魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第二章:プリンセス、岐路に立つ

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「大丈夫かい? あの混雑で気分でも悪くなったのだろう。立てるかい?」
「……ら、らいりょうぶれす……」

 う……。呂律が回らない。逝かされすぎた。

「あー大丈夫じゃなさそうだね……」

 誰かしら……このイケメン?
 少なくてもあの痴漢じゃないわね……。アイツは列車が市街地に入ったらスカートを戻して何食わぬ顔で遠ざかっていった。あの満員の中でよくそんなことができるものよね。降りたらお返ししてやろうと思っていたのにすっかり逃げられてしまったわ……。

「ーーきゃっ!?」

 などと考え事をしていたらいきなり抱き上げられた。

「すまないね、いつまでも列車に乗っているわけにもいかないから抱えて降りるよ」

 爽やかな笑みを浮かべてホームへと降り立つイケメン。何この主人公オーラ!? 俺くんの記憶が若干引いてるわ。
 キラリや私は彼を見上げてほんの少し見とれてしまうのだけれど。俺くんは違うみたい。
 でもそれもおかしな表現かしらね。記憶であって意思や意識なんてない。だから多分そのどちらも混ざり合った私の気持ちなんだろうなこれ……。

「あ……ありがとうございます」

 ホームのベンチで降ろされた私はひとまずお礼を伝える。

「どういたしまして。この時間の混雑は僕でもキツイ。出来れば時間をずらしたほうがいいよ。前後どちらかに一つずらすだけで随分とましになるからね」
「そうなんですか……今度はそうします」

 今度はないと思うけれど。

「それじゃ僕は行くから、気分が良くなるまでゆっくりしていくといい」
「はい、色々ありがとうございました」

 最後まで爽やかに、イケメンは改札の向こうへと消えていった。

「ふぅー……。『癒しの光ヒーリング』」

 ……よし! これで体は回復。宿を取りに向かいましょうか。

「ひ、姫さま……」

 すぐ耳元からアンの声。私が言うのも何だけれど、凄く官能的よ今のあなたの声。

「『癒しの光ヒーリング』」
「ありがとうございます……」
「どういたしまして。殆ど私の所為だし、気にしないでいいわよ」

 感覚を共有するアンは列車の中で大変なことになっていた。でも姿を消せるアンの方がずっといいと思うの。私なんてホント大変だったんだから。


「……姫様、あとをつけられています」
「……何者?」

 何度目かの路地を曲がった時、アンからそう告げられた。
 なんだか視線を感じるとは思っていたのだけれど、気のせいではなかったみたい。

「フードを被っているので確定は出来ませんが……列車の男です」
「え? あのイケメンさん?」

 意外。あんなに爽やかなそうだったのにストーカーだったのね!?

「もちろん違います」
「……そうよね。あっちの方よね」
「そうですね。誰かさんがハッキリと拒絶しなかったから……」
「何をブツブツ言ってるのかしら?」
「いいえ、何でもありません。それで姫様、如何されますか?」

 そうね……。降りたらやり返す……あ、ちょっと、エ○チなことじゃないわよ!? 捕まえて衛兵に引き渡すってことよ!?
 もう、一体誰に言い訳してるのよ……。

「どこか適当な路地に入って返り討ちにします」
「かしこまりました。マップで丁度いい場所を探します」
「ええ、お願いね」


「姫様、そこの角を右に曲がってください。その先がいい感じに行き止まりになっています」
「わかったわ……」

 一見すると不慣れな旅人が間違えて曲がりそうな感じに見えるわね。あからさまに誘うようだと警戒されるかと思ったけれど、これなら大丈夫そうね。
 さあ痴漢さん、お仕置きタイムよ。ストレージから取り出したナイフに『魔法付与:麻痺エンチャントパラライズ』の魔法をかける。素早さだけは高いからこれでなんとかなると思うけれど……一応『七曜の加護ステラブースト』もかけておこうかしら。
 これで準備万端、先ほどのお礼をさせて頂きますわよ、覚悟しなさい!
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