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第二章:プリンセス、岐路に立つ
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ーー結果、バードさんの仲間と女の子の前に猛スピードで着地した。
……そう、着地よ。勢いが良すぎるとか、錐揉み回転しながら突っ込んでるとか……そういうことではないの。
後ろから悲鳴が聞こえるけど、正直それどころじゃないの。
ホント死ぬかと思ったわさすがに……。
でもさすが私ね! 落下ダメージもなんのその。高レベルの恩恵はこんなものではないのよ! ダメージ減少万歳ね!!
「「なっ!? 一体なんなんだ!!」」
「これ以上厄介ごとが増えたらさすがに……」
「ひ、人に見えたんですけど……」
「「「人だと!? バカな!?」」」
えっと……。
着地の衝撃で舞い上がった土煙が晴れてきた。さて、なんて言おうかしら……。
「一体なんなんだ!? 鳥か!? 魔物か!?」
「……すいませんただの人です」
「「「人は空から落ちてこねーよ!!」」」
「お、落ちてないわよ! ちゃんと着地したもん!!」
「お、おう」
そうよ、墜落じゃないわ、着陸よ! そこは大事よ、間違えないで!!
「姫様……」
「何よ!?」
「なんでもありません……」
……はっ!? こんなことしてる場合じゃなかった!
「そうだ、バードさんの知らせを受けて助けに来ました!」
「何!? どういうことだ!?」
「ちょっと待て! バードはどうした?」
「いや、女の子が一人って、バードより弱くなってるじゃないか!!」
「ああ……神さまどうかお助けください……」
空から颯爽と助けに来た美少女の扱いが酷い……。私帰ってもいいかしら……?
「とにかく、その子を連れて逃げてください! 白帝は私が引き受けます!!」
一つ一つ質問に答える余裕はない。マップでは殆ど同じ位置に表示されていた。すぐに側にいるはず。
「あのな……そう言われてもお嬢ちゃん一人じゃーー危ねぇ!!」
「ーー姫様!!」
アンと男性冒険者の声が妙にゆっくりと聞こえた。そして背筋を伝うゾクリとした感覚。背中を伝う冷たい汗。いろんな情報が一瞬で入ってきて混乱する。でも何かが私の体を動かした。ここにいちゃダメ!! 理屈じゃない何か。
目の前の冒険者を突き飛ばして私も後を追って飛んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女の子の叫び声が響いた。
時の流れが普通に戻った。
さっきまで私がいた場所には真っ白な獣がいた。音もなく振り下ろした腕の先には有り得ないほど綺麗な爪痕が刻み込まれていた。
ナニコレ?
大地に刻まれるまるで漫画のような爪痕。
これは少しキツイかもしれないわね……。
「……あなた達を守りながらは無理だわ……。ゆっくりこの場から逃げてちょうだい……。その子をお願いね……」
目の前の白い獣、虎のようにも見えるけれど、特徴的な模様がない。ただ雪のように真っ白な獣、間違いなく白帝と呼ばれる魔物。
どうする……?
まずは時間稼ぎよね。後ろの人達を逃さなきゃ……。
真っ白な魔物はジッと私を見ている。その目は金色に輝いていて不思議と恐怖を感じない。でも、その体から発せられる威圧感は相当なもので……似たような威圧感はお父様かガルム様くらいしか思い当たらない。
つまり……私死んじゃうかも!?
今更だけど、怖くなってきた。いくらこの世界の理を超えたところにあるといっても私のレベルはまだ200に満たない。せめて生命力にもう少し余裕があれば……。
パキッ!
ひっ!?
小さな音なのに心臓が止まるかと思ったーー!
マズイ!? 魔物の視線が私から逸れて背後へ……。
「ーー『束縛の蔦』!」
とっさに発動させた拘束の魔法。周囲の蔦が勢いよく伸びて魔物を囲む檻のように展開した。
どれだけ役に立つか……。
魔物の視線は私に戻ってきた。逃げる者から興味を失ってくれればいいけど……。
「姫様……どうされるおつもりですか?」
耳元でアンが囁く。
どうするもこうするも……。
「魔王さまに似た波動を感じますぅぅ……」
泣きそうな声。うん、私も泣きたい。お父様がお怒りになった時と似たような重圧なの。さっきから足の震えが止まらない。
「アン……いざとなったら貴女は逃げなさい」
「姫様!?」
「ーー死ぬ気はないわ」
女の子を連れた冒険者達が少しでも遠くに行けるように……。
「死ぬ気はないけど、念の為よ。それから彼らが100メートルくらい離れたら教えてちょうだい」
今マップを見てる余裕はないわ。アンが頼りなのよ。
「かしこまりました」
白い魔物を包み込む蔦の牢獄。ただ真っ直ぐにこちらを見つめるその口元がニヤリと笑った気がした。
「もう少しゆっくりしてくれてもいいのよ?」
もちろんそんなお願いを聞いてくれるはずもなく、魔物ーー白帝はゆっくりと私の方へ歩み始めた。
「『神々の祝福』」
ステータス五倍。様子見できるような相手じゃない。最初から全力よ。
「『装備強化』」
物理防御上昇。念の為効果二倍に拡張。
「『魔法付与:麻痺』」
護身用の短剣に麻痺効果を付与する。
「『風の槍』!」
私の周囲に風の槍を生み出して待機させる。私の思念一つで魔物に向かって解き放たれる。
準備はいいわ! 蔦の牢獄を超えたらバトル開始よ!!
……そう、着地よ。勢いが良すぎるとか、錐揉み回転しながら突っ込んでるとか……そういうことではないの。
後ろから悲鳴が聞こえるけど、正直それどころじゃないの。
ホント死ぬかと思ったわさすがに……。
でもさすが私ね! 落下ダメージもなんのその。高レベルの恩恵はこんなものではないのよ! ダメージ減少万歳ね!!
「「なっ!? 一体なんなんだ!!」」
「これ以上厄介ごとが増えたらさすがに……」
「ひ、人に見えたんですけど……」
「「「人だと!? バカな!?」」」
えっと……。
着地の衝撃で舞い上がった土煙が晴れてきた。さて、なんて言おうかしら……。
「一体なんなんだ!? 鳥か!? 魔物か!?」
「……すいませんただの人です」
「「「人は空から落ちてこねーよ!!」」」
「お、落ちてないわよ! ちゃんと着地したもん!!」
「お、おう」
そうよ、墜落じゃないわ、着陸よ! そこは大事よ、間違えないで!!
「姫様……」
「何よ!?」
「なんでもありません……」
……はっ!? こんなことしてる場合じゃなかった!
「そうだ、バードさんの知らせを受けて助けに来ました!」
「何!? どういうことだ!?」
「ちょっと待て! バードはどうした?」
「いや、女の子が一人って、バードより弱くなってるじゃないか!!」
「ああ……神さまどうかお助けください……」
空から颯爽と助けに来た美少女の扱いが酷い……。私帰ってもいいかしら……?
「とにかく、その子を連れて逃げてください! 白帝は私が引き受けます!!」
一つ一つ質問に答える余裕はない。マップでは殆ど同じ位置に表示されていた。すぐに側にいるはず。
「あのな……そう言われてもお嬢ちゃん一人じゃーー危ねぇ!!」
「ーー姫様!!」
アンと男性冒険者の声が妙にゆっくりと聞こえた。そして背筋を伝うゾクリとした感覚。背中を伝う冷たい汗。いろんな情報が一瞬で入ってきて混乱する。でも何かが私の体を動かした。ここにいちゃダメ!! 理屈じゃない何か。
目の前の冒険者を突き飛ばして私も後を追って飛んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
女の子の叫び声が響いた。
時の流れが普通に戻った。
さっきまで私がいた場所には真っ白な獣がいた。音もなく振り下ろした腕の先には有り得ないほど綺麗な爪痕が刻み込まれていた。
ナニコレ?
大地に刻まれるまるで漫画のような爪痕。
これは少しキツイかもしれないわね……。
「……あなた達を守りながらは無理だわ……。ゆっくりこの場から逃げてちょうだい……。その子をお願いね……」
目の前の白い獣、虎のようにも見えるけれど、特徴的な模様がない。ただ雪のように真っ白な獣、間違いなく白帝と呼ばれる魔物。
どうする……?
まずは時間稼ぎよね。後ろの人達を逃さなきゃ……。
真っ白な魔物はジッと私を見ている。その目は金色に輝いていて不思議と恐怖を感じない。でも、その体から発せられる威圧感は相当なもので……似たような威圧感はお父様かガルム様くらいしか思い当たらない。
つまり……私死んじゃうかも!?
今更だけど、怖くなってきた。いくらこの世界の理を超えたところにあるといっても私のレベルはまだ200に満たない。せめて生命力にもう少し余裕があれば……。
パキッ!
ひっ!?
小さな音なのに心臓が止まるかと思ったーー!
マズイ!? 魔物の視線が私から逸れて背後へ……。
「ーー『束縛の蔦』!」
とっさに発動させた拘束の魔法。周囲の蔦が勢いよく伸びて魔物を囲む檻のように展開した。
どれだけ役に立つか……。
魔物の視線は私に戻ってきた。逃げる者から興味を失ってくれればいいけど……。
「姫様……どうされるおつもりですか?」
耳元でアンが囁く。
どうするもこうするも……。
「魔王さまに似た波動を感じますぅぅ……」
泣きそうな声。うん、私も泣きたい。お父様がお怒りになった時と似たような重圧なの。さっきから足の震えが止まらない。
「アン……いざとなったら貴女は逃げなさい」
「姫様!?」
「ーー死ぬ気はないわ」
女の子を連れた冒険者達が少しでも遠くに行けるように……。
「死ぬ気はないけど、念の為よ。それから彼らが100メートルくらい離れたら教えてちょうだい」
今マップを見てる余裕はないわ。アンが頼りなのよ。
「かしこまりました」
白い魔物を包み込む蔦の牢獄。ただ真っ直ぐにこちらを見つめるその口元がニヤリと笑った気がした。
「もう少しゆっくりしてくれてもいいのよ?」
もちろんそんなお願いを聞いてくれるはずもなく、魔物ーー白帝はゆっくりと私の方へ歩み始めた。
「『神々の祝福』」
ステータス五倍。様子見できるような相手じゃない。最初から全力よ。
「『装備強化』」
物理防御上昇。念の為効果二倍に拡張。
「『魔法付与:麻痺』」
護身用の短剣に麻痺効果を付与する。
「『風の槍』!」
私の周囲に風の槍を生み出して待機させる。私の思念一つで魔物に向かって解き放たれる。
準備はいいわ! 蔦の牢獄を超えたらバトル開始よ!!
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