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第一章:プリンセス、冒険者になる
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薄暗く深い森の中だった。
「えっ!?」
驚き思わず発した声は自分のものとは思えない高い声。
「え、え!?」
それに驚いてまた声を上げてしまう。
「気がつきましたね、キラリ様。どこか痛いところはありませんか?」
「だ、誰!?」
周りには誰もいないのに声がする。
「もう、寝ぼけているのですか! 私ですよ私、アンですよ!!」
「アン?」
姿が見えない声に尋ね返す。
「はい。キラリ様のお世話妖精のアンですよ。キラリ様は魔王様の魔法でこの場所へ飛ばされました。その時のショックで意識を失っておいででしたが……どこか痛んだりしませんか?」
「えっとえっと……だ、大丈夫……だと思う」
「それは良かったです」
俺は自分の体を確認してなんとかそう答える。そう答えたんだけど、全然大丈夫じゃない。なんだこれ?
なんで俺女の子になってるんだ!? しかもお世話妖精ってちょっと聞き覚えがあるんだけど……まさか……まさか!?
「ね、ねぇアン?」
うわぁ!? 何この可愛い声!? 改めて聞くととんでもない美少女ボイスなんですけど!? しかもそれが自分の口からでてるだなんて!! はっ!? まさかこれはっ!!?? 今ならこんな可愛い声で色んな、それこそ法律に抵触するようなセリフが聴けるチャンスでは!?
「はいキラリ様」
おっと、そんな場合じゃなかった。相変わらず姿が見えないアンの返事に少しビクッとしてしまった。確かゲームだとメニューからお世話妖精の表示非表示が切り替えられたと思うんだけど……さすがにそれは無理……かな?
「ど、どこにいるのアン? 姿を見せることはできる?」
「できますよ。キラリ様がそのように念じてくだされば。でも、私が姿を現わすためにはキラリ様の魔力を消耗いたしますよ」
「えっ……でも?」
なんかお城では普通に見えていたじゃない。思わずそう言いそうになってハッとなる。お城では? 何この記憶。もしかしてキラリ姫の記憶? 急にお城での風景が思い出されて、私のそばを飛び回る小さな羽の生えた女の子の姿が目に浮かぶ。金色の髪の凄く可愛い妖精。……ティンカーベルみたいだな。
「お城ではそのための魔力をお城自体が与えてくれていました。お忘れですか?」
「そ、そうだったわね」
そうだったんだ……。蘇ってきた記憶で情報が補完される。私が暮らしていたお城……魔王城。お城自体が周囲から魔力を集積し魔王とその配下に力を分け与える。故に魔王に敵対するものは自身の魔力を吸われた挙句にその力で強化した魔王と戦わなければならなくなるという何ともインチキな設定。そのせいでもうかれこれ数千年の間、魔王は勇者に敗れたことがない。魔王の天下……ではないのだけれども。
聞けば聞くほど……というほどの情報量ではないけれども、それでも違いないと思ってしまうのは俺がどハマりしていたせいだからなのか……ああこれ『まほプリ』の世界だわ……。
そんでもって俺はどうもその主人公……ヒロインのうちの一人っぽいんだけど、「キラリ」なんて名前の娘は記憶にない。三人のヒロインの名前はーー。
アルメリア、キッシュローザ、フェルナリーゼだ。皆一様に美人でそしてエ○チなんだよな。ちなみに一押しはアルメリアだ。
清楚な彼女が淫らに乱れる様はマジでグッとくる。「イヤァァッ」とか「ダメェェッ」とかのセリフをあのボイスで言われるともう……。我慢できねっす!!
しかしまぁ三人とも好きだけどね!!
「あらあら、キラリ様。王妃様方を呼び捨てとは感心しませんよ。いくらご自分のお母上がいらっしゃるとはいえお三方は魔王様のお妃様であり、魔王国の最高戦力ですからね」
「えっと……ごめんなさい」
やべ、声に出してた!?
でも名前だけでよかった。それ以降の「思い出」まで口にしてたらヤバイ事になったかもしれぬ。気をつけねば!
でもおかげで色々思い出した。特に三人ともが王妃になっているという情報は重要だ。何故ならヒロイン三人全員が妃になっているということはトゥルーエンドだということ。
「まほプリ」にはいわゆる隠しキャラはいない。普通は一人や二人いるだろうと多くの攻略サイトでユーザーが血眼になって出現条件等を検証したのだがとうとう発見する事はできなかった。故に隠しキャラなしと結論付けられていたが……。まさかその娘が隠しキャラなのかっ!? ここに至ってまさかの事実に少々興奮を隠しきれない自分がいる。
世紀の大発見! 全ユーザー待望の真実!!
(いや、それはないか)
エンディング以降の物語は一切描かれていないのにその娘が隠しキャラなどとあり得るわけがない。
まだ続編がリリースされたという方が信憑性がある。
しかし! しかしそれも夢なんだよ!!
ありえないんだよ!!
だって制作会社倒産しちゃったんだもん!
あのゲーム男性向けのくせに女主人公が魔王の妃を目指すというちょっと乙女ゲー路線だからその時点でプレイヤーを選んでしまった。それでも絵だけは評価されていたんだけど、それ故に絵だけのクソゲー扱いされてもいた。
蓋を開けてみればその絵と絶妙なCVが異様な人気になりついでに流行りのフリーシナリオとマルチエンディングが受けて前評判を覆す好評っぷりで……。最終的にはその年のトップテンには入ってたんじゃないかな?
俺個人としてはCVと絵に惚れたからプレイしたというのが最大の理由だけど、心の奥底に女の子になってあれこれしたい……というかされたい……みたいな欲望がほんの少しあったのかもしれない。
こいうのも草食って言うのかな? 男子の女性化? 化粧とか、オシャレとかそういうのするやつ? なんか他人事みたいに言ってるけど、俺もそのうちの一人だったのかもしれない。
いや、化粧したりとかじゃないよ? 女装経験もないし。女の子が好きだし。ただ俺の場合は生まれ変わるなら女の子になりたい。それもとびきり美人でスタイル抜群で……なんて思ってました。贅沢だね。
でもさぁ、現実にそういうことになるとどうしていいかわからない上に、まさか自分がハマってやりこんでたゲーム世界のヒロインポジになるなんて思わないし、思うわけがない。
そんなものはラノベの世界だけのことだと思ってた。憧れてはいたよ!? 当たり前でしょ!? でもどれだけ願ったって現実には起こらない。それが分かっているから願えるともいえる。
……それなのに今こうして自分の身に降りかかるとは……。まだ夢じゃないかと疑う気持ちもあるけれど……。
周りを見回せば圧倒的な存在感の森、森、森ですよ!? この独特な匂いは田舎の裏山で嗅いだ覚えがある。
五感をフルに使って訴えかけてくるリアリティー! もうこれは認めるしかない。
俺は美少女になってしまったのだという事を!!
大好きなゲームの世界に転生? したのだという事を!!
そして今一つの重要な、超絶重要な事に思い至った!! っていうかこれが一番重要かもしれないんだが、あのゲームレーティングが二種類あって全年齢向けとエ□満載の十八禁。
どっちだっ!? この世界はどっちの世界なんだぁぁぁぁっっ!?
ーーーーー
2021.01.12改稿
誤字脱字+表現を若干修正しました。
「えっ!?」
驚き思わず発した声は自分のものとは思えない高い声。
「え、え!?」
それに驚いてまた声を上げてしまう。
「気がつきましたね、キラリ様。どこか痛いところはありませんか?」
「だ、誰!?」
周りには誰もいないのに声がする。
「もう、寝ぼけているのですか! 私ですよ私、アンですよ!!」
「アン?」
姿が見えない声に尋ね返す。
「はい。キラリ様のお世話妖精のアンですよ。キラリ様は魔王様の魔法でこの場所へ飛ばされました。その時のショックで意識を失っておいででしたが……どこか痛んだりしませんか?」
「えっとえっと……だ、大丈夫……だと思う」
「それは良かったです」
俺は自分の体を確認してなんとかそう答える。そう答えたんだけど、全然大丈夫じゃない。なんだこれ?
なんで俺女の子になってるんだ!? しかもお世話妖精ってちょっと聞き覚えがあるんだけど……まさか……まさか!?
「ね、ねぇアン?」
うわぁ!? 何この可愛い声!? 改めて聞くととんでもない美少女ボイスなんですけど!? しかもそれが自分の口からでてるだなんて!! はっ!? まさかこれはっ!!?? 今ならこんな可愛い声で色んな、それこそ法律に抵触するようなセリフが聴けるチャンスでは!?
「はいキラリ様」
おっと、そんな場合じゃなかった。相変わらず姿が見えないアンの返事に少しビクッとしてしまった。確かゲームだとメニューからお世話妖精の表示非表示が切り替えられたと思うんだけど……さすがにそれは無理……かな?
「ど、どこにいるのアン? 姿を見せることはできる?」
「できますよ。キラリ様がそのように念じてくだされば。でも、私が姿を現わすためにはキラリ様の魔力を消耗いたしますよ」
「えっ……でも?」
なんかお城では普通に見えていたじゃない。思わずそう言いそうになってハッとなる。お城では? 何この記憶。もしかしてキラリ姫の記憶? 急にお城での風景が思い出されて、私のそばを飛び回る小さな羽の生えた女の子の姿が目に浮かぶ。金色の髪の凄く可愛い妖精。……ティンカーベルみたいだな。
「お城ではそのための魔力をお城自体が与えてくれていました。お忘れですか?」
「そ、そうだったわね」
そうだったんだ……。蘇ってきた記憶で情報が補完される。私が暮らしていたお城……魔王城。お城自体が周囲から魔力を集積し魔王とその配下に力を分け与える。故に魔王に敵対するものは自身の魔力を吸われた挙句にその力で強化した魔王と戦わなければならなくなるという何ともインチキな設定。そのせいでもうかれこれ数千年の間、魔王は勇者に敗れたことがない。魔王の天下……ではないのだけれども。
聞けば聞くほど……というほどの情報量ではないけれども、それでも違いないと思ってしまうのは俺がどハマりしていたせいだからなのか……ああこれ『まほプリ』の世界だわ……。
そんでもって俺はどうもその主人公……ヒロインのうちの一人っぽいんだけど、「キラリ」なんて名前の娘は記憶にない。三人のヒロインの名前はーー。
アルメリア、キッシュローザ、フェルナリーゼだ。皆一様に美人でそしてエ○チなんだよな。ちなみに一押しはアルメリアだ。
清楚な彼女が淫らに乱れる様はマジでグッとくる。「イヤァァッ」とか「ダメェェッ」とかのセリフをあのボイスで言われるともう……。我慢できねっす!!
しかしまぁ三人とも好きだけどね!!
「あらあら、キラリ様。王妃様方を呼び捨てとは感心しませんよ。いくらご自分のお母上がいらっしゃるとはいえお三方は魔王様のお妃様であり、魔王国の最高戦力ですからね」
「えっと……ごめんなさい」
やべ、声に出してた!?
でも名前だけでよかった。それ以降の「思い出」まで口にしてたらヤバイ事になったかもしれぬ。気をつけねば!
でもおかげで色々思い出した。特に三人ともが王妃になっているという情報は重要だ。何故ならヒロイン三人全員が妃になっているということはトゥルーエンドだということ。
「まほプリ」にはいわゆる隠しキャラはいない。普通は一人や二人いるだろうと多くの攻略サイトでユーザーが血眼になって出現条件等を検証したのだがとうとう発見する事はできなかった。故に隠しキャラなしと結論付けられていたが……。まさかその娘が隠しキャラなのかっ!? ここに至ってまさかの事実に少々興奮を隠しきれない自分がいる。
世紀の大発見! 全ユーザー待望の真実!!
(いや、それはないか)
エンディング以降の物語は一切描かれていないのにその娘が隠しキャラなどとあり得るわけがない。
まだ続編がリリースされたという方が信憑性がある。
しかし! しかしそれも夢なんだよ!!
ありえないんだよ!!
だって制作会社倒産しちゃったんだもん!
あのゲーム男性向けのくせに女主人公が魔王の妃を目指すというちょっと乙女ゲー路線だからその時点でプレイヤーを選んでしまった。それでも絵だけは評価されていたんだけど、それ故に絵だけのクソゲー扱いされてもいた。
蓋を開けてみればその絵と絶妙なCVが異様な人気になりついでに流行りのフリーシナリオとマルチエンディングが受けて前評判を覆す好評っぷりで……。最終的にはその年のトップテンには入ってたんじゃないかな?
俺個人としてはCVと絵に惚れたからプレイしたというのが最大の理由だけど、心の奥底に女の子になってあれこれしたい……というかされたい……みたいな欲望がほんの少しあったのかもしれない。
こいうのも草食って言うのかな? 男子の女性化? 化粧とか、オシャレとかそういうのするやつ? なんか他人事みたいに言ってるけど、俺もそのうちの一人だったのかもしれない。
いや、化粧したりとかじゃないよ? 女装経験もないし。女の子が好きだし。ただ俺の場合は生まれ変わるなら女の子になりたい。それもとびきり美人でスタイル抜群で……なんて思ってました。贅沢だね。
でもさぁ、現実にそういうことになるとどうしていいかわからない上に、まさか自分がハマってやりこんでたゲーム世界のヒロインポジになるなんて思わないし、思うわけがない。
そんなものはラノベの世界だけのことだと思ってた。憧れてはいたよ!? 当たり前でしょ!? でもどれだけ願ったって現実には起こらない。それが分かっているから願えるともいえる。
……それなのに今こうして自分の身に降りかかるとは……。まだ夢じゃないかと疑う気持ちもあるけれど……。
周りを見回せば圧倒的な存在感の森、森、森ですよ!? この独特な匂いは田舎の裏山で嗅いだ覚えがある。
五感をフルに使って訴えかけてくるリアリティー! もうこれは認めるしかない。
俺は美少女になってしまったのだという事を!!
大好きなゲームの世界に転生? したのだという事を!!
そして今一つの重要な、超絶重要な事に思い至った!! っていうかこれが一番重要かもしれないんだが、あのゲームレーティングが二種類あって全年齢向けとエ□満載の十八禁。
どっちだっ!? この世界はどっちの世界なんだぁぁぁぁっっ!?
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2021.01.12改稿
誤字脱字+表現を若干修正しました。
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