。
 あの騒動を全くの無傷でやり過ごした天空王クアラ。さすがは世界の王たる存在。
 たとえ私でも戦えばタダでは済まないかもしれない。

「ええとても……。それで……天空王さまが私にどのようなお話があるのでしょうか?」
「そう警戒するな。まずは礼を言わねばと思ってな」
「お礼ですか?」

 何かお礼を言われるような事をしたかしら?

「ああ。セロを殺さずに納めてくれた礼だ。あんなのでも我が血族故な……」
「ああ……我ながら甘い判断でした」

 最後の最後で私は人を殺める事に怖じけづいてしまった。こんな事で予言の勇者に立ち向かえるのか……。

「そう言うな。継承候補として授けていた青龍の力は回収しておる。あれにはもう何をどうこうする力もない。ただの天空人にすぎん」

 それでもそれなりの力を持っていますけどね。

「そうですね。少なくとも私にもシーラくんにも脅威にはなり得ませんね」
「ああ。だから感謝している。……ありがとう」

 そう言って彼女はしっかりと私に頭を下げた。

「それで、本題はなんでしょうか?」

 王と呼ばれる人物に頭を下げさせている事に居心地が悪くて私はすぐに次の話題へ移行させた。

「察しが良くて助かるな。さすがはキッカの娘だ」
「ーー!?」

 なんで!?

「ふむ。当たりか?」

 カマをかけられた? いえ、でもお母様の事を知っていて私にその面影を見た!? そうでもなければ魔族と疑われる事はあってもいきなり個人を名指しで言い当てる事は難しい。

「そうか……よく似ている。髪の色は違うが、顔立ちや何よりその目が良く似ている……ああ、お前たちにとって目や髪の色は血縁を示すものではなかったな」

 そんな事まで知っているの……。これは誤魔化すのは難しそうね。それにキッカとお母様を愛称で呼ぶ人は少ない。この人ーー天空王クアラとお母様はどんな関係なのか……とても気になる。

「最初に聞いてもいいですか?」
「なんだ? 言ってみろ」
「もしも私がそのキッカという人の娘だとしたらどうするつもりですか?」

 今更否定しても仕方がないかもしれないけれど、まだ私は肯定していない。

「警戒するな……というのも無理な話か。キッカと私はな……昔……」
「昔……?」
「ーー恋人だったのだ」
「……はぁ?」

 何を言ってるのこの人!? 恋人? え? いやそういう人たちもいるわよ? 私だってアリーシャお姉様に随分と可愛がられたりもしたわ。でもお姉様を恋人だと思った事はない。……でもあの関係を他になんて呼べばいいのかはわからないけど。

「だからな、お前を見たときにな……」

 そう言って席を立つと私の側に来た。
 私がそのまま座ったままだったのは彼女の表情に慈しみを見たから。もしもこんな表情の人から攻撃されたとしたら……それは受け入れるしかないと思う。

「キラリと言ったか……」
「……はい」
「抱きしめてもいいか?」

 尊大な態度を崩さなかった彼女が遠慮がちに聞いてきた。とても意外でなんだか可笑しくて笑みがこぼれた。

「……どうぞ」

 抱きしめやすいように彼女の方を向いて座り直す。
 泣き笑い……。そんな表情のクアラが私をそっと、まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れ、そして抱きしめた。
 小さくお母様の名を呼びながら……。
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