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第一章:プリンセス、冒険者になる
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冒険者登録は誰でも出来る。
登録者本人が必要事項を申請用紙に書いて提出しいくつかの手続きを経ればそれで完了する。
私も申請用紙に名前と年齢、性別、職業……剣士とか魔法使いとかそういったものを記入して先ほど提出した。
今は担当官による面談を待っているところ。私より前に三人の若い子たちが登録待ちをしていた。何となく彼らの話を聞いていると仲間三人で一緒に登録しに来たみたいだった。
なるほど、同じ村出身の友達とかそういったタイプだろう。いきなり見ず知らずの人とパーティーを組むのは敷居が高いから、そういう子たちが多いのかもしれない。
まぁ私は一人で行くしかないのだけれど、それは公にしづらいスキル満載だから仕方のない事。でも一番の理由はアンと自由に会話をできなくなるのが嫌だから。私にとってこれは何にも勝る大きな理由だと思う。
さて、そろそろかしら?
前の男の子が呼ばれて五分くらい。大体そのくらいのペースで順番に呼ばれているから、ようやく? 遂に? とにかく次は私の番。
いざとなるとやっぱり少し緊張するわね。
何だか面接前の心境だわーーって面接だったわね。(笑)
落ち着いて。大丈夫、たいしたことは聞かれない。素直に答えれば大丈夫。ゲームでも同じような流れだったから心配無用よ!
ガチャリ。
「ありがとうございました!」
三人目のお兄さんが出てきた。表情は特に問題なさそう。よし、私も頑張るぞ!
「ーー次の人、入って来なさい」
「失礼します!」
部屋の中はまるっきり面接の様相で男の人と女の人の二人が長机を前にして座っている。手にした書類は私が書いた申請用紙の複写だろうか?
机の前、少し離れた椅子の側へ移動して面接官……じゃなくて担当官の言葉を待つ。
「よろしい座りなさい」
「はい、失礼します」
ふっふっふっ……。面接のマナーはバッチリだ。これでも面接で落とされたことはないのだよ。
「名前とメインクラス又は希望クラスを言いなさい」
書類に書きましたけど……とは言えないので、素直に答える。
「キラリです。メインに軽戦士、サブに魔法使いを考えています。魔法は特に回復系統が得意です」
「ヒーラーではダメなのかな?」
「えっと訳あってフィンの街へ行かなくてはならないので、一人でもある程度は戦闘をこなせるようになりたいと思っています」
ゲームと違ってジョブにこだわる必要はないのかもしれないけれど、回復術師の一人旅というのはあまりイメージ出来ない。かと言って魔法使いというのも色々と問題がある。
私の場合威力が強すぎるのだ。それこそ初級魔法ですら必殺となり得る程に……。
だから戦士職プラス魔法を使えるという設定が妥当だと判断した訳である。しかも得意なのは回復魔法という事にしておけば攻撃魔法を使わずに済む。
「なるほど、了解した。しかし、冒険者としての身分だけで他国へ渡るためにはCランクまで上げる必要があることは知っているか? 貴族籍を持っていれば別だが、冒険者になろうという者は珍しい。故に簡単な事ではないぞ?」
あー! そう言えばそんな設定があったような気がする。ゲームでは適当にクエストしててもランクなんてあっという間に上がってたから気にしたことはなかったけれど、一定のランクに達した冒険者ライセンスは他国に渡る際の身分証として通用するようになる。まぁ発行国が責任を持つということなのだけれどありがたい話だ。
でも今はそれが問題でもある。
他国へ行く為には、つまり国家間の移動にはなんらかの身分証が必要になる。至極当然だけどファンタジーなんだしもう少し緩くても……。
でもまぁ、アレね。すっかり忘れていたわ。条件は大変だけれど今の私にとって用意できる最高の身分証が冒険者証なんだからなんとかするしかない。
「えっと、そういうものなんですね……。あの、ランクアップというのはかなり大変なことなのでしょうか?」
大変なのは間違いないと思うのだけれど、どのくらいかなんてさっぱり覚えていない。
「今回登録したと仮定して、発行時のランクはFだ。そこからCまで上げるとすると……。そうだな依頼数にして五十件程度、加えてある程度の功績ポイントも積む必要がある。スムーズに行ったとしても二年程度はかかるだろう」
「………………」
うわぁぁっっ……。それはキツイ。
冒険者ランクを上げるのにそこまで時間がかかるだなんて……。
「そんなに時間がかかるのですか……」
「国が身分を保証するのだから相応の実績が必要だということだな。どちらにしろ、まずは冒険者として登録が完了しなければ始まらない。この後の模擬戦でじっくり確認させてもらおう。ところでその外套はどこで手に入れたのか聞いてもいいかな?」
「ほぇ?」
意表をつかれた質問に思わず変な声を出してしまった。
ガルム様に頂いた外套なのだけれどどこかおかしかったのかしら?
「ごほん、失礼しました。これは以前お世話になった方から譲っていただいたものですが……どうかしましたか?」
まぁお世話には……なったわよね?
「そうか……とても上質な物に見えたのでね……鑑定してみないと断言はできないが、魔法の品のようだから少し気になってしまった。とてもいい色でよく似合っている。大切にするといい」
「はい、ありがとうございます」
さすがガルム様ですね。適当に選んでくれた物ですら魔法の品だなんて……。でも冒険者になりたい女の子が持っているのは分不相応なんじゃないかしら? 今の質問も恐らく不審がられたのよね? これから冒険者になろうとするような小娘が持つにはおかしいと。これは念のためカムフラージュ用のものを買っておいた方がいいかもしれないわね。
流石にどんな魔法がかけられているのか気にはなるけれど、今すぐどうこうしようがないからどうしようもないわね。とにかく余計なことを言わないように気をつけておきましょう。
「では模擬戦をするからついて来なさい」
「はい!」
そっか、私で最後だったからそのまま模擬戦に移行するのか……。ということは前の三人も一緒にということだろうか? ちょっとまずいかも知れないわね。念の為こっそりバフをかけておきましょう。
上昇幅二倍の『七曜の加護』で大丈夫だと思う。ちなみに他にも三倍の『覚醒の光』と五倍の『神々の祝福』がある。もちろん今の私ならどれでも使い放題というぶっ壊れっぷり。これ……強くてニューゲーム並みのような気がするわ。
……前言撤回。五倍にしても元が元だけに大したことがなかったわ。
……泣いてもいいかしら?
ーーーーー
2021.02.12改稿
いつも通りの修正でございます。
登録者本人が必要事項を申請用紙に書いて提出しいくつかの手続きを経ればそれで完了する。
私も申請用紙に名前と年齢、性別、職業……剣士とか魔法使いとかそういったものを記入して先ほど提出した。
今は担当官による面談を待っているところ。私より前に三人の若い子たちが登録待ちをしていた。何となく彼らの話を聞いていると仲間三人で一緒に登録しに来たみたいだった。
なるほど、同じ村出身の友達とかそういったタイプだろう。いきなり見ず知らずの人とパーティーを組むのは敷居が高いから、そういう子たちが多いのかもしれない。
まぁ私は一人で行くしかないのだけれど、それは公にしづらいスキル満載だから仕方のない事。でも一番の理由はアンと自由に会話をできなくなるのが嫌だから。私にとってこれは何にも勝る大きな理由だと思う。
さて、そろそろかしら?
前の男の子が呼ばれて五分くらい。大体そのくらいのペースで順番に呼ばれているから、ようやく? 遂に? とにかく次は私の番。
いざとなるとやっぱり少し緊張するわね。
何だか面接前の心境だわーーって面接だったわね。(笑)
落ち着いて。大丈夫、たいしたことは聞かれない。素直に答えれば大丈夫。ゲームでも同じような流れだったから心配無用よ!
ガチャリ。
「ありがとうございました!」
三人目のお兄さんが出てきた。表情は特に問題なさそう。よし、私も頑張るぞ!
「ーー次の人、入って来なさい」
「失礼します!」
部屋の中はまるっきり面接の様相で男の人と女の人の二人が長机を前にして座っている。手にした書類は私が書いた申請用紙の複写だろうか?
机の前、少し離れた椅子の側へ移動して面接官……じゃなくて担当官の言葉を待つ。
「よろしい座りなさい」
「はい、失礼します」
ふっふっふっ……。面接のマナーはバッチリだ。これでも面接で落とされたことはないのだよ。
「名前とメインクラス又は希望クラスを言いなさい」
書類に書きましたけど……とは言えないので、素直に答える。
「キラリです。メインに軽戦士、サブに魔法使いを考えています。魔法は特に回復系統が得意です」
「ヒーラーではダメなのかな?」
「えっと訳あってフィンの街へ行かなくてはならないので、一人でもある程度は戦闘をこなせるようになりたいと思っています」
ゲームと違ってジョブにこだわる必要はないのかもしれないけれど、回復術師の一人旅というのはあまりイメージ出来ない。かと言って魔法使いというのも色々と問題がある。
私の場合威力が強すぎるのだ。それこそ初級魔法ですら必殺となり得る程に……。
だから戦士職プラス魔法を使えるという設定が妥当だと判断した訳である。しかも得意なのは回復魔法という事にしておけば攻撃魔法を使わずに済む。
「なるほど、了解した。しかし、冒険者としての身分だけで他国へ渡るためにはCランクまで上げる必要があることは知っているか? 貴族籍を持っていれば別だが、冒険者になろうという者は珍しい。故に簡単な事ではないぞ?」
あー! そう言えばそんな設定があったような気がする。ゲームでは適当にクエストしててもランクなんてあっという間に上がってたから気にしたことはなかったけれど、一定のランクに達した冒険者ライセンスは他国に渡る際の身分証として通用するようになる。まぁ発行国が責任を持つということなのだけれどありがたい話だ。
でも今はそれが問題でもある。
他国へ行く為には、つまり国家間の移動にはなんらかの身分証が必要になる。至極当然だけどファンタジーなんだしもう少し緩くても……。
でもまぁ、アレね。すっかり忘れていたわ。条件は大変だけれど今の私にとって用意できる最高の身分証が冒険者証なんだからなんとかするしかない。
「えっと、そういうものなんですね……。あの、ランクアップというのはかなり大変なことなのでしょうか?」
大変なのは間違いないと思うのだけれど、どのくらいかなんてさっぱり覚えていない。
「今回登録したと仮定して、発行時のランクはFだ。そこからCまで上げるとすると……。そうだな依頼数にして五十件程度、加えてある程度の功績ポイントも積む必要がある。スムーズに行ったとしても二年程度はかかるだろう」
「………………」
うわぁぁっっ……。それはキツイ。
冒険者ランクを上げるのにそこまで時間がかかるだなんて……。
「そんなに時間がかかるのですか……」
「国が身分を保証するのだから相応の実績が必要だということだな。どちらにしろ、まずは冒険者として登録が完了しなければ始まらない。この後の模擬戦でじっくり確認させてもらおう。ところでその外套はどこで手に入れたのか聞いてもいいかな?」
「ほぇ?」
意表をつかれた質問に思わず変な声を出してしまった。
ガルム様に頂いた外套なのだけれどどこかおかしかったのかしら?
「ごほん、失礼しました。これは以前お世話になった方から譲っていただいたものですが……どうかしましたか?」
まぁお世話には……なったわよね?
「そうか……とても上質な物に見えたのでね……鑑定してみないと断言はできないが、魔法の品のようだから少し気になってしまった。とてもいい色でよく似合っている。大切にするといい」
「はい、ありがとうございます」
さすがガルム様ですね。適当に選んでくれた物ですら魔法の品だなんて……。でも冒険者になりたい女の子が持っているのは分不相応なんじゃないかしら? 今の質問も恐らく不審がられたのよね? これから冒険者になろうとするような小娘が持つにはおかしいと。これは念のためカムフラージュ用のものを買っておいた方がいいかもしれないわね。
流石にどんな魔法がかけられているのか気にはなるけれど、今すぐどうこうしようがないからどうしようもないわね。とにかく余計なことを言わないように気をつけておきましょう。
「では模擬戦をするからついて来なさい」
「はい!」
そっか、私で最後だったからそのまま模擬戦に移行するのか……。ということは前の三人も一緒にということだろうか? ちょっとまずいかも知れないわね。念の為こっそりバフをかけておきましょう。
上昇幅二倍の『七曜の加護』で大丈夫だと思う。ちなみに他にも三倍の『覚醒の光』と五倍の『神々の祝福』がある。もちろん今の私ならどれでも使い放題というぶっ壊れっぷり。これ……強くてニューゲーム並みのような気がするわ。
……前言撤回。五倍にしても元が元だけに大したことがなかったわ。
……泣いてもいいかしら?
ーーーーー
2021.02.12改稿
いつも通りの修正でございます。
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