魔法の国のプリンセス

中山さつき

文字の大きさ
上 下
22 / 278
第一章:プリンセス、冒険者になる

(22)

しおりを挟む
 時計の針は十一時を少し回ったところ。さぁいよいよ冒険者としての一歩を踏み出す時がやってきた。
 準備万端、細工は流々、後は仕上げを御覧じろ!? って気分ね。
 それでもやっぱり気にはなるもので何度も何度もアンにおかしくないかと聞いてしまった。その度にアンは大丈夫です、とてもよくお似合いですよ。どこから見ても新米冒険者の女の子に見えますよ。
 って言ってくれた。
 まだ少し不安はあるけれど、ぎこちなさやちょっと初々しさが残るくらいが丁度いいのかもしれないと自分に言い聞かせる。

 最後にもう一度自分の格好を確認。今装備しているものはついさっき開店と同時に飛び込んだ武具のお店で購入したもの。
 革の胸当てと剣帯、冒険用の丈夫な洋服と革のショートブーツ。外套と短剣はガルム様のプレゼント。
 洋服はパンツスタイルも考えたのだけど、可愛らしいミニ丈のワンピースとタイツを選んだ。
 若葉のような綺麗な緑の服が紫紺の外套と上手く調和していると思う。胸当ての金色の装飾も凄くいい。当たり前だけどゲームと違って同じ胸当てでも一つ一つ色合いや革の風合いが全然違っていて、些細な事なんだけど現実となったこの世界に生きているんだ……ってすごく実感してしまった。選ぶのもすっごく楽しかった。


「アン……行きます!」

 独り言のように呟く。でも独り言じゃない。耳元に小さな声が返ってくる。姫様なら大丈夫ですよ……と。

「本当に行くわよ!」
「はい姫様!」
「本当の本当に行きますよ? 行っちゃいますよ!?」

 自分でもどうしてこんなにもドキドキワクワクソワソワしているのかわからない。何だか恥ずかしくてムズムズして足が前に進まない。

「もうっ! 早く行きましょうよ!」

 ーードン!
 あっ!? ちょっとアン!?
 ヒドイわ!!
 不意に背中を強く押されてしまうとーー。
 私の体は冒険者ギルドの扉へと迫る!!
 危ない!? 思わず伸ばした手が扉に当たるとーー!?

「ぁわわわわわっ!?」

 扉があまりにも軽すぎてーーよくある酒場のウエスタンドアかと突っ込みたくなるような軽快さで開いてーーそのまま前のめりにギルド内へと突入してしまう!?
 おっ、とっ、とっ、とーー!?
 こける、コケル、転けるーーーーっ!!
 ドン! ガン!

「きゃっ!?」

 勢いよくぶつかった何かに咄嗟にしがみついたおかげでどうにか倒れずに済んだのだけど……。鎧の硬質感はともかく、何でしょうこの逞しい体つき……それなのにとてもいい香りがします。
 恐る恐る顔を上げるとそこには朝見かけた綺麗な戦士のお姉さんの顔がありました。
 驚いた表情も素敵です。

「大丈夫か?」
「ぁ、ぇ、ぁ、あのその……」

 少し低めの声。ちょっと無骨な感じもするけれど、優しそうな口調。よかった怖い人じゃなくて……。
 ああっ! 安心している場合じゃない。ぶつかったのに謝りもしないなんてとても失礼な事だわ!!

「も、申し訳ありません! 勢い余ってぶつかってしまいました! お、お怪我などはされていませんか?」
「まぁ、落ち着け。私は問題ない。それよりお前の方は大丈夫か、結構な勢いでぶつかってきたからな、怪我をしていないか?」

 ああっっ!? 何て凛々しいお方でしょうか!? まるで物語の王子様のように煌めいて見えます!?

「は、はい、えっとその、だ、大丈夫でしゅっ!?」

 はううぅぅっ! 噛んだ!? 見事に噛んだ。恥ずかしいよぉ……。せっかく格好良く冒険者デビューしようと思っていたのに、なんでこんな風になっちゃうのよ……。
こんなつもりじゃなかったのに!

「そうか。怪我がなくて何よりだ。それで、君のような女の子がここへ何の用かな?」
「え、あ、はい。冒険者の登録に来ました、キラリです!」
「おいおい慌てるな、私はギルドの人間じゃないぞ。君がなろうとしている冒険者だ。そうか、君は冒険者になるつもりなのか……」

 私を見定めるような視線。もしかして私には無理だやめておけ。そんな風に言われるんだろうか? 確かに見た目で判断するなら私でもそう思う。それが実はレベルが限界突破してて、魔法スキルもバグってレベル百。おまけに妙なスキルをいっぱい取得しているだなんて思う訳がないものね……。
 普通はそう。思う方がおかしい。だから目の前の戦士のお姉さんの反応は当たり前だろう。

「あの……」
「……ああ、すまない。ジロジロと見てしまった。詮索するつもりではないが、冒険者は実力主義の世界だ。君のような可愛い子が踏み入れる世界ではないが……。その様子だと承知の上なんだな。先輩としてはやめておきなさいと言いたいところだがーー」
「はい。ご心配いただき感謝します。ですが、私にも事情がありますので何とか頑張るつもりです」

 そう、何とか無闇に人を傷つけないようにやるつもりです。

「そうだろうな。他人の人生や決意に出会ったばかりの私が何かを言えるはずもない。だがこれも何かの縁だ、この街にいる間は気軽に声をかけてくれ。私が教えられることがあれば何でも教えてやる」
「はい、ありがとうございます。……」

 名前を呼ぼうとしてまだ聞いていない事に気付く。えっと、どうしようかしら、お名前を聞くのは失礼になるかしら?

「どうした? ああそうか、名乗っていなかったな。私はノイン。見ての通り剣士だ。よろしくキラリ」
「こちらこそよろしくお願いします、ノインさん」

 差し出された手を取り挨拶をする。
 ギルドで初めて出会った冒険者は凛とした佇まいの美人な女剣士ノインさんでした。
 とても素敵な優しいお姉様です。
 最初はぶつかってしまってどうしようかと思いましたけど、結果オーライというやつでしょうか? 変な男性冒険者にぶつかっていたらそれこそエ□イベント勃発の危機だったかもしれません。
 それを思えば最高のスタートを切れたのかもしれません。
 次はいよいよ冒険者登録!!
 頑張れキラリ!! 頑張れ俺!!
 
 次回、プリンセス冒険者になる!? をお楽しみに!!

 ……何て事を考える余裕が持てるようになりました。(笑)


ーーーーー
2021.02.12改稿
誤字脱字と少々の加筆を行いました。
いつもはもっと色々改変したくなるのですが、意外とそう思わないのはいいのか悪いのか? こんな私も日進月歩成長しているのだなと思う事に致します。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...