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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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翌朝、私たちは互いの手を握り締めて登城した。
昨日転移してきたのは城の裏手側で、正面の方にまわるとなだらかな傾斜地に立ち並ぶ家々を見下ろすことができた。
天空城ーー天空都市ウラノス。そう言えばそんな設定だった気がする。
「どうです? キラリさん」
「……凄い……です」
そんなありきたりの言葉しか出てこなかった。ゲームのスチルでは雲間から垣間見える浮遊大陸と城。そうイメージはラピ○タそのものだった。
でも実際に目にするとその名の通り天空都市だと実感できる。
町の規模はそれほど大きくはない。せいぜいが地方都市クラス。ただしそこに住まうのがシーラ様と同じ神獣の力を受け継ぐ人々であるのならその力は想像を絶する。
それでも救いがあるとすれば、この『まほプリ』の世界で他者を侵略するのは人族のみという設定だろうか……。あえてそのように描いているとはいえ人の業の何と罪深き事か……。
「さぁ行きましょう。僕は必ず天空王を継承してみせます。あいつには……あの男だけには継がせません。だからキラリさん、僕に力を貸してください」
「はい、シーラ様」
彼の抱えている全てを私はまだ知らない。でも、私にできる事なら何でもしたい。その手を強く握りしめてそう心に誓った。
城内はとても簡素な造りで人族の城のような豪華絢爛な装飾や複雑な構造はない。ただし天井はかなり高く、廊下も相当広い。恐らく神獣の力を解放した時に十分な行動が取れるようにという配慮からだろう。
現状飛行機のようなものが存在しないこの世界では天空城を大軍で侵略することは不可能だ。それならば個々の能力が高い彼らがその力を存分に振るえる構造こそが最大の防衛力を発揮することになる。
とても理にかなっている。これは私たち魔国の魔王城の発想にも通じる。魔王城は魔族の魔力を高め、回復力を増加させる。そして侵略者に対しては魔力を減衰させ回復力を低下させる。これにより魔力に秀でた魔族が得意とする魔法で侵略者を撃退しやすくなり、特に魔王とその妃たちのような特級戦力が最大の力を発揮する事ができる。
恐らく、今の私が魔王となれば私の生存期間中の敗北はない。強大すぎる魔法スキルを持っているから。だから……出来れば人族の侵攻を、勇者たちを止めたい。
まだほんの短い期間の旅でも優しい人たちに出会えた。
ラーサスさんやジェイクさん、そしてミレーヌさんとアリーシャお姉様。
聖女ソフィス様や剣士のノインさん。おまけでルクスさん。彼らのような誰かを思いやれる人たちもいる。それは私たち魔族と何も変わらないように思えた。
魔族と人族の違いなんて本当に些細なことだと思う。だからこそ止めたい。勇者の魔王討伐を、そして人族と魔族との争いを……。
長い争いの歴史による憎悪の気持ちは簡単には無くせないだろうけれど、いつかはどこかで終わりにしなくちゃいけないことだと思う。
もしも私のこの力がその為にあるのなら……争いを終わらせる為に私に一体何ができるのだろうか?
謁見の間のような広いホール。この部屋に入ってから長い時間が経っている。
広い城内の割にまだ誰にも会っていない。召使いや従者、騎士のような者はいないのだろうか? ゲームの記憶を手繰り寄せる。
……確か、天空城でのイベントは天空王との一騎打ちのみ。王に勝利し古の武器を得る事が目的だった。フィールドエンカウントはなかった。ただ無人の城の中を玉座を目指して進むだけ。
今思うと少し不自然な気もする。少なくともこの世界の天空城ーー天空都市には住んでいる人たちがいる。シーラくんの話からは数千人程度の人口があることがわかっている。
攻略し尽くしたつもりでいたけれど、あのゲームまだ謎が残っていたのかもしれない。今更どうしようもないけれど……。
「シーラ様……いつまで待つのでしょうか?」
「刻限は今日の正午です。どうやら僕たちが最後だったようで今他の継承者たちが呼ばれています」
何でそんな事が分かるのか少し疑問だけれど、そういうものだと思っておく事にした。
もしかしたらこの部屋に入る前に触れた石版が関係しているのかもしれない。てっきり扉の開錠装置だと思っていたけれど何らかの合図を送るような仕組みだったのかも……。そう考えると今の話とも辻褄が合う……事は合う。
しかしこの大広間、改めて見ると相当広い。ちょっとした体育館くらいはある。ミニサッカー(?)くらいなら余裕で出来そうなくらい広い。サッカーコートは……多分もっと広いわよね? あれって百メートル以上あるわよねきっと。流石にそこまでは広くないけれど……。
それでも相当の広さだと思う。単純に種族的なサイズの違いがあるのかもしれないけれど、ちょっと広すぎる気がするわ。なんていうか、嫌な予感がするのよね……。
私たちが入ってきた大きな扉、それが今また開いた。四人目の継承候補者だろう。
シーラ様の表情が一瞬だけ変わった。なるほど、多分彼があいつなのね。
背が高く割とがっしりしている。筋骨隆々というほどではないけれど、シーラくんと比べると随分筋肉質だ。年齢的な差もあるのだろうけれど、シーラくんは成長してもああいうタイプにはならないと思う。もっとこう線の細い美形王子キャラよね。
対して向こうは典型的な筋肉系キャラ。騎士長とかそういう感じ。そしてその側に付き従うのは青い髪の……小柄な少年? 顔が隠れてしまっていて性別はちょっとわからない。ボサボサの髪が背中まで伸びている。体つきは華奢だけど、女の人っぽい膨らみはないから少年かしら。とても強い力を感じる。
他の二人の継承者を改めて見ると、お互いに一定の距離を開けて正面の玉座の方を見ている。ほんの一瞬だけ今入ってきた最後の一組に意識を向けたけど、それだけ。
私たちから一番遠い所にいる黒髪のヒョロリとした青年。見た目は研究者肌の宮廷魔導師風。側には厳しい全身甲冑の騎士が立っている。漆黒に金の装飾。強い力を感じるのはここにいる全員からだけれど、同時に禍々しい力も感じる。入ってきた時に私を見たのだけれど、凄く嫌な視線だった。まるで獲物を見るような視線に背筋に悪寒が走った。
もう一組は赤い髪の美少女。ちょうどシーラくんと同い年くらい。その側には緑の髪の美少年が微笑みを浮かべている。この二人は入ってきた時、シーラくんの側まで来た。
彼女は側にいる私のことが気にいらない様子だったのを思い出す。
………………。
「お久しぶりですシーラ様」
真っ赤な髪の美少女が可愛らしい笑みを浮かべてシーラくんへと挨拶をした。シンプルな装いながらすらりとした手足がとても魅力的に映えている。
「やあスウォン。元気にしていましたか? そっちの彼が君の従者だね。よろしく。白虎族の代表シーラだ。彼女が僕のパート……従者のキラリです。キラリ、こちらは朱雀の姫スウォンさんで、現天空王のご息女です」
おっと、いきなり振られてしまいました。ニコニコしておけばいいと思っていたのでほんの一瞬戸惑ってしまいましたけれどそこはそれ、元王女……元じゃないわね、現役だったわ。忘れそうになるけれど。
「初めましてキラリと申します。どうぞお見知りおきください」
ドレスではないので普通に礼をする。
「……まぁまぁね。でも私の方が若くて美人よ。少しくらい胸が大きいからっていい気にならないで」
「えっと……?」
何故かいきなり喧嘩腰。朱雀のお姫様はご機嫌ななめなようです。
ちょっとどう反応していいいのか迷ったのでシーラくんに視線を送ると彼は苦笑いを浮かべていた。
「スウォン……」
「はいシーラ様」
その声と表情の切り替えの速さで私への当たりが強い理由がよくわかった。
誰が聞いても彼女の声から溢れ出す好意に気がつかないわけがない。もう好きで好きで仕方がない。そういう感じだ。
「彼女は僕のパートナーだ。あまり失礼な事は控えてほしい。いくら君が僕の妃候補ーーもちろん天空王を継承できたらの話ーーだとはいえ現状は一対立候補ですからね。お互いにそれなりの敬意を持って接するべきでしょう?」
「でも……。シーラ様はきっとその女の体に惑わされているのです。私はいつでも継承権を放棄してシーラ様に尽くす用意があります。……胸だってこれから大きなります……多分……でもお母様があれだけ大きいですし、私も絶対大きくなると思うんです……」
体で惑わすって意外と言うわねこの娘。いくら想い人が若い女性の従者を連れてきたからといってもこれはちょっとあんまりよね。全く随分と酷い言われようだわ……体でどうこうだなんて……思い当たることがないこともないのがなんとも言えないのだけれど……そこはまぁあれよ、気にしてはいけないわ。
それにしてもなんていうか、これだけ可愛い子がデレてる様子はそれはそれで眼福と言えなくもない……はぁぁ……俺くんたら……。
でもそうね。今は私のシーラ様なのよね。だから少し、おイタにはお仕置きが必要よね。
「ーーシーラ様。あなたの未来の伴侶として元お妃様候補にご挨拶をした方がよろしいのでしょうか?」
王女スマイル&王女の威光全開!(笑)
正直言って私は相当の美少女です。そして相応の立居振舞いもできます。そうすると……。
「なっ!?」
相手を少々威圧するくらいは簡単な事です。今回の場合は更にさりげなくシーラくんの腕に寄り添う事で親密度をアピール。
「ーーあなたっ!」
予想通り目尻を吊り上げて摑みかかるーー寸前、緑の美少年が止めに入った。あら残念。
「スウォン様、そこまでです。ここは一度出直しましょう。それではシーラ様、従者のキラリさんまた後ほど……」
「ちょっと、リュート!?」
思ったよりも優秀な従者みたいね。あれ以上失態を見せる前に引き離したみたい。
「キラリさんごめんなさい。スウォンがご迷惑を……」
「いいえ。私も少し意地悪をしてしまいました。とても可愛らしい方でしたから、シーラくんの婚約者だと知って嫉妬してしまったのかもしれません……」
「キラリさん……」
シーラくんが嬉しそうに破顔した。
でもごめんね。本当は別に嫉妬なんてしてないの。だって私彼女のことも気にってしまったの。だってとっても可愛らしいじゃない? シーラくん大好きオーラが凄くて、とっても弄りがいが……うふふ。
今も遠くからこちらを、私を睨んでいるわね。
手でも振ってみようかしら?
まぁでもあまりヘイトをあげすぎてもいいことがないと思うのよね。これくらいにしておきましょう。
そう思いながらも見せつけるようにシーラくんに寄り添ってみた。さりげなくスウォンさんに微笑みを向けながら。
………………。
……そんな一幕があった。楽しかったわね。
さて、最後の一組が登場したことでようやく四人の継承者とそのパートナーが揃った。
いよいよ継承の儀が始まる。
「シーラ様……」
見つめると彼は無言で頷き、私の手を強く握りしめてくれた。
これから一体何が始まるのか……。
玉座の奥の扉が開き、一組の男女が現れた。
褐色の肌の金髪美女。肩から胸にかけて大きく開いた漆黒のドレスを身に纏っている。はち切れそうな巨乳が素晴らしい。まさかこんなに早く聖女様を超えるモノにお目にかかれるとは思わなかった。
頭の左右から生えた(?)付けた(?)ツノがよくわからないけれど、自前かアクセサリーかはともかくとして美女の頭にツノというのがなんとも不釣り合いな気がする。鬼のようなタイプのツノならまぁありえるのかもしれないけれど……拳の王の兜(?)みたいな感じ。でも黒のタイトなドレスはとてもよく似合っていて、全体を見るとなんだかツノもありな気がしてくるから不思議だわ。手首につけたトゲトゲのブレスレットもなんだかそれっぽい。あれ、自分に刺さったりしないのかしら?
そしてその隣に寄り添うように立っているのはいかにも宮廷魔法使いといった出で立ちの壮年のおじさま。金髪セクシー美女とある意味ではデフォルトな感じの知的な魔法使い系のおじさま。眼鏡の奥の鋭い眼光ができる男を感じさせる。
深い濃緑のローブで隠れてはいるけれど体格も良さそうだ。背が高くて隣の美女と並ぶととてもいいバランスのカップルに見える。
美女はマーメイドラインのドレスの裾を翻して玉座に腰掛けると私たちを見渡して不敵な笑みを浮かべた。
悪の女王様みたいな貫禄がある。
そうすると隣に立つおじさまはその参謀かしらね。
なんだか凄くハマっていてカッコいい。
ちょっと映画を見ているみたいでワクワクする。
「ーー全員揃ったようで何よりだ。それじゃぁ早速始めるとしようか!」
大声を張り上げている訳じゃないのにこの広い部屋に響く。あの美女の口から出ているとはとても思えない迫力のある声。でもとても綺麗な声。
これは力ある者の声。只の言葉ですらこれだけの力と魅力を感じさせるなんて凄い。
なんとなくアルメリアお母様の事を思い出してしまった。天空王とは全く正反対なくらいの見た目なのに、お母様もとても迫力のある方だから……。
「よし! 誰からでもいい、かかってきな!」
はぁ!? どういう事!?
シーラくんに目で問いかける。小さく首を振られてしまった。
えっ!? 本気!? 相手天空王ですよ!? どう考えても勝ち目ないでしょ!?
「クアラ、その話は却下したはずですよね?」
「……どうしても?」
「どうしてもです」
誰もが行動を起こせずにいた。が、それで良かったらしい。おじさま頑張って!!
とりあえず応援しておいた。
暫し睨み合う二人。息を呑んで見守るその他全員。多分だけどみんなの願いが一つになった瞬間だと思う。このまま平和的な解決を願うわ。
沈黙が場の空気を凍てつかせる事数分……。これ、アレよね!? 実際はほんの一瞬の出来事とかいう奴でしょ?
体感時間だけが引き伸ばされているという、漫画的表現手法。
とそんな事を考えていたら天空王が折れた。おじさま凄いです!!
「ちぇっ……せっかく面白そうなのを連れてきた奴がいるのになぁ……」
「キミが相手をしたらほぼ全員があの世行きでしょう。実力を比較するどころではありませんね」
「そうかぁ? ………………」
小声すぎて聞き取れないけど、何故か美女と視線が合った。まるで蛇に睨まれた蛙の気分だわ。
「儀式が終わってからなら好きにしていいですよ」
「わかった。それじゃ任せる」
ニヤリと笑って舌舐めずり。完璧にロックオンされたような気がするんですけど!? なんで!?
「それではこれからお互いの従者同士で戦ってもらう。不公平がないように総当たりで行う。戦闘後は回復をさせるから心置きなく戦うといい。ただし、死んだ場合は以降不戦敗となるので留意するように」
いきなりデスゲームの開幕!? 戦う事は予想していたけれど、命の取り合いをさせられるとは思わなかったわ。
「対戦カードはこちらで組んである。まずはシーラ対スウォン。両者の従者は前に出よ。それ以外の者は隅へ移動して見ているといい。ちなみに各自自分の身は自分で守るように。最後にこの部屋はそう簡単に破壊される事はない。全力でやってくれて構わない」
初戦は私と朱雀の姫の従者。緑の髪の美少年が相手だ。
「キラリ、任せたよ!」
「え、ええ……」
こうしていつのまにかバトルへと突入してしまった。
あれ? 私ってプリンセスよね? いつグラディエーターに転職したのかしら?
そんな疑問が頭の片隅を凄いスピードで飛んで行ったけど、よく考えると母親が国の最高戦力っていう時点で普通のお姫様ではなかったわね。
とにかくここは一つ未来の旦那様、シーラ様の為に頑張りますか!!
昨日転移してきたのは城の裏手側で、正面の方にまわるとなだらかな傾斜地に立ち並ぶ家々を見下ろすことができた。
天空城ーー天空都市ウラノス。そう言えばそんな設定だった気がする。
「どうです? キラリさん」
「……凄い……です」
そんなありきたりの言葉しか出てこなかった。ゲームのスチルでは雲間から垣間見える浮遊大陸と城。そうイメージはラピ○タそのものだった。
でも実際に目にするとその名の通り天空都市だと実感できる。
町の規模はそれほど大きくはない。せいぜいが地方都市クラス。ただしそこに住まうのがシーラ様と同じ神獣の力を受け継ぐ人々であるのならその力は想像を絶する。
それでも救いがあるとすれば、この『まほプリ』の世界で他者を侵略するのは人族のみという設定だろうか……。あえてそのように描いているとはいえ人の業の何と罪深き事か……。
「さぁ行きましょう。僕は必ず天空王を継承してみせます。あいつには……あの男だけには継がせません。だからキラリさん、僕に力を貸してください」
「はい、シーラ様」
彼の抱えている全てを私はまだ知らない。でも、私にできる事なら何でもしたい。その手を強く握りしめてそう心に誓った。
城内はとても簡素な造りで人族の城のような豪華絢爛な装飾や複雑な構造はない。ただし天井はかなり高く、廊下も相当広い。恐らく神獣の力を解放した時に十分な行動が取れるようにという配慮からだろう。
現状飛行機のようなものが存在しないこの世界では天空城を大軍で侵略することは不可能だ。それならば個々の能力が高い彼らがその力を存分に振るえる構造こそが最大の防衛力を発揮することになる。
とても理にかなっている。これは私たち魔国の魔王城の発想にも通じる。魔王城は魔族の魔力を高め、回復力を増加させる。そして侵略者に対しては魔力を減衰させ回復力を低下させる。これにより魔力に秀でた魔族が得意とする魔法で侵略者を撃退しやすくなり、特に魔王とその妃たちのような特級戦力が最大の力を発揮する事ができる。
恐らく、今の私が魔王となれば私の生存期間中の敗北はない。強大すぎる魔法スキルを持っているから。だから……出来れば人族の侵攻を、勇者たちを止めたい。
まだほんの短い期間の旅でも優しい人たちに出会えた。
ラーサスさんやジェイクさん、そしてミレーヌさんとアリーシャお姉様。
聖女ソフィス様や剣士のノインさん。おまけでルクスさん。彼らのような誰かを思いやれる人たちもいる。それは私たち魔族と何も変わらないように思えた。
魔族と人族の違いなんて本当に些細なことだと思う。だからこそ止めたい。勇者の魔王討伐を、そして人族と魔族との争いを……。
長い争いの歴史による憎悪の気持ちは簡単には無くせないだろうけれど、いつかはどこかで終わりにしなくちゃいけないことだと思う。
もしも私のこの力がその為にあるのなら……争いを終わらせる為に私に一体何ができるのだろうか?
謁見の間のような広いホール。この部屋に入ってから長い時間が経っている。
広い城内の割にまだ誰にも会っていない。召使いや従者、騎士のような者はいないのだろうか? ゲームの記憶を手繰り寄せる。
……確か、天空城でのイベントは天空王との一騎打ちのみ。王に勝利し古の武器を得る事が目的だった。フィールドエンカウントはなかった。ただ無人の城の中を玉座を目指して進むだけ。
今思うと少し不自然な気もする。少なくともこの世界の天空城ーー天空都市には住んでいる人たちがいる。シーラくんの話からは数千人程度の人口があることがわかっている。
攻略し尽くしたつもりでいたけれど、あのゲームまだ謎が残っていたのかもしれない。今更どうしようもないけれど……。
「シーラ様……いつまで待つのでしょうか?」
「刻限は今日の正午です。どうやら僕たちが最後だったようで今他の継承者たちが呼ばれています」
何でそんな事が分かるのか少し疑問だけれど、そういうものだと思っておく事にした。
もしかしたらこの部屋に入る前に触れた石版が関係しているのかもしれない。てっきり扉の開錠装置だと思っていたけれど何らかの合図を送るような仕組みだったのかも……。そう考えると今の話とも辻褄が合う……事は合う。
しかしこの大広間、改めて見ると相当広い。ちょっとした体育館くらいはある。ミニサッカー(?)くらいなら余裕で出来そうなくらい広い。サッカーコートは……多分もっと広いわよね? あれって百メートル以上あるわよねきっと。流石にそこまでは広くないけれど……。
それでも相当の広さだと思う。単純に種族的なサイズの違いがあるのかもしれないけれど、ちょっと広すぎる気がするわ。なんていうか、嫌な予感がするのよね……。
私たちが入ってきた大きな扉、それが今また開いた。四人目の継承候補者だろう。
シーラ様の表情が一瞬だけ変わった。なるほど、多分彼があいつなのね。
背が高く割とがっしりしている。筋骨隆々というほどではないけれど、シーラくんと比べると随分筋肉質だ。年齢的な差もあるのだろうけれど、シーラくんは成長してもああいうタイプにはならないと思う。もっとこう線の細い美形王子キャラよね。
対して向こうは典型的な筋肉系キャラ。騎士長とかそういう感じ。そしてその側に付き従うのは青い髪の……小柄な少年? 顔が隠れてしまっていて性別はちょっとわからない。ボサボサの髪が背中まで伸びている。体つきは華奢だけど、女の人っぽい膨らみはないから少年かしら。とても強い力を感じる。
他の二人の継承者を改めて見ると、お互いに一定の距離を開けて正面の玉座の方を見ている。ほんの一瞬だけ今入ってきた最後の一組に意識を向けたけど、それだけ。
私たちから一番遠い所にいる黒髪のヒョロリとした青年。見た目は研究者肌の宮廷魔導師風。側には厳しい全身甲冑の騎士が立っている。漆黒に金の装飾。強い力を感じるのはここにいる全員からだけれど、同時に禍々しい力も感じる。入ってきた時に私を見たのだけれど、凄く嫌な視線だった。まるで獲物を見るような視線に背筋に悪寒が走った。
もう一組は赤い髪の美少女。ちょうどシーラくんと同い年くらい。その側には緑の髪の美少年が微笑みを浮かべている。この二人は入ってきた時、シーラくんの側まで来た。
彼女は側にいる私のことが気にいらない様子だったのを思い出す。
………………。
「お久しぶりですシーラ様」
真っ赤な髪の美少女が可愛らしい笑みを浮かべてシーラくんへと挨拶をした。シンプルな装いながらすらりとした手足がとても魅力的に映えている。
「やあスウォン。元気にしていましたか? そっちの彼が君の従者だね。よろしく。白虎族の代表シーラだ。彼女が僕のパート……従者のキラリです。キラリ、こちらは朱雀の姫スウォンさんで、現天空王のご息女です」
おっと、いきなり振られてしまいました。ニコニコしておけばいいと思っていたのでほんの一瞬戸惑ってしまいましたけれどそこはそれ、元王女……元じゃないわね、現役だったわ。忘れそうになるけれど。
「初めましてキラリと申します。どうぞお見知りおきください」
ドレスではないので普通に礼をする。
「……まぁまぁね。でも私の方が若くて美人よ。少しくらい胸が大きいからっていい気にならないで」
「えっと……?」
何故かいきなり喧嘩腰。朱雀のお姫様はご機嫌ななめなようです。
ちょっとどう反応していいいのか迷ったのでシーラくんに視線を送ると彼は苦笑いを浮かべていた。
「スウォン……」
「はいシーラ様」
その声と表情の切り替えの速さで私への当たりが強い理由がよくわかった。
誰が聞いても彼女の声から溢れ出す好意に気がつかないわけがない。もう好きで好きで仕方がない。そういう感じだ。
「彼女は僕のパートナーだ。あまり失礼な事は控えてほしい。いくら君が僕の妃候補ーーもちろん天空王を継承できたらの話ーーだとはいえ現状は一対立候補ですからね。お互いにそれなりの敬意を持って接するべきでしょう?」
「でも……。シーラ様はきっとその女の体に惑わされているのです。私はいつでも継承権を放棄してシーラ様に尽くす用意があります。……胸だってこれから大きなります……多分……でもお母様があれだけ大きいですし、私も絶対大きくなると思うんです……」
体で惑わすって意外と言うわねこの娘。いくら想い人が若い女性の従者を連れてきたからといってもこれはちょっとあんまりよね。全く随分と酷い言われようだわ……体でどうこうだなんて……思い当たることがないこともないのがなんとも言えないのだけれど……そこはまぁあれよ、気にしてはいけないわ。
それにしてもなんていうか、これだけ可愛い子がデレてる様子はそれはそれで眼福と言えなくもない……はぁぁ……俺くんたら……。
でもそうね。今は私のシーラ様なのよね。だから少し、おイタにはお仕置きが必要よね。
「ーーシーラ様。あなたの未来の伴侶として元お妃様候補にご挨拶をした方がよろしいのでしょうか?」
王女スマイル&王女の威光全開!(笑)
正直言って私は相当の美少女です。そして相応の立居振舞いもできます。そうすると……。
「なっ!?」
相手を少々威圧するくらいは簡単な事です。今回の場合は更にさりげなくシーラくんの腕に寄り添う事で親密度をアピール。
「ーーあなたっ!」
予想通り目尻を吊り上げて摑みかかるーー寸前、緑の美少年が止めに入った。あら残念。
「スウォン様、そこまでです。ここは一度出直しましょう。それではシーラ様、従者のキラリさんまた後ほど……」
「ちょっと、リュート!?」
思ったよりも優秀な従者みたいね。あれ以上失態を見せる前に引き離したみたい。
「キラリさんごめんなさい。スウォンがご迷惑を……」
「いいえ。私も少し意地悪をしてしまいました。とても可愛らしい方でしたから、シーラくんの婚約者だと知って嫉妬してしまったのかもしれません……」
「キラリさん……」
シーラくんが嬉しそうに破顔した。
でもごめんね。本当は別に嫉妬なんてしてないの。だって私彼女のことも気にってしまったの。だってとっても可愛らしいじゃない? シーラくん大好きオーラが凄くて、とっても弄りがいが……うふふ。
今も遠くからこちらを、私を睨んでいるわね。
手でも振ってみようかしら?
まぁでもあまりヘイトをあげすぎてもいいことがないと思うのよね。これくらいにしておきましょう。
そう思いながらも見せつけるようにシーラくんに寄り添ってみた。さりげなくスウォンさんに微笑みを向けながら。
………………。
……そんな一幕があった。楽しかったわね。
さて、最後の一組が登場したことでようやく四人の継承者とそのパートナーが揃った。
いよいよ継承の儀が始まる。
「シーラ様……」
見つめると彼は無言で頷き、私の手を強く握りしめてくれた。
これから一体何が始まるのか……。
玉座の奥の扉が開き、一組の男女が現れた。
褐色の肌の金髪美女。肩から胸にかけて大きく開いた漆黒のドレスを身に纏っている。はち切れそうな巨乳が素晴らしい。まさかこんなに早く聖女様を超えるモノにお目にかかれるとは思わなかった。
頭の左右から生えた(?)付けた(?)ツノがよくわからないけれど、自前かアクセサリーかはともかくとして美女の頭にツノというのがなんとも不釣り合いな気がする。鬼のようなタイプのツノならまぁありえるのかもしれないけれど……拳の王の兜(?)みたいな感じ。でも黒のタイトなドレスはとてもよく似合っていて、全体を見るとなんだかツノもありな気がしてくるから不思議だわ。手首につけたトゲトゲのブレスレットもなんだかそれっぽい。あれ、自分に刺さったりしないのかしら?
そしてその隣に寄り添うように立っているのはいかにも宮廷魔法使いといった出で立ちの壮年のおじさま。金髪セクシー美女とある意味ではデフォルトな感じの知的な魔法使い系のおじさま。眼鏡の奥の鋭い眼光ができる男を感じさせる。
深い濃緑のローブで隠れてはいるけれど体格も良さそうだ。背が高くて隣の美女と並ぶととてもいいバランスのカップルに見える。
美女はマーメイドラインのドレスの裾を翻して玉座に腰掛けると私たちを見渡して不敵な笑みを浮かべた。
悪の女王様みたいな貫禄がある。
そうすると隣に立つおじさまはその参謀かしらね。
なんだか凄くハマっていてカッコいい。
ちょっと映画を見ているみたいでワクワクする。
「ーー全員揃ったようで何よりだ。それじゃぁ早速始めるとしようか!」
大声を張り上げている訳じゃないのにこの広い部屋に響く。あの美女の口から出ているとはとても思えない迫力のある声。でもとても綺麗な声。
これは力ある者の声。只の言葉ですらこれだけの力と魅力を感じさせるなんて凄い。
なんとなくアルメリアお母様の事を思い出してしまった。天空王とは全く正反対なくらいの見た目なのに、お母様もとても迫力のある方だから……。
「よし! 誰からでもいい、かかってきな!」
はぁ!? どういう事!?
シーラくんに目で問いかける。小さく首を振られてしまった。
えっ!? 本気!? 相手天空王ですよ!? どう考えても勝ち目ないでしょ!?
「クアラ、その話は却下したはずですよね?」
「……どうしても?」
「どうしてもです」
誰もが行動を起こせずにいた。が、それで良かったらしい。おじさま頑張って!!
とりあえず応援しておいた。
暫し睨み合う二人。息を呑んで見守るその他全員。多分だけどみんなの願いが一つになった瞬間だと思う。このまま平和的な解決を願うわ。
沈黙が場の空気を凍てつかせる事数分……。これ、アレよね!? 実際はほんの一瞬の出来事とかいう奴でしょ?
体感時間だけが引き伸ばされているという、漫画的表現手法。
とそんな事を考えていたら天空王が折れた。おじさま凄いです!!
「ちぇっ……せっかく面白そうなのを連れてきた奴がいるのになぁ……」
「キミが相手をしたらほぼ全員があの世行きでしょう。実力を比較するどころではありませんね」
「そうかぁ? ………………」
小声すぎて聞き取れないけど、何故か美女と視線が合った。まるで蛇に睨まれた蛙の気分だわ。
「儀式が終わってからなら好きにしていいですよ」
「わかった。それじゃ任せる」
ニヤリと笑って舌舐めずり。完璧にロックオンされたような気がするんですけど!? なんで!?
「それではこれからお互いの従者同士で戦ってもらう。不公平がないように総当たりで行う。戦闘後は回復をさせるから心置きなく戦うといい。ただし、死んだ場合は以降不戦敗となるので留意するように」
いきなりデスゲームの開幕!? 戦う事は予想していたけれど、命の取り合いをさせられるとは思わなかったわ。
「対戦カードはこちらで組んである。まずはシーラ対スウォン。両者の従者は前に出よ。それ以外の者は隅へ移動して見ているといい。ちなみに各自自分の身は自分で守るように。最後にこの部屋はそう簡単に破壊される事はない。全力でやってくれて構わない」
初戦は私と朱雀の姫の従者。緑の髪の美少年が相手だ。
「キラリ、任せたよ!」
「え、ええ……」
こうしていつのまにかバトルへと突入してしまった。
あれ? 私ってプリンセスよね? いつグラディエーターに転職したのかしら?
そんな疑問が頭の片隅を凄いスピードで飛んで行ったけど、よく考えると母親が国の最高戦力っていう時点で普通のお姫様ではなかったわね。
とにかくここは一つ未来の旦那様、シーラ様の為に頑張りますか!!
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国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
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ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
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