魔法の国のプリンセス

中山さつき

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第一章:プリンセス、冒険者になる

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 のんびりとした時間に少しずつ朝の慌しさが混じり始める頃。店内の空いていた席も大部分が埋まりつつある。
 冒険者風の装いの人や観光客だろうよそ行きの格好をした人たちが朝食を済ませてはお店を後にして行く。
 そんな様子を横目見ながらぼんやりとアレやこれやと考えを巡らせる。
 出来れば私としては十時頃までここで過ごしたかったのだけれど、さすがにこれだけ人が増えてくると最初に頼んだお料理だけでは居た堪れない気持ちになってくる。
 見た目はお姫様の私だけれど中身は一般市民の俺ーーかどうか最近怪しくなってきたところだけれどーーなのでやはり長居はしづらかったりする。
 仕方がない、少し外を散歩でもしよう。
 最後の一口をさっと飲み干して席を立つ。

「ーーいらっしゃいませ~」

 元気の良い店員さんの挨拶の声が響いた。
 またお客さんがやってきたようだ。入り口に目を向けると立派な鎧の……騎士かな? それに続いて綺麗な三人の女の人(?)が入ってきた。戦士風の背の高い人、回復魔法使いっぽい真っ白なローブの人。三人目はフードを目深にかぶった少し小柄な人。……多分盗賊系のスキルを持つ斥候職の人だろう。なんとなく身のこなしが違って見える。
 よく言われるアレよアレ、足音をさせない歩法? そういう感じ。

(あっ……)

 こっちを見た!? 慌てて視線を逸らしちゃったけどまずかったかな?
 ……平気か。私みたいな小娘が見てたからって何とも思うわけがないわね。

 空になった食器を手にして返却口へ。騎士とそのお供の女性たちには近づかないようにかつ自然にお店を後にする。
 幸い追ってくるようなことはなかった。

「フゥ~。びっくりした」

 まさか目が合うなんて思いもしなかった。結構離れていたのに、私の視線に気がついたのかしら?
 印象通り斥候職系統のスキルを持っているのは間違い無いと思う。四人パーティだとすると前衛二人に後衛の魔法使い。斥候の彼女は遊撃になるのかしら? 弓とかも扱えそうよね。バランスのとれた標準的なパーティー構成だと思う。
 皆んな仲がいいのか楽しそうに話しをしていた。あんな風に過ごせるのなら仲間もいいかもしれないわ。少し羨ましいかも?
 私もこれからの事を考えると旅の仲間を集めた方がいいのは分かっているのだけれど、色々と問題があるのよね。
 ゲームでは人族とか魔族とか関係なく、仲間を集めて冒険が出来たけど、現実だとそうもいかない。人族と魔族は現在も戦争中でこんなところで魔族であることを知られる訳にはいかない。王女という立場も非常にまずい事になるのに十分な要素だろう。
 言ってみればここはもう敵地なのよね……。少し気が緩み過ぎていたかもしれない。しっかりしなくちゃ!

 でも、今の出会いで騎士様をみて一つ思い出したことがある。『属性剣エレメントソード』の魔法だ。あれなら今の私でも相手を殺してしまわずに戦えると思う。
 そもそもは前衛職の弱点属性対応の為の魔法なんだけれど少ないながら追加ダメージが付与される。今回はそこが重要なポイントだ。
 属性剣のダメージは消費魔力によって変動するが、基本値は魔法スキルレベルになる。つまり消費魔力を最低で使用すれば属性剣の基本ダメージ値は私の場合スキルレベルの100。
 ガルム様に頂いた短剣は私でも扱えることから必要筋力は20以下。剣スキルなしの私の攻撃だと武器の基本攻撃力やダメージレートに補正が入るから……恐らく全てを計算しても属性剣分のダメージしか残らないと思う。
 更にそこから相手の防御値やダメージ減少が適用されるから一撃必殺になる事はない!!
 普通にレベルが上がっている冒険者とかなら大丈夫……なはず。
 スキルレベルのおかげでその値がそもそも異常だけれどもいけるはず。
 ……でもやっぱり少し不安だから試算しておこうかしら?
 冒険者ギルドの模擬戦担当者なら少なくてもレベル20くらいはあるとして、属性耐性なしで鎧の防御力とダメージ減少を合わせれば、40程度は削れるはず。だから最終的に与えるダメージは約60。レベル20なら生命力は……300はあるだろうから……適当に振り回した剣が当たっても五、六回は耐えられる計算ね。
 たぶん早々私の剣がヒットする事はないだろうから、これなら十分模擬戦を切り抜けられると思う。
 そして模擬戦だけじゃなくて初級クエストもなんとかなりそうだ。
 ありがとう騎士様。顔も覚えていないけれど。イケメンだったとは思う。(笑)
 それにしてもお仲間の女性たちはみんな綺麗だったな~。それぞれにタイプの違う可愛らしさがあってああいうのをリア充っていうのかしらね。やっぱりそういう関係なのかしら……? 4Pとかそういう感じかしら?

「あわわわ……!?」

 なんてはしたない事を考えてるのよ! 私ったら……。ダメよ思考も段々とそっちに寄って行ってるのかしら。気をしっかり持つのよキラリ!

 ……もう、一人で何やってるんだか。

 それにしても戦士の女の人あんな重そうな胸鎧を身につけられるなんて相当鍛えているのね。私には到底無理だわ。何せ筋力値20しかないもの。革の装備なら多分大丈夫だけど、金属鎧だと……軽量化した胸当てが限界ね。それ以上は敏捷力にマイナス補正がつきそう。いえ、現実なら重すぎて動けなくなる可能性もあるのか?
 装備品には気をつけないといけないわね。

「……あ……」

 しまった。今気がついた。私これじゃダメだわ。最低限冒険者ぽい服装に変えなきゃ。
 今の私の服装はガルム様にもらった青のワンピース。質のいいお洋服だけどこれで模擬戦はできない。何か装備を買わないと!!

 時計塔の示す時刻は八時を過ぎたばかり。この時間では防具屋はまだ開いてないわよね……。

「結局時間つぶしするしかないわね……」

 初めての街だし、キラリの記憶はあったとしても俺が肌で感じるのは初めてのこと。そっか、異世界の街……なんだよな。
 この風も匂いも人々の喧騒も。全部俺が知ってる世界じゃなくてこの娘の、キラリ姫の生きる世界のものなんだよな……。
 ちょっと感動してきたかもしれない。
 よし、散歩しよう。異世界の街を堪能しよう!
 あとついでにゲームの情報と比較しておこう!
 さぁ冒険の始まりだ!!

 あ、なんかちょっと打ち切りエンドみたいな?(笑)


ーーーーー
2021.02.10改稿
誤字脱字のチェックと少し加筆しています。
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