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第一章:プリンセス、冒険者になる
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十数メートルの崖を降りた先。そこはもう水晶の洞窟の第三層になる。
ほぼ垂直の崖を命綱を頼りに降下するだなんて……ホント有り得ない!
私インチキ魔法使いでよかったと心の底から思った瞬間だった。神さまありがとぉぉっっ!!
……いや待て!? よく考えたらこの境遇がそもそも問題アリでは!? うぬぬ……やっぱさっきの感謝ナシで!!(笑)
さて。ここからはもういつキマイラと遭遇してもおかしくない彼らの領域。言ってみればキマイラさんのお宅へアポなし訪問みたいなもの。不法侵入者には手荒い歓迎がなされてもおかしくない。だから最大限警戒して進まなくてはならない。
ご存知の通りキマイラは多くのゲームで登場する定番モンスターで、その姿はライオンの頭と山羊の体、尻尾が蛇という何というかすごいモンスターだ。
最初は中ボス扱いで登場して終盤はザコ敵扱いされてる事が多い気がするだけあって強いモンスターではない。
それは『まほプリ』でも同様の事だった。
俺の記憶では特別エロイベにも関わりがなかったはずだけど、一応警戒はしておいた方がいいだろうか? そもそもファンタジーではキマイラという魔物は淫欲や悪魔の化身みたいな意味(?)を持って描かれる事が多い。淫欲とかそのままストレートなのってやめてほしいよね。自分のスキルを思い出すと嫌な予感しかしないもの……ってこういうのってもしかしてフラグって奴!? やだ、違うからねっ!?
第三層の探索はここまでの隊列から少し変化して二列縦隊となる。四人だから前二後二というだけだけど、モノは言いようだと思った。
出発前の打ち合わせ通り、ジェイクさんとラーサスさんが前方の状況を確認してから私とミレーヌさんの後衛が進む。
前衛と後衛が一時的に距離を開けることになるが、互いにフォロー出来る程度までの距離であり、実際の戦闘時の状況でもあるらしい。この距離を遠いと感じるのか近いと感じるのか、それは私にはよくわからない。
ただ、回復魔法を使う為には対象の側に行かなくてはならないから、状況によってはキツイのではないかと危惧してしまう。
浮遊光の灯りはカンテラに収めて光が一方向のみを照らすようにしている。前方の灯りを追いつつ私たちも二つ目の浮遊光inカンテラを使って足元を照らす。
空飛ぶ懐中電灯みたいな感じで手を塞がずに済むのは非常に有難い。さすがに前衛組の方までは操作できないから向こうは手動だけど。
ちなみにこうしてカンテラに収める案はラーサスさんから。浮遊光そのままでは光が強すぎる上に全方位だから相手に見つけてくれと言っているようなもの。少しでも有利な状況を作れるのならそれに越したことはない。
ただでさえ相手は魔物で音や匂いに敏感なはず。その上光で位置を教えるなんて以ての外というわけだ。
言われるまで想像すらしなかった。それを考えるとゲームって色々とご都合主義で成り立っているなと痛感する。当たり前かもしれないけれど。
第三層は二層よりも更に広い通路とまるでここで戦ってくださいとでも言わんばかりのホールのような部屋というか空間で構成されている。その部屋同士がいくつもの通路で繋がりまるでアリの巣のような様相を呈している。基本的に行き止まりはなく必ずどこかに繋がっている為、下手をすると永遠に迷う羽目になりかねない。
その為通路の入り口に数字を刻みながら進んでいる。今回は前回のマップと刻んだ数字があるからそれを頼りに目標地点を目指しているが、本来ならそうしたマッピング作業も後衛の担当する仕事なのだろう。
意外と適当に進んでもいつかは目的地にたどり着けるけれかもしれないけれど、逆に延々と彷徨い続ける可能性でもある訳で、それは怖い事だと思った。
これがリアル洞窟探検なんだと実感する。
役に立つかどうかはわからないけど、ゲームの情報を思い出してみる。
基本的にシンボルエンカウント制のRPGだったから雑魚モンスターがウロウロする中を躱しながら進み、広い部屋で強制バトルやイベントが発生した。
ある意味リアルもそういう感じになるかもしれない。上手く躱すか強襲するか。逆に相手に先手を取られる可能性だってある。
ダンジョンがゲームと同じ構造のままだと仮定すると出入口イコール私たちが入ってきた経路となるので、大型モンスターであるキマイラの存在がおかしな事になる。
もし外に出られないとすれば大型のモンスターは放っておけば勝手に飢え死にしてしまうだろう。洞窟の中ではあまりにも食べるものが無さすぎる。だから彼らが出入り可能な別の出入り口が存在する筈だ。
それにそうでなければそもそもこの場所に大型モンスターがいること自体が理屈に合わない。
恐らく推測したような現実に則した改変はあるだろうけど俺の知識や情報が全くの無意味になる事はないだろう。盲信する訳にはいかないが何かの足しにでもなればいい。それくらいの感覚でいようと思う。
さて、ラーサスさんのハンドサインに従ってストップ・アンド・ゴーを繰り返すこと数度。いくつ目の広間か数えていないけれど……。
「ーー!?」
後ろにいてもわかるほどはっきりとした威圧感。同時に慣れた鼻にすらツンとくる程に濃い獣の臭いとそして……血の匂い。
「……補助魔法をかけます」
通路の端で隠れるように中を伺う二人に追いつき、すぐに魔法を使う。
全ステータス上昇、防御力アップ、攻撃力アップ。念の為魔法防御アップもかけておく。 考えていたバフを順に付与していく。多少過剰かもしれないけれど、何かあってからでは遅い。私の魔力なんていくらでも余裕があるのだから節約する意味はない。だから必要以上に効果時間と効力を拡大しておく。
まさに過ぎたるは及ばざるが如しーーって違う違う。それじゃ逆だよ。えっとこういうのは何て言うんだっけ? えっと、帯に短……も違うな……あーもうここまで出かかってるのに出てこない! うー、あー、うー……。もういいや。大は小を兼ねるってヤツよ!!
「……完了です。回復は任せてください。それと、知っていると思いますが毒攻撃があるはずです。私から離れすぎないように上手く立ち回ってください」
「詮索はしたくないが……これだけの魔法を使って本当に大丈夫なのか?」
ラーサスさんの驚きと言いたいことはわかる。恐らく普通の魔法使いなら既に魔力が足りていないはず。それなのに私は全く平気ときた。驚くのも無理はないけれど平気なものは平気なんだし、余計な詮索はしない約束だしね。
私も詳しく説明するつもりはないし、説明しても理解されないような気がする。ちょっと……うん。頭がおかしくなっちゃうかもしれないしね。だから一言「平気です」と笑顔で伝えるだけ。
「全く問題ありません。それとまだまだいけますよ」
「……そうか。わかった。頼りにしている。サポートは任せる!」
「はい」
「待たせたなジェイク」
「構わん。それで納得したか?」
「ああ、頼りになるってことがわかったさ」
「だろ? よし、いくぞ!」
軽く拳を合わせる男たち。
二人のそのやり取りを少しだけカッコイイと思ってしまった。心の奥底にある男としての熱い何かに触れるような感覚。
やってやるぜぇぇっっ! みたいな?
誰一人欠ける事なく依頼を達成したい。そんな気持ちがものすごく強くなる。
準備万端、絶対大丈夫! これなら負けることなんてないはず。彼らを信じよう!!
「灯りを解き放ちます」
暗闇では戦う事が出来ない。不意をつければいうことはないのだけど、洞窟の中では不可能。だから一気に突入して相手の体制が整う前に先手を取る。
カンテラを開いてば中の光を解放する。
高く飛ばした浮遊光が照らし出すのは凄く広い空間。如何にもボス部屋という感じの仰々しさこそないけれど、自然洞窟ならこんなものだろう。
それでも今まで通ってきた部屋よりも広く、正面奥に通路とは違う大きな穴が見えた。十中八九あそこが外と繋がっているに違いない。
そして肝心のキマイラは……。いた!! 奥の方の暗がりで蠢く一際濃い影、グチャグチャと聞こえる何かを噛み締める音。
そちらを照らすように浮遊光を動かせば白日のもとに晒されたモンスターは間違いなくキマイラだ。でもどこかちょっとイメージと食い違う? それが何かはわからないけれど。
そしてもう一つ。想像よりも大きかったということ。
私のイメージでは象くらいのサイズ感だったのだけれど……蹲っていてなおそのサイズを上回っている!?
「ラーサス!」
「ああ、任せろ!」
盾を構えてジェイクさんがキマイラの正面に、ラーサスさんは側面に回り込むように移動する。
私たちも十分な距離を確保しつつサポート可能なポジションへ。
こちらもキマイラもまだお互いに攻撃できる距離ではない。食事の手こそ止めてはいるがこちらを脅威に感じていないのか立ち上がりすらしていない。
初撃はラーサスさんの攻撃魔法から。ジェイクさんが飛び込める間合いに入ったことを合図すると一度みんなの視線が交錯する。
ミレーヌさんが弓を引き絞る。
私も剣を片手にいつでもフォローに動けるように備える。
こちらの配置は整った。
ラーサスさんが手を挙げて、そして振り下ろした!!
グルォオオオオオオ!!!
こちらの動きに呼応するかのようにキマイラが吠えた。そしてゆっくりと立ち上がる。
そのまま油断してくれていてもよかったのに!!
「ーーフレイムランス!!」
ラーサスさんの力ある言葉が響いて生み出された灼熱の槍がキマイラの横腹に炸裂した!
グルォオオオオオオ!!!!
痛みか、威嚇か、再び咆哮するキマイラ。
「よそ見してんじゃねぇ!!」
キマイラがラーサスさんの方を向いた時にはジェイクさんのバトルハンマーが振り下ろされていた。
それは狙い通り前足の関節部分にヒットして骨を砕く鈍い音とキマイラの絶叫。
しかし態勢を崩しながらもキマイラもやられっぱなしではなかった。とんでもない速さで尻尾を振るってジェイクさんに襲いかかったのだ!!
グギャォオオオオオオオオ!!
「ーー!!」
大丈夫ちゃんと盾で受け留めている!!
それよりもミレーヌさん!! あの状況でも的確にキマイラの目を射抜くだなんて……。凄い! 凄すぎる!!
興奮する私をよそに当のミレーヌさんは平然として次の矢の狙いを定めていた。
……これが熟練冒険者達の戦い。初めて目にする本気の戦いに足が竦む。怖さとか興奮とかなんだかよくわからない高揚感にまるで熱に浮かされたような落ち着かなさ。
平静さはとうに失われていて、私は戦いから取り残されていた。ただ剣を握りしめて見ている事しか出来ないまま戦いは進んでいく。
キマイラは右足を負傷した為、動きに精彩を欠いている。こちらの初撃が狙い通りに決まった結果、戦闘を優位に進めることができている。
現在は想定通りにジェイクさんが正面でキマイラの注意を引き、側面を移動しながらラーサスさんが槍と魔法でキマイラの体力を削っていく。
ダメージを受けて標的が移りそうになるとすかさず矢が飛んでキマイラの気を逸らす。
僅かな時間キマイラは誰を狙うべきか夋巡するかのように動きに無駄が多くなる。その隙にまたジェイクさんがヘイトを取りキマイラを引きつける。
三人の連携がキマイラに決定機を与える事なく順調にダメージを積み重ねていく。
それでも巨体ゆえに前衛の二人に危険が迫るシーンがあったけれど、その際もミレーヌさんの矢がフォローに飛び事なきを得た。僅かにタイミングが狂うだけで攻撃は格段に捌きやすくなるのだろうけれど、それをこのレベルで実践できることが凄い!
少しずつ冷静さを取り戻してきたから私にもよくわかる。彼らは強い。レベルでは測れないそんな強さを備えている。だからこそこの依頼を任されたのだし、遂行する実力も十分だと思う。現に三人でもキマイラ相手なら全く問題ないように思える。
それなのにーー。
そう。それなのに前回は失敗してしまった。しかも仲間に犠牲者が出る程の潰走を喫してしまった。
何故?
これ程の立ち回りが出来る彼らがもう一人魔法使いという頼れる仲間がいたのに何故?
順調に見えていた討伐に影がさしたような気がした。なんだろう、何か嫌な予感がする。
ーーーーー
2021.02.21改稿
初稿よりもイメージしていたモノに近づけた気がします。でもやっぱり戦闘シーンは難しいですね。
しかも誤字脱字いっぱい残ってましたね。追加で修正しました。(2.22)
ほぼ垂直の崖を命綱を頼りに降下するだなんて……ホント有り得ない!
私インチキ魔法使いでよかったと心の底から思った瞬間だった。神さまありがとぉぉっっ!!
……いや待て!? よく考えたらこの境遇がそもそも問題アリでは!? うぬぬ……やっぱさっきの感謝ナシで!!(笑)
さて。ここからはもういつキマイラと遭遇してもおかしくない彼らの領域。言ってみればキマイラさんのお宅へアポなし訪問みたいなもの。不法侵入者には手荒い歓迎がなされてもおかしくない。だから最大限警戒して進まなくてはならない。
ご存知の通りキマイラは多くのゲームで登場する定番モンスターで、その姿はライオンの頭と山羊の体、尻尾が蛇という何というかすごいモンスターだ。
最初は中ボス扱いで登場して終盤はザコ敵扱いされてる事が多い気がするだけあって強いモンスターではない。
それは『まほプリ』でも同様の事だった。
俺の記憶では特別エロイベにも関わりがなかったはずだけど、一応警戒はしておいた方がいいだろうか? そもそもファンタジーではキマイラという魔物は淫欲や悪魔の化身みたいな意味(?)を持って描かれる事が多い。淫欲とかそのままストレートなのってやめてほしいよね。自分のスキルを思い出すと嫌な予感しかしないもの……ってこういうのってもしかしてフラグって奴!? やだ、違うからねっ!?
第三層の探索はここまでの隊列から少し変化して二列縦隊となる。四人だから前二後二というだけだけど、モノは言いようだと思った。
出発前の打ち合わせ通り、ジェイクさんとラーサスさんが前方の状況を確認してから私とミレーヌさんの後衛が進む。
前衛と後衛が一時的に距離を開けることになるが、互いにフォロー出来る程度までの距離であり、実際の戦闘時の状況でもあるらしい。この距離を遠いと感じるのか近いと感じるのか、それは私にはよくわからない。
ただ、回復魔法を使う為には対象の側に行かなくてはならないから、状況によってはキツイのではないかと危惧してしまう。
浮遊光の灯りはカンテラに収めて光が一方向のみを照らすようにしている。前方の灯りを追いつつ私たちも二つ目の浮遊光inカンテラを使って足元を照らす。
空飛ぶ懐中電灯みたいな感じで手を塞がずに済むのは非常に有難い。さすがに前衛組の方までは操作できないから向こうは手動だけど。
ちなみにこうしてカンテラに収める案はラーサスさんから。浮遊光そのままでは光が強すぎる上に全方位だから相手に見つけてくれと言っているようなもの。少しでも有利な状況を作れるのならそれに越したことはない。
ただでさえ相手は魔物で音や匂いに敏感なはず。その上光で位置を教えるなんて以ての外というわけだ。
言われるまで想像すらしなかった。それを考えるとゲームって色々とご都合主義で成り立っているなと痛感する。当たり前かもしれないけれど。
第三層は二層よりも更に広い通路とまるでここで戦ってくださいとでも言わんばかりのホールのような部屋というか空間で構成されている。その部屋同士がいくつもの通路で繋がりまるでアリの巣のような様相を呈している。基本的に行き止まりはなく必ずどこかに繋がっている為、下手をすると永遠に迷う羽目になりかねない。
その為通路の入り口に数字を刻みながら進んでいる。今回は前回のマップと刻んだ数字があるからそれを頼りに目標地点を目指しているが、本来ならそうしたマッピング作業も後衛の担当する仕事なのだろう。
意外と適当に進んでもいつかは目的地にたどり着けるけれかもしれないけれど、逆に延々と彷徨い続ける可能性でもある訳で、それは怖い事だと思った。
これがリアル洞窟探検なんだと実感する。
役に立つかどうかはわからないけど、ゲームの情報を思い出してみる。
基本的にシンボルエンカウント制のRPGだったから雑魚モンスターがウロウロする中を躱しながら進み、広い部屋で強制バトルやイベントが発生した。
ある意味リアルもそういう感じになるかもしれない。上手く躱すか強襲するか。逆に相手に先手を取られる可能性だってある。
ダンジョンがゲームと同じ構造のままだと仮定すると出入口イコール私たちが入ってきた経路となるので、大型モンスターであるキマイラの存在がおかしな事になる。
もし外に出られないとすれば大型のモンスターは放っておけば勝手に飢え死にしてしまうだろう。洞窟の中ではあまりにも食べるものが無さすぎる。だから彼らが出入り可能な別の出入り口が存在する筈だ。
それにそうでなければそもそもこの場所に大型モンスターがいること自体が理屈に合わない。
恐らく推測したような現実に則した改変はあるだろうけど俺の知識や情報が全くの無意味になる事はないだろう。盲信する訳にはいかないが何かの足しにでもなればいい。それくらいの感覚でいようと思う。
さて、ラーサスさんのハンドサインに従ってストップ・アンド・ゴーを繰り返すこと数度。いくつ目の広間か数えていないけれど……。
「ーー!?」
後ろにいてもわかるほどはっきりとした威圧感。同時に慣れた鼻にすらツンとくる程に濃い獣の臭いとそして……血の匂い。
「……補助魔法をかけます」
通路の端で隠れるように中を伺う二人に追いつき、すぐに魔法を使う。
全ステータス上昇、防御力アップ、攻撃力アップ。念の為魔法防御アップもかけておく。 考えていたバフを順に付与していく。多少過剰かもしれないけれど、何かあってからでは遅い。私の魔力なんていくらでも余裕があるのだから節約する意味はない。だから必要以上に効果時間と効力を拡大しておく。
まさに過ぎたるは及ばざるが如しーーって違う違う。それじゃ逆だよ。えっとこういうのは何て言うんだっけ? えっと、帯に短……も違うな……あーもうここまで出かかってるのに出てこない! うー、あー、うー……。もういいや。大は小を兼ねるってヤツよ!!
「……完了です。回復は任せてください。それと、知っていると思いますが毒攻撃があるはずです。私から離れすぎないように上手く立ち回ってください」
「詮索はしたくないが……これだけの魔法を使って本当に大丈夫なのか?」
ラーサスさんの驚きと言いたいことはわかる。恐らく普通の魔法使いなら既に魔力が足りていないはず。それなのに私は全く平気ときた。驚くのも無理はないけれど平気なものは平気なんだし、余計な詮索はしない約束だしね。
私も詳しく説明するつもりはないし、説明しても理解されないような気がする。ちょっと……うん。頭がおかしくなっちゃうかもしれないしね。だから一言「平気です」と笑顔で伝えるだけ。
「全く問題ありません。それとまだまだいけますよ」
「……そうか。わかった。頼りにしている。サポートは任せる!」
「はい」
「待たせたなジェイク」
「構わん。それで納得したか?」
「ああ、頼りになるってことがわかったさ」
「だろ? よし、いくぞ!」
軽く拳を合わせる男たち。
二人のそのやり取りを少しだけカッコイイと思ってしまった。心の奥底にある男としての熱い何かに触れるような感覚。
やってやるぜぇぇっっ! みたいな?
誰一人欠ける事なく依頼を達成したい。そんな気持ちがものすごく強くなる。
準備万端、絶対大丈夫! これなら負けることなんてないはず。彼らを信じよう!!
「灯りを解き放ちます」
暗闇では戦う事が出来ない。不意をつければいうことはないのだけど、洞窟の中では不可能。だから一気に突入して相手の体制が整う前に先手を取る。
カンテラを開いてば中の光を解放する。
高く飛ばした浮遊光が照らし出すのは凄く広い空間。如何にもボス部屋という感じの仰々しさこそないけれど、自然洞窟ならこんなものだろう。
それでも今まで通ってきた部屋よりも広く、正面奥に通路とは違う大きな穴が見えた。十中八九あそこが外と繋がっているに違いない。
そして肝心のキマイラは……。いた!! 奥の方の暗がりで蠢く一際濃い影、グチャグチャと聞こえる何かを噛み締める音。
そちらを照らすように浮遊光を動かせば白日のもとに晒されたモンスターは間違いなくキマイラだ。でもどこかちょっとイメージと食い違う? それが何かはわからないけれど。
そしてもう一つ。想像よりも大きかったということ。
私のイメージでは象くらいのサイズ感だったのだけれど……蹲っていてなおそのサイズを上回っている!?
「ラーサス!」
「ああ、任せろ!」
盾を構えてジェイクさんがキマイラの正面に、ラーサスさんは側面に回り込むように移動する。
私たちも十分な距離を確保しつつサポート可能なポジションへ。
こちらもキマイラもまだお互いに攻撃できる距離ではない。食事の手こそ止めてはいるがこちらを脅威に感じていないのか立ち上がりすらしていない。
初撃はラーサスさんの攻撃魔法から。ジェイクさんが飛び込める間合いに入ったことを合図すると一度みんなの視線が交錯する。
ミレーヌさんが弓を引き絞る。
私も剣を片手にいつでもフォローに動けるように備える。
こちらの配置は整った。
ラーサスさんが手を挙げて、そして振り下ろした!!
グルォオオオオオオ!!!
こちらの動きに呼応するかのようにキマイラが吠えた。そしてゆっくりと立ち上がる。
そのまま油断してくれていてもよかったのに!!
「ーーフレイムランス!!」
ラーサスさんの力ある言葉が響いて生み出された灼熱の槍がキマイラの横腹に炸裂した!
グルォオオオオオオ!!!!
痛みか、威嚇か、再び咆哮するキマイラ。
「よそ見してんじゃねぇ!!」
キマイラがラーサスさんの方を向いた時にはジェイクさんのバトルハンマーが振り下ろされていた。
それは狙い通り前足の関節部分にヒットして骨を砕く鈍い音とキマイラの絶叫。
しかし態勢を崩しながらもキマイラもやられっぱなしではなかった。とんでもない速さで尻尾を振るってジェイクさんに襲いかかったのだ!!
グギャォオオオオオオオオ!!
「ーー!!」
大丈夫ちゃんと盾で受け留めている!!
それよりもミレーヌさん!! あの状況でも的確にキマイラの目を射抜くだなんて……。凄い! 凄すぎる!!
興奮する私をよそに当のミレーヌさんは平然として次の矢の狙いを定めていた。
……これが熟練冒険者達の戦い。初めて目にする本気の戦いに足が竦む。怖さとか興奮とかなんだかよくわからない高揚感にまるで熱に浮かされたような落ち着かなさ。
平静さはとうに失われていて、私は戦いから取り残されていた。ただ剣を握りしめて見ている事しか出来ないまま戦いは進んでいく。
キマイラは右足を負傷した為、動きに精彩を欠いている。こちらの初撃が狙い通りに決まった結果、戦闘を優位に進めることができている。
現在は想定通りにジェイクさんが正面でキマイラの注意を引き、側面を移動しながらラーサスさんが槍と魔法でキマイラの体力を削っていく。
ダメージを受けて標的が移りそうになるとすかさず矢が飛んでキマイラの気を逸らす。
僅かな時間キマイラは誰を狙うべきか夋巡するかのように動きに無駄が多くなる。その隙にまたジェイクさんがヘイトを取りキマイラを引きつける。
三人の連携がキマイラに決定機を与える事なく順調にダメージを積み重ねていく。
それでも巨体ゆえに前衛の二人に危険が迫るシーンがあったけれど、その際もミレーヌさんの矢がフォローに飛び事なきを得た。僅かにタイミングが狂うだけで攻撃は格段に捌きやすくなるのだろうけれど、それをこのレベルで実践できることが凄い!
少しずつ冷静さを取り戻してきたから私にもよくわかる。彼らは強い。レベルでは測れないそんな強さを備えている。だからこそこの依頼を任されたのだし、遂行する実力も十分だと思う。現に三人でもキマイラ相手なら全く問題ないように思える。
それなのにーー。
そう。それなのに前回は失敗してしまった。しかも仲間に犠牲者が出る程の潰走を喫してしまった。
何故?
これ程の立ち回りが出来る彼らがもう一人魔法使いという頼れる仲間がいたのに何故?
順調に見えていた討伐に影がさしたような気がした。なんだろう、何か嫌な予感がする。
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初稿よりもイメージしていたモノに近づけた気がします。でもやっぱり戦闘シーンは難しいですね。
しかも誤字脱字いっぱい残ってましたね。追加で修正しました。(2.22)
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