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第一章:プリンセス、冒険者になる
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時計の針は十一時を少し回ったところ。さぁいよいよ冒険者としての一歩を踏み出す時がやってきた。
準備万端、細工は流々、後は仕上げを御覧じろ!? って気分ね。
それでもやっぱり気にはなるもので何度も何度もアンにおかしくないかと聞いてしまった。その度にアンは大丈夫です、とてもよくお似合いですよ。どこから見ても新米冒険者の女の子に見えますよ。
って言ってくれた。
まだ少し不安はあるけれど、ぎこちなさやちょっと初々しさが残るくらいが丁度いいのかもしれないと自分に言い聞かせる。
最後にもう一度自分の格好を確認。今装備しているものはついさっき開店と同時に飛び込んだ武具のお店で購入したもの。
革の胸当てと剣帯、冒険用の丈夫な洋服と革のショートブーツ。外套と短剣はガルム様のプレゼント。
洋服はパンツスタイルも考えたのだけど、可愛らしいミニ丈のワンピースとタイツを選んだ。
若葉のような綺麗な緑の服が紫紺の外套と上手く調和していると思う。胸当ての金色の装飾も凄くいい。当たり前だけどゲームと違って同じ胸当てでも一つ一つ色合いや革の風合いが全然違っていて、些細な事なんだけど現実となったこの世界に生きているんだ……ってすごく実感してしまった。選ぶのもすっごく楽しかった。
「アン……行きます!」
独り言のように呟く。でも独り言じゃない。耳元に小さな声が返ってくる。姫様なら大丈夫ですよ……と。
「本当に行くわよ!」
「はい姫様!」
「本当の本当に行きますよ? 行っちゃいますよ!?」
自分でもどうしてこんなにもドキドキワクワクソワソワしているのかわからない。何だか恥ずかしくてムズムズして足が前に進まない。
「もうっ! 早く行きましょうよ!」
ーードン!
あっ!? ちょっとアン!?
ヒドイわ!!
不意に背中を強く押されてしまうとーー。
私の体は冒険者ギルドの扉へと迫る!!
危ない!? 思わず伸ばした手が扉に当たるとーー!?
「ぁわわわわわっ!?」
扉があまりにも軽すぎてーーよくある酒場のウエスタンドアかと突っ込みたくなるような軽快さで開いてーーそのまま前のめりにギルド内へと突入してしまう!?
おっ、とっ、とっ、とーー!?
こける、コケル、転けるーーーーっ!!
ドン! ガン!
「きゃっ!?」
勢いよくぶつかった何かに咄嗟にしがみついたおかげでどうにか倒れずに済んだのだけど……。鎧の硬質感はともかく、何でしょうこの逞しい体つき……それなのにとてもいい香りがします。
恐る恐る顔を上げるとそこには朝見かけた綺麗な戦士のお姉さんの顔がありました。
驚いた表情も素敵です。
「大丈夫か?」
「ぁ、ぇ、ぁ、あのその……」
少し低めの声。ちょっと無骨な感じもするけれど、優しそうな口調。よかった怖い人じゃなくて……。
ああっ! 安心している場合じゃない。ぶつかったのに謝りもしないなんてとても失礼な事だわ!!
「も、申し訳ありません! 勢い余ってぶつかってしまいました! お、お怪我などはされていませんか?」
「まぁ、落ち着け。私は問題ない。それよりお前の方は大丈夫か、結構な勢いでぶつかってきたからな、怪我をしていないか?」
ああっっ!? 何て凛々しいお方でしょうか!? まるで物語の王子様のように煌めいて見えます!?
「は、はい、えっとその、だ、大丈夫でしゅっ!?」
はううぅぅっ! 噛んだ!? 見事に噛んだ。恥ずかしいよぉ……。せっかく格好良く冒険者デビューしようと思っていたのに、なんでこんな風になっちゃうのよ……。
こんなつもりじゃなかったのに!
「そうか。怪我がなくて何よりだ。それで、君のような女の子がここへ何の用かな?」
「え、あ、はい。冒険者の登録に来ました、キラリです!」
「おいおい慌てるな、私はギルドの人間じゃないぞ。君がなろうとしている冒険者だ。そうか、君は冒険者になるつもりなのか……」
私を見定めるような視線。もしかして私には無理だやめておけ。そんな風に言われるんだろうか? 確かに見た目で判断するなら私でもそう思う。それが実はレベルが限界突破してて、魔法スキルもバグってレベル百。おまけに妙なスキルをいっぱい取得しているだなんて思う訳がないものね……。
普通はそう。思う方がおかしい。だから目の前の戦士のお姉さんの反応は当たり前だろう。
「あの……」
「……ああ、すまない。ジロジロと見てしまった。詮索するつもりではないが、冒険者は実力主義の世界だ。君のような可愛い子が踏み入れる世界ではないが……。その様子だと承知の上なんだな。先輩としてはやめておきなさいと言いたいところだがーー」
「はい。ご心配いただき感謝します。ですが、私にも事情がありますので何とか頑張るつもりです」
そう、何とか無闇に人を傷つけないようにやるつもりです。
「そうだろうな。他人の人生や決意に出会ったばかりの私が何かを言えるはずもない。だがこれも何かの縁だ、この街にいる間は気軽に声をかけてくれ。私が教えられることがあれば何でも教えてやる」
「はい、ありがとうございます。……」
名前を呼ぼうとしてまだ聞いていない事に気付く。えっと、どうしようかしら、お名前を聞くのは失礼になるかしら?
「どうした? ああそうか、名乗っていなかったな。私はノイン。見ての通り剣士だ。よろしくキラリ」
「こちらこそよろしくお願いします、ノインさん」
差し出された手を取り挨拶をする。
ギルドで初めて出会った冒険者は凛とした佇まいの美人な女剣士ノインさんでした。
とても素敵な優しいお姉様です。
最初はぶつかってしまってどうしようかと思いましたけど、結果オーライというやつでしょうか? 変な男性冒険者にぶつかっていたらそれこそエ□イベント勃発の危機だったかもしれません。
それを思えば最高のスタートを切れたのかもしれません。
次はいよいよ冒険者登録!!
頑張れキラリ!! 頑張れ俺!!
次回、プリンセス冒険者になる!? をお楽しみに!!
……何て事を考える余裕が持てるようになりました。(笑)
ーーーーー
2021.02.12改稿
誤字脱字と少々の加筆を行いました。
いつもはもっと色々改変したくなるのですが、意外とそう思わないのはいいのか悪いのか? こんな私も日進月歩成長しているのだなと思う事に致します。
準備万端、細工は流々、後は仕上げを御覧じろ!? って気分ね。
それでもやっぱり気にはなるもので何度も何度もアンにおかしくないかと聞いてしまった。その度にアンは大丈夫です、とてもよくお似合いですよ。どこから見ても新米冒険者の女の子に見えますよ。
って言ってくれた。
まだ少し不安はあるけれど、ぎこちなさやちょっと初々しさが残るくらいが丁度いいのかもしれないと自分に言い聞かせる。
最後にもう一度自分の格好を確認。今装備しているものはついさっき開店と同時に飛び込んだ武具のお店で購入したもの。
革の胸当てと剣帯、冒険用の丈夫な洋服と革のショートブーツ。外套と短剣はガルム様のプレゼント。
洋服はパンツスタイルも考えたのだけど、可愛らしいミニ丈のワンピースとタイツを選んだ。
若葉のような綺麗な緑の服が紫紺の外套と上手く調和していると思う。胸当ての金色の装飾も凄くいい。当たり前だけどゲームと違って同じ胸当てでも一つ一つ色合いや革の風合いが全然違っていて、些細な事なんだけど現実となったこの世界に生きているんだ……ってすごく実感してしまった。選ぶのもすっごく楽しかった。
「アン……行きます!」
独り言のように呟く。でも独り言じゃない。耳元に小さな声が返ってくる。姫様なら大丈夫ですよ……と。
「本当に行くわよ!」
「はい姫様!」
「本当の本当に行きますよ? 行っちゃいますよ!?」
自分でもどうしてこんなにもドキドキワクワクソワソワしているのかわからない。何だか恥ずかしくてムズムズして足が前に進まない。
「もうっ! 早く行きましょうよ!」
ーードン!
あっ!? ちょっとアン!?
ヒドイわ!!
不意に背中を強く押されてしまうとーー。
私の体は冒険者ギルドの扉へと迫る!!
危ない!? 思わず伸ばした手が扉に当たるとーー!?
「ぁわわわわわっ!?」
扉があまりにも軽すぎてーーよくある酒場のウエスタンドアかと突っ込みたくなるような軽快さで開いてーーそのまま前のめりにギルド内へと突入してしまう!?
おっ、とっ、とっ、とーー!?
こける、コケル、転けるーーーーっ!!
ドン! ガン!
「きゃっ!?」
勢いよくぶつかった何かに咄嗟にしがみついたおかげでどうにか倒れずに済んだのだけど……。鎧の硬質感はともかく、何でしょうこの逞しい体つき……それなのにとてもいい香りがします。
恐る恐る顔を上げるとそこには朝見かけた綺麗な戦士のお姉さんの顔がありました。
驚いた表情も素敵です。
「大丈夫か?」
「ぁ、ぇ、ぁ、あのその……」
少し低めの声。ちょっと無骨な感じもするけれど、優しそうな口調。よかった怖い人じゃなくて……。
ああっ! 安心している場合じゃない。ぶつかったのに謝りもしないなんてとても失礼な事だわ!!
「も、申し訳ありません! 勢い余ってぶつかってしまいました! お、お怪我などはされていませんか?」
「まぁ、落ち着け。私は問題ない。それよりお前の方は大丈夫か、結構な勢いでぶつかってきたからな、怪我をしていないか?」
ああっっ!? 何て凛々しいお方でしょうか!? まるで物語の王子様のように煌めいて見えます!?
「は、はい、えっとその、だ、大丈夫でしゅっ!?」
はううぅぅっ! 噛んだ!? 見事に噛んだ。恥ずかしいよぉ……。せっかく格好良く冒険者デビューしようと思っていたのに、なんでこんな風になっちゃうのよ……。
こんなつもりじゃなかったのに!
「そうか。怪我がなくて何よりだ。それで、君のような女の子がここへ何の用かな?」
「え、あ、はい。冒険者の登録に来ました、キラリです!」
「おいおい慌てるな、私はギルドの人間じゃないぞ。君がなろうとしている冒険者だ。そうか、君は冒険者になるつもりなのか……」
私を見定めるような視線。もしかして私には無理だやめておけ。そんな風に言われるんだろうか? 確かに見た目で判断するなら私でもそう思う。それが実はレベルが限界突破してて、魔法スキルもバグってレベル百。おまけに妙なスキルをいっぱい取得しているだなんて思う訳がないものね……。
普通はそう。思う方がおかしい。だから目の前の戦士のお姉さんの反応は当たり前だろう。
「あの……」
「……ああ、すまない。ジロジロと見てしまった。詮索するつもりではないが、冒険者は実力主義の世界だ。君のような可愛い子が踏み入れる世界ではないが……。その様子だと承知の上なんだな。先輩としてはやめておきなさいと言いたいところだがーー」
「はい。ご心配いただき感謝します。ですが、私にも事情がありますので何とか頑張るつもりです」
そう、何とか無闇に人を傷つけないようにやるつもりです。
「そうだろうな。他人の人生や決意に出会ったばかりの私が何かを言えるはずもない。だがこれも何かの縁だ、この街にいる間は気軽に声をかけてくれ。私が教えられることがあれば何でも教えてやる」
「はい、ありがとうございます。……」
名前を呼ぼうとしてまだ聞いていない事に気付く。えっと、どうしようかしら、お名前を聞くのは失礼になるかしら?
「どうした? ああそうか、名乗っていなかったな。私はノイン。見ての通り剣士だ。よろしくキラリ」
「こちらこそよろしくお願いします、ノインさん」
差し出された手を取り挨拶をする。
ギルドで初めて出会った冒険者は凛とした佇まいの美人な女剣士ノインさんでした。
とても素敵な優しいお姉様です。
最初はぶつかってしまってどうしようかと思いましたけど、結果オーライというやつでしょうか? 変な男性冒険者にぶつかっていたらそれこそエ□イベント勃発の危機だったかもしれません。
それを思えば最高のスタートを切れたのかもしれません。
次はいよいよ冒険者登録!!
頑張れキラリ!! 頑張れ俺!!
次回、プリンセス冒険者になる!? をお楽しみに!!
……何て事を考える余裕が持てるようになりました。(笑)
ーーーーー
2021.02.12改稿
誤字脱字と少々の加筆を行いました。
いつもはもっと色々改変したくなるのですが、意外とそう思わないのはいいのか悪いのか? こんな私も日進月歩成長しているのだなと思う事に致します。
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