魔法の国のプリンセス

中山さつき

文字の大きさ
上 下
1 / 278
第一章:プリンセス、冒険者になる

(1)

しおりを挟む
 薄暗く深い森の中だった。

「えっ!?」

 驚き思わず発した声は自分のものとは思えない高い声。

「え、え!?」

 それに驚いてまた声を上げてしまう。

「気がつきましたね、キラリ様。どこか痛いところはありませんか?」
「だ、誰!?」

 周りには誰もいないのに声がする。

「もう、寝ぼけているのですか! 私ですよ私、アンですよ!!」
「アン?」

 姿が見えない声に尋ね返す。

「はい。キラリ様のお世話妖精のアンですよ。キラリ様は魔王様の魔法でこの場所へ飛ばされました。その時のショックで意識を失っておいででしたが……どこか痛んだりしませんか?」
「えっとえっと……だ、大丈夫……だと思う」
「それは良かったです」

 俺は自分の体を確認してなんとかそう答える。そう答えたんだけど、全然大丈夫じゃない。なんだこれ?
 なんで俺女の子になってるんだ!? しかもお世話妖精ってちょっと聞き覚えがあるんだけど……まさか……まさか!?

「ね、ねぇアン?」

 うわぁ!? 何この可愛い声!? 改めて聞くととんでもない美少女ボイスなんですけど!? しかもそれが自分の口からでてるだなんて!! はっ!? まさかこれはっ!!?? 今ならこんな可愛い声で色んな、それこそ法律に抵触するようなセリフが聴けるチャンスでは!?

「はいキラリ様」

 おっと、そんな場合じゃなかった。相変わらず姿が見えないアンの返事に少しビクッとしてしまった。確かゲームだとメニューからお世話妖精の表示非表示が切り替えられたと思うんだけど……さすがにそれは無理……かな?

「ど、どこにいるのアン? 姿を見せることはできる?」
「できますよ。キラリ様がそのように念じてくだされば。でも、私が姿を現わすためにはキラリ様の魔力を消耗いたしますよ」
「えっ……でも?」

 なんかお城では普通に見えていたじゃない。思わずそう言いそうになってハッとなる。お城では? 何この記憶。もしかしてキラリ姫の記憶? 急にお城での風景が思い出されて、私のそばを飛び回る小さな羽の生えた女の子の姿が目に浮かぶ。金色の髪の凄く可愛い妖精。……ティンカーベルみたいだな。

「お城ではそのための魔力をお城自体が与えてくれていました。お忘れですか?」
「そ、そうだったわね」

 そうだったんだ……。蘇ってきた記憶で情報が補完される。私が暮らしていたお城……魔王城。お城自体が周囲から魔力を集積し魔王とその配下に力を分け与える。故に魔王に敵対するものは自身の魔力を吸われた挙句にその力で強化した魔王と戦わなければならなくなるという何ともインチキな設定。そのせいでもうかれこれ数千年の間、魔王は勇者に敗れたことがない。魔王の天下……ではないのだけれども。
 聞けば聞くほど……というほどの情報量ではないけれども、それでも違いないと思ってしまうのは俺がどハマりしていたせいだからなのか……ああこれ『まほプリ』の世界だわ……。
 そんでもって俺はどうもその主人公……ヒロインのうちの一人っぽいんだけど、「キラリ」なんて名前の娘は記憶にない。三人のヒロインの名前はーー。
 アルメリア、キッシュローザ、フェルナリーゼだ。皆一様に美人でそしてエ○チなんだよな。ちなみに一押しはアルメリアだ。
 清楚な彼女が淫らに乱れる様はマジでグッとくる。「イヤァァッ」とか「ダメェェッ」とかのセリフをあのボイスで言われるともう……。我慢できねっす!!
 しかしまぁ三人とも好きだけどね!!

「あらあら、キラリ様。王妃様方を呼び捨てとは感心しませんよ。いくらご自分のお母上がいらっしゃるとはいえお三方は魔王様のお妃様であり、魔王国の最高戦力ですからね」
「えっと……ごめんなさい」

 やべ、声に出してた!?
 でも名前だけでよかった。それ以降の「思い出」まで口にしてたらヤバイ事になったかもしれぬ。気をつけねば!
 でもおかげで色々思い出した。特に三人ともが王妃になっているという情報は重要だ。何故ならヒロイン三人全員が妃になっているということはトゥルーエンドだということ。
 「まほプリ」にはいわゆる隠しキャラはいない。普通は一人や二人いるだろうと多くの攻略サイトでユーザーが血眼になって出現条件等を検証したのだがとうとう発見する事はできなかった。故に隠しキャラなしと結論付けられていたが……。まさかその娘が隠しキャラなのかっ!?  ここに至ってまさかの事実に少々興奮を隠しきれない自分がいる。
 世紀の大発見! 全ユーザー待望の真実!!

(いや、それはないか)

 エンディング以降の物語は一切描かれていないのにその娘が隠しキャラなどとあり得るわけがない。
 まだ続編がリリースされたという方が信憑性がある。
 しかし! しかしそれも夢なんだよ!!
 ありえないんだよ!!
 だって制作会社倒産しちゃったんだもん!
 あのゲーム男性向けのくせに女主人公が魔王の妃を目指すというちょっと乙女ゲー路線だからその時点でプレイヤーを選んでしまった。それでも絵だけは評価されていたんだけど、それ故に絵だけのクソゲー扱いされてもいた。
 蓋を開けてみればその絵と絶妙なCVが異様な人気になりついでに流行りのフリーシナリオとマルチエンディングが受けて前評判を覆す好評っぷりで……。最終的にはその年のトップテンには入ってたんじゃないかな?
 俺個人としてはCVと絵に惚れたからプレイしたというのが最大の理由だけど、心の奥底に女の子になってあれこれしたい……というかされたい……みたいな欲望がほんの少しあったのかもしれない。
 こいうのも草食って言うのかな? 男子の女性化? 化粧とか、オシャレとかそういうのするやつ? なんか他人事みたいに言ってるけど、俺もそのうちの一人だったのかもしれない。
 いや、化粧したりとかじゃないよ? 女装経験もないし。女の子が好きだし。ただ俺の場合は生まれ変わるなら女の子になりたい。それもとびきり美人でスタイル抜群で……なんて思ってました。贅沢だね。
 でもさぁ、現実にそういうことになるとどうしていいかわからない上に、まさか自分がハマってやりこんでたゲーム世界のヒロインポジになるなんて思わないし、思うわけがない。
 そんなものはラノベの世界だけのことだと思ってた。憧れてはいたよ!? 当たり前でしょ!? でもどれだけ願ったって現実には起こらない。それが分かっているから願えるともいえる。
 ……それなのに今こうして自分の身に降りかかるとは……。まだ夢じゃないかと疑う気持ちもあるけれど……。
 周りを見回せば圧倒的な存在感の森、森、森ですよ!? この独特な匂いは田舎の裏山で嗅いだ覚えがある。
 五感をフルに使って訴えかけてくるリアリティー! もうこれは認めるしかない。
 俺は美少女になってしまったのだという事を!!
 大好きなゲームの世界に転生? したのだという事を!!

 そして今一つの重要な、超絶重要な事に思い至った!! っていうかこれが一番重要かもしれないんだが、あのゲームレーティングが二種類あって全年齢向けとエ□満載の十八禁。
 どっちだっ!? この世界はどっちの世界なんだぁぁぁぁっっ!?


ーーーーー
2021.01.12改稿
誤字脱字+表現を若干修正しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

自習室の机の下で。

カゲ
恋愛
とある自習室の机の下での話。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...