魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第一章:プリンセス、冒険者になる

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 数分後、いいようにあしらわれて床に転がる私がいた。
 敵うわけないじゃないのよ。初撃が失敗した時点で私にできることはない。こんなことなら念のため属性剣を使っておけばよかったわ……。

「速さは相当だ……しかしそれだけだな。剣技はもとより力強さや体力が圧倒的に不足している。随分と歪な成長をしたものだな……」

 ハァハァハァ……。

 それはそうでしょうよ。おかしな種族になったおかげでとんでもない成長をしてますからね。
 それにしてもこの扱いはないんじゃないかしら? 仮にも女の子ですよ私? 何でこんなにもしごかれなくちゃならないんですか!?

「ハァハァ……ハァ……疲れましたわ……『癒しの光ヒーリング』」

 基本の回復魔法ヒーリングを使う。この魔法実はとても便利で、生命力の回復だけでなく失われたスタミナも回復してくれる。流石に空腹までは満たしてくれないけれど、冒険をする上で随分と重宝する魔法の一つなのは間違いない。ファンタジー世界では体力は重要ですよ。
タクシーとかありませんからね。
 それにしても、レベルいくつくらいなんでしょうか、この担当官さんは? 私の速さに十分対応していましたね。そうすると少なくとも同等程度のステータス持ち。このレベルが冒険者の主流だとしたらもう少し色々な手段を検討しておいた方がいいかもしれないわね。

「やはり私の剣では敵いませんね。さすがは元ベテラン冒険者です」

 魔法を使うか、ステ5倍の『神々の祝福』を使えば速度600だから何とでも……いえダメね、そんな速度で動けても私の感覚がついていかないわ。2倍でも無様に突進してしまったのだし、ちょっと慣れる必要がありそうね。

「当たり前だ。冒険者になろうとしてる奴に簡単に負けるわけにはいかんだろうが」

 ごもっともです。

「よし、次は初級のクエストに挑戦してみようか。即席だがそこの三人とお嬢ちゃん、そして俺の五人ですぐそこの砦跡の魔物退治に行く。三十分休憩したら出発する、いいな!」
「「はい!」」

 一応みんなと一緒に返事をしておく。レッド、ブルー、イエローの三人の若者とピンクの私、で何の偶然か筋肉教官は黒髪のおじさん。あらまぁ戦隊ヒーローが完成しちゃったわよ。

「俺は付き添いだからお前たちでクエストを進めろ。これが終わればライセンス交付だ。ただし、そこの三人はもう少し戦闘訓練が必要だな。しばらく修練場に通え。俺がしごいてやる。では休憩だ」

 三人が部屋を出て行く。私も続いて出ようとして呼び止められた。

「すまんがお嬢ちゃんには少し話がある」

 ギルドの担当官三人に囲まれる。
 ちょっと……いやかなり嫌な予感がする。

「お前魔法スキルのレベルはいくつだ?」
「ほえ……」

 まさかそんな事を聞かれるとは思わなかった。どうする……見せた魔法は『ヒーリング』と『護りの風』だから、最低でも2レベルなら辻褄は合う。でも鑑定石か鑑定の魔法を使う事になれば色々とまずい事が発覚してしまう。
 どうしよう……どう答えればいい?

「どうした? 言えんのか? ならば俺が言ってやろう。お前少なくとも5レベル程度の魔法は使いこなせるだろう?」
「ーー何で!?」
「先ほどのお前の身体能力は本来のものではなく、増幅したものだろう? 速さや力の入れ具合など不自然な点が多かった。おそらく『七曜の加護』による増幅だな」

 まさかそんな事まで見抜かれるだなんて……ベテラン冒険者恐るべしね。でもまずいわね……。

「気づかれないとでも思ったか? 甘いな。全ての動作が速さに振り回されていた。どう考えても本来のものではないと判断できよう」

 なるほど、やっぱりスピードに慣れなくてはダメなのね。

「………………」

 でも、それだけで今のこの状況になるのかしら?

「何、そう警戒するな。別にとって食おうというわけではない。なぁラーサス」

 あ、眼鏡さんはラーサスという名前みたい。別に知ったところでどうもしないけれど。

「そうだな。優秀な冒険者が増える事に異存はない。そして高レベルのヒーラーは特に需要が高い」
「そういう言い方はよせ。人は物じゃない。すまんな気を悪くするな。アイツも別に物扱いしてるわけじゃないんだが、賢い奴はすぐ難しい言い方をしたがるんだ。俺は誰にでも分かりやすく話せることの方がずっと賢いと思うんだがな」

 確かにそうね。知識のない人にもわかるように話せる人の方が凄く賢いと思う。お城にもいたわね、専門的な言葉を使いたがる教育係が……。その言葉を知らない私からしたら話を理解するためにその言葉について教わって、その中に出てきた専門用語をまた教わって……結局わかりやすく説明できる人だったらしなくていい遠回りを一体何度させられた事か……。
 キラリ姫はこう見えて割と頭が良かったみたいだから……あれ? 知力値普通だったわね……。これこの子の思い込みかしら……。

「クスクス……。本当にそうですね。なのでもっと分かりやすく目的を話していただいてもよろしいですか?」

 そう、理由もなく他者のスキルを暴きには来ないだろう。これは……場合によっては冒険者になる道を諦めなきゃいけないわね。いつでも魔法を発動できるようにしておきましょう。
 警戒を強める私と一定の距離を置いて三人はお互いに目配せをして頷いた。

「頼みたいことがある。ある依頼に同行してもらいたい。時間がない、出来るだけ早く返事が欲しい。危険はゼロではない。報酬も我々から幾ばくかしか用意できない。条件のいい話ではない。それでもどうか頼まれてもらいたい」

 そう言ってギルド職員三人が揃って頭を下げた。

「………………」

 もう! なんて断り辛い状況なのよ!!
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