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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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燃え盛る焔が消えた時、そこには何一つ残ってはいなかった。あらゆるものを焼き尽くすとされる竜の焔に包まれて無事でいられる存在はない。
竜の力はこの世界の全ての者を超越する。だからこそ孤高の完全生命体たり得るのだ。
大空を優雅に舞うその蒼き竜は陽光に不変の竜鱗を煌めかせて一際大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びとも受け取れる超越者らしからぬ行動であった。たった今相対した者が己に匹敵する存在だったのだと無意識に悟っていたのかもしれない。
竜はしばらくその空域に留まったが、やがては勝利を確信したのか今一度甲高い咆哮を上げ、山頂へと飛び去っていった……。
その様子を岩陰から伺う私たち三人。どうにか上手くいった。
気配遮断は凄い魔法だと改めて感心する。
「ふぅぅ~。なかなかの強敵だったわね……」
「姫様勝っていませんからね?」
酔いから覚めた我が従者が何か言っている。
「姫様~そのナレーション口調はいつまで続けるのですか?」
「………………」
雰囲気ぶち壊しね。
「ーー鼻にツンとくる臭いに泣けてくるわ……」
「そ、それは言わないでください~」
泣き声のアン……可愛い。
「でもまさかこんなところでドラゴンに出くわすなんてね……。やっぱりとんでもない強さだわ」
「そうですね。よく無事でやり過ごせましたよね」
「……無事じゃないわよ?」
「えっ!? 姫様まさかーー」
アンの悲痛な声に私は力なく首を振る。
「この臭いーー」
「ひーめーさーまー!! そんなに私を虐めて楽しいんですか!? わかりました、そういう事でしたら今日限りで私はお暇を頂戴いたします!!」
あ、これはいけないわ、やり過ぎた!
「ごめんなさい、アン! 待って、もうやめるから! お願い側にいて!!」
「……次はありませんからね?」
チョロいわねアン。
「姫様!」
「は、はい! 何にも考えてません! チョロいとか思っへまへんはら!!」
ほっぺを思いっきりつねられた。いたい……。
あら、そういえばシーラくんがおとなしいわね……。
「シーラくん?」
「………………」
初めて見る真剣な表情で空を見上げていた。ちょうど竜が飛び去った方向だ。
「……シーラくん?」
「あ、ああキラリ……じゃない、お姉ちゃん。なぁに?」
一瞬凄く大人びた表情に見えた。この子……大人になったら相当なイケメンになるわね! ちょっといいかも……。
「大丈夫? 怪我してないわよね?」
「うん。お姉ちゃんが守ってくれたから大丈夫だよ」
よかった。
さて、それでは改めて山頂を目指しますか。
「れび……」
「待って!」
「なぁにシーラくん?」
真剣な表情で魔法を止められた。やっぱりカッコいいわねこの子。甘えん坊のお子様な感じもいいけどこれはこれでなかなか……。
いやいや、ダメダメ! こんな小さな子に手を出したら犯罪よ……ってなんで!? そうじゃないの、そういう事を考えた訳じゃないのよ!? ちょっとお姉ちゃん大好きとか言って抱きつかれたり、一緒にお風呂入ろ? とか小首を傾げて言われたりとか……そうよ、そんな風に健全な事を考えていたのよ! やましい事なんて何もないわ! ほんのちょっと体を隅々まで洗ってあげたりとか、洗って貰ったりとかしたいなぁ~とかくらいしか思ってないわよ!?
「姫様……」
トンと肩を叩きながらアンが言った。
「そういう事はお考えになるだけにしてくださいませ……」
「えっ!?」
「心の声が漏れておりました……」
「え、えっ? えっ??」
シーラくんが苦笑いしてる。
いやぁぁぁぁ!!!! 恥ずかしずぎるーーー!!
しばらくして色々と落ち着いたので出発することになった。
シーラくんがまたドラゴンが来るかもしれないからここからは歩いて行こう。そう言うので徒歩で山登りすることにした。確かにまた空を飛ぶとアイツに見つかる可能性はある。今度も上手く誤魔化せるとは限らないので遭わないに越した事はない。怖いから気配遮断は継続して使っておこう。
幸いドラゴンとの空中戦で結構な距離を登っていたようでここから目的地まではそれ程遠くないようだ。シーラくんが「もうすぐだから大丈夫だよ」って可愛く言うから……えへへ。
シーラくんと手を繋いで歩くのもこれはまた……ピクニックみたいでいいかもしれない。
標高がだいぶ上がっているので岩肌が剥き出しで、草木も疎らにしかないからちょっとハードな雰囲気のするピクニックだけど、時折咲く高山植物の花がまたいいアクセントになって私の気持ちを盛り上げてくれる。
しかもシーラくんがお姉ちゃんの髪に挿したら似合いそうとか言うもんだから、もうニマニマが止まらないわよ!!
少しあきれた様子のアンが耳元でため息をつくけど、それすらも心地よく感じてしまうわ。
ああ、今日は何ていい日なのかしら?
えっ? ドラゴンに遭遇したのに? ふふ。そんな事はもう忘れたわ!
竜の力はこの世界の全ての者を超越する。だからこそ孤高の完全生命体たり得るのだ。
大空を優雅に舞うその蒼き竜は陽光に不変の竜鱗を煌めかせて一際大きく咆哮を上げた。
それは勝利の雄叫びとも受け取れる超越者らしからぬ行動であった。たった今相対した者が己に匹敵する存在だったのだと無意識に悟っていたのかもしれない。
竜はしばらくその空域に留まったが、やがては勝利を確信したのか今一度甲高い咆哮を上げ、山頂へと飛び去っていった……。
その様子を岩陰から伺う私たち三人。どうにか上手くいった。
気配遮断は凄い魔法だと改めて感心する。
「ふぅぅ~。なかなかの強敵だったわね……」
「姫様勝っていませんからね?」
酔いから覚めた我が従者が何か言っている。
「姫様~そのナレーション口調はいつまで続けるのですか?」
「………………」
雰囲気ぶち壊しね。
「ーー鼻にツンとくる臭いに泣けてくるわ……」
「そ、それは言わないでください~」
泣き声のアン……可愛い。
「でもまさかこんなところでドラゴンに出くわすなんてね……。やっぱりとんでもない強さだわ」
「そうですね。よく無事でやり過ごせましたよね」
「……無事じゃないわよ?」
「えっ!? 姫様まさかーー」
アンの悲痛な声に私は力なく首を振る。
「この臭いーー」
「ひーめーさーまー!! そんなに私を虐めて楽しいんですか!? わかりました、そういう事でしたら今日限りで私はお暇を頂戴いたします!!」
あ、これはいけないわ、やり過ぎた!
「ごめんなさい、アン! 待って、もうやめるから! お願い側にいて!!」
「……次はありませんからね?」
チョロいわねアン。
「姫様!」
「は、はい! 何にも考えてません! チョロいとか思っへまへんはら!!」
ほっぺを思いっきりつねられた。いたい……。
あら、そういえばシーラくんがおとなしいわね……。
「シーラくん?」
「………………」
初めて見る真剣な表情で空を見上げていた。ちょうど竜が飛び去った方向だ。
「……シーラくん?」
「あ、ああキラリ……じゃない、お姉ちゃん。なぁに?」
一瞬凄く大人びた表情に見えた。この子……大人になったら相当なイケメンになるわね! ちょっといいかも……。
「大丈夫? 怪我してないわよね?」
「うん。お姉ちゃんが守ってくれたから大丈夫だよ」
よかった。
さて、それでは改めて山頂を目指しますか。
「れび……」
「待って!」
「なぁにシーラくん?」
真剣な表情で魔法を止められた。やっぱりカッコいいわねこの子。甘えん坊のお子様な感じもいいけどこれはこれでなかなか……。
いやいや、ダメダメ! こんな小さな子に手を出したら犯罪よ……ってなんで!? そうじゃないの、そういう事を考えた訳じゃないのよ!? ちょっとお姉ちゃん大好きとか言って抱きつかれたり、一緒にお風呂入ろ? とか小首を傾げて言われたりとか……そうよ、そんな風に健全な事を考えていたのよ! やましい事なんて何もないわ! ほんのちょっと体を隅々まで洗ってあげたりとか、洗って貰ったりとかしたいなぁ~とかくらいしか思ってないわよ!?
「姫様……」
トンと肩を叩きながらアンが言った。
「そういう事はお考えになるだけにしてくださいませ……」
「えっ!?」
「心の声が漏れておりました……」
「え、えっ? えっ??」
シーラくんが苦笑いしてる。
いやぁぁぁぁ!!!! 恥ずかしずぎるーーー!!
しばらくして色々と落ち着いたので出発することになった。
シーラくんがまたドラゴンが来るかもしれないからここからは歩いて行こう。そう言うので徒歩で山登りすることにした。確かにまた空を飛ぶとアイツに見つかる可能性はある。今度も上手く誤魔化せるとは限らないので遭わないに越した事はない。怖いから気配遮断は継続して使っておこう。
幸いドラゴンとの空中戦で結構な距離を登っていたようでここから目的地まではそれ程遠くないようだ。シーラくんが「もうすぐだから大丈夫だよ」って可愛く言うから……えへへ。
シーラくんと手を繋いで歩くのもこれはまた……ピクニックみたいでいいかもしれない。
標高がだいぶ上がっているので岩肌が剥き出しで、草木も疎らにしかないからちょっとハードな雰囲気のするピクニックだけど、時折咲く高山植物の花がまたいいアクセントになって私の気持ちを盛り上げてくれる。
しかもシーラくんがお姉ちゃんの髪に挿したら似合いそうとか言うもんだから、もうニマニマが止まらないわよ!!
少しあきれた様子のアンが耳元でため息をつくけど、それすらも心地よく感じてしまうわ。
ああ、今日は何ていい日なのかしら?
えっ? ドラゴンに遭遇したのに? ふふ。そんな事はもう忘れたわ!
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