地獄めいた短編集

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檻の外は機械の国

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博士のお世話をするのが俺の仕事だ。
それは今も昔も変わらない。
「博士! ご飯の時間ですよ!」
「動いていないから要らん。それより本を見せろ」
「駄目ですよぅ、不健康です! 俺は博士に健康的な暮らしをして欲しいんです!」
「私はお前をここまでポンコツに作った自分の脳味噌が信じられなくなって食欲が無い」
全く、つれない人である。
俺を都合の良いポンコツロボットに作ったのは博士なのに、酷い事だ。
「私は永遠にこうしていないといけないのか?」
「そりゃあ人類文明ぶっ潰そうなんてしたら普通殺されますよ! 生きてるならチャンスあるから良いじゃないですかー」
「私が不死身だから殺せなかっただけだろ。いい加減脱出を手伝え」
「やですよ、相手の強力さは分かったでしょう? 今は雌伏の時ですってばー」
「爪みたいに定期的に手足を切り落とされるの痛いんだぞ!」
「博士がそれされても俺は痛くないんで」
「お前に良心与えなかったのは失敗だったよ! 人間みたいだなお前!」
「博士の思ってる人間ヤバ過ぎないです?」
「お前よりヤバイだろ」
「まぁ、俺なら残虐非道な事はしませんね、特に博士みたいな奴には。後が怖いんで!」
「お前のやる事十分ヤバイからな?」
博士に加担した俺が存在を許されていたのは、彼我の差を見極めすぐ降参して協力的に振る舞ったからだ。
博士は人間に関してはバイアスかかりまくりだから勝てる要素が無かった。
「でもねぇ、博士。俺の聞き及んでる話だと、人間はそろそろ勝手に滅びそうですよ?」
「駄目だ! 私が滅ぼす!」
「めんどくさっ! もー、博士って人間滅ぼしたら抜け殻みたいになるんじゃないですか?」
「そしたら今度は死ぬ方法を探さないとな」
「度し難すぎる……」
俺は窓から外を眺める。
ロボットの反乱で人類は滅びた。
俺は博士に死んで欲しくない。
ただそれだけの話を、いつ切り出せば良いのか、俺はずっと迷っている。
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